エピソード67
食事の片づけを終え、ガクが改めて3人に感謝されて照れていた。実際3人が幼赤竜の肉を手に入れたとしてもガクほど美味しくは作れなかっただろうと3人にはわかっていたからだ。
エニシが肉の確保のために魔法陣へと直行しようとするのをカザハが肩を掴んで止める。
「とりあえず宝箱を開けよう。」
「あっ、忘れてた。」
その言葉に全員が苦笑いする。完全にドラゴンステーキと赤竜鉱石にすべて持って行かれてしまって中身の分かっている宝箱の存在感が薄くなっていたのだ。カザハたちにしても中身の分かりきっている宝箱ではわくわく感もあったものでは無いのだが、入っている物は必要なので開けないというわけにはいかなかった。
「じゃあ、どーん。」
投げやりな感じのユカナの掛け声とともに4人で宝箱を開く。宝箱がミミックに、なんてことは無く、そこには普通に『招待券(1/4)』と銀色の『お楽しみ引換券』が4枚ずつ入っていた。
「ワー、ナンテスゴイオタカラナンダ。」
「棒読みですね。」
「まあ予想はついていたしね。それにしても今回は銀色なのね。エニシの予想が当たったのかもね。」
「えっへん。」
胸を張るエニシをガクとカザハが優しげな眼で見ている横で、ユカナが招待券(1/4)を4枚取り出す。するといきなり光を放ち1枚の招待券へと変わっていった。その様子に驚きつつも他の3人も取り出し、すべてが正式な招待券へと変わった。
「これで大丈夫だね。何に招待されるかはわからないけど。」
「それじゃあ行きましょうか。まずはエニシのサブジョブね。」
「後でいい。」
「いや、スキルの恩恵もあるから先にしておこうよ、姉さん。」
渋るエニシを説得しつつ、4人は街へと向かって歩き始めた。
山を下り、その下に広がっている30メートルほどの森を進んでいる途中で先頭を歩いていたカザハが動きを止める。
「何か・・・」
ガクが話そうとしたのをカザハが手をパーにして止める。異常が起こっていることを察した3人がそれぞれ警戒を強めた。
「そこ!」
カザハが棒手裏剣を1本の木の陰に向かって投擲する。うおっ、と言う声があがり、がさがさと言う音と共に1人の男が現れた。
青い髪の身長190センチを超える巨漢だ。がっちりとした体型で男臭い顔をしている。硬派と呼ばれて応援団長とかをしてそうだ、それがカザハの男の第一印象だった。
男はカザハの投げた棒手裏剣を手で掴み、プラプラと揺らしている。
「危ねえなあ。いきなり攻撃たぁ、どういう了見だ?」
その言葉と違い、男の顔には怒りも焦りも無く、ただ楽しそうにカザハを見つめていた。
「それだけ殺気を発していて、攻撃するなと言う方がおかしいと思うわよ。それに周りにもお仲間がいるみたいだし。」
周囲を見てカザハが警戒を続ける。そんなカザハの様子を見て男が破顔すると大声で笑い始めた。
「ハッハッハ。お前ら出て来い。」
その言葉に応えるように男の背後から3人、道の先から2人の男たちが出てくる。その6人でパーティを組んでいるのか、皆同じような真っ黒な装備で全身をコーディネートしていた。
「まあ察していると思うが俺らはPKだ。ここで網を張るついでに噂のオオカ巫女の実力でも試してみるかと思ったんだが・・・」
男が笑みを強くする。
「いいなぁ、お前。絶対に武道経験者だろ。しかもかなりの実力者だ。ただレベルの高い馬鹿どもとは目が違う。」
「そうかしらね。」
カザハはどうするべきか考えていた。この男の実力は自分と同等かそれ以上かもしれないと判断したのだ。
適当に立っているように見えて、その重心は安定しており、カザハが警戒していなければいつでも襲いかかれるような体勢なのだ。しかも普通にはそれがわからないようにしている。厄介な相手だ。その上、他に5人もいる。さすがにユカナやガクを守りながら戦うには分が悪すぎた。
「で・・・だ。まぁ、今戦ってもいいんだが、お前との戦いはもっと目立つところでやりたいからな。今は見逃してやるから、イベントが終了した後、しかるべき舞台があったら再戦してもらおうか?」
「何を言ってるんだ。カザハさんがそんな勝負を・・・」
「ガクは黙ってて!」
ガクの言葉をピシャリ、とカザハが止める。ガクが驚いた顔をしているが構っている余裕はカザハには無かった。そして男の言葉の意味を考える。そのメリット、そしてデメリットを。
そして決断した。
「わかったわ。あなたが戦いを希望した時に1度受けましょう。それでいいですね?」
「くっくっく。あぁ、約束は必ず守る。行っていいぜ。」
男が道を譲るように体を斜めにし、道の先へと手を向ける。さぁ、行け、と言っているかのように。男のパーティメンバーもそれに合わせて道を譲った。1人を除いて。
「あぁ、何やってやがる。」
男がイラついた顔で道を譲らないパーティメンバーを恫喝する。しかしそいつはそれに反応せず、逆にカザハに向かって襲いかかった。
「てめぇ!」
男が襲いかかるそいつに向かって走り出そうとしたが、カザハから膨れ上がった剣気にあてられ止められる。男が止める必要がないとそれだけでわかったのだ。
そいつは短いナイフを逆手にして両手に持ち、低い体勢でカザハに襲いかかる。そのスピードはかなり速く、そしてその動きは人間を襲い慣れた躊躇の無い動きだった。
だが・・・
「遅い!」
一瞬だった。カザハの振りぬいた小太刀がそいつのナイフが届く前に、その頭を唐竹割にし、HPを全損させたそいつは光の粒子となって消える。
人間を攻撃すると言う忌避感がカザハには多少あった。しかし守るためには仕方がないと踏ん切りをつけたのだ。それはシンテツがカザハに教えていたことでもあった。
カザハがピッ、と小太刀を振るい鞘に納める。
「貸し1つよ。」
「あぁ、わかった。あいつは俺が責任を持って反省させるぜ。俺の顔に泥を塗りやがって。」
イラついた顔をしていた男だったが、しばらくして面白そうにカザハを眺めていた。それは獲物を前にした肉食動物のような獰猛な笑みだった。
「早く行け。お前を見てると襲いたくなっちまう。」
「わかったわ。いこう、皆。」
カザハに促され、緊張をしながら臨戦態勢を取っていた3人が歩き出す。カザハがその横で男をけん制しながら進んでいき、そして森を抜けた。
しばらく歩き、男たちがついてきていないことを確認するとカザハがふぅ~、と大きく息を吐く。その様子を見た他の3人も少しほっとしたように固くなっていた表情を和らげ、そして心配そうにカザハを見つめた。
「ガク、悪かったわね。」
「いえ。僕こそ差し出がましい真似をしました。」
その中でも一番心配そうに見つめていたガクへカザハが謝る。カザハとしてもガクの気持ちは嬉しかったのだが、その止め方があまり良くは無かったことが気がかりだったのだ。
「カザハ、あいつら強いの?」
ユカナが鍛冶の時のような真剣な表情をしたまま問いかける。その言葉にカザハはゆっくりとうなずいた。
「少なくとも最初に出てきた男は強いわ。武術の経験者、それもかなりの実力者でしょうね。私と戦えばどちらが勝つかわからないわ。」
「それほど!?」
エニシが目を見開いて驚いている。エニシにとってカザハは今まであった人の中で最も強い人だ。訓練をしてその実力が自分よりもはるかに高いこともわかっているし、今までのモンスターの戦闘でも他の人とは一線を画した強さを誇っている。そんなカザハと同等の実力者がいて、しかもそれがPKだと言うのが信じられなかったのだ。
「PKしてるからにはAWO内での対人戦もあちらの方が慣れてるしね。まぁ、他のメンバーはわからないけどあいつはPKを楽しんでるって言うより・・・」
「言うより?」
適切な言葉を探して少し考え込んだカザハにユカナの合いの手が入る。
「うん・・・戦闘狂って感じかな。強い奴と戦いたくて仕方がないって感じ。昔道場に来た道場破りさんを思い出す。」
「あ~、なんか言ってたね。時代劇みたいなのがやってきたって。小学2年くらいだっけ?」
カザハがうなずく。
カザハの脳裏には、祖父に何度打ちのめされても「もう一度!」と言って立ち上がって向かっていく男の姿が思い出されていた。結局祖父には一度も勝てなかったのだがその男は満足そうに帰って行ったのを覚えていた。
「とりあえず帰りましょ。私もちょっと疲れたから街に戻ったらゆっくりしたいわ。」
「そうだね。じゃあぼくとエニシで行ってくるからカザハは休んでなよ。ガクは・・・」
「食事の下ごしらえですね。」
「期待してる。」
すこし空気を和ませながら、4人は帰って行った。先を歩くエニシとガクにわからないようにカザハとユカナが目を合わせる。そしてじっと見つめるユカナに、カザハは首を振って少し笑った。それを見てユカナも納得したようにうなずき、2人の物言わぬ会話は終わった。
◇----登場人物ステータス----◇
自然回復のみのため割愛
キラッ☆私、撲殺PK男さん。今日も油断して歩いているお馬鹿なプレイヤーを撲殺していくの。あら大変、飼いイノシシのブラッキーが何か見つけたみたい。急いで行かなきゃ。
次回:登場、撲殺PK男さん
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




