エピソード40
《ワールドアナウンスです。イベント参加者の方はあと1時間以内に街の中などのセーフティエリアまで戻ってください。戻れない場合は参加資格を失うことになります。》
その声にカザハが振るっていたつるはしを止め、ダンジョンの入口へと向かう。ミスリルゴーレムを避けつつ奥の方から採掘を続け、今は入口付近で銀鉱石を採取していただけなのですぐに外へと出ることができた。
最近ユカナが銀鉱石を扱うようになっていたので、銀鉱石を掘るついでにサスケのご飯を採掘していたのだ。ミスリルゴーレムについては『ゴーレムスレイヤー』や『孤高のハンター』の称号のおかげもあり、新しい小太刀と[纏]を使えば倒すことが出来るのだが時間がかかりすぎるので逃げに徹していた。
顔なじみになったエルダートレントのエル爺に別れの挨拶をして、カザハはアイテムボックスからミスリル鉱石を1つ取り出すとサスケに食べさせる。黒豹へと変化したサスケとたわむれたい欲望を押さえつつその背中へと飛び乗った。
「じゃあ、お願い。」
「はい、カザハ様。」
サスケは鷹揚にうなづくと、トレントの森へと突入していく。音もなく、しなやかに走るそのスピードにトレントは反応できず、ただ通り過ぎた後で動き出すだけだ。
カザハはその背に乗り、毛並みを堪能しながらもサスケがもうちょっと打ち解けてくれるといいんだけどな~、とのんきに考えていた。サスケにカザハ様という呼び方に変えさせるのにもかなりの交渉を要したのだ。
最初の主殿を嫌がったカザハが呼び捨てを提案したのだが頑なに断られ、その後、さん付けやちゃん付けなども提案したのだがダメであった。結局行きついたのがカザハ様という呼び方だったのだ。
交渉で疲れ切ったカザハを、ユカナが「カザハ様~、お疲れですか、カザハ様~。」とちゃかし、直後にカザハのチョップによって撃沈したのだが、まあそれはいつも通りの光景だ。
10分ほどでドワーフ自治国の門の付近まで着き、サスケが元の黒猫の姿へと戻る。
【鉱石変換】のスキルによって姿が変わっているわけではなく、その変換したエネルギーを利用して【変身】スキルにて黒豹へと姿を変えているだけなので元に戻ることは可能だ。つまり通常でも変身することは出来るのだが、レベルの低いサスケでは短時間の変身が精一杯なのだ。
顔なじみになった門番のドワーフに挨拶をし、いつも通り鍛冶ギルドのギルドカードを見せて街へと入る。たとえお互いにわかっていても、その手続きは変わらない。ユカナは面倒だと言っていたが、カザハは勤勉実直なドワーフらしいなと逆に感心していた。
神殿へと向かい、お布施をシスターへと渡しポータルを起動させる。モノミルの街への転移代は片道1万エル。モノミルの街の一般的な店で最高ランクの武器や防具が買える金額だ。しかもカザハたちは『世界を股にかける者』の称号のおかげで半額になっているはずなのにその金額なのだ。おいそれと転移できる金額ではない。
とは言えカザハは気軽にドワーフ自治国へと行き来していた。銀鉱石を鍛冶師ギルドへ売り払う事で荒稼ぎしていたのだ。最近、鉱山の街ラテトラにある銀鉱石の取れる坑道へと入れる資格を持ったプレイヤーが増えてきたこともあり値段は安定してきているが、それでも1回の採掘で転移代を超える量の確保が出来るのでカザハにとっては問題が無いのだ。
鍛冶ギルドで採取した銀鉱石を売り、150万エルほど稼いだ2人だったが、商業ギルドのギルド会員になり自分で売れば、その10倍とは言えなくとも5倍の金額は稼ぐことが出来たはずだった。それほど需要と供給のバランスが崩れていたのだ。
しかし2人はそうしなかった。『鍛冶ギルドのお墨付き』の称号のおかげで少し買い取り金額も高かったし、何より自分で販売するという手間と、荒稼ぎしたことによる嫉妬を恐れたのだ。
実際、銀鉱石を取れる坑道にプレイヤーが入れるようになった時期とカザハが銀鉱石をギルドに大量に売り払った時期が重なったため、掲示板などでは運営により銀鉱石の販売が始まったと考えられ、カザハたちのことなど一切触れられなかった。その事に2人はほっと胸を撫で下ろしていた。
ちなみにそのお金は持ち歩くと死に戻りが怖いので、ほとんどはシンテツのお店で預かってもらっている。
モノミルの神殿は相変わらず人でごった返していた。とは言えカザハも慣れたもので裏口から抜け出すと、シンテツの店へ向かって早足で歩いていく。周りのプレイヤーたちはイベントの内容をわいわいと話しているようで楽しそうだ。
ポーションを売っている店に行列が出来ているが間に合うんだろうか、とちょっと疑問に思いつつカザハは進んでいくのだった。
《ワールドアナウンスです。イベント参加者の方はあと1分以内に街の中などのセーフティエリアまで戻ってください。戻れない場合は参加資格を失うことになります。》
「いよいよね。」
「うん。楽しみ。」
カウントダウンが始まる。いよいよ初公式イベントが始まるのだ。ユカナの意見を参考に以前から準備を整えていたので慌てることは無い。若干の緊張はあるが、不安ではなくわくわくの方が大きいのだ。
「いってらっしゃい。」
「いいか、珍しい素材が有ったら出来る限り持って帰るんだぞ。わかってるな。」
「はいはい。じゃあ行ってきます。」
「じゃあね~。」
《ワールドアナウンスです。時間になりました。参加登録者の転送を開始します。》
いつも通りのシンテツとスミスに見送られ、カザハとユカナは先ほどまでいた工房から姿を消した。
「くそっ。せっかく新しい素材が発見できるかもしれねえのに、何で俺はダメなんだ。」
「まあまあ、2人に任せましょう。きっと大丈夫ですよ。」
2人のいなくなった工房でシンテツが悪態をつく。それを宥めながらスミスは珍しい素材を2人が持って帰ることを切実に願っていた。
少しの浮遊感と共に一瞬で周りの風景が変わる。そこは見たことのない街だった。メルリスとは違い建物がすべて木造で作られ、どちらかと言えばのどかな印象を受ける。しかし、ある1つの事実がその印象を打ち消していたが。
人がいないのだ。
いや、プレイヤーはいるのだ。しかし街で暮らしているはずのNPCの住人がおらず、がらんとしている。空虚という言葉が相応しかった。
「ゴーストタウンって感じだね。」
「こういうのはぼく、苦手だな。」
2人が周囲の様子を伺いながら話す。他の参加者たちもきょろきょろと辺りを見回しながらザワついていた。
その時ボンっと言う音と共に花火が打ちあがり、キラキラとした光を残して消えると、そこに犬の顔をデフォルメしたような球体から尻尾だけが生えている何とも言い難い生物?が現れた。
《いつもAWOを楽しんでいただきありがとうございます。これより公式初イベント「新入生歓迎会」を始めます。》
よくわからない生き物に誰もが唖然とする中、その生き物により公式初イベントの開始が宣言された。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
副職業:素材ハンター
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフの友』、『ゴーレムスレイヤー』、『孤高のハンター』
従魔:サスケ
Lv30
HP 865/865 MP 175/175
STR 452 VIT 310
INT 148 MID 166
DEX 332 AGI 470
LUK 46
(スキル)
【剣術 Lv45】、【採掘 Lv40】、【斬鉄】、【剣聖術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒銀の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
副職業:鍛冶師
称号:『神級鍛冶師の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフ王の教え子』
Lv22
HP 432/432 MP 233/233
STR 150 VIT 124
INT 262 MID 170
DEX 399 AGI 267
LUK 83
(スキル)
【付与術 Lv26】、【採掘 Lv10】、【鍛冶 Lv37】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の杖
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(ユカナ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(ユカナ用)
服 森林狼のローブ(ユカナ用)
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(ユカナ用)
足 軍隊赤蟻の靴(ユカナ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
謎の生物から放たれた怪光線を浴びてしまったユカナの姿は、その謎の生物とそっくりの首だけの生き物になってしまう。怒りに震えるカザハの拳が今燃え上がる。
次回:ブサかわって結局ブサイクってことだよね
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




