エピソード55
カザハが街へと帰ってきたのは午前6時45分。街は朝日に照らされ、すがすがしい空気をまとっている。
レアドロップが10回攻略しても出なかったことに一時は落ち込んだカザハだったが、走っている最中にまだまだ7日あるんだから多分大丈夫と気を取り直していた。まあさすがに7日連続で夜に抜け出すのは厳しいので早く見つかってほしいというのがカザハの正直な気持ちではあるのだが。。
エニシたちが行動開始するのは大体午前7時からである。それまでには十分間に合いそうだと安堵しながら門をくぐる。門の付近の様子は昨日までとはちょっと変わっていた。
カザハたちとエニシたちが初めて会った建物へと入っていく冒険者が多く、そしてそこからパーティを組んで出てくる冒険者も多いのだ。門番と話している者も多いし状況が変わっていっていることは明らかだった。
「ちょっと新入生歓迎会っぽい流れに変わったかな。それにしてもこのネーミング自体がちょっとアレよね。」
新規と既存のプレイヤーらしいのパーティが街の外へと出ていくのを横目で見てちょっと嬉しそうにしながら、カザハは家路を急ぐのだった。
ガクの作った朝食を食べ終え、すこしゆったりとした時間が訪れる。攻略2日でダンジョンを2つクリアしているため、そこまで急がなくても『招待券』は取れそうだからだ。
いつもなら率先して動こうとするカザハも疲れているため今日はゆったりとした時間を満喫していた。
「じゃ~、3日目の予定~。」
「わ~。」
机にだらーんと体をくっつけたままユカナが話し始める。エニシもパチパチと拍手をしているのだがなんとなく投げやりだ。そんな様子をカザハとエニシは苦笑いして見ていた。カザハの突っ込みがないためゆるっとした空気のまま話し合いが始まる。
「とりあえず、ガクとエニシはサブジョブを神殿で選んでくるといいよ。ちょうどレベル20だし。午前中にぼくが昨日の戦いで消耗した武器とか防具の修理をしておくから置いて行ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
「ありがと。」
2人の感謝にユカナがひらひらと手を振って応える。昨日のアングリーオールドスタンプとの戦闘のせいでガクとエニシの装備品の耐久はかなり減ってしまっていた。すぐに壊れてしまうということは無いが、なるべくなら早く修理してしまった方がいいとユカナは判断したのだ。
カザハがガクが淹れた紅茶を一口飲む。自分の淹れた物よりも明らかに美味しいその味に【料理】スキルのおかげなら取ろうかなとちょっと別方向に思考が行きかけ、それをなんとか戻す。
「じゃあ午前中は自由行動にして、昼にここに集合ってことでいいわね。」
「そうだね。何かあればメールでやり取りするって感じで。」
「ではそういうことで。」
「わかった。」
それぞれがそれぞれの行動を開始し始めた。
「うーん、どうしようかな。」
カザハは一人、街をぶらぶらと歩いていた。カザハは攻撃をほぼ回避していたため、装備の耐久はほとんど減っていないし、武器も何種類かを分けて使用しているためまだまだ大丈夫だった。
肩に乗ったサスケに話しかけるように言葉に出して考えているカザハだが、当然サスケからの返事は無い。人前では普通の猫のように振る舞うように言われているからだ。サスケはじっとカザハを見つめている。その目はカザハ様の望むままに、とでも言っているかのようだった。
ユカナが鍛冶をしているときはカザハでも近くにいることはあまりない。相手をする余裕がユカナには無いし、逆に気を散らせてもいけないとカザハ自身も考えているからだ。
ガクとエニシについていくと言う選択肢もあったのだが、神殿は待ち時間があるかもしれないという話だったので完全に別行動することにしたのだ。
カザハが目的もなく街を散策していく。いや、プレイヤーの店は既にほとんど開店しているため、何か面白いものがないかを見ながら歩いているのだ。ウインドウショッピングとでも言うのが最適かもしれない。
たまにカザハのことを知っているらしいプレイヤーがひそひそと話しているのにカザハは気づいているが、特に実害がなければいいかと気にせずに散歩を続けていた。
2時間ほどゆっくりと散歩を続け大通りのお店を大体見て回ることが出来たカザハは、どうせなら他の通りも散策してみようと脇道にそれることを決めた。細い路地を通り散歩を続けていく。
やはり、イベントの街だから代わり映えがしないな~。そろそろ戻ろうかな、と一時間ほど当てもなく歩いたカザハの目の前が開け、突然公園が現れる。そこは建物に四方を囲まれながらも、色とりどりの花が咲き乱れていた。
「うわぁ~」
カザハから思わず声が漏れる。そこは明らかに異質な場所だった。砂漠の中のオアシスのようにそこには生命が溢れていた。
「おっ、見つかっちまったか?」
その声の方向をバッ、とカザハが振り返る。街中とはいえカザハはシンテツに言われて【気配察知】を切らない様にしているのだ。もちろん軽くではあるのだが、それでもカザハに気がつかせないというのはかなりの実力者が気配を絶っていたことに他ならなかった。
カザハがわからないように体勢をジリジリと整えていく。街中で戦闘が出来ないことは知っているが何かあったときにすぐに動けるようにだ。
その声の人物はその花畑の真ん中で寝転がっていたようだ。むくり、と体を起こすとう~ん、と息を漏らしながら背伸びを始める。
こちらを振り向いたのはカザハより頭2つ分ほど背の高い少女だった。170センチは越えているだろう。寝癖のついたショートカットの黒色の髪の毛にはピンクの花びらが1枚ついていた。
「あっ、ごめんなさい。起こしちゃったみたいね。」
とりあえず危険はなさそうだとカザハが一安心すると共に、人の睡眠を邪魔してしまった罪悪感が沸き上がってきた。
「別に良いぜ。そろそろ起きるつもりだったし。それにこの場所を気に入ってくれたみたいだしな。」
ふぁ~、とあくびしてから、それを見られていることにばつの悪そうな顔をしながら言う。本当に気にしていないようだった。
「すごくきれいな場所ね。まるでここだけ違う場所みたい。」
周りを見回しながらカザハが感嘆の声をあげる。その少女はその素直な言葉にちょっと恥ずかしげにしながらポリポリ、と鼻の頭をかいた。
「お褒めに預り光栄だね。」
「もしかしてあなたが造ったの!?」
カザハが今までで一番の声をあげる。カザハはてっきり最初からあるものだと思っていたのだ。
「悪いかい!!自分でも似合わないって・・・」
カザハの声を悪い意味で解釈した少女の言葉は途中で止められた。カザハが少女の手を握ったからだ。
「すごいわ。才能があるのね。私には絶対無理。こんなきれいな場所を造ってくれてありがとう。昨日からちょっといろいろあって疲れてたのよ。リフレッシュ出来たわ。」
「あ、あぁ。」
本当に嬉しそうに笑うカザハに毒気を抜かれた少女が変なものを見るかのようにカザハを眺める。
「あっ、しまった。そろそろ時間だ。本当にありがとう。私はカザハって言うの。何かあったら連絡してね。」
「ふっ、おかしな子だね、あんたは。俺はミコトだ。また会おう。」
カザハのフレンド申請をミコトが受け、そしてカザハはその花園から足早に立ち去っていった。
◇----登場人物ステータス----◇
変更無しのため割愛。
花園から出てきた謎の妖精ミコト。彼女をの願いは連れ去られてしまった仲間たちを取り返して欲しいということだった。いま、カザハと悪徳奴隷商人の戦いの火蓋が切っておとされた。
次回:奴隷妖精救出
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




