幕間3
朝の空気もだいぶ柔らかくなり、それどころか暑い日差しが射し始めた四月の下旬、学校へと続く通学路を2人の少女が歩いていた。
1人は149センチの黒髪の少女だ。肩より少し伸びたつややかな髪の毛が日の光に照らされてエンジェルリングを作っている。もう一人の少女は銀髪碧眼の少女でちょっと癖のあるその銀髪はふわふわと揺れ、ウェーブを作り出していた。計算しつくされた精巧な人形のような美しさが2人にはあった。2人は笑いながら通学路を歩いていく。
「へぇ~、今年はまだタケノコ採れるんだ。」
「そうなのよ。今年は出てくるのが遅かったせいもあっていまだにニョキニョキとね。だから今は2日に1度はタケノコ掘りよ。」
人形のような2人だが、話している内容は全くそうではなかった。
銀髪碧眼の少女こと香奈が、黒髪の少女こと風音の話を聞き、興味深そうにうんうんとうなずいている。
「いつもごちそうさまです。それにしてもタケノコ掘りか~。意外と楽しいよねあれ。」
「まぁ、たまにならね。私にしたらもう作業よ、作業。それなら明後日は休みだし朝一番でタケノコ掘りでもしてみる?道具は用意するし。」
「いいねぇ~。あく抜きもしてくれる?」
「調子に乗らないの。」
ペシッ、と風音の軽いチョップが香奈の頭に当たる。あうっ、とわざとらしく声をあげそしていやいや、とでも言うように顔を両手で覆い、首を左右に振りながら泣きまねをする。
「ひどい、親にもぶたれたことないのに!」
「えっと、それじゃあもう一回いっとく?」
そのセリフの原作を知っている風音が、その話通りに2回目のチョップをお見舞いしようかともう一度手を振り上げたところで、香奈は慌てて泣きまねを止めてプルプルと首を横に振った。その顔には思いっきり、勘弁!と出ていた。
「カザハのチョップは痛いんだよ。特に本気の時は。」
「そう?これでもだいぶ手加減してるんだけど。本気だとこっちの手も痛くなっちゃうし。」
道場で日々鍛えられていた風音と、武道とは全く縁のない生活を送っていた香奈の基準は大きく違うようだった。
2人が正門をくぐろうとした時、その正門の目の前に1台の黒塗りの高級車が止まった。近くにいた生徒たちの視線を集めながら、その高級車の後部座席のドアがひとりでに開き、少年と少女が下りてくる。
男子としては少し長めの髪の見方によっては女子にも見える柔和な顔をした少年が、もう一人の少女をエスコートするように手を差し伸べ、その手を取って少女が下りてくる。160センチ近くの女子生徒にしては高めの身長とその少年と似た顔をキリリと引き締め、真っ直ぐ前を向くと何事も無かったかのように堂々と学校へと入って行く。その後を少年がしずしずとついて行っていた。
「うわぁ、すごいわね。」
「新入生の花京院さんの所の双子ちゃんだね。花京院流茶道の本家の跡取り娘とその弟君。何か生きてる世界が違う感じがするね~。」
その2人に聞こえないように少し小さな声で話しながら風音たちも校舎へと向かって進んでいく。
「あれっ?」
風音が思わず疑問の声を上げる。
風音たちの前方5メートルほどの所を歩いている、その少女のカバンのファスナーの所に普通にしていればわからないくらいのシルバーのアクセサリーがついていた。別に校則でそう言ったものが禁止されているわけではなく、もっとジャラジャラした物をつけている女子生徒もいるためそれを疑問に思ったわけではない。風音が気になったのはそのシルバーのアクセサリーが見覚えのあるウサギとカメの形をしていたからだった。
ほへ~、と何となく2人に見とれていた香奈の脇腹を風音が肘で突く。
「ぐふっ、今のは結構痛いよ。何するのさ!」
「それどころじゃないわよ。ちょっと女の子の方のカバンのファスナーの所についているシルバーアクセを見てよ。」
痛そうに顔をしかめていた香奈だったが、言われたとおりそのカバンに注目してみるとカザハの言っていたことがわかった。それはある意味見慣れたグローブと同じ形をしていたのだ。
そして改めてその少女と少年を2人がまじまじと見る。多少印象は違うが、顔つきやその動きは何となくなじみのあるもののように2人には思えた。
「えっと、こんな偶然があるとは思えないけど、だよね。」
「おそらくね。」
2人は少し歩くペースを上げ、そしてその双子まで2メートルと言ったところまで接近する。香奈がちらっと風音の方を見て、うなずいたのを確認すると少し呼吸を落ち着けて、そして意を決した。
「エニシ、ガク。」
2人にかろうじて聞こえるくらいの声の大きさで発せられたその言葉に、ぐりん、とその双子が振り返る。その表情には驚きが多分に含まれていた。
「えっと、昨日ぶりね。」
無言の2人へと風音が挨拶をする。その双子は香奈と風音をじっと見つめ、そして納得したようにシンクロしながらうなずいた。
「おはよう。カザハ、ユカナ。」
「おはようございます、お2人とも。まさか同じ学校だとは思いませんでした。」
「それは・・・」
「ぼくたちも同じだね。」
4人が少し笑う。そしてとりあえず昼食時にお弁当を持って集合することに決めてその場は解散になった。
そして昼。日差しがきつくなったので中庭の木陰のベンチを占領しつつ4人は集まっていた。学校の中庭にはこのように食事をとれるような机と椅子が点在しており、たまに生徒たちや先生が利用している。
いつもと同じような順番に自然に座りながら各自が弁当を開く。風音の弁当は2段に分かれたタイプのもので、この時期は恒例になりつつあるタケノコご飯だ。と言うより2日に一遍はタケノコご飯になるのだ。風音の母の方針に食べ物を粗末にすると言う事は無い。
香奈は一段のごく普通のお弁当で、定番の卵焼きやプチトマトなど彩りが鮮やかなものだった。
そして双子が取り出したのは高そうなつやのある弁当箱に入った純和風のお弁当だ。まるでお店の仕出し弁当のような高級感があった。
「うわぁ、美味しそうだね~。」
「やめなさい。みっともない。」
双子のお弁当に食いついた香奈を風音がとがめる。その様子を双子は笑って見ていた。
「改めまして、僕は花京院 学です。ガクですね。」
「花京院 縁。エニシ。」
「姉さん、もうちょっと愛想よくしようよ。」
「やだ。ただでさえ疲れるのに2人の前でまで疲れたくない。」
縁のキリッ、としていた雰囲気は雲散霧消し、いつもの眠そうなやる気の無さそうな雰囲気に戻る。それをガクがとがめたが全く気にしない姉にため息を漏らして諦めた。その様子に風音と香奈が小さく笑う。
「えっと、剣崎 風音よ。カザハね。」
「宅見 香奈だよ~。ユカナだね。いや~、それにしても偶然ってあるんだね。びっくりしたよ。」
香奈が面白そうに笑う。あまり話していてもお弁当を食べる時間が無くなってしまうので食べながら話をすることにした。
「そういえばどうしてわかったんですか?」
「あぁ、風音が縁のカバンのパペットのアクセを見つけてね~。」
「あれ、どうしたの?」
「えっと、姉に頼まれて僕が作りました。」
会話する3人をよそに、縁はぱくぱくと弁当を食べ進めて自分の弁当を食べきった。そして楽しそうのしゃべっている3人のお弁当を見る。
「カザハ、ご飯一口頂戴。」
「姉さん!」
「だって、美味しそう・・・」
朝の凛々しかった人物とは同一人物とは思えないような泣きそうな表情を縁がする。その表情を見たガクがそれ以上何も言えなくなってしまった。
「いいわよ。タケノコご飯が多すぎてちょっと飽きてきてるし。お母さんにはこんなこと言えないけどね。」
風音がそう言って笑い、一口くらいの量のタケノコご飯を縁の弁当箱へとおすそ分けする。縁が表情をぱぁっ、と明るくするとすかさずタケノコご飯を口へと運び幸せそうな表情に変わっていく。
「姉さん、お礼は?」
「ふふふぁふぉう。ふぁふぁふぁ。」
「どういたしまして。でも食べきってからでいいわよ。」
ガクが頭を下げる中、縁はその味を堪能していた。そして喉を通過し、ちょっと残念そうな顔をする。
「美味しかった。ありがと、カザハ。」
「いいわよ。家で採れたタケノコだし、美味しいと思ってくれただけでも嬉しいわ。」
「ぼくの家も良くもらうしね。明後日は2人でタケノコ掘りに行くつもりなんだ。」
その言葉にグリン、と縁が学の方を見る。その目は期待に満ちていた。
「確かに予定は無いけど、ダメだからね。姉さん。」
学の言葉にシュン、と縁がうなだれる。確実にこのタケノコが欲しかったと誰にでもわかるほどの落ち込みようだ。
「えっと、都合が良ければうちは何人でも大丈夫だけど。大きなスコップと鍬もあるし。」
「えっ、でも急にご迷惑ではないですか?」
「いーよ、いーよ。むしろ取ってもらった方が風音も楽だし。」
「行く。」
嬉しそうな姉の表情を見ながら、朝に起こすのが大変そうだと、学は今から覚悟を決めていた。
さぁ、タケノコ掘りだ。竹林のなかを進んだ四人だったがそこにはいと光る竹なむ一筋あるける。あやしがりてよりてみるに・・・
次回:煮沸
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




