エピソード35
ダンジョンに入ってから4時間、時折採掘と戦闘を繰り返しつつ、ついにカザハとシンテツはダンジョンボスの大きな扉の前にやってきていた。
カザハは戦ってはシンテツの肩の上でMPポーションを飲み、休みながら移動するいうことを繰り返していた。そしてその経路を見ていたのだが、ため息を吐きたくなるようなものだった。
まず分かれ道が多いのだ。5つの分かれ道なんていうのは当たり前。分かれ道の先がどこかと交差していると言うことも多い。なにより目印となるようなものが全くないのだ。同じような光景がカザハを惑わした。シンテツは迷いなく道を選んでいたし、採掘する場所もその進路上にあるものしかしていなかったが、普通に攻略しようとすればどれだけ時間がかかるかはわからなかった。
なにせシンテツの速度で最短経路と思われる場所を通り、採掘時間以外に会ったミスリルゴーレムや後半で出てきはじめたマジッククリスタルゴーレムはシンテツが一刀のもとに斬り捨ててきているのだ。それでも4時間もかかっている。
「師匠、このダンジョンを何の情報も無しに攻略しようとしたらどのくらいかかるの?というか攻略できるの?」
「知らん。まあここまで来るだけなら運が良ければ10日くらいじゃねえか?たまにセーフティエリアもあるし来れないって訳じゃねえだろ。」
その言葉にカザハが落ち込む。なんでこんな最後の方に入るようなダンジョンに1か月も経っていないのに入っているんだろうと答えの出なさそうな疑問を思い浮かべながら。カザハの狼耳がペタッと折れる。
このダンジョンに入ってからカザハのレベルも上がりレベル30になっていた。レベル90を超えるモンスターを相手にしている割に上りが少ないように思えるが、それは経験値の配分による問題があった。
経験値の配分に関してはダメージ比率、戦闘内容、そしてレベル差が関係してくる。今回の場合、カザハはミスリルゴーレムとの戦闘では腕1本を斬り飛ばしているがダメージとしては1割程度であり、マジッククリスタルゴーレムとの戦闘では腕を斬り飛ばすことは出来ず、ダメージも5パーセント与えられているかどうかというほどしか戦闘には貢献していないのだ。
そしてパーティ内にはシンテツと言うレベルがはるかに違う存在がいたことによりもらえる経験値が少ないのだ。『はじめてのダンジョン 蟻の巣』攻略時に道中かなりの数のアーミーアントを倒したのにレベルが1しか上がらなかったのにはそういう理由があった。
シンテツがカザハの小太刀を打ち直している。これまでの戦闘で小太刀の耐久は危険な水準になっており、ボス戦に入る前にそれを見たシンテツが修理すると言い出したのだ。それはボスとカザハを戦わせると言うことに他ならなかった。カザハは携帯用鍛冶セットに向かうシンテツの姿をじっと見て待っていた。
鍛冶をする時のシンテツの動きには無駄がない。そして表情には余裕はない。カザハの小太刀などシンテツがいつも作っているような剣と比べるべくもないようなものであるのだが、その目は小太刀と真剣に向き合っており、まるで対話しているかのように修復を続けていく。
こういうところは格好がいいんだけどな~、と普段とのギャップを考えながらシンテツの作業が終わるのを待った。
「よし!」
シンテツが小太刀を組み立て終わり、その出来上がりに満足したように声を上げる。ボス戦に向けて途中から精神集中に入るために正座していたカザハが顔を上げる。
「ありがとうございます。」
シンテツから小太刀を受け取るとカザハが鞘から抜き、少し振って調子を確かめる。最初にもらった時と同じように非常にしっくりくることに満足し、チンっと鞘に再び納める。
修復も下手な者が行うと武器の性能が下がっていってしまうのだが、シンテツがそのような愚行を犯すはずも無かった。
カザハの動きを見て、不具合などが無い事を確認したシンテツが小太刀を納めたカザハを真剣な表情で見る。それは鍛冶をしているときや、剣術の修行をつけているときと同じ冗談など一切ない表情だ。それを感じたカザハが表情を引き締める。
「わかっているとは思うが、最初にボスとお前を戦わせる。」
「はい!」
「最初から纏を使い、ボスに3撃当てろ。そしてこの小太刀を折れ。」
「なっ!?」
その言葉にカザハが驚く。シンテツからもらったこの小太刀は短い間とは言え共に戦った相棒だ。それを折ると言うことはカザハにとっては相棒を殺すと言っているのと同様のことだった。
「なんでですか!?」
「大声を出すんじゃねえよ。お前もうランク7の剣を装備できるようになっただろ。そいつを使う時期は終わったんだよ。引導を渡してやれ。それが使い手としての義務だ。」
その言葉に一瞬カザハが止まる。確かにしばらく前にランク7の剣を装備できるようになっていた。しかしそれとこれとは別問題と再びシンテツを睨む。
「嫌です。例え身の丈に合っていないと言われても、自分の相棒を折るなんて真似は・・・」
「飾っておくとでも言うのか?」
シンテツの底冷えするような声にカザハがびくっと反応する。
「お前はそれで満足かもしれんが、そいつはどう思う。剣とは斬るために生まれたものだ。少なくとも俺が打ったものはな。飾っておくもんじゃねえ。」
「・・・。」
シンテツのその言葉にカザハの気勢が削がれる。ありたい姿になれず、ただ生かされる。それはとても辛いことだ。カザハの表情が曇り、耳と尻尾がぺたんと垂れる。
そんなカザハの頭にシンテツの手が置かれ、くしゃくしゃと乱暴に撫でられた。
「なにも無駄に殺すわけじゃねえ。剣としての本懐を遂げさせてやれってことだ。まあ、お前次第ではそれすらも出来ない可能性はあるがな。」
「・・・」
カザハは考える。この相棒を生かしたいと言う気持ち、そしてシンテツの言う本懐を遂げさせろと言う意味。そのどちらも正しくて、どちらも正しくないんだろう。正解なんかわからない。なら、私は弟子として剣士として、生きる証をこの相棒に見せよう。
黒鉄の小太刀を見る。刀身を光が走り、小太刀が返事をしたような気がした。
行け!っと。
「わかったわ。この子にふさわしい最期を。私の意地を見せる。」
「よし、それでこそ俺の弟子だ。」
小太刀を鞘に納め腰に添える。柄を一度握り、祈るように目を閉じる。大丈夫、そうカザハは確信すると目を開けた。
「行きましょう。」
「おう。」
シンテツが扉に触れる。扉がゆっくりと開き、その奥にいる存在から放たれるプレッシャーにカザハは押しつぶされそうになる。それはシンテツが鍛冶をしているときのような近づくことさえためらわれるような、圧倒的な威圧感だった。
そのプレッシャーにカザハが思わず小太刀を握りしめる。小太刀はただそこにあった。それがカザハを安心させた。
そしてシンテツはそのプレッシャーに頬を緩ませた。隠しきれない喜びがそこには表れていた。
「当たりだ。」
「えっ。」
ぼそりと呟いたシンテツの言葉にカザハが反応する。カザハの体は既に戦闘態勢に入っている。そうしなければ一瞬で倒される。そんな確信があった。
金と銀の中間のような不思議な色をした金剛力士像のようなマッチョのゴーレムがこちらを睨みつけながらそこに立っていた。今までのゴーレムとは違い、精悍な顔つきをし、そして武道家のような道着を着た姿だ。
「レアボスだよ。オリハルコンゴーレムだ。カザハ、課題を変更する。一撃当てろ、それで終わる。いや、こっちの方がいいな。1分間死ぬな。それだけだ。」
「はっ、はい!」
背後の扉が閉まっていく。ドーンという音とともに扉が閉まりきると、オリハルコンゴーレムがゆったりと動き出した。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1> (レベルアップ)
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
副職業:素材ハンター
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフの友』
Lv30
HP 865/865 MP 175/175
STR 452 VIT 310
INT 148 MID 166
DEX 332 AGI 470
LUK 46
(スキル)
【剣術 Lv34】、【採掘 Lv19】、【斬鉄】、【剣聖術 Lv8】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
動き出したゴーレム、そしてそれを鬼気迫る表情でつるはしを持ち追いかけるシンテツ。2人の追いかけっこを見たカザハは何をなすのか!?
次回:しょせんは素材
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
4/12 登場人物ステータス追加。




