エピソード57
両側から2人に抱きしめられたエニシの表情が驚きに変わる。そしてとても安心したような穏やかな表情へと変わっていった。
「いいのよ。ゲームなんだから、自分の好きなように行けば。」
「そうだよ。ガクは固すぎ!!ほらっ、特別にぼくとカザハのしっぽをモフモフするといいよ。元気出るよ。」
「ありがと、2人とも。」
「いや、何言ってるのよ、ユカナ!というかエニシもやめなさい。やめてって~!」
「もふもふ。」
カザハとユカナのしっぽを膝の上にのせて顔をうずめるようにしながら、手でモフモフとしているエニシを引きはがすわけにもいかず、カザハがじっと耐えていた。そしてその様子をユカナがニヤニヤした顔で眺めている。どうもしっぽなどの感覚は人によってだいぶ違うらしくユカナにとってはちょっとくすぐったい程度なのだ。
あっという間に暗い空気を吹き飛ばしてしまったその空間にガクはぽつんと残されていた。
「あの、いいんですか?」
ガクが3人の様子にちょっとあっけにとられながら聞く。ガクにとっては非常に大切なことだったからだ。姉のわがままに振り回され続けているガクにとって、その苦労を自らしてくれるような他人は今までいなかったためだ。
しかしそんなガクの心配をよそに3人はにっこりと笑っていた。
「別に攻略組ってわけじゃないし、楽しんだもの勝ちなのだよ。」
「そうね。友達を助けるのは苦労なんかじゃないわよ。」
「友達・・・うん友達!」
エニシは少し考えるような仕草をしたが、その言葉をかみしめるように言うと最高の笑顔でガクの方を見た。それは今までガクが見てきた中で一番きれいな姉の顔だった。泣きはらして目がはれているがそんなことは些細なことだった。
そんな3人の様子に、ガクは心がふわっ、と軽くなるのを感じた。
「ありがとうございました。これからも姉をよろしくおねがいします。」
カザハとエニシに感謝を伝えたくて、精一杯頭を下げた。そんなガクの様子を3人はおかしそうに見ていた。
「と、言うわけで午後からは予定変更ね。まずはエニシのレベル上げをしないといけないし。」
「そうだね~。幸いエニシが装備できるグローブは作ってあるからすぐに戦いに行けるよ。」
「ありがと、2人とも。」
「何から何まですみません。」
ユカナがアイテムボックスから修理した装備とともにグローブを取り出す。軍隊赤蟻の装備はエニシのレベルが下がったことで装備できなくなっているので、一角ウサギの装備へと逆戻りしている。
そしてユカナがエニシのために作ったグローブを渡す。
「かわいい。」
それは一角ウサギの毛皮を使って作られたモフモフのグローブだった。
<一角ウサギのグローブ(エニシ用)>
STR +50 AGI +5
耐久 120/120
品質 上級
装備ランク 10
作成者 ユカナ
エニシのために作られた一角ウサギのグローブ(両手)。銅板と組み合わせることで拳を痛めるのを防ぎ、敵にダメージを与えられるようにオーダーメイドで作られた一品。
エニシが全身の装備をすると、すべて一角ウサギの装備であるため、まるで白兎のコスプレをしているかのようなかわいらしさがあった。特にグローブがそのコスプレ感を増大させている。
エニシが嬉しそうにくるっとその場で回り、ファイティングポーズをとる。
「似合う?」
「似合うわね。」
「そうだね~。強そうっていうよりはかわいいよね。」
「似合ってるよ、姉さん。」
3人に褒められて、えへへ~とちょっと笑みを浮かべながらエニシが自分の姿を確認していく。しばらく自分で自分を見ながらくるくると回っていたが、満足したのか椅子へと座りなおした。
エニシがふわもこな手のままコップを両手で持って紅茶を飲む。
「じゃあ午後は外でエニシのレベル上げをして、レベルが10くらいになったらダンジョンでレベル上げって感じかな。」
「あっ、私ちょっと試してみたいことがあるのよ。とりあえず東のダンジョンに向かいつつレベル上げしてもらってもいい?」
「僕たちは別に手伝ってもらう立場ですし。」
「うん、問題ない。」
「じゃ、行きますか。」
食器を片付け、4人は部屋を出た。
街の外へ出て一角ウサギと一角ウサギのコスプレのようなエニシが戦う様子を3人が見ている。戦っているというのか戯れているというのか表現に迷う感じだ。
今まで魔術師として後衛で戦っていたエニシがそんなに簡単に、近接のしかもリーチの短い武闘家として戦えるはずがないのだ。
「むぅ。」
エニシの拳を一角ウサギがピョン、と避ける。エニシも一角ウサギの攻撃を避けることは出来ているので運動神経が悪いというわけでなく、ただ単純に慣れていないのだろうとカザハは判断した。
このまま放っておいてもいたずらに時間だけが経ってしまうと判断したカザハがあっさりと一角ウサギを切り捨てる。
「武闘家難しい。」
「そうね。とりあえず一角ウサギみたいな小さいモンスターは後回しにして先にダンジョンに行きましょう。」
「さすがにレベル1で行くのは無謀じゃないですか?」
「まあまあ、カザハにもきっと考えがあるんだって。」
ユカナの言葉にカザハがうなずく。まだ出来るかどうかカザハ自身確信が持てないため内容は話していないが、今までの経験上どうにかできるだろうと考えていた。
そしてカザハを先頭に4人で東の岩山ダンジョンへと向かい歩き始めた。
「カザハ先生の武闘家育成コーナー!」
「わー。」
ダンジョンへと入って早速、いつも通りのユカナとそれに対してぽふぽふと音のならない拍手を送るエニシをカザハとガクが白けた目で見る。ただなんとなくこんなことになるんじゃないかと2人とも予想していたため立ち直りは早かった。
「それではカザハ先生よろしくお願いします。」
「何なのそのカザハ先生って。」
「いや、先生を呼ぶのに先生以外の呼び方など・・・」
カザハのチョップがふざけようとしたユカナの脳天を直撃し、ユカナが頭を抱えながら床を転がる。その様子をお~、と言いながらエニシが熱心に見ていた。
「チョップ強い。」
「これは違うから気にしないで。とりあえずモンスターを探しましょ。サスケ、お願いね。」
サスケが肩からピョン、と降りてカザハたちを先導し始める。
「あの、ユカナさんはいいんですか?」
ガクが床に転がるユカナの方を心配そうに見つめる。しかしカザハにはわかっていた。先ほどのチョップはそこまで力を入れていないのだ。つまりユカナはこっちが構ってくれるのを待っているだけ。その証拠に時々ユカナの方からチラッ、チラッ、と視線を感じていた。
「大丈夫。おなかが減ったら追いかけてくるわよ。」
「ひどいよ、カザハ。エニシじゃないんだからお腹がすかなくてもぼくは起きるよ。」
がばっ、と起き上がり抗議するユカナの腕を白いモフモフが掴む。振り返ったユカナが見たのは、いつもの眠そうな目にちょっと真剣な色を含ませているエニシだった。
ユカナが自分の失言に気づき、謝ろうとしたがそれよりもエニシの方が早かった。
「ユカナ、ご飯は大事!」
「姉さん、そっちに怒るんだ。」
ゆるーい空気が漂う中、先行するサスケだけがついてこないの?と言うかのように何度も4人の方を振り返っていた。
◇----登場人物ステータス----◇
カザハ、ユカナは変更なしのため割愛。
<登場人物1>(装備変更)
名前:エニシ
種族:エルフ族
職業:武闘家
称号:なし
Lv1
HP 130/130 MP 100/100
STR 40 VIT 35
INT 75 MID 70
DEX 55 AGI 55
LUK 10
(スキル)
【格闘術 Lv1】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 一角ウサギのグローブ(エニシ用)
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 一角ウサギの胸当て
服 一角ウサギのローブ
下半身 一角ウサギのすね当て
足 一角ウサギの靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>(装備変更)
名前:ガク
種族:エルフ族
職業:僧侶
副職業:料理人
称号:なし
Lv20
HP 399/399 MP 314/314
STR 113 VIT 104
INT 278 MID 263
DEX 159 AGI 165
LUK 30
(スキル)
【料理 Lv12】、【本 Lv15】、【回復魔法 Lv18】、【MP上昇 Lv4】、【MP回復上昇 Lv10】、【気配察知 Lv13】、【***】、【***】
(装備)
武器 初心者の本
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ガク用)
服 一角ウサギのローブ
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ガク用)
足 軍隊赤蟻の靴(ガク用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
机の上に足を乗せた生徒や、机に突っ伏して寝ている生徒、時間が来ても野球を続ける生徒など学級崩壊を起こしているAWOクラスに今新たな先生が現れる。
次回:木刀、カザハ先生!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




