エピソード5
採掘を終え、シンテツが地上に戻って掘った成果を選別している。その後ろからカザハが覗き込むようにしてその様子を見ていた。シンテツの表情は優れない。
「鉄鉱石ばかりか。たまに黒鉄も出るようだがはっきり言ってはずれだな。」
「ええっ!!今、生産職の中で鉄鉱石の需要が高まっているのよ。それに黒鉄なんてレアドロップでインゴットにするだけでも大変なのに。売ればちょっとした財産になるはずよ。」
シンテツのその物言いにカザハが驚いた顔をする。カザハの言うとおり、今、生産職のプレイヤーたちの中で一番需要があるのは鉄鉱石だ。
銅の加工をマスターすると次は鉄の加工に入るためなのだが、皆が一斉に同じ作業を行うのでどうしても同じ素材が不足する。その結果、現在モノミルの街では鉄鉱石が高値で取引されるようになっていた。下手をすれば作成した武器や防具が原価割れしてしまうほどに。
「なんだ、欲しいならやるぞ。どうせ捨てようかと思っていたしな。」
とは言ってもシンテツにとっては屑以外の何物でもなく、アイテムボックスを圧迫するだけのただのお荷物だった。その提案にカザハは一瞬嬉しそうな顔をした後、悩ましそうにしたり、また嬉しそうにしたりところころと表情を変えている。
「うーん、うーん。なんか何もしていない私がもらっちゃっていいのか迷うわ。ってうわっ、ちょ、ちょっと~。」
ポイポイっと鉄鉱石が投げられ、慌ててカザハがそれをキャッチしていく。
「いいからもらっておけ。俺にとってはゴミだがお前にとっては金稼ぎになるんだろ。」
採掘で取れた素材をすべてカザハに投げると、シンテツは手をぱんぱんと払って汚れを落とし立ち上がった。シンテツに感謝しつつも、カザハが身構える。膝を曲げいつでも逃げられる体勢だ。
「ありがとう。でももう肩車はなしよ。」
「大丈夫だ。今度はうまくやる。」
「いや、そういう問題じゃないから。」
「気にするな。」
じりじりと近寄ってくるシンテツにカザハはタイミングを計り全力で逃げた。しかし数歩と進まぬうちに捕まり、空中へと持ち上げられる。足をバタバタさせて抵抗するが全く意味がなかった。先ほどと同じように肩車の体勢にされ、両足を押さえられる。
「よし、行くぞ!!」
「だからやめてってー!!」
洞窟にカザハの悲鳴が響き渡る。その悲鳴はレアモンスターの叫び声じゃないかと言う噂となり、プレイヤーの中で静かに広まっていった。
シンテツはカザハを肩車したまま走っていた。とは言っても最初のような非常識な速度ではない。50メートル5秒くらいの普通の人であれば全力疾走でも無理な速度ではあるのだが。その肩に乗せられているカザハも流石に慣れたのか周囲を見回す余裕があった。
カザハがこんなに余裕があるのには理由がある。まあ最初に非常識な速度を体験してしまったということもあるのだが、シンテツは走っているのに体の上下動がほとんどないのだ。そのため体を揺さぶられることなくスーッとすべるように進めている。当のカザハはそのことに気づいていないが。
「そういえば、カザハはなんでダンジョンに来たんだ?」
「えっと、レベル上げ?」
「なんで疑問形なんだ?」
「だってダンジョンがあるって聞いて見に来たっていうところが本当のところだしね。まあついでに腕試しがてらレベルアップしようかとは思っていたから。」
「仲間はいないのか?」
シンテツが何気なく聞いたその言葉により、その場を沈黙が支配する。重苦しい空気にさすがのシンテツもまずいっという顔をした。
「なんか・・・すまん。」
「憐れまないでよ!違うの、友達が抽選に外れたのよ。しばらくしたら来るはずなの!!」
「ああ、そうだな。きっと出来るぞ。頑張れ。」
「私の話をきけー!!」
カザハがボカボカと結構な勢いでシンテツの頭を殴っているのだが、それに構わずシンテツは走り続けた。しばらくして殴り疲れたのかカザハが大人しくなる。
「はぁ、もういいわよ。そういえばシンテツさんこそなんでダンジョンに来たのよ。」
「俺は鍛冶師だから新しい素材を探しに来たんだがな。このダンジョンははずれのようだ。」
「えっ、剣士とか武闘家じゃないの?」
カザハがショックを受ける。それもそのはず、このダンジョンに入ってからモンスターはすべてシンテツが武器なども使わずに蹴り飛ばして殺していた。肩に乗っているだけのカザハのレベルもなぜか上がっていたが、まさか生産職がこれほど強いとは想定外であった。
カザハから見てシンテツの動きは、とても生産職とは思えないほど洗練されていたのだ。自分よりもはるかに実力が上とわかるほどに。
「そうだ。そういえばカザハに礼を渡してなかったな。これをやろう。」
シンテツが立ち止まりカザハを肩から下ろすとアイテムボックスから一振りの剣を取り出す。装飾のないシンプルなつくりのショートソードだがその銀色の刃部分は普通の鉄とは違い、七色に光を反射していた。
「うわっ、すごい綺麗。持ってみていい?」
うなずいたシンテツから剣を受け取ると、カザハが嬉しそうにその剣で一通りの型を行っていく。しかし今一つしっくりといかないようで首をひねっている。
「なんだろう、この違和感。って何この武器!!」
「なんだ、なんか問題でもあったか?」」
その剣はシンテツ専用として打ったものではなく、オーダーメイドで作ったものだが客の家が突然没落したため売れずに死蔵してあったものだった。素材はミスリル合金。鉄などよりよほど攻撃力も耐久力も高く、魔法についても威力が下がらない逸品だ。シンテツも納得のいく仕事ができたと判断したくらいの物だった。
「なんかも何も、なんですかこの武器。STR+1200って見たことがないわよ。しかもランク3じゃない!私が装備出来るのはランク8までよ!」
「装備出来ねえのか。しかもランク8だと。・・・仕方ねぇな、さっき渡した鉄鉱石と黒鉄を貸せ。」
「えっ、はい。」
シンテツの要求に戸惑いながらも、カザハはアイテムボックスから先ほどもらった鉄鉱石と黒鉄をいくつか取り出す。シンテツはそれを受け取ると自分のアイテムボックスから四角い箱のようなものを取り出した。いきなり現れたそれにカザハがぎょっとしながらも興味深そうに視線をさまよわせる。
「なんですか、これ?」
「携帯用鍛冶セットだ。見たことねぇか?」
カザハが首を振る。そうかと呟きながらシンテツは鉄鉱石と黒鉄をその箱へと放り込んでいく。シンテツの魔力が注がれ、四角い箱が赤く輝きだした。
「何してるの?」
「まずはインゴットづくりだな。合金にするから比率と魔力を注ぐ量で出来が変わる。まあ鍛冶をしないお前に言っても仕方がないがな。」
しばらくして3つの黒鉄合金のインゴットが出来上がり、箱の前に出てくる。さらにもう1回比率を変えて同じことを繰り返す。
「そういえばお前はどんな武器を使うんだ?」
「えっととりあえずはこれが今使っている剣だよ。」
カザハが腰の鉄の短剣を抜きシンテツに渡す。それを見たシンテツの顔があきれたように、かわいそうな者を見るかのように変わる。
「クズ剣だな。誰だこんなもん打ったのは。」
「ええっ、武器屋で結構な値段だったんだけど。」
「鉄の錬成が甘い。刃筋が曲がってやがる。というかこの部分に負担がかかるように出来てやがるからしっかり手入れしないとそのうち刃こぼれするぞ。」
「ええー!!」
カザハの剣をぼろくそに貶しながらそれでもしっかりと剣を観察している。剣を使うということはそこにカザハ自身の癖が出るからだ。
一方カザハはがっくりと肩を落としている。この剣を買うのに1万エルかかったのだ。ちなみに一角ウサギの皮が100エルなのでウサギ100匹分である。銅の剣で散々苦労して一角ウサギを狩って手に入れた剣がその評価では、そうなるのも仕方がなかった。
「お前の癖から見ると今の剣よりも小太刀のほうが良さそうだがどうする?ああ、小太刀っていうのは・・・」
「出来るの!?」
小太刀の説明をしようとしたシンテツの言葉をさえぎって満面の笑みをしたカザハがずずいっとシンテツに詰め寄る。若干それに引きながらシンテツはうなずいた。
「じゃあ、小太刀で!!」
「ああ、わかった。ちょっと待ってろ。」
ふんふーんと鼻歌を歌いだしたカザハを見て苦笑いしながら、黒鉄合金のインゴットをてこ棒とも呼ばれる先にインゴットを乗せられるような形になっている棒へと乗せて炉へと重ねて入れる。シンテツが再び魔力を込めると炉は炎に包まれ、周辺の温度を尋常じゃないほどに上げる。
熱された黒鉄合金のインゴットを叩き、切れ目を入れては折り返していく。それを15回ほど繰り返すとまた別のインゴットで同様の作業を行った。そしてその二つの板状とU字状にしたインゴットを重ね合わせ、それを炉に入れ結合させていく。
シンテツが真剣な表情で小太刀を打っていくのをカザハはただあっけにとられて見ていた。先ほどまでの自分を馬鹿にしてからかっていた男ではなく、そこにいたのは真剣な表情で炉の温度を感じ、ひたすらに鎚を振るう鍛冶職人だった。
声をかけることもできず、ただシンテツが金属を成形したり何かの液体につけたりする様子を見守るだけしか出来なかった。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>
名前:シンテツ
種族:unknown
職業:鍛冶師?
称号:unknown
Lv***
HP *****/***** MP ****/****
STR ***** VIT *****
INT **** MID ****
DEX ***** AGI *****
LUK ***
(スキル)
【採掘 Lv***】、【鍛冶 Lv***】、etc.
(装備)
武器 unknown
頭 なし
腕 なし
上半身 unknown
服 unknown
下半身 unknown
足 革の靴
アクセサリ unknown
アクセサリ unknown
<登場人物2>(レベルアップ)
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:なし
Lv13
HP 425/425 MP 90/90
STR 200 VIT 173
INT 82 MID 90
DEX 146 AGI 207
LUK 26
(スキル)
【剣術 Lv12】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 鉄の剣
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 一角ウサギの胸当て
服 街娘の服
下半身 一角ウサギのすね当て
足 皮の運動靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
道端で小太刀を作り始めたシンテツに2つの人影が迫る。果たして彼らの正体とは?
次回:何してるんですか!逮捕しますよ!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容と異なる場合があります。
評価いただきました。
ありがとうございます。なかなか新しいジャンルだと本当にいいのかと不安になったりするのでありがたかったです。
読んでいただいている方もありがとうございます。
3/4 誤り修正しました
3/28 全般の文章を加除しました。
4/12 登場人物ステータスを追加。




