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絵の中の私  作者: 石神井川 指南
3/3

賞をとる

私は1人で彼のところに行くのが怖かったので、渡邊と一緒に行く事にした。住所に示されたところは都内。比較的近いところに彼はいるみたいだった。

着いた部屋のドアのチャイムを押した。すると、彼ではなく別の男性が出てきた。

「渡邊じゃないか」

出てきた人物は渡邊を知っていた。

「なんでお前がここに?」

渡邊は動揺したみたいだ。

「お前こそ何の用だ?」

「いや、それより、小鳥遊いるだろ? 小鳥遊に用があるんだ」

「小鳥遊なら、動物園だろ。何をしているかは知らんさ」

そう言って男は部屋のドアを閉めた。




「渡邊さん、先ほどの人とはお知り合いなんですか?」

「知り合いってほどじゃないけど、奴は悪い噂を聞く」

「どんな?」

「贋作だ。奴は贋作師なんだよ」

「贋作って、ひょっとして絵を本物のように描いて、本物として売るっていう…?」

「ああ、そうだ。でも、小鳥遊の居場所がわかったんだ。取り敢えず、動物園に行ってみよう」

私と渡邊は動物園に行った。


「あれ、小鳥遊じゃないか?」

渡邊の言葉より早く、私は俊を見つけていた。

私達は遠巻きに見ていた。

ひたすら左手を動かしている。



絵を描いている。

彼は絵を描いているのだ!

渡邊は声をかけようと彼に近付こうとした。だが私はそれを止めた。

「なんで? せっかく小鳥遊に会えるのに。会って話をしたいだろ?」

私は首を振った。

「絵を描いている。それだけわかれば十分なんです」

「そうか。君がそう言うなら、会わないでおこう」


私は帰り道で渡邊のしゃべるのを聞いていた。

「贋作師はいろんなタッチを研究する。きっと小鳥遊はそんなタッチを勉強したくて一緒にいるんだろう。以前の自分のタッチを習いたくて。そして先生として絵を習っているんだろう」

渡邊は独り言のように言う。

私達は電車に乗った。電車の揺れが心地良かった。


1年経ち、彼の絵が絵画コンクールに出され、賞を取った。私はその絵をみようと絵画コンクールの会場に出掛けた。

題は『梅の木と春の日』…私が卒業した時に撮った写真から起こしたのだろうか? それは梅の枝に手を伸ばしている女性が着物を着ている絵だった。


それから一月後、彼は自宅に戻って来た。

「真奈美、会いたい」

一言電話で言い、彼は私に会いに来た。

「約束だ。もう一度絵を描いた。ここまでの道のりは平坦じゃなかった。でも絵と真奈美は忘れられなかった」

「私、動物園で俊が1人で絵を描いていた事知っていたんだよ。1人で苦しかったね。これからは毎日一緒にいよう。苦楽を共にしようよ」


アトリエの彼は絵を描く。雨の散歩からわたしは帰ってきた。

「右手痛む?」

「少し。でも、左手があるから大丈夫だよ」

「ムリしないでね」

たとえ、右手の絵でなくても、私は好きだ。右手でどんなに上手く描こうとも、今の彼の左手には劣るだろう。私は何か飲みものを淹れるわ、と言い、お茶を出す。左手で飲む彼のたくましいまでの腕と精神力を私は見続けていた。長い間、ずっと。


劇終


稚拙な文章です。お読みいただきありがとうございます。

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