エピソード60
「うひゃ。」
ユカナが迫りくる攻撃に思わず頭を下げる。頭の上をビュン、と風を切りながら何かが通り過ぎていく音を聞いて、避けられた、とちょっと安堵する。
「はーい、そんな風に避けるとダメだよ。」
その直後頭上から振り下ろされた木刀にしたたかに肩を打ちつけられユカナは潰れたカエルのように地面へと縫い付けられた。
我慢できないほど痛くは無いのだが、このまま寝転んで時間が過ぎないかな~、という誘惑にユカナが囚われそうになった時、非情な声がその頭上からかかる。
「あと3秒で立たなかったらそのまま攻撃するからね。はい3、2・・・」
「カザハの鬼!!」
ユカナが素早く立ち上がり、杖を構える。眼前には木刀を持ち、悠然とたたずむカザハの姿があった。
「いや、鬼って言われても。嘘寝するユカナが悪いんでしょ。」
「ぼくやガクは後衛だからこんな脳筋な訓練いらないって!!」
「ほほぅ、言ったわね。」
あっ、しまった、とユカナは自分の失言に後悔して逃げようとしたが、PvP特有のフィールドによって逃げることは出来ない。結局それから1時間近くカザハによる厳しい訓練を強制的に受けさせられることになったのだった。
東の岩山ダンジョンのボス部屋前のセーフティエリア、そこでユカナはボロボロの燃え尽きた姿で体育座りになって座っていた。その姿を見てカザハもちょっとやり過ぎたかもと思ったのだが、ダメージはあまりないんだし気にしても仕方がないか、とユカナの隣に腰を下ろす。
「鬼・・・」
「訓練だから。」
じとー、とした目で見てくるユカナに、さも当然のことのように告げる。ここで悪かったなんて言おうものなら何をされるかわからないことをカザハは十分に知っていた。
「うわっ、姉さん危ないって。」
「避けちゃダメ。」
「いや、避けるよ。当たり前でしょ。」
2人の目の前ではエニシとガクがPvPの高速モードで訓練をしている。エニシの攻撃をガクが避けているのだ。レベル差があるのでまだまだAGIの差でガクの方が速いのだがそれでもエニシの攻撃が何度も当たっていた。
そんな2人の攻防を何気なく見ながらユカナは少しずつ立ち直っていった。
「う~、やっぱり見るとやるとじゃ大違いだ。」
「そりゃそうでしょ。というか自分から訓練したいって言いだして凹まないでよ。」
「カザハが鬼だから・・・」
「ほほぅ、まだまだ訓練したいみたいね。」
不穏な空気を醸し出し始めたカザハに、ぶんぶんと首を横に振ってユカナが土下座でもしそうなほど謝る。カザハもすぐにそんな気配は霧散させ、肩をすくめた。
2人でエニシとガクの攻防を見る。最初はガクが回避する方が多かったのだが、だんだんとエニシがガクに攻撃を当てる回数の方が増えていっている。
「ちょ、そこは狙っちゃダメでしょ!」
「?」
「痛い、痛いって。姉さん、ちょっと手を抜いてよ。」
「ダメ。訓練は本気でやる。」
エニシがガクをぼこぼこに殴っている。そこに一切の手加減は見られない。ガクは回復魔法を時折かけているが、その詠唱中にさらに殴られたりと頭の上のカウントはどんどん増えていっていた。
そんなエニシの姿をユカナが指差す。
「あれはどう思う?」
「訓練を真剣にやるのは良いことよ。この世界なら怪我でもすぐ治るんだし、手加減する意味がないわ。」
「いや、そっちもそうだけど、エニシの才能的な話。」
その言葉にカザハがあぁ、と声を漏らし、戦っているエニシの姿をじっと見る。
最初のぎこちない動きは既に無く、カザハから見ても滑らかに攻撃を繋げていた。惜しむべくはフェイントや色々な技などが無く、専門ではないカザハの教えとエニシの自己流の動きであるため攻撃のパターンがそこまで多くないことだろうか。戦い慣れたカザハのような者が相手をした場合エニシの攻撃を避けることはそこまで難しくない。しかし・・・
「才能はあるわね。ちょっと悔しくなるくらい。ちゃんとした師匠につけば化けるんじゃないかしら。」
「やっぱりそうなんだ。」
その言葉にユカナは納得した。カザハとエニシの訓練を1日以上見てきて、私にも出来るんじゃないかと思ってしまったが、実際にやってみてそういう次元の話ではないと実感したのだ。
もちろん訓練したことで、ユカナ自身も少しは回避するタイミングを掴んだりして成長したとは思っている。しかしそれは微々たるものだ。エニシのように急激に成長しているわけではない。そのことをうらやむ気持ちが無いかと言えば嘘になるが、まぁ適材適所って言うからな~、と戦いではなく鍛冶と言う特技を持っているユカナは合理的に考えていた。
とうとう逃げ始めたガクをエニシが拳を振り上げながら追いかける。そんな2人の様子を腕を組みながらカザハはじっと見ていた。
「ユカナ、まきびしって作れたっけ?」
「とがった小石みたいな形で良いなら出来るよ。」
「じゃあ今度お願いするわ。」
「りょーかい。」
ふたりの目の前で結局壁に阻まれて追いつかれたガクがぼこぼこに殴られていた。
1時間経過後、ガクはボロボロになった雑巾のように床に倒れていた。その様子をエニシが残念そうに上から見つめる。
「ガク、弱い。」
「僕は僧侶なんだから近接系は弱くて当たり前だよ。」
ヨロヨロと立ち上がりながらガクが恨めしげな目をエニシに向ける。しかしエニシはそんなガクの視線を完全に受け流していた。
「後衛も回避は必要。」
「まあ、そうだけど。あぁ、姉さんがカザハさんの影響を受けている気がする。」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、なんでもありません!」
ガクの言葉をしっかりと聞いていたカザハに対して、ブンブンと首を横に振ってガクが否定する。そんなガクの様子を見てカザハが肩をすくめる。ユカナがガクの肩をぽんぽんと叩いて慰めていた。
カザハが注目を集めるため一度手を打ち鳴らす。3人の視線が集まった。
「じゃあ、そろそろボスに挑みましょうか。」
「うん。」
「陣形はどうしますか?」
「エニシの最終試験も兼ねているから盾は私が相手するわ。エニシは砲の攻撃を避けつつ倒すって感じかな。ガクとユカナのサポートは全てエニシでいいわ。」
「りょーかい。じゃ、行こっか~。」
「がんばる。」
エニシがぎゅっ、と握り拳を作るのを見ながら、カザハが扉へと手をかける。扉が開いていき、中へと全員が入るとシルバーパペット2体が現れた。レアボスじゃなくて良かったというのがカザハの正直な感想だった。
カザハが盾のシルバーパペットに向かって一直線に駆け、その脇を弧を描いてエニシが砲のシルバーパペットに向かって走っていく。エニシの体がガクとユカナの魔法によってキラキラと光る。
盾はエニシへと向かおうとしたが、カザハ相手にそんなことが出来るはずもなく身動きが取れなくなっていた。
「さて、どんな感じかな?」
既にサスケと2人で何度も攻略したため、動きなど完全に把握している盾のシルバーパペットを適当に相手しながら、カザハはエニシの様子をうかがっていた。
エニシは飛んでくる鉄球を避けながら接近を続けていた。レベル的にはまだシルバーパペットの方が上だ。しかしその攻撃が当たることはなかった。確かに鉄球は速い。しかし・・・
「カザハの方が速い。」
カザハとのPvPを繰り返したエニシにとってはその速度は大したものではなかった。鉄球も直進してくるため軌道を読むのも難しくない。エニシの対応を見て微妙に剣筋を変えてくるようなカザハに比べるべくもなかった。
「フッ。」
息吹を吐きつつ拳を振るう。ガン、と金属同士が打ち合うようないい音が鳴った。
「硬い。」
エニシが今まで戦ってきたようなアイアンパペットやカッパーパペットよりよほど硬かった。しかし全くダメージがないわけではない。なら同じことを続ければいいだけだ、とエニシは判断する。
ガン、ガン、ガン、ガン。
エニシの拳がシルバーパペットを襲っていく。シルバーパペットも鉄球を放ち、腕を振り回し抵抗するが、その攻撃がエニシに当たることはない。
そしてその時は訪れる。エニシの拳がシルバーパペットの腹へと突き刺さり、シルバーパペットはそのまま崩れ落ちた。それはエニシがカザハの助けを借りずボスの1体を倒した瞬間だった。
「合格よ、エニシ。」
カザハのその言葉にエニシはとても嬉しそうに笑った。
◇----登場人物ステータス----◇
カザハは変更なしのため割愛。
<登場人物1>(レベルアップ)
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
副職業:鍛冶師
称号:『神級鍛冶師の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフ王の教え子』
Lv26
HP 505/505 MP 112/271
STR 176 VIT 144
INT 306 MID 200
DEX 473 AGI 316
LUK 99
(スキル)
【付与術 Lv27】、【採掘 Lv12】、【鍛冶 Lv38】、【杖術 Lv20】、【皮細工 Lv20】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の杖
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(ユカナ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ユカナ用)
服 森林狼のローブ(ユカナ用)
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ユカナ用)
足 軍隊赤蟻の靴(ユカナ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>(レベルアップ)
名前:エニシ
種族:エルフ族
職業:武闘家
称号:『挑戦者』
Lv16
HP 423/423 MP 249/249
STR 147 VIT 111
INT 223 MID 205
DEX 146 AGI 191
LUK 25
(スキル)
【格闘術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄のグローブ(エニシ用)
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(エニシ用)
服 一角ウサギのローブ
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(エニシ用)
足 軍隊赤蟻の靴(エニシ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物3>(レベルアップ)
名前:ガク
種族:エルフ族
職業:僧侶
副職業:料理人
称号:『博愛者』
Lv21
HP 413/413 MP 212/330
STR 117 VIT 107
INT 291 MID 275
DEX 165 AGI 171
LUK 31
(スキル)
【料理 Lv12】、【本 Lv16】、【回復魔法 Lv19】、【MP上昇 Lv4】、【MP回復上昇 Lv11】、【気配察知 Lv16】、【***】
(装備)
武器 初心者の本
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ガク用)
服 一角ウサギのローブ
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ガク用)
足 軍隊赤蟻の靴(ガク用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
カザハ式ブートキャンプにより理想の体型を手に入れたエニシ。バキバキに6つに割れた腹筋を見せるかのようにヘソ出しスタイルで今日も行く。
次回:腹筋は縦に割るのが大変
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




