AP外伝:蟻の蜜はパンケーキのお伴に
ビバ、エイプリルフール!
エピソード6の続きです。忘れたかたは一度読み返していただけるとありがたいです。
(あらすじ)
シンテツとカザハがダンジョンのボス部屋に着いたよ。
ボスは蟻だよ。
アーミークイーンアントの蜜
それは巣の最奥、女王がいる更に奥のアーミーアントたちの生まれる卵のある部屋に設置されている、20センチほどの黄金のだんご状のものである。形状から蟻蜜玉とも呼ばれる。この蜜の作られ方は特殊で、蜜を採取する専門の蟻がおり、その集めた蜜を女王が受け取り、生まれてくる子供たちに与えられるように加工して作られたものだ。
その蜜は熱すると液体状に溶け、透明度の高い澄んだ黄金色の液体になる。匂いはその周囲にある花等によって千差万別であり、その味もまた同様である。もっともその味は一般的な蜂蜜などに比べ、一段、いや数段違っている。
魔物の巣の最奥であるため一般人にとっては入手が困難であり、巣の規模にもよるが数が少なく希少なため高値で取引される。
(アルマー・ウエスト著 『世界を食べる』 より抜粋)
シンテツは戦っているカザハをとりあえず放置することにし、巣の最奥へと進んでいく。少しの間戦う姿を見ていたが、あれならしばらく大丈夫だろ、と判断したのだ。
途中それを防ごうとアーミークイーンアント(亜種)が襲い掛かってきたが、さっくりと半殺しにしておいた。ピクピクと動いている姿が哀愁を誘う。
クイーンを襲ったシンテツに向かってアーミーアントたちが殺到してくるが、それが妨害になるはずもなく悠然と巣の最奥へと歩いて行った。
ボス部屋の奥の通路を通り、孵化部屋へと入る。そこには白い縦長の卵が並んでおり、それを世話する蟻がせわしなく動いていた。
1つの卵が割れ、白色のアーミーアントが出てくると、近くにある黄金の球体へと噛りつく。するとそのアーミーアントの幼体は一気に成体へと成長し、その色も黒へと変化していった。そしてシンテツへと襲い掛かってきたが、あっさりと殴られその短い生涯を終える。
「まあまあってところか。」
シンテツが見渡した限りでも、まあまあな数の蟻蜜玉があることがわかった。シンテツは食べられないうちにとそれを次々と回収していく。卵を世話している蟻が襲い掛かってくるが何の抵抗にもならない。しばらくしてすべての蟻蜜玉が回収された。
「じゃあ次に行くか。」
シンテツは道を戻り、いくつかある孵化部屋を回りすべての蟻蜜玉を回収していった。
結構な数の蟻蜜玉を回収できたことにシンテツがほくほくしながらボス部屋へと戻ってくるとカザハとアーミークイーンアントが一騎打ちをしていた。
カザハの装備はボロボロで剣にもひびが入っているようだが、アーミークイーンアントの方もシンテツの攻撃により半死半生だ。このまま時間が経過すれば自然に死ぬだろう。
それがわかっているからかアーミークイーンアントが捨て身の攻撃に移る。体全体でカザハを押しつぶそうとしたのだ。口も足も切られ、それしか攻撃手段がなかったとも言える。
ドン!
地響きがする。土煙がもうもうと立ち上り、アーミークイーンアントとカザハの姿を隠す。土煙が落ち着いたとき、シンテツに見えたのはアーミークイーンアントの姿だけだった。
おっ、やられちまったか、とシンテツが思ったとき、
「あなたの最大の失敗は勝負を焦ったこと。」
カザハの声が聞こえた。
カザハの剣はアーミークイーンアントの頭へと突き刺さっており、その一撃がクイーンの命を奪ったのだった。
カザハがその剣を引き抜き、そのままその場でぼーっと立っていたため、シンテツはそちらへと近づいて行った。
「よっ、お疲れ。」
シンテツが声をかけたが、カザハは反応しない。そのことを不審に思いながら近づいていくと何やらぶつぶつとつぶやいているのが聞こえてきた。
「・・な時に、何してたの?」
「あっ?」
「こんな時に、何してたの?」
「おお、こいつの蜜がうまいんで回収してきたんだ。お前も食うか?」
黄金の蟻蜜玉を取り出して見せるシンテツだったが、カザハはそれを見ようともしない。そしてその直後、周囲の空気が変わった。思わずシンテツが距離をとる。
俺が威圧されただと!?
自分の手が愛刀へとかかっていることに自分自身で驚きながらも、じっとカザハの様子を見る。カザハはくくくっと小さく笑ったかと思うと、こらえきれないかのように笑い始めた。しばらくボス部屋にカザハの笑う声だけが響いていた。シンテツはただその様子を見守ることだけしか出来ない。
そしてその笑い声が止まる。
「殺す!」
カザハがシンテツに向かって剣を振り下ろす。
シンテツにとってみればカザハの剣など警戒するに値しないほどのものであるし、今は怒りによってその太刀筋もめちゃくちゃだ。はっきり言って無駄なはずなのだが・・・
くそっ、体が反応しちまう!
シンテツに言わせれば児戯にも等しいものであるのにも関わらず、その動きに反応してシンテツの手が剣を取ろうとしてしまうのだ。カザハがこうなった原因が自分自身にあるとはさすがのシンテツにもわかっているため攻撃するなどと言うのは論外だった。
怒りに任せていたカザハの動きが次第に速く、洗練されたものへと変わっていく。それをシンテツはただ避けていた。避けていたはずだった。
ザシュ。
シンテツにとって信じられない音が聞こえた。自分自身の服がカザハに切り裂かれたのだ。余裕をもってかわしていたはずだった。明らかに剣が届かない位置だ。
警戒してシンテツが距離をとる。
カザハはその体の周囲に黄金色のオーラをまとい、うつろな表情のまま口には笑みを浮かべ、即座にシンテツへと向かって斬りかかっていく。
あれは・・・
「おい、カザハ。やめろ!そいつはまずい。」
シンテツが焦った声を出す。
シンテツにはわかっていた。カザハが行っていることは自分の生命力を使用して、攻撃を行う剣聖術の中の奥義の1つと同じものであることが。そしてそれを使用したが最後、相手を倒すか、自分が倒されるかでしか解除できないことが。
すでにカザハには意識などなかった。あるのはこの不埒ものに鉄槌を下すという意志だけだった。
「仕方ねえ。」
シンテツが剣を抜き、振り下ろされるカザハの剣へと叩き付ける。
カザハの剣は刀身の半ばから折れたがそれでもカザハは止まらない。そのままシンテツの肩へとその見えない刃を振り下ろした。しかしその刃はシンテツの肩を浅く傷つけたにとどまり、そしてシンテツが続いて放った掌底に脳を揺らされたカザハは気を失った。
「あれっ?」
「おや、気が付かれましたか?」
コーヒーのいい匂いにカザハが目を覚ます。
そこは見たことがない場所だった。落ち着いた木の内装に、飲食用のテーブルとカウンターがあり、カウンターの奥で40代くらいの渋い男がコーヒーを淹れていた。各テーブルの上に置いてあるフクロウ型の砂糖と塩の入れ物に男の趣味を感じた。
「あの、ここはどこですか?」
「ここはモノミルにある私のお店ですよ。まあ趣味の喫茶店ですが。」
男は何かを作りながらカザハの質問へと答える。カザハはまだ状況が把握できないようで店内を見まわしながら少し混乱していた。ところどころに置かれている観葉植物を見て緑っていいよね~と意味の分からないことを考えるくらいに。
「どうぞ。」
そんなカザハのもとへと男がパンケーキを持ってくる。縦に3枚重ねられ、一枚の厚さは2センチほどのふわふわしたものだ。表面のきつね色とサイドの黄色のコントラストが美しい。それ以外には何も乗っていないシンプルなものだった。
「あの、これは?」
「謝罪だそうですよ。」
そう言いながら男はそのパンケーキの隣にコーヒーと小さな白いポットのようなものを置いて戻っていった。
いきなりのことに戸惑うカザハだったが、その美味しそうな匂いにおなかがくぅ~っと鳴ってしまい顔を赤くする。男は静かな笑みを浮かべていた。
カザハがパンケーキを一口かじる。ふわふわでそのままでも十分に美味しい。あっという間に一枚食べ終え、コーヒーを飲む。コーヒー独特の苦みがあまり得意ではないカザハだったが、このコーヒーは大丈夫だった。
小さな白いポットの中身を確認するとシロップのようだったのでカザハがパンケーキへとだばーっとかける。その黄金色の液体がパンケーキを侵食していくのを見ていると、ふわりと柑橘系のさわやかな匂いが辺りに広がった。
カザハがナイフで一口サイズに切り、シロップのかかったパンケーキを口へと放り込む。
わずかな苦みと酸味が、豊かな甘みを引き立てている。それがパンケーキと絡まることによって先ほど食べたパンケーキとは全く違った料理になっていた。
カザハは一気に食べたい衝動を抑え、少しずつ味わうように食べていく。
幸せな時間がカザハを包んでいた。
予告の実際の内容を書くのがちょっと楽しくなってきた作者。あれっ、本編ってどこまで行ってたっけ?進まない本編への不満が今、作者の心をえぐる。
次回:ちょっと待って、今やるところだから
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なることがあります。
感想でご希望をいただいた予告内容を書いてみました。嘘予告って言うのは嘘だったんだ。(錯乱)




