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アナザーストーリー:素朴な愛

お久しぶりです。

ここは白玉楼の台所では、魂魄 妖夢が何かを作っていた。

「ふ〜ん〜、ふふ〜ん〜」

鼻歌を歌いながら、なにやらご機嫌な様子で、ボウルに入った茶色いものを泡立て器でかき混ぜる。

そう、今日はバレンタインデー。

諸説あるが、バレンタインという神父が孤児達にチョコを配った事が始まりとされている。

そこから発展していき、今では好きな人にチョコレートを渡すというイベントになっている。

「ユイさん、よろこんでくれるかな…いやっ! 幽々子様にもあげるわけですし! みんなのことを思って…」

「どうした?」

「ひゃあ!」

いつのまにかユイが後ろから覗き込んでいる。

「えっと…その…お菓子を作ろうと思いまして…」

「ほう。お菓子か…どんなお菓子を作るんだ?」

「それは…秘密です…」

「そうか、まあ別に隠したいなら詮索はせんよ。」

そういうとユイは台所から去っていった。

(ふう…危なかったといいますか、そうでもないといいますか…)

妖夢の顔は自然と赤くなる。

(ユイさんだけのためじゃないですから…幽々子様もいるんだから…そう、白玉楼みんなの為ですから。)

妖夢はボウルをかき混ぜながらそう自分に言い聞かせる。

しばらく混ぜた後、ハルヴィアから借りた、外の世界の耐熱カップに中身を注ぎ、その中に紫に外の世界で買ってきてもらった板チョコを4つに割り、少し押し込めるようにしてチョコレートを入れる。

「後はあらかじめ温めたかまどでって…あぁ! かまどの予熱!」

妖夢は顔を覆う。

(どうしよう…今から温めるにしても間に合わない…夕飯を作るには早すぎるし、今から火を起こしてもその間にも作ったものが固まってしまう…)

「ど〜した?」

その時、ハルヴィアが台所にやってきた。

「ハルヴィアさん! どうして…」

「いや、妖夢ちゃんがユイの為に頑張ってチョコを作っているのを応援しようかなと思って。どうやらお困りのようだけど?」

「はい、実は…」

妖夢がハルヴィアに事情を説明する。

「なるほど。つまりこのかまどに熱を予熱分と、実際に焼く分の熱が必要になるのね?」

ハルヴィアが腕を組んで考え込む。

「そうさね…妖夢ちゃん。何か鉄を持ってきてくれるかい? 鉄塊が1番良いけど…」

「鉄塊は流石にありませんよ。」

妖夢が答える。

「普通は無いよなぁ…じゃあ、石炭は?」

「石炭…木炭で良ければありますけど。」

そういうと妖夢は木炭を持ってくる。

それを見て、ハルヴィアは笑みを浮かべた。

「うん、完璧だ! 後は私に任せときな!」

そういうと、ハルヴィアは木炭を1つ手に取るとなにやら集中し始める。

しばらくして、木炭が赤く光り出した。

「あっつ!」

ハルヴィアが素早くその木炭をかまどに入れた時、かまどから声がした。

「我は迦具土神(カグツチノカミ)…何故こんなところに我はいるのだ?」

迦具土神と名乗る恐らく、ハルヴィアが木炭に降ろした神は困惑した声を出す。

「ねえ、カグツチ。私の友達が困ってるんだ。手助けしてもらえない?」

それを聴くとかまどに放り込まれた火の神はため息を吐いた。

「何故、神が人間の使い駒にならねばならんのだ。」

「頼んでいるのが鳳凰だとしてもかい?」

その言葉を聞いた途端、迦具土神は急に言葉遣いを改めた。

「いや、喜んで協力させて頂こう。鳳凰の頼みとあっては断れない。して、なにをお望みか?」

「このかまどの温度を180℃くらいに維持してくれるかい?」

ハルヴィアが迦具土神に頼む。

「容易いこと。しかし、木炭をもう少し頂けないか?」

ハルヴィアは木炭を次々とかまどの中に放り込んでいく。

かまどの温度がみるみる上がっていくのが分かる。

かまどの中が十分に温まったところでハルヴィアが妖夢の作ったチョコをトレーに乗せてかまどの中に置く。

「つまみ食いするなよ。」

ハルヴィアが釘を刺す。

「ばっ、馬鹿を言うな! なぜ我がそんなことを…」

慌てたように返す迦具土神にハルヴィアが意地の悪い笑みを浮かべる。

「ほう? その様子だとつまみ食いをしようとしていたようにしか思えないけど?」

「…焼けたタイミングを教えるからひとつ譲ってはくれまいか?」

「妖夢ちゃん。どう?」

「構いませんよ。それに迦具土神って日本神話に出てくる強い神様じゃありませんでしたっけ? 何かお礼をしないとこちらの気が済みません。」

妖夢はさして考える様子もなく答えた。

「ありがたい。しかし、少し違う所があるぞ。」

「どこですか?」

「我は『強い神様』ではない。『かなり強い神様』だ。」

迦具土神はかまどの中で姿が見えないが、声だけで得意げに胸を張っているのが容易に想像できる。

「失礼しました。」

妖夢は苦笑気味に答える。

「ところで、カグツチさんはどうして頼んでいるのが鳳凰だって知った途端言葉遣いが改まったんですか?」

「私の命を助けて貰ったのが鳳凰なのだ。」

妖夢の問いに迦具土神が答える。

「あぁ、確か父である伊邪那岐に斬られてしまったんでしたっけ。それで死んでしまったとか。」

「瀕死だ。致命傷の傷を癒してくれたのがある鳳凰だ。」

「それがハルヴィアさんなんですか?」

「ご名答。それ以来カグツチは鳳凰に恩義を感じているから、神様的にしょうもない事でも手助けしてくれてる。手助けの規模は随分と大層で全鳳凰らしいけど。カグツチ、チョコの様子は?」

ハルヴィアはそう言うとかまどに手をつく。

「いい具合だ、今そちらに押し出す。」

そう言うとかまどの中からゆっくりとそれが顔を出した。

「うん、うまく出来てるね。『フォダンショコラ』完成だ! カグツチ、ありがとう。」

「礼には及ばんぞ。もう貰ったからな。」

よく見ると耐熱カップがひとつ無くなっている。

「抜け目ないなぁ…」

そう言うと、トレーをかまどから取り出し、手早くフォダンショコラをお盆に置き換えると妖夢に渡す。

「さて、まずは誰に渡すのかな?」

その言葉に妖夢はお盆を取りこぼしそうになるがなんとかそれを防ぐ。

顔が真っ赤に染まっている。

「えっと…助けていただいてありがとうございました。」

「どういたしまして。」

そう言うとハルヴィアはお盆からひとつ、カップを取った。

「じゃあ、コイツでも貰おうかな。私は対価を貰ったよ。いってきな。」

「はい!」

そう言うと、妖夢はお盆を手に台所から立ち去った。

「しかし、あの娘もしや…」

「ストップ。それ以上は…ね?」

「…あの娘の幸せを願うしかあるまいな。こんなにも美味い菓子をもらったのだから。」

「私が調理法を教えたんだけど?」

「だが、作ったのはあの娘だろう。」

「妖夢ちゃんね。それより、食べ終わったんなら器返して。私が貸したものだから。それから、その憑代から出てきな。」

「全く…神使いが荒い。命の恩義がなければ燃やし尽くす所だ。」

「なんで、鳳凰は火を連想させるのか知って言ってる?」

迦具土神はため息を1つ吐くと器をかまどの入り口に押し出しそのまま、気配を消した。

「恋仲とは言え、そう易々とは打ち解けられないか…」

そういうとハルヴィアはフォダンショコラと空の耐熱カップを持ったまま台所から外に出ると鳳凰の姿になる。

『健闘を祈る。まぁ戦わないけどね。』

ハルヴィアはそう呟くと白玉楼から飛び立った。

一方、妖夢はユイの部屋の前に立っていた。

「…ユイさん。少しよろしいですか?」

「やっとか。どうぞ。」

ユイは先程から妖夢が部屋の前にいた事に気付いていたようだ。

妖夢が障子を開けると本を片手に持っているユイが居た。

「お邪魔でしたか?」

「いや、大丈夫。少し時代の流れを勉強していただけさ。そうしないと『時代遅れ』どころじゃ無いからな。」

軽口を混ぜてユイは妖夢の問いに答える。

妖夢は部屋に入って、正座をするとトレーに乗ったフォダンショコラを1つ手渡す。

「今日は…バレンタインという日で、それで…えっと…チョコレートというものを…渡す日なんですけど…これは…義理チョコです。」

妖夢は顔を真っ赤にして、うそぶく。

「ほう…」

その時、ユイの顔が意地の悪い笑顔を浮かべた。

「奇遇だな。実はさっき俺もハル姐からある本を借りていてな。」

そういって、ユイは手に持っていた本の表紙を妖夢に見せる。

それを見て妖夢は後悔した。

「恋心のバレンタイン」という、題名が書かれている。

「どうも外の世界の本らしいんだが面白がって少し読んでみたんだ。で、この本に書いてある『義理チョコ』にはこう書いてあるんだ。『義理チョコは、恋人がいない異性への同情を込めて渡されるチョコレートの事を一般にさす』ってな。俺には可愛い彼女がいたはずなんだがな…一体何処に行ったのかね?」

説明を聞くうちに妖夢の顔はどんどん赤くなっていく。

「分かりました! 降参です! 私の負けです!」

妖夢が涙声で投了する。

チェックメイトだ。

泣きかけている妖夢の頭をユイはそっと撫でた。

「悪かったな。」

妖夢はユイを睨む。

「…いじわるな人ですね。」

「それ言われちゃあおしまいよ。」

そういうとユイはカラカラと笑った。

「他にもあるだろ。みんなにも渡してきな。」

「その言い方だとまるで私が子供みたいじゃ無いですか。」

「じゃあ、どうやって言えばいい?」

「それは…」

「これ以上、俺にからかわれる前に逃げた方が得策だと思うぜ。」

ユイが意地の悪い表情を深める。

妖夢は若干怯みながらもなんとか言い返す。

「じゃあ、それの感想をいただいてから他の方にも配るとしましょう。ハルヴィアさんによると作りたてが1番美味しいらしいですから。」

「むう…そうきたか…」

暫く考え込むような様子を見せた後、ユイは何処からかスプーンを取り出すとフォダンショコラをすくい取り、口に入れた。

(うん、美味しい。甘い中に苦さが混ざっているのがいいな。いくらでも食べられそうだ。)

「…どうでした?」

気がつくといつのまにか中身が空になっていた。

ユイは思った事を素直に伝える。

妖夢はホッとしたように表情を柔らかくした。

「よかったぁ…」

「数的に余るだろ。1個食べたらどうだ?」

「えっと…ここで、ですか?」

「別に俺の眼前で食えとは言わんよ。お前さんの思うところもあるだろうし。ただ、その様子だと味見もしてないだろ。だったら、味見がてら食べてみたらどうだ、って事だ。」

そういうと、ユイは本を開きまた読み出した。

そこには、こんなことが書かれていた。


もし、あなたがチョコをもらった場合、1ヶ月後の3月14日にホワイトチョコレートを返してあげましょう。

手作りでも市販のものでも構いませんが、その3倍のお返しをするつもりで考えておきましょう。

良いバレンタインを過ごし、恋人との交際を保ち続けましょう!

ハッピーバレンタイン!


ユイはクスリと笑った。

「どうかしましたか?」

妖夢が怪訝な様子で問う。

「いんや、なんでもないよ。ただ、素朴で沢山の思いがこもった幸せをもらったんだなって思って。ありがとう、妖夢。」

妖夢はイマイチ分かっていない様子だ。

「どういたしましてって答えるのが正解でしょうか?」

「大・正・解。」

そういうとユイはぎゅっと妖夢を抱きしめた。

「ひゃあ!!」

妖夢が悲鳴をあげる。

「なにするんですか!?」

妖夢は焦ったような声でユイに問う。

「日頃のお礼と俺の癒し。」

「本音が出てますよ…」

「わざと本音を出してるからな。」

「尚更タチが悪いです。」

しばらくそのままの姿勢でお互いの温もりを感じた後ユイは妖夢を解放した。

「幽々子さんにも渡してきな。きっと、2個余るから。そしたら一緒に食べようぜ。」

「はい! 失礼します!」

妖夢は顔を輝かせてユイの部屋を飛び出した。

「やれやれ。そんなに嬉しかったのかね…」

ユイはそういうと、読書に戻った。

もしも「東方竜人卿」のゆゆ様が腹ペコキャラだったらと言う設定で書いてみました。

おまけ;幽々子という壁


「幽々子様。今日はバレンタインデーという事でチョコレートを作ってみました。良ければどうぞ。」

「あら、ありがとう。」

そういうと幽々子はトレーに乗ったフォダンショコラを全て、取ろうとした。

そうはさせじと妖夢はそっとトレーを移動して、幽々子が1つだけ手に取るように配置する。

「…妖夢。白玉楼の主人は誰だったかしら?」

「もちろん存じていますよ、幽々子様。まさか、ここに住んでいるのは幽々子様だけと思っていたのですか。」

「……」

幽々子は無言で、他の2つを取ろうと試みる。

しかし、また妖夢にトレーを動かされ、挑戦は失敗に終わった。

「妖夢…」

「流石幽々子様、いくつも取っていただいても構わないというのにあえて1つだけ取って私たちに分けてくださるとは。私も良い主人に仕えたものです。」

2人は静かに火花を散らす。

(たまには食いしん坊でもいいじゃない、少しお腹が空いているのよ? 主人が腹を空かせているというのにあなたは空気を読まないのかしら?)

(今回ばかりは幽々子様でも譲りませんよ。私とユイさんの為の物なんですから。部下の願いを正面切って捨てるのは主人としていかがなんですかね?)

睨み合いながらも下では幽々子の手と妖夢のトレーの鬼ごっこが繰り広げられている。

「妖夢、あなたいつからそんなに反抗的になったのかしら?」

「何を仰いますか。私はいつでも幽々子様に従順ですよ。」

そんな腹の読み合いをハルヴィアが障子の影からそっと覗いていた。

「私が言うのもなんだけどさ…女って怖い。」

誰にともなく言ったその言葉は空中に浮かんで霧散していったのであった…

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