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黒猫、或いはカフェ『シンデレラ』

「もう朝か……」

窓から差す日差しが俺に朝を告げてくれる。

俺が四季家に世話になってから数週間が経った。

今は三月中旬の頃だろうか。

耳と尻尾を隠せるようになったため学校に行けることが決まり、四月からは俺も晴れて高校生になれる。

まぁ、女子高校生だが。

『おはようございます、旦那様。今日も張り切って参りましょう』

「……うん」

あの社での出来事から燈狐は常に俺の側にいる。

しかもあれだけ力の強い春菜さんや月花さんでも、この燈狐は見えてないし声も聞こえないらしい。

まぁそういうこともあるだろう、俺が女になったくらいだし。

そう思うことにして、いつも横に連れている。

『旦那様』と呼ばれるのは全然慣れやしないが。

「さーて、朝飯でも食いに行くかな」

もう着替えにも慣れてきた、下着なんかも最初は抵抗感があったものの今じゃすんなり着れるようになっている。

今の俺は巫女服に身を包んでいる。

普通の女の子の格好をするくらいなら、こういう巫女服の方が落ち着くのだ。

そういう話を春菜さんにしたら、

「新手の変態みたいだな」

と言われた。

解せぬ。

着替えを済ませ、耳と尻尾を隠してリビングに向かう。

今日も一日、何もなければいいなぁ。


―――――


「おっ、キツネちゃんおはよー」

秋葉さんが大きな声で俺を迎え入れる。

「いや、だからその『キツネちゃん』ってのやめてもらえませんかね。一応耳と尻尾を隠せるようになったんで」

「じゃあ何にしようか、キツネくん?」

「もうキツネちゃんでいいです」

話を聞いてくれないというのは、いささか寂しいものだ。

「春休みはいいねぇ、自由に出来るから」

そんな横で冬次は春休みの自由に浸っている。

「そんなものかねぇ」

記憶のない俺は話半分に聞きながら、朝飯の味噌汁をすする。

「あ、そうだ。どうせ暇だろ?昼前にカフェでも行かないか?」

「カフェ、随分洒落てんねぇ」

冬次からの提案にハハハと笑う俺。

まぁこの街にもそういうものがあるんだなぁと感心する。

『かふぇ、とはなんでしょうか?』

「(ああうん、飲み物飲んだり甘いもの食べたりするところだよ)」

『いわゆる甘味処ですね!』

「(あー、そんな感じそんな感じ)」

燈狐には思っただけで伝わるようなので、基本的に人がいるところでは声に出さずに思うだけで会話をするようにしている。

便利なことだ。

「しかし外に出るとなると服着替えなきゃいかんなぁ」

「いいんじゃね?巫女服でも」

いいのか、お前はそれで。と思ってしまう。

まぁ俺もスカート履くより巫女服着てた方が落ち着くっちゃ落ち着くが……。

「はぁ、まぁそれまでに準備しとくわ」

そう言って食べ終えた皿を片付けて自分の部屋に向かった。


―――――


「えっ、巫女服じゃないの」

「変態か、お前は」

大体時間は午前十一時。

冬次を出口で出迎えた俺の格好はスカートに軽くジャケットを羽織った姿だった。

ファッションとかよく分かんないし、とりあえずあり合わせのものでいいだろう、という判断だった。

「何か文句でも?」

「いや、普通に女子だなぁって思って」

「……せやな」

普通に女子、か。

なんか嬉しくないような、慣れてきちゃってるような、複雑な気持ちだ。

「しかし、そのカフェはここから遠いのか?」

「いや、歩いてもそんなかからないぞ」

それを聞いて安心した。

いかんせん午前中からそんなに運動はしたくないからな。

「しかしお前がカフェねぇ、へぇ」

「……なんだよ小町」

「いや、お前もそんな洒落たところ行くんだなって思ってたんだよ」

「何をぅ」

神社生まれのこいつも洒落たことしてるんだなぁ。

そんなことを思いつつ冬次をからかう俺。

『旦那様、旦那様は燈狐だけの旦那様ですよ』

「(うぉ、急にどうした)」

『このまま旦那様は冬次様ルートに入ってしまうのかと』

「(入らねーよ、男同士だろ)」

『今は男女ですよ』

「(確かに)」

なんかそう考えると、少し意識してしまう。

そうか、男と女で二人きりか……。


―――――


「着いたぞ、ここがカフェ『シンデレラ』だ」

「はー、なるほどなぁ」

歩いて10分ほどのところに、その建物は建っていた。

カフェ『シンデレラ』

俺たちが今日来たのは外観も結構お洒落なカフェだった。

「なんかすごいな、美味しそうなコーヒーが飲めそうだ」

「ここはケーキも美味しいんだ、店長がなんでも外国で修行してきたとかなんとか」

「すげー」

この店の解説をしながら、冬次は店の扉を開ける。

「いらっしゃいませー……おっ、冬次じゃん」

「お、蓮じゃん。お疲れ」

出迎えてくれたのは、俺や冬次と同い年くらいの店員さんだった。

「随分若いな、店員さん」

「ん?その女の子は誰だ?まさかデート中か!?」

「まさか、こいつはこの間から俺ん家に居候してる『藤原小町』って言うんだ」

「へぇ、可愛いな。どうも初めまして、俺の名前は『白山蓮』って言うんだ。このカフェで住み込みで働いてるんだ。よろしくな」

「あ、どうも。藤原小町です」

軽く会釈をしながら挨拶をする。

どうもこの白山蓮という男の子は冬次と知り合いらしい。

「まーとにかく席に座って座って!」

「分かった、案内してくれ」

「はい、二名様入りまーす!」

蓮が大きな声で叫ぶ。

しかしこのカフェに来て、まさか人外の事件に遭遇するなんて。

この時の俺はまだ、知る由も無かった。


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