幕間2
和室に敷かれた布団から風音が起き上がる。イワトビペンギン型の目覚まし時計を見ると午前4時50分。
布団をたたみ、いつも通り中学校のジャージに着替える。大きくなることを見越して買ったはずのそのジャージはまだ少し余裕があるが、風音にとっては着られれば問題は無かった。
縁側の雨戸を開け、台所でうがいをした後、コップ一杯の水を飲み、顔を洗う。4月とは言えまだまだこの時間の水は冷たく、風音の意識を覚醒させる。
「よしっ。」
髪を後ろで縛り、ポニーテールにして赤い運動靴を履き外へと出る。家にある梅の花は見ごろを終え、桜が現在は八分咲きだ。ひらひらと舞い落ちる花びらを見ながらストレッチし、そして走り出す。その背中には光沢のある黒色の木刀袋が背負われていた。
ブンッ、ブンッ。
木刀が空気を斬り裂く音がする。
山の中腹にある竹林の中の一角、その不安定な足場の中で風音は木刀を振るっていた。
最近この竹林を管理しているのは風音だ。竹林と言うのは放置してしまうと人が入れない人外魔境になってしまう。定期的に伐採などが必要で、今まで家族が交代で行っていたのだが風音が立候補したのだ。自分のしたいことをする環境を作るために。
「フッ!」
竹林などの障害物がある場所で木刀を振る場合、基本的には突き主体になるのだが、あえてカザハは突き以外を選択していた。
AWOの中の動きを思い出しながら、シンテツの教えを思い出しながら必死にそれをトレースする。思うように動かない体にイライラする心を押さえ、ゆっくりと再現を続けていく。
風音の全身から汗が流れ、服は貼りついていた。
「ふぅ、やっぱり補正が無いと厳しいわね。」
一通り満足した風音だったが、現実とAWOの違いははっきりと感じられていた。システムの補助により身体能力が上がっているAWOに比べ、自分の動きが遅すぎて満足できないのだ。
それでも風音はこの修行を止めるつもりは無かった。少しずつではあるが自分の納得できるような動きも出来てきている。それが楽しかった。
「よし、帰ろ。」
木刀を袋にしまい、それを背負うとカザハは家へと向けて走り始めた。
「行ってきます。」
「はい~。いってらっしゃい。」
母親の見送られながら高校の制服に着たカザハが山を早足で下りていく。
山を下りたところで香奈が風音を待っていた。
「おはよう、香奈。」
「おはよう、風音。」
挨拶をかわし、通学路を2人で歩いていく。今日は始業式があるだけで昼には帰ることが出来るのだが、2年生になって初めての登校日と言うことでクラス分けなど不安と期待が混ざって心が落ち着かなかった。
「クラス同じだといいけど。」
「まあ大丈夫でしょ。ぼくたち幼稚園からずっと一緒だからもう13年間同じクラスだし。さすが運命の相手。」
「何言ってるのよ。」
だんだんと生徒が増えていく道を歩きながら2人で歩いていく。時々1年生の時のクラスメイトに声をかけられたりしながら2人でおしゃべりしながら進んでいった。
こういう話をしているとクラスが別になるフラグではあると思うのだが、普通に一緒で2人ともクラス分けの掲示板の前で手を合わせて喜んでいた。
退屈な式や新たなクラスメイトとの自己紹介なども終え、2人が帰宅の途につく。
「いやー、1年生はかわいかったね~。あの初々しい感じ、たまりませんな~。」
「香奈、オヤジ臭いよ。」
「ぐふぇふぇふぇ。」
2人の話題になっているのは始業式で見た1年生のことだ。不安でいっぱいなのか、皆きょろきょろと周りを見ていたり、中学校の友達同士?で話していたりしていた。
去年は自分があんな感じだったんだろうな~と風音は懐かしく思い出していた。
「あっ、そうそう。それで公式の初イベントは参加でいいんだよね。」
その回想は、香奈のAWOの話題によってあっさりと霧散されたが。
「そうだね。一応3人までのパーティ参加だから、私たちは2人で参加するってことだよね。」
公式ホームページに載っていた参加条件を思い出す。詳細はわからないが参加条件は3人までのパーティ単位での参加。1人での参加ももちろん可能。しかしそれ以外は何も開示されていなかった。
「そうそう。詳しくはわからないけれど、大規模な新規プレイヤーが入って来たからその人たちにメリットがあるイベントじゃないかなって言うのがぼくの予想だね。ある一定のレベルまで経験値が多いイベントフィールドとかかな~?」
「でもそれだと私たちのような前からいたプレイヤーに関係なくない?新規ユーザーだけを募集対象にすればいいんだし。」
「そうなんだけどね~。まあそれを含めて何があるか楽しみだよ。」
第3陣として今までの10倍のプレイヤーがAWOに入ってきている。モノミルの街も結構な人でごった返している。多少の混乱はあるけれど、そこまで苦情は無いようだ。
新規プレイヤーが参入してからもう5日。明後日に公式イベントが始まるから1週間の期間があったということだ。早いものは既にモノミルから違う街へと出て行っているだろう。
モノミル周辺の魔物は弱いし、ある一定のレベルになったら別の街へと皆旅立ってしまうのだ。例外は風音たちのように拠点がモノミルにあるものや、一部の生産者などだろう。この混雑もそのうち解消されるはずだった。
まあそれとは別として公式のイベントとしては初なのでカザハたち以外も盛り上がっている。掲示板では予想スレなどがものすごい勢いで更新されているようだ。
2人もまだ見ぬ初の公式イベントのことをいろいろ予想しながら、楽しそうに歩いて行った。
皆さんにはここで殺しあっていただきます。初イベントを楽しみに参加した2人を待っていたのは、残酷な現実だった。生き残るための共闘、そして裏切り。カザハたちは無事生還することが出来るのか?
次回:バトルロ○イヤル
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




