エピソード44
名前変更のお知らせ
ユカリ → エニシ
コンコンとノックがされカザハたちと同年代の男の子と女の子が入ってくる。その顔立ちはどことなく似ており、中性的な顔をした男の子の後ろに隠れるように眠そうな目をしながら女の子が立っていた。身長は160センチほどで体の線が細く、2人とも緑の髪をしており種族はエルフだった。
部屋にあったお菓子を食べていたカザハたちに席を勧められ、エルフの2人が対面の席へと着く。
「こんにちは。僕の名前はガクです。こっちは姉の・・・」
「エニシ。」
「です。」
そう言うと2人はぺこりと頭を下げた。カザハたちも自己紹介を簡単にし、カザハがお茶を用意してガクとエニシの前に置く。2人はカザハにお礼を言いつつそのお茶へと手を伸ばした。
ガクたちがそのお茶を飲んでちょっと落ち着いた様子だったので、ユカナが詳しく話し始める。相性もあるし、相手が望んでいることとカザハたちが出来ることが違う可能性もあるからだ。
交渉はユカナに任せることにしてカザハは聞き役に徹していた。
「ちなみにぼくは付与術師、カザハは剣士だけどガクとエニシは何を教えてほしいの。見たところ2人とも近接じゃなさそうだけど。もしかしてエルフで武闘家とかの縛りプレイ中?」
2人の装備は最初にもらえる初心者用の装備ではなく、モノミルの街で買える一角ウサギの皮装備をローブの上に着けている。武器は装備していないのか見たところ無い。
エルフはINTやMIDなどの魔法系に優れている代わりにSTRやVITなどの物理系が弱い。基本的に後衛に向いているのだ。エルフで武闘家を選ぶのはよっぽどの変わり者しかいないだろう。
ガクたちはフルフルと同じ仕草で首を横に振る。完全にシンクロしていた。
「いえ、僕は僧侶、姉さんは魔術師です。えっと教えてほしいというか・・・」
「パーティを組んでほしい。」
「です。」
ガクの言葉を遮ってエニシが半分閉じているような眠そうな目のまま口を挟む。ガクは慣れているのか驚きもせず、です。とだけ続けた。
カザハたちはその言葉の意味することはわかったのだが、理由がわからず頭に疑問符が浮かんでいた。そんな2人の様子を見てガクが言葉を続ける。
「えっと、ちょっと僕たちも問題がありまして。なかなかパーティを組めないんです。その練習をしたいというか。」
「連携が下手。」
「ちょ、姉さん。もうちょっとうまく言葉を選ぼうよ。」
「事実だし。」
慌てるガクをよそにエニシはずずずっとお茶を飲んでいる。そんな姉を見て諦めたような顔をした後、カザハたちにどうですか、と言うかのように伺うような視線を向けてきた。
「いいんじゃない。」
「いいの?結構いびつなパーティになるよ。ヘイト管理とかカザハの負担が3倍になりそうだけど。」
ガクたちの希望を聞いてカザハはちょっと安心していた。別にパーティを組むくらいなら自分にも出来そうだな、と思って。ユカナは心配しているみたいだが、カザハがやることは結局人が何人増えようが変わらないのだ。
「私、斬るだけだしね。」
「そうだった。カザハ、頭はいいのに脳筋なんだった。」
「さすがにひどくない!?」
事実を告げたカザハの言葉にユカナの本音が思わず漏れる。それに気づいて慌ててフォローしているが更なる深みにはまっていくだけで結局カザハからチョップを受け、机に額をつけることになっていた。
ユカナの「こういうところが脳筋なんだ。」という呟きは聞こえないことにした。
そんな2人のやり取りを、ガクはハハッ、とひきつった笑いをしながら、エニシは相変わらず眠そうな目で見ていた。
「あの、それじゃあ・・・」
「うん。いいよ。まあしばらくお試ししてみてダメそうなら解散でいいんじゃないかな。」
「よろしく~。」
「「よろしく」お願いします。」
ガクとエニシはシンクロしながら頭を下げた。
パーティ申請をしてその建物を出た後、町の中心方向へと向かって歩く。そこはカザハたちが出発した時とは様相が一変していた。道の両側にはプレイヤーの店舗が軒を連ね、威勢のいい呼び声が交差している。共同で宿屋や食堂を経営している者もいるのだろう、冒険者のプレイヤーに声をかけている者までいたのだ。
その様子にちょっとカザハとユカナはあっけにとられる。
「まだ3時間くらいしか経っていないはずなのにかなり変わったわね。」
「ぼくはこっちの方が好きかな。」
通りにある武器防具屋などを物色しつつ歩いていく。先導するのはガクだ。その後ろをピタッとエニシがついて歩いている。
「「こっち」です。」
カザハたちがどこに案内されているかと言うとガクとエニシが借りたという一軒家だ。
ガクたちはパーティのマッチングの申請をした後、街の中心部へ戻り、まず家を借りたらしい。そして街を散策しながらマッチングの連絡が来るのを待っていたらしいのだが・・・
「いつまでも連絡が来ないんで、そろそろ2人で戦いに行こうかと話していたんです。」
「暇だった。」
その言葉にガクが苦笑しながらも同意する。
考えてみれば当たり前なのだが、受付場所が街の外へ出る門のところにあるのだから冒険者のプレイヤーはそのまま外へと出てしまうだろう。マッチングが街の外では出来ないのだから連絡が来ないのは自明の理だったのだ。
さらに悪いことに、カザハたちのように少し探索したら街に戻るつもりの冒険者もいたのだろうが、カザハたちがダンジョンを攻略し、チケットのアナウンスが流れたことで既存のプレイヤーのほとんどがダンジョンへと向かってしまったというのもそれを助長した。
細い路地を通り、大通りから一本入った裏通りの中の1軒、表札にガクとだけ書かれたその家がガクたちが借りた家だった。2階建ての木造の家で周りの家とまったく同じ造りをしているためその表札がなければ迷ってしまいそうだ。
「「どうぞ。」」
2人に促され、カザハとユカナは家へと入っていく。廊下を進むとダイニングキッチンがあり、そこには机と6名分の椅子が用意されていた。その他にも調理道具など一般的な道具類はすべて用意されているようだった。
ガクはカザハたちを椅子に座らせると、1人キッチンで料理を作り始めた。ちょうど時間が3時過ぎでカザハたちの空腹度も減っていたためお菓子を作る予定なのだ。
ガクが手早く材料を混ぜ、生地を引きのばして型抜きし、それをオーブンで焼いていく様子を3人は見ていた。無駄な動作のないその動きは、いつもしていることの様にカザハとユカナには見えた。
「【料理】スキルを使って料理しているところって初めて見たかも。」
「いや、カザハ。屋台も【料理】スキル使ってると思う。」
「あっ、そっか。」
生地の焼ける香ばしい匂いが辺りに広がっていく。その匂いに刺激されお腹が鳴ってしまわないか心配したカザハとユカナだったが、きゅるるぅーと言う音が対面から聞こえてきて思わずその音の発生源であるエニシを見た。
「ガク、料理うまい。」
2人の視線を受けながらもエニシは動揺することはなかった。ただ事実を淡々と述べているだけだった。
「いや、姉さんも手伝ってよ。」
「私は毒見役。非常に重要な役目。」
視線をそらす姉を見て、ガクが仕方ないという顔をした時、オーブンがチンと言う音をたてる。ガクがオーブンからクッキーの載った鉄板を取り出すと先ほどまでとは比べ物にならないほどのいい匂いが立ち込める。
「あっ。」
いつの間にか席を立って、クッキーをつまみ食いしようと手を伸ばしたエニシだったが、触ったとたんにその熱さに慌てて手を引っ込める。
「ひどい。ガクがいじめた。」
「いや、冷まさないと熱いのは当たり前でしょ。」
エニシの手を取り蛇口の水で冷やしてやりながらガクが言う。そんな2人をカザハたちは微笑ましそうに見ていた。
そしてクッキーの粗熱がとれるとお茶会兼今後の予定を決める話し合いが始まった。
◇----登場人物ステータス----◇
カザハ、ユカナは前回と変更なしのため割愛。
<登場人物1>
名前:エニシ
種族:エルフ族
職業:魔術師
称号:なし
Lv13
HP 287/287 MP 232/232
STR 83 VIT 75
INT 198 MID 188
DEX 114 AGI 113
LUK 22
(スキル)
【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 杉の小杖
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 一角ウサギの胸当て
服 一角ウサギのローブ
下半身 一角ウサギのすね当て
足 一角ウサギの靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ガク
種族:エルフ族
職業:僧侶
称号:なし
Lv13
HP 291/291 MP 232/232
STR 80 VIT 78
INT 190 MID 195
DEX 112 AGI 115
LUK 22
(スキル)
【料理 Lv11】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 古びた本
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 一角ウサギの胸当て
服 一角ウサギのローブ
下半身 一角ウサギのすね当て
足 一角ウサギの靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
ヒャッハー、俺たちのこと忘れてねえだろうな。扉をぶち壊しお茶会に飛び込んできたのはもういるはずのない2人であった。
次回:世紀末戦士再び
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




