エピソード70
早足で進み3時間ほどでボス部屋の前のセーフティエリアに2人が到着する。そしてすぐにボス戦へということはなく一旦休憩することになった。
カザハがガクの作ったクッキーを取り出し、ミコトに分ける。
「おっ、悪いね。」
「いいわよ。結構早足で進んだし、甘いもの嫌いってわけじゃないわよね。」
「ああ、まぁ、なんだ。好物だ。」
ちょっと恥ずかしそうに顔を染めながら言うミコトをカザハが不思議そうな顔をしながら見つめる。別に今の話で恥ずかしがるようなことがあったように思えなかったからだ。
ミコトは受け取ったガクの手作りクッキーを美味しそうに食べている。
その様子にカザハは恥ずかしがる理由を聞いてみたいと思ったが、なんとなくそれはトラウマに近いもののような気がして気軽に聞く気にはなれず別の話をすることに決めた。
「それで、ミコトはどうやってボスと戦っていたの?」
「オーソドックスに翼を魔法で攻撃しつつ、飛ぶ直前まで削ったら回避しながらMPの回復を待ってそして最後の攻撃をしていくって感じだね。ソロクリアできる確率は50%ってとこかね。あんたはどうなんだい?」
「翼を切り落として飛べなくして突っ込んでくるところを回避して攻撃をするって感じね。とりあえず負けたことはないわ。」
そのカザハの言葉にミコトが口を開けて驚いた顔をする。実際にはカザハはサスケと一緒に戦っているため完全なソロではないし、MPが尽きれば有効な攻撃手段がほとんどなくなる魔術師に対して、MPの制限などのない剣士であるカザハにとって今回のレッドドラゴンが有利なだけである。
実際のカザハとミコトの実力差によるものではないし、逆に空を飛んで降りてこないようなボスであったならカザハとミコトの立場は逆になっていただろう。そのことをカザハは重々承知していた。
「なんだ。あいつの翼は斬り落とせるのかい。ダークボールでちまちま攻撃しなくてもよかったかもしれないぜ。」
「じゃあとりあえずスタンダードに私が近接、ミコトが遠距離から魔法で攻撃って感じでいいかな。翼を斬るから、ミコトは後ろ足を重点的に攻撃してくれる?」
「了解だ。」
クッキーを食べ終え、ぱんぱんと手を払うとミコトがロザリオを手に取る。銀で作られた装飾の全くない十字架に丸い数珠がついてひも状になっている。数珠は首にかけるほどの長さは無く、2重にして手に持つ程度だ。
「改めて見ると珍しい武器よね。」
道中でも見ていたのだが、カザハがミコトのロザリオをしげしげと見る。その視線を受けたミコトもロザリオ全体が見えるように掲げた。
「一応区分上は【短杖】扱いだけどね。魔術はイメージが大事だからってことで師匠がプレゼントしてくれたのさ。親がカトリックでね。小さいころから教会に連れて行かれてたから何となく落ち着くんだよ。」
「ああ、私もなんかわかるかも。私も木刀持つと落ち着くし。」
そのカザハの言葉に微妙な顔をしながらも、ミコトは何も言わなかった。
ミコト自身はそこまで熱心な信者と言うわけでもなかったのだが、それとこれとはちょっと話が違うような気がするけどねぇ、と思っていたのだ。まあカザハに他意は無い事はその雰囲気でわかっているのだが、木刀とロザリオを同一視するのにはちょっと抵抗があった。
「それじゃあ行くぜ。まぁ、倒せるだろうけどな。」
「そうね。油断だけはしないようにしましょ。」
2人は扉を開け、ボス部屋へと入って行く。そして白い煙が現れ、レッドドラゴンが現れた。しかしその体はカザハやミコトが知っている大きさの2倍以上あり、10メートルを超えるその巨体からは熱気を発していた。
その赤い鱗で覆われた口から見える鋭い牙の間から舌を覗かせ、そしてその黄金の瞳がギョロギョロ、とカザハとミコトを捕らえた。
「散!」
思わずカザハからいつも通りの言葉が出る。しかしミコトも戸惑うことなくそれに反応した。その直後その場を炎の柱が貫いていった。完全に避けきったはずの2人のHPが熱気によって少し削られる。
「あちゃ~、レアボスとはきついわね。」
「ずいぶんと余裕じゃないか。あいつは掲示板でも倒した報告は無いはずだよ。」
追ってくる炎から逃げながら2人が会話する。2人の表情にあまり緊迫感は無い。しかし2人のHPはじりじりと減っていっていた。
「攻撃パターンはいつものやつの強化版って感じだね。まあ、俺なら一撃まともにくらえば死ぬ感じだ。」
「ミコトも余裕じゃない。じゃ、とりあえず作戦に変更なしでいいわね。」
ミコトがうなずいたのを確認し、やっとブレスを吐き終えたレッドドラゴンに向かってカザハが走る方向を切り替えし向かっていく。それをミコトが援護のために[シャドウボール]でけん制しながら簡易鑑定を行う。
<レッドドラゴン(子竜)>
Lv40
HP 17000/17000 MP 1400/1400
(説明)
火の属性を持つ竜の子供。幼生体から成長し体が安定したため弱いながらもブレスを吐くことが出来る。
その鑑定結果を見たミコトがチッ、と舌打ちをする。
「これで子竜なのかい。しかもあのブレスが弱いって!?成長したらどんなのと戦うことになるんだろうねぇ。」
そう呟きながらミコトは攻撃に警戒をしながら足へとダメージを与えることに集中し始めた。
一方カザハは少し楽しくなっていた。いつも通りのレッドドラゴンではだいぶ物足らなくなっていたところだったのだ。肉は美味しいので狩ること自体に問題があるわけではないのだが、剣の相手としては不足していると言わざるを得なかった。
子竜へと成長したレッドドラゴンは幼生体の時とは違い、動きも早く、そして一撃一撃が力強かった。ミコトは一撃まともにくらえば死ぬと言っていたが、カザハも一撃をくらえば無事では済まないことがわかりきった攻撃だったのだ。
その襲いかかる爪を潜り抜け、そしてドラゴン自身の体を蹴りつけて駆け上りその翼を一閃する。
「[纏]使わないと無理かもしれないわね。」
そのあまりの固さにカザハは冷静に判断する。
翼の根元を斬りつけた後、カザハを狙うように首を曲げかみついてくるレッドドラゴンの牙を、胴体を蹴りつけた反動で距離を取りながらかわす。音も無く着地したカザハは再びレッドドラゴンへと向かって走り出した。
「なんだい、あのでたらめな動きは。」
攻撃するのを忘れてしまいそうになりながらミコトがつぶやく。ミコトもトッププレイヤーの一角を担っていると言う自信があった。ソロでダンジョンを攻略したことは幾度もあるし、PvPを申し込まれて受けても苦戦することはあっても最悪引き分けに持ち込むことはでき、負けたことは無かったのだ。
そんなミコトから見てもカザハの動きは異常だった。一見するとアクロバットのように無茶苦茶に動いている。それは確かだ。しかししっかりと見ればその動き自体が洗練されていて、そして動きに無駄がないことがわかってしまう。
カザハと戦えば負けるかもしれない。それはミコトが今までどんなプレイヤー相手にも抱いたことのない気持ちだった。
◇----登場人物ステータス----◇
カザハはHP減少だけのため割愛。
<登場人物1>(スキル判明)
名前:ミコト
種族:影人族
職業:魔術師
副職業:農家
称号:『自然に愛されし者』『一匹狼』『賢者の弟子』『ハムハム』
Lv32
HP 477/501 MP 480/510
STR 146 VIT 150
INT 510 MID 502
DEX 326 SPD 355
LUK 68
(スキル)
【闇魔法 Lv42】、【隠密 Lv36】、【短杖 Lv27】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 銀のロザリオ(ミコト用)
頭 魔力の髪飾り
腕 大狼の小手
上半身 大狼の胸当て
服 大狼のローブ
下半身 大狼のすね当て
足 大狼の靴
アクセサリ 銀の腕輪
アクセサリ 瑠璃石の指輪
からくもレッドドラゴン(子竜)を倒したカザハとミコト。しかしその二人の背後に腕にグローブをはめた謎の人物が現れる。はたして、2人の運命は!?
次回:焼肉パーティだ!!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




