エピソード66
「お疲れカザハ。」
「うん。仮にもドラゴンだからちょっと頑張ったわ。いい素材が取れるかもしれないし。」
「たぶんユカナさんはその意味で言ったんじゃないと・・・」
「ガク、しっ!」
エニシの拳がガクの腹に直撃し、ガクが言葉を詰まらせる。そんな2人の様子をカザハが不思議そうな目で見ていた。
「痛いよ姉さん!何するの?」
「なんとなく殴った。」
「なんとなくなの!?」
そんな姉の答えにガクが唖然とする。もちろんエニシが殴ったのは理由が無いわけではない。ユカナとカザハを見ていてそれで合っているような気がしたのだ。根拠は無い。その理由こそがなんとなくである。逆に余計なことを言わない方が良いような気がしたのだ。それらを伝える言葉が見つからず、そして出した結論が面倒だし、なんとなくでいいやということだっただけだ。もちろん双子であってもそこまでガクにわかるはずもない。
当然、家族でもないカザハとエニシに2人のやり取りの意味などわかるはずもなくただ頭に疑問符を浮かべながら仲がいいな~、とその様子を見ているだけだった。
「とりあえずドロップ品を確認しましょ。」
「そうだね、竜の素材だし期待が持てるよ。うまくいけばドラゴンアーマーとか作れそうだし。」
「わかった。」
「了解です。」
4人でカザハが【解体】したレッドドラゴンのドロップを拾っていく。そのほとんどは鱗や肉だった。
「とりあえず幼赤竜の鱗が9枚、幼赤竜の皮が4枚、幼赤竜の肉が9個、幼赤竜の爪が2本、幼赤竜の翼膜が1枚だね。」
「思ったよりも多かったわね。」
「どう分配しましょうか?」
「肉が欲しい。」
食欲に忠実なエニシの言葉に笑いがこぼれる。話し合いの結果、鱗と皮と肉をそれぞれ均等に分けて、余ったものやその他はガクとエニシが鱗と肉と爪を1つでカザハとユカナが爪と翼膜を1つもらうことになった。明らかにレアっぽい翼膜だったのだが翼を斬り落としたのはカザハなので、とガクたちが遠慮したのだ。その代わりに鱗と肉のセットになっていた。
いよいよ宝箱というところだったのだが、早く肉を食べたいというエニシの要望と、どうせ【採掘】した物も分けないといけないんだから先に採掘したいというカザハの希望により宝箱を開けるのは食事の後と言う事になった。
ボス戦前に食べたので普通ならお腹は空いていないはずだが、ボス戦で長時間戦ったため良い感じにお腹が空いていた。幼赤竜の肉をガクへと手渡したエニシはその場から動かず、じっとガクを見つめ続けている。そのプレッシャーにガクの額から一筋の汗が流れた。
「えっと何を・・・」
「ステーキ。」
「えっ?」
「ステーキ。」
「ああ、確かにドラゴンステーキは食べてみたいかも。ロマンだよね、ロマン。」
エニシとユカナがうなずきあい、そしてじっとガクを2人して期待した目で見る。プレッシャーが2倍になったことにちょっと辟易しながらもガクがドラゴン肉をまな板の上にドンっ、と載せる。
幼赤竜の肉は1キロぐらいの肉の塊だ。細かくサシの入り高級な牛肉のサーロインのようだった。
僕的にはしゃぶしゃぶの方が好きなんだけどな、と思いつつガクはその肉の塊を4枚に切り分けていく。肉のすじに4箇所切れ込みを入れ、表面の水分を軽く拭うと少し高めから塩コショウを振って両面にまんべんなく下味をつけた。
「あれっ、手を伸ばして高いところから振りかけないの?」
「あれはテレビ用のパフォーマンスですから。均等に味がつけられれば必要ないです。」
ユカナががっかりしているのがガクにもわかったが、気にすると絶対にやらされるから気づかないふりをして作業を続ける。
ニンニクの芯を取り1mm位の厚さに輪切りして、フライパンに油を引いて弱火でじっくりと揚げ焼きにしていく。途中で裏返しにして狐色になるまで焼く。あたりにニンニクの香ばしい匂いが漂い、エニシのお腹がく~、と鳴いた。
「お肉・・・」
「ちょっと待ってて、今から焼くから。」
ヨダレを垂らさんばかりに見つめている姉に苦笑しながら、ガクがニンニクを紙の上に置き油をきっておく。
本当は牛脂の方がいいんだけどさすがに用意してないしね、と考えながらフライパンを強火で熱していく。フライパンからもくもくと煙が上がるほど熱し、そこに肉を投入する。ジュー、と言ういい音とともに肉の焼けるいい匂いが広がっていく。
ここからはしばらく待ちだ。ここで肉を触ると美味しい脂が逃げてしまうのだ。1分くらい待ち、肉の表面に肉汁が浮いてきたのでガクがその肉をひっくり返す。焼き色のついた美味しそうな肉がお目見えする。エニシから感じるプレッシャーが増大する。しかしここからは時間との勝負なのでガクは無視することにした。
赤ワインを持ち、大さじ2杯程度の量をフライパンに投入する。ジュワー、と白い煙が上がり、そしてフライパンを少し傾けるとフライパンの上から炎が上がった。
「「おぉ~。」」
見ていた2人から感嘆の声とパチパチパチと拍手が送られる。別に炎を上げる必要は全くないし、家なら逆に危ないので絶対にやらないのだがこれだけ期待されると少しは期待に応えたくなってしまったのだ。
「いい肉ですからミディアムレアでも大丈夫ですか?」
「いいよ~。ガクにお任せ。」
「早く食べたい。」
ある意味想像通りの回答だった。了承が得られたのでフランベの火が消えてから、10秒弱焼いてすぐにフライパンから取り出す。そして肉をホイルで包み3分ほど待つ。すぐに切ってしまうと溶け出した肉汁が溢れ出てしまうのだ。
待つ間にガクは簡単なサラダを作り、パンを切り分けていく。サラダはサンドイッチ等にすぐできるように下ごしらえは済んでいるため取り分けるだけだった。
そして見ている2人にとってはとても長い3分がやっと過ぎ、ガクがステーキを取り出し、温めておいた皿へと並べていく。
「はい、完成です。」
「いただきます。」
「いや、さすがにみんなで食べようよ。カザハさーん。ご飯できましたよ。」
いきなり食べようとした姉をガクが止める。エニシがものすごく残念そうな顔をしていたが我慢したようで、しかし我慢しきれずにナイフとフォークを持ってすぐに食べられるようにスタンバイだけはしていた。
「わかったわ、ってあー!!」
「何なに!?」
突然カザハが叫び声をあげたかと思うと3人のところへと走ってやってくる。そして1つの鉱石をその手に持っていた。その鉱石は薄い赤色で、つるっとした表面が光を反射していた。
「赤竜鉱石だって!」
「うわっ、絶対にレア鉱石だね。」
「すごいですね。そんな鉱石初めて知りました。」
盛り上がる3人だったが、後ろから湧き上がる巨大なプレッシャーを感じ恐る恐る振り返る。そこには泣きそうな顔をしながらステーキの前でナイフとフォークをもったまま我慢しているエニシガいた。
「お肉・・・」
「そ、そうね。先に食べよっか。美味しい方がいいしね。」
「そうだね。ぼくもお腹がぺこぺこだよ。」
「待たせてゴメンね、姉さん。それじゃあ・・・」
「「「「いただきます。」」」」
エニシが即座にドラゴンステーキにナイフを入れ、一口頬張り幸せそうな顔でもきゅもきゅ、と口を動かしていく。その様子に3人がほっとしながら自分たちも食べ始めた。
ナイフで切り、口の中に入れて噛んだ瞬間、熱々のその肉から肉汁が溢れ、肉本来の甘みを含んだ味が塩コショウによって引き立ち、そしていつの間にか消えていってしまう。口の中が幸せでいっぱいになり、もう一切れ、もう一切れとナイフとフォークが休む暇が無かった。
4人は無言で、誰も感想も言わないままただドラゴンステーキを食べ続けた。
「すごくおいしかったわね。」
「うん、これはちょっと別格かな。」
「ガク、もっと欲しい。」
「ちょうどニンニクが切れちゃったからまた今度ね。」
ガクの言葉にエニシががっくりと肩を落とす。
今、4人はステーキを食べきってサラダとパンを食べている。ここでやっとステーキの感想を言う余裕が出てくるくらいドラゴンステーキは美味しかったのだ。
ガクは密かに、肉を焼いたフライパンでパンを焼けば美味しいかもしれないな、と考えていたのだがそれを言ってしまったが最後、エニシに必ず作らされると確信していたため自分の幸せな時間を満喫するために黙っていることにした。
「それでこれからどうするの?一応ダンジョンは全て制覇したから招待状は完成したけど。」
「まだ宝箱さえ開けてないですけどね。」
ガクがちらっと部屋の中央に鎮座している宝箱の方を見る。
「肉が欲しい。」
「ぼくは赤竜鉱石が欲しいかな。師匠へのお土産ってのもあるし、鍛冶師としても興味があるから。じゃあとりあえず最後の日までこのダンジョンを攻略して回りますか。」
その言葉に3人がうなずく。こうして今日を除き、残り3日の予定が幼赤竜の肉と赤竜鉱石の確保に決まったのだった。
◇----登場人物ステータス----◇
カザハ、ユカナ、エニシは自然回復のみのため割愛。
<登場人物1>(スキルレベルアップ)
名前:ガク
種族:エルフ族
職業:僧侶
副職業:料理人
称号:『博愛者』
Lv24
HP 410/448 MP 148/377
STR 129 VIT 118
INT 334 MID 312
DEX 186 AGI 191
LUK 34
(スキル)
【料理 Lv15】、【本 Lv20】、【回復魔法 Lv23】、【MP上昇 Lv5】、【MP回復上昇 Lv14】、【気配察知 Lv19】、【釣り Lv3】、【***】
(装備)
武器 初心者の本
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ガク用)
服 一角ウサギのローブ
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ガク用)
足 軍隊赤蟻の靴(ガク用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
メインのはずなのにやっぱり放置された宝箱。宝箱が寂しさを噛み殺して我慢していたその時、荘厳な音楽と共に声が聞こえた。「汝、何を欲するか?」と。その時宝箱が祈った願いとは?
次回:ミミック誕生
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




