エピソード62
新入生歓迎会のイベントフィールドの街の北にあるのは標高500メートルほどの火山だ。その山頂からは粘性の低い溶岩が流れ出しており、そこに近づくだけでも熱さを感じるほどの場所だった。その山の中腹にカザハたちの目的のダンジョンの入り口があった。
その入り口は大勢のプレイヤーたちでごった返していた。商人のプレイヤーが露店を出してポーション等を、そして料理人のプレイヤーが料理を販売していた。掛け声が飛び交い、ダンジョンへ探索する前のプレイヤーを呼び込んでいる。入り口の付近はまるでお祭りの会場のような、火山とは違う熱気に包まれていた。
「あっついわね~。」
カザハが流れる汗を拭きながら人ごみをひょいひょいと抜けていく。その後ろをユカナたち3人が人混みに揉まれながら進んでいた。しばらくして何とかダンジョンへと入ると4人以外は誰もいないダンジョン特有のフィールドへと切り替わる。
ユカナたち3人が疲れた顔でふう~、と大きな息を吐く。もともとこのパーティは背の高い者がいない。1番高いガクでも160センチそこそこなのだ。逆に1番低いカザハは149センチしかない。人混みの中を進むのには向いていなかった。
「だらしないわよ。ダンジョンに入る前からそれでどうするのよ。」
ぐてっ、としている3人と対照的に涼しい顔をしてカザハが3人を見る。
「人混み嫌い。」
「ガクとエニシはまだ背が高いからいいじゃん。ぼくなんてもみくちゃにされるんだから。」
「というか、なんでカザハさんはそんなにすいすいと進めるんですか?」
「師匠に修行させられたのよ。」
カザハの脳裏にモノミルの街の神殿前の通りで、人混みに押しつぶされそうになりながら通り抜けるという訓練が思い出される。最初は目的地に早く着くことだけを考えて進んでいたのでどうしても人にぶつかってしまったりしていたが、だんだんと周りの人の視線や体の動きを見ながら進むことでスムーズに通り抜けられるようになったのだ。
あの時の修行に比べれば今回の人混みを抜けることなどカザハにとっては簡単なことだった。
3人の呆れたような視線を受け流し、カザハが周囲を確認する。
ダンジョンの入り口は今までと同じように少し広めの空間になっている。まっすぐ進めば奥へと続く通路が存在しているが、その脇の部屋の隅の方にはマグマの池が所々にあり、そこから熱気が放たれていた。
「立ち回りに気をつけないとダメージを食らうわね。」
「はい。溶岩は地形ダメージで1秒ごとにHPの3%程度減るらしいです。僕たちは装備に火耐性がついているので多少ましだと思いますが、試したくはないですね。」
「同意。」
エニシとガクが嫌そうな顔でカザハと同じ方向を見る。援護が主であまり動き回らないガクはともかくカザハとエニシは近接戦闘をするためそのリスクが高いのだ。
マグマが近くにあるこんな場所に耐熱対策もせずにいることが出来るだけでもかなりの補正があることはわかっているが、それでもかなり熱い。その元である溶岩に突っ込んだらどんな風になるかは想像に難くなかった。
「とりあえず進もうよ。ここに居ても体力を消耗するだけだし。」
「そうね。」
パタパタとローブの首元を緩めて風を入れながらユカナが進む。入り込んでくるのは熱い風なのだが、汗で張り付いたローブは気持ちが悪いのでそうした方がまだましだった。3人がそんなユカナの後に続く。
通路をしばらく進んだ先にあったのは1キロメートル四方のだだっ広い空間だ。その床一面がマグマの海になっており、かろうじて5メートルほどの通路だけが通れるように続いている。
部屋に入った4人を先ほどまでと比べ物にならない熱気が襲う。
「帰る。」
「諦めが早すぎるよ。」
「う~ん。でもぼくもわからなくはないかな。好んでいきたい場所じゃないね。」
「釣りとバーベキューが良い。」
「ああ~、確かに美味しかったわね。」
「カザハさんまで・・・」
味方がいないことに気づいたガクががっくりと肩を落とす。そのガクに向かっていきなりカザハが駆けだす。急に近づいてきたカザハへガクが何事か、と動揺するが、そのガクの横をすり抜け、ガクに向けて飛んできていた火の玉を抜刀し斬り裂く。火の玉はその場で一瞬のうちに燃え上がり、その炎の熱波がガクにも届いた。慌ててユカナたちがその火の玉の飛んできた方向を見る。そこにはマグマの海の中から体の半分くらいを出したタツノオトシゴのようなモンスターがこちらを狙っていた。
<火吹きウミウマ>
Lv19
HP 450/450 MP 148/150
(説明)
マグマの海に生息するタツノオトシゴ型のモンスター。その丸い口から火の玉を飛ばし攻撃してくる。
カザハがそのまま火吹きウミウマへと攻撃をかけようとしたが、それに気づいたのかマグマの海へとトプン、と潜ってしまう。そして少し離れた位置から再び体を出すとカザハたちを狙って火の玉を飛ばし始めた。それはカザハの小太刀の間合いの外だった。
踏み込もうとした足をカザハが止め、飛んでくる火の玉をすべて斬り捨てる。
「掲示板の情報通りとはいえ、面倒な敵ね。」
「ありがとうございます、カザハさん。」
かばわれたガクのお礼にカザハが小太刀を振って応える。そして小太刀を簡易鑑定してみてその耐久が結構な勢いで減っているのを確認し、ため息を吐く。
「やっぱり師匠の言う通りか。」
カザハは以前シンテツに魔法を斬るという概念を教わっていた。魔法の中に核となる部分がありその場所を斬れば魔法を消すことが出来るというものだ。ただし魔法を斬ると武器の耐久を著しく削るので避けた方が良いがな、とは言われたが。
あの火の玉も魔法のようなものだし出来るかなと試してみたのだ。その結果は出来たけれど避けた方がましだし、やっぱり割に合わない、というのがカザハの正直な感想だった。
カザハが小太刀を納め、アイテムボックスからユカナに作ってもらった黒銀の棒手裏剣を取り出す。そして右手をスッ、と上にあげるとそのまま振りおろし、投擲された棒手裏剣は火吹きウミウマの頭部にスコン、と命中した。火吹きウミウマがそのままマグマの海へと沈んでいく。
「よし!」
「「おぉ~。」」
ユカナとエニシにぱちぱちと拍手され、カザハがちょっと恥ずかしそうに顔を赤くする。
始めのころは先端に当たらなかったりしたのだが、練習やユカナに作り方を変えてもらったりして今では5メートルほどの距離ならば確実に当てられるようになっていた。
そんな中でガクだけが沈んでいく火吹きウミウマを見ながら少し切なそうな顔をしていた。それにエニシが気づく。
「何?」
「うん。カザハさんが投げた棒手裏剣って黒鉄と銀の合金らしいんだけど、使い捨てがもったいないなって思って。ドロップもマグマに落ちるからもらえないし。確かにすごいんだけどね。」
カザハたちと出会うまで、敵を倒すか、倒されるかで万年金欠状態だったガクからしてみれば黒銀なんていうのは手の届かない素材だった。それを使い捨てると言うのがガクにとってみればお金を捨てているように見えてしまったのだ。
そんなガクの肩をわかるわかる、とエニシがポンポンと叩く。
「今度教えてもらう予定。」
「やめてよ、姉さん!そうでなくても僕たち金欠なんだから!!」
分かり合えていなかったガクとエニシをよそに、カザハは棒手裏剣で火吹きウミウマを撃退しつつ先を進んでいくのだった。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>(スキル判明)
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
副職業:素材ハンター
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフの友』、『ゴーレムスレイヤー』、『孤高のハンター』、『ハムハム』
従魔:サスケ
Lv30
HP 865/865 MP 175/175
STR 452 VIT 310
INT 148 MID 166
DEX 332 AGI 470
LUK 46
(スキル)
【剣術 Lv46】、【斬鉄】、【剣聖術 Lv21】、【投擲 Lv18】、【HP上昇 Lv10】、【STR上昇 Lv10】、【VIT上昇 Lv10】、【AGI上昇 Lv10】、【気配察知 Lv30】、【採掘 Lv41】、【解体 Lv25】、【釣り Lv6】、【***】
(装備)
武器 黒銀の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>(レベルアップ)
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
副職業:鍛冶師
称号:『神級鍛冶師の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフ王の教え子』
Lv27
HP 519/519 MP 278/278
STR 182 VIT 148
INT 315 MID 206
DEX 488 AGI 326
LUK 102
(スキル)
【付与術 Lv28】、【採掘 Lv12】、【鍛冶 Lv38】、【杖術 Lv21】、【皮細工 Lv20】、【釣り Lv4】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の杖
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(ユカナ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ユカナ用)
服 森林狼のローブ(ユカナ用)
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ユカナ用)
足 軍隊赤蟻の靴(ユカナ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物3>(レベルアップ)
名前:エニシ
種族:エルフ族
職業:武闘家
称号:『挑戦者』
Lv18
HP 460/460 MP 269/269
STR 161 VIT 121
INT 243 MID 223
DEX 158 AGI 210
LUK 27
(スキル)
【格闘術 Lv21】、【釣り Lv3】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄のグローブ(エニシ用)
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(エニシ用)
服 一角ウサギのローブ
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(エニシ用)
足 軍隊赤蟻の靴(エニシ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物4>(レベルアップ)
名前:ガク
種族:エルフ族
職業:僧侶
副職業:料理人
称号:『博愛者』
Lv22
HP 425/425 MP 346/346
STR 121 VIT 110
INT 305 MID 287
DEX 171 AGI 177
LUK 32
(スキル)
【料理 Lv14】、【本 Lv17】、【回復魔法 Lv20】、【MP上昇 Lv5】、【MP回復上昇 Lv12】、【気配察知 Lv17】、【釣り Lv3】、【***】
(装備)
武器 初心者の本
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ガク用)
服 一角ウサギのローブ
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ガク用)
足 軍隊赤蟻の靴(ガク用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
カザハに棒手裏剣を教わるエニシ。しかし何回やってもうまく刺さらないことに業を煮やしたエニシが驚愕の方法を取りはじめる。
次回:直接刺した方が早い
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




