エピソード41
その犬の頭だけのような生き物はふよふよと漂いながら話し続ける。
《今回のイベントはなんと言ってもその言葉の通り、新規ユーザー様を歓迎するイベントです。詳細はステータス画面のWA履歴にてご確認ください。またこのフィールドは特殊なフィールドとなっており、このイベントの開催期間は10日間ですが、現実では2時間程度になっております。そのためログアウトをすれば元のAWOの世界へと帰ることが出来ますが、再びこのフィールドへと戻ることは出来ませんのでご了承ください。それでは楽しい会になりますよう運営一同願っております。》
その言葉を残して、シュンと謎の生き物が消える。おそらくほとんどのプレイヤーの気持ちは1つだっただろう。
お前自身の説明はないのかよ!
戸惑いを見せつつもプレイヤーたちがステータス画面を広げ、言われた通りWA履歴を確認していく。カザハとユカナも同様だ。
WA履歴のボタンとタッチするとそこにこのイベントの詳細が記載してあった。代表的なものを羅列するとこんな感じだ。
・開催期間 AWO特殊フィールド時間で10日間
・開催場所 特殊フィールド 新入生歓迎会場
・街の中央にいるNPCに言えば家を借りることが可能。
・新規プレイヤーのみで戦闘、生産などを行った場合、得られる経験値が通常の1.3倍になる。
・既存プレイヤーのみで戦闘、生産などを行った場合、得られる経験値が通常の0.5倍になる。
・新規プレイヤーと既存プレイヤーがパーティを組んで戦闘、生産などを行った場合、得られる経験値は両者とも通常通りとなる。
・街から出る門にいるNPCに言えば新規プレイヤーと既存プレイヤーのマッチングをしてくれる。
・ログアウトすることで元のAWOの世界に戻ることも可能。ただし再びこの新入生歓迎会場へと戻ってくることは出来ない。
その他にも、借りられる店の種類など細かいことが色々と書いてあったが、カザハがそれを流し読みして顔を上げると同じく顔を上げたユカナと目が合った。
「とりあえず外行こうか。」
「そうだね。」
他のプレイヤーも街の中央へと向かう人と、カザハたちと同じように街の外へと向かう人の波が出来ている。中央へ向かうのは生産系のプレイヤーが多く、外へ向かうのは冒険者のプレイヤーが多かった。
走っているプレイヤーも多い中、2人はのんびりと外へ向かって歩いていく。
「それでどうする?カザハはパーティ組みたい?」
「うーん。別に経験値うんぬんはいいんだけど、せっかくのイベントなんだから歓迎してあげたいとは思うかな。」
「まあそうだよね。じゃあ門のところで登録だけしておこう。気の合う人ならパーティ組めばいいんだし。」
「そうだね。」
気楽に考え、モノミルともドワーフ自治国とも違う町の風景を眺めながら2人は進んでいくのだった。
門にいた数人の兵士のうちの1人にパーティのマッチング登録をお願いした後、カザハたちは街の外へと出ていた。
まあ門と言っても身長以上もあるモノミルのような重厚な門ではなく、普通の一軒家にあるような門がいくつも並んでいただけだったが。その門にプレイヤーが並んでいる姿はテーマパークの入場口のようだった。
カザハたちが感じたようにこの街はそこまで大きくなかった。防壁とは名ばかりの1メートルほどの塀に囲まれているところからも想像がつくのだが。規模的にはモノミルの4分の1程度の大きさだろうとユカナは予想していた。
街の外はモノミルと同じように草原のフィールドが広がっており、東には海が、西には岩山が、南には森があるのが確認できる。カザハたちは南から出てきたので北は町をくるっと回らなければわからないが、何かがあるだろうとは予想がついた。
フィールドにはすでにプレイヤーが散らばっており、この辺りでは一角ウサギと初心者だと思われるプレイヤーが戦っているようだ。ぎこちない動きで一角ウサギと戦うプレイヤーたちを2人が温かい目で見る。
「そうそう、最初はあんな感じだったのよね。」
「そっか~。僕は補助をしていただけだからあんまり実感わかないけど結構難しそうだね。」
「戦ってみる?」
「そうだね。」
ちょうど光とともに一角ウサギが目の前に現れたので、ユカナが自分で作った黒鉄の杖を構え、一角ウサギに向かって突き下ろす。
「あれっ?」
その杖はあっさりと一角ウサギへと当たり、一角ウサギを倒してしまった。一角ウサギが皮と肉を残して金色の粒子となって消えていく。
「あっさりだったね。」
「まあ仮にもレベル23だし。ステータスも高いから当たり前かもね。」
ユカナの初の直接戦闘はこうしてあっさり幕を下ろした。あまりの手ごたえのなさに若干ユカナは物足りなさそうではあった。
しかしいつまでもここにいても新規プレイヤーの邪魔になるということで2人はとりあえずどこに向かうか話し合い、まずは採掘が出来そうな岩山を目指すことにした。
一角ウサギと一生懸命戦っているプレイヤーたちを横目で見ながら、2人は岩山を目指して歩いていた。距離的にはのんびり歩いても1時間もせずに着きそうであるし、特に急ぐ気も無かった。
たまに遭遇するモンスターは一角ウサギや50センチほどの芋虫のモンスターのグリーンクロウラー、定番のゴブリンと言った雑魚ばかりでユカナの杖の一突きで倒せるほどの弱さだった。
2人は攻略組でもないし、のんびり楽しめて自分のしたいことが出来ればいいかなと考えていた。なので自分たちが強くなることよりも、第一目標はシンテツが期待していた新しい素材だ。出発時のシンテツの様子から考えれば何もなかったでは済みそうにないからだ。
岩山では既にプレイヤーたちが採掘をしている真っ最中だった。そしてその中央付近の穴へと採掘をしていないプレイヤーたちが吸い込まれていく。
「ダンジョンかな。」
「そうだね。採掘は何が取れるんだろ。ねえねえ、お兄さん。何が取れるの?」
すぐそばでつるはしを振るっていた頭にタオルを巻いた20代くらいの人族の男にユカナがとことこと近づいていき声をかける。男はきょろきょろと周りを見回し、周りにはだれもいないことを確認して自分を指さしたのでユカナがうなずく。
「銅鉱石と鉄鉱石、たまに黒鉄ってところだな。」
「そっか~。ありがとね。」
ちょっと頬を赤らめながら答えた男にユカナがニパっと笑顔を返してカザハのもとへと戻ってきた。カザハからはその男がユカナに見とれているのが見えていたが、まあいつものことなので無視することにした。たぶん害はないだろうと判断して。
「外は意味がないっぽいね。ダンジョン行く?」
「そうね。」
何事も無かったかのように戻ってくるユカナを連れてカザハはダンジョンへと向かった。
ユカナは無邪気というか無警戒というか自分のことに関して無自覚なのだ。カザハなどの他人のことに関しては普通なのだが、自分のことに関しては鈍感で、その性格のおかげで人の懐に自然と入って行ってしまい、その人に好意を抱かせてしまう、ある意味小悪魔とでも言えるような行動をとることが多い。
一時期はその外見とも合わせて学校でいじめられそうになったこともあるのだが、カザハがフォローに回ったり、一部おはなしあいをしたことで防ぐことが出来た。まあ小学生の頃の話だが。
こっそりとカザハが心の中でため息をついていたのだが、そんな心中を知るはずもなく他のプレイヤーに続いてユカナはダンジョンへと楽しそうに入っていく。続いてカザハもダンジョンへと入ったのだが体を言いようのない違和感が一瞬襲う。
「なに?」
思わず腰の新しい小太刀へと手をかける。目の前にはユカナがいるだけで特に不審な点は見当たらない。モンスターが隠れているわけではなさそうだった。しかし違和感があった。
◇----登場人物ステータス----◇
前回と変更なし。
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
副職業:素材ハンター
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフの友』、『ゴーレムスレイヤー』、『孤高のハンター』
従魔:サスケ
Lv30
HP 865/865 MP 175/175
STR 452 VIT 310
INT 148 MID 166
DEX 332 AGI 470
LUK 46
(スキル)
【剣術 Lv45】、【採掘 Lv40】、【斬鉄】、【剣聖術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒銀の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
副職業:鍛冶師
称号:『神級鍛冶師の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフ王の教え子』
Lv22
HP 432/432 MP 233/233
STR 150 VIT 124
INT 262 MID 170
DEX 399 AGI 267
LUK 83
(スキル)
【付与術 Lv26】、【採掘 Lv10】、【鍛冶 Lv37】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の杖
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(ユカナ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ユカナ用)
服 森林狼のローブ(ユカナ用)
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ユカナ用)
足 軍隊赤蟻の靴(ユカナ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
新入生歓迎会に参加したカザハとユカナ。そこで出会った新入生は伝説の42浪した男だった。57歳の新入生と16歳の2人の交流が今始まる。
次回:卒業したら定年です
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
4/12 登場人物ステータス追加。




