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狐、或いは咲波市

咲波市。

人口は九万人超の街であり、海に面して工場が立ち並ぶ工業都市である。

……と言えば聞こえはいいが、結局のところ田舎の工業地帯である。

見るものと言えば汚れた海くらいで、これといって面白いものは何もない。

この『咲波神社』という少し大きな神社も地元の人達には大事にされてはいるも、観光名所と言うには誇張が過ぎると言う。

そんな話を春菜さんから聞いていた。

この街の名前、街の特徴。

記憶にはないが、心の何処かで懐かしい感じがした。

もしかして、自分が男だった頃はこの街に住んでいたのかもしれない。

「今日は母さんと弟がいなくて紹介できてないけど、そのうち紹介するわね」

タンスから俺用の女物の服を出しながら言う。

「え?まだ家族がいるのか?」

「ふふ、多いでしょう?うちの家族」

そういえば確か、冬次の自己紹介の時に『四姉弟』って言ってたような。

「母は私と同じ高校の校長、弟はこの神社の跡取り。それぞれちゃんと人生を歩んでいるって訳」

「へぇー」

色々な道があるんだなぁ、と思いながら出されている服を着る。

「……これを着るのか?」

「これって、他に何を着るのよ」

フリフリのピンクのパジャマ。

スカートやセーラー服まで出てくる。

「これくらいあればいいでしょ、古着取っておいてよかったわ」

「うわー、マジで女物の服だなぁ」

「そりゃ女なんだから」

改めて自分が女になったことを実感する。

こんな服着て外を歩くのか……

って思ったけど、そもそもこの獣耳と尻尾をどうにかしないと話が始まらない。

これって隠したり出来ないのかな。

耳は帽子があれば隠せる、尻尾は……

難しいな。

「とにかく、当分はこの神社内で生活しなさい。フラッと街中に出たら変なものが寄り付いてくる可能性だってあるわ」

「変なもの?」

「悪霊とか、まぁアンタと同じ人外とかがね」

「うぇぇ、マジか」

「それだけアンタの力は強いの。覚えておいて」

「と言うか春菜さん。神社の跡取りじゃないアンタにも俺の力って分かるのか?」

「私はここ跡取りじゃないってだけで、『そういう力』に関しては姉弟の中で一番よ」

「すげー」

どうもこの人は俺の力を目視できるようだ。

何か困ったことがあれば相談しやすい、助かる。

「それに、その耳と尻尾の件さえ解決すれば学校にも行ってもらおうと思ってるし」

「え?俺学校行けるの?」

「強すぎる力の件は父さんと弟と相談してどうにかするわ。アンタはその耳と尻尾を今のうちにどうにかしておきなさい」

「そんなこと言われたって……」

「恐らくその耳と尻尾は強すぎるアンタの力が溢れ出てるせいだと思うわ。つまりアンタがある程度力をコントロール出来るようになれば耳と尻尾は消えるはずよ」

「へぇー、なるほど」

理解はしたが、方法が分からない。

どうすればその力とやらをコントロール出来るのか。

そもそもその力ってなんじゃ、と言うところから始まってしまう。

学校、学校か。行ってみたい気持ちもあるが、本当にできるのだろうか。

「今はまだ三月の頭だから、猶予は一ヶ月。その間にどうにかしなさい」

そう言って春菜さんは部屋から出て行く。

「あれ?ここ春菜さんの部屋じゃないんですか?」

「いや、私はもう家から出て一人暮らしをしているの。ここは確かに昔私が使ってた部屋だけど、今はアンタに貸してあげるわ」

ふふっ、という風に笑ってそのまま出て行ってしまった。

力をコントロールすること、その課題を与えられた俺はどうするか考え、とりあえず渋々目の前のピンクのパジャマを着ることにした。


ーーーーー


「やっぱり戻ってない、か」

翌朝目が覚めて鏡を見ても自分は女のまま、狐娘のままの姿が映っていた。

『もしかしたら』なんて甘い期待をしたのだが、やっぱりそうそう上手くいくものではない。

とりあえず朝飯でも頂こうか、と居候根性丸出しのままリビングに降りていく。

「あら、噂の狐っ娘の登場ね」

「ハハ、この目で見るまで信じなかったが本当だったのか」

昨日見なかった女性と男性がキッチンに立っている。

「あぁ、紹介がまだだったね。こっちの女性は『四季鈴華』、私の妻だ」

月花さんはその女性、鈴華さんを紹介してくれた。

春菜さんの大きさや月花さんから察するにそこそこ歳はいってるだろうと思ったが、見た感じすごく若くて驚いた。

「俺は四姉弟の二番目、長男の『四季夏希』だ。ここの跡取りとして、この神社に勤めている。よろしくな」

こちらに近づいてくる大男はどうも春菜さんの弟らしかった。

とにかくでかい、それが第一印象だった。

まるで熊のような大男、それが夏希さんだった。

「よろしくお願いします……」

ちょっと気圧されつつも挨拶を交わす。

「ふふ、若いんだからいっぱい食べてね」

そう言うと鈴華さんは出かける準備を始めてしまった。

「あれ?もう行くんですか?」

「ええ、校長の仕事は朝が早いの」

ウィンクをして彼女は行ってしまった。

なんだかノリも若いというか、すごい人だ。

「中々面白いだろ、うちの家族」

ズズズ、と味噌汁を啜りながら横で冬次が話しかけてきた。

「あぁ、個性豊かでビックリだ」

「まぁ、四姉弟って時点で結構色濃いからな。うちの姉弟は」

確かに、と頷いてしまう。

ここまで子沢山なのはよっぽどじゃない限り見ないだろう。


ーーーーー


「うぉ、すげぇ」

朝飯を食べた後、俺は神社の裏手に来た。

裏手には木々が生い茂っており、まだ午前中だというのに若干暗く感じる。

「……ん?」

よく見ると木々の中に鳥居が見える。

ここの神社の入り口にある鳥居ほど大きくはないが、まるで人を寄せ付けないようなオーラを放ちながら薄暗いところに立っている。

そして、その鳥居の下に人が見えた。

「……誰だろう」

月花さん達はまだ家にいたし、それにあの後ろ姿は女性だろう。

巫女服の女性が木々の鳥居の下に立っている。

そこそこ距離はあるものの、まるでこちらに気付いたかのように振り向いた。

巫女服の女性は木々の奥へと走っていく。

「……追いかけてみるか」

そう心に決めた俺は、木々の中へと入っていく。

まるで誘われるかのように、その鳥居を潜り抜けて中へ中へと入っていく。


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