エピソード34
剣聖技『纏』
それは自らの魔力を剣に纏わせ、武器の攻撃力、そして耐久を上げるだけの技である。剣の能力を上げるだけであるので、使った本人の身体能力が上がるわけではないが、その威力は絶大だった。そしてその代償も。
「はぁ、はぁ。」
なんとか斬れた。そこで集中力が切れ、膝をついてしまったカザハだったが、ミスリルゴーレムが踏みつぶそうと足を振り上げたのを見て、転がりながら避ける。そしてすぐに立ち上がりミスリルゴーレムの攻撃を荒い息を整えながら避けていく。攻撃箇所が3か所になりバランスも悪くなったミスリルゴーレムの攻撃は、体力を消耗したカザハでもなんとか避けられる程度まで落ちていた。
カザハがこうなったのは『纏』のせいだ。『纏』は使っている間MPを常に消費し続ける。カザハが使ったのは1分程度でしかないのだが、それだけでカザハのMPは既に空になっていた。
これはカザハのMPが他のプレイヤーに比べ、少なすぎると言うわけではない。本来ならば剣聖技を使えるような剣士は歴戦の勇者であり、レベルもそれなりに高いはずである。しかしカザハはシンテツの教えを受けることにより低レベルで技を使えるようになってしまった。単純にカザハのレベルとその技の消費MPが合っていないのだ。
そしてMPが枯渇した場合に起きるのは一時的なステータスの低下と猛烈な不快感。それはMPポーションなどで回復したとしても数分間続いてしまう。
息は整ったカザハだったがその吐き気をもよおすような不快感がカザハの集中を乱していく。そしてステータスが低下していることにより自分の体が思った通りに動かないことが災いした。
ミスリルゴーレムからフック気味に放たれた左拳をカザハは余裕をもってかわせるはずだった。後ろへと下がろうとしたカザハの足が違和感を覚える。カザハの足のすぐ後ろにあったのは先ほど自分が斬り飛ばしたミスリルゴーレムの腕だった。
普段のカザハならありえないミスだ。しかしその一瞬の硬直が致命的だった。すでにその左拳は避けられない位置まで来ていた。それでもなんとか体をひねり直撃だけは避ける。
ボグッ。
おおよそ人体から出た音だとは思えないような音を響かせながら、カザハはきりもみしながら壁へと向かって飛ばされていく。カザハのHPは既に1割も無い。このまま壁にぶつかればそのダメージで死に戻ることは確実だった。
そんなカザハを優しく受け止める者がいた。シンテツだ。
「カハッ。」
受け止められたカザハの口から息が漏れる。その表情は苦痛と悔しさで歪んでいた。シンテツはカザハを後ろに降ろすとアイテムボックスから取り出したポーションをぽいっと放り投げる。
「詰めが甘えよ。剣士にとって周囲の状況を把握する能力は必須だぞ。」
「・・・っ。」
自分の上に落ちてきたポーションを口に含みながら、カザハが黙ってシンテツを見返す。カザハ自身もわかっている。その通り過ぎて何も言うことが出来なかった。カザハが自分の足に爪を立てギリッと力を込める。我慢しなければ弱音が出てしまいそうだった。
そんな弟子の様子を見ながら、シンテツがカザハの頭に手を置く。
「まあそれ以外は良かったぜ。」
カザハの頭をくしゃくしゃっと乱暴になで、ミスリルゴーレムにシンテツは向き直る。めったに誉めないシンテツから誉められたことにちょっと放心しながらカザハはその後ろ姿を眺めていた。
ミスリルゴーレムがシンテツに向かって走ってくる。カザハによって斬られ、不格好に走ってくるそいつをシンテツはつまらなさそうに見る。
「弟子の相手ご苦労。じゃあ死ね。」
それは一瞬だった。シンテツとミスリルゴーレムが交錯する。シンテツが剣を振り上げ、ミスリルゴーレムが殴りかかる。そしてすれ違った体勢のまま動きを止める。
シンテツが抜いていた剣を鞘に納めるチンッという音とともにミスリルゴーレムの右半身と左半身がずれていき、そのまま地面へと崩れていった。カザハにはかろうじて、シンテツが抜刀し、股から頭へと剣を振りぬくのが見えていた。それはカザハがシンテツに教えた居合術をシンテツなりに改造したものだった。
「すごい。」
カザハは感嘆していた。カザハ自身が満足に使うことが出来ないため、シンテツに教えたのはあくまで理論的な話だけだった。それをシンテツ自身のセンスにより使える技として昇華していたのだ。
それはカザハに剣士としての格の違いを見せつけることであり、その技に感動しながらも自分の才能の無さに胸がざわついた。
そんなカザハの思いを知ってか知らずか、シンテツがフナユキをミスリルゴーレムに差し、解体を終えるとカザハの元へと戻ってきた。カザハが立ち上がる。
「まあここで指導してもいいんだが、まだまだ先は長いしな。先へ進むぞ。」
「はい。」
歩き出そうとしたカザハだったがひょいっとシンテツに掴まれ肩に座らせられる。
「お前の足じゃ遅すぎる。それに俺が採掘している間は戦ってもらうつもりだからな。今は休んでおけ。次は油断すんじゃねえぞ。」
「はい!」
シンテツの言葉にカザハが勢いよく返事をする。シンテツにすぐに追いつくなんてことが出来るはずがない。ならそれが追いつけるように努力するだけだ。才能のない自分にはそれくらいしか出来ないのだから、そうカザハは考えていた。
ある意味開き直ったカザハの顔は晴れ晴れとしていた。そんな弟子の顔を見ながらシンテツはニヤッと笑う。
「じゃあ行くぞ。舌を噛むなよ。」
「はい!」
カザハがシンテツの首をぎゅっと掴む。そしてシンテツが走り出す。いつもより早いそのスピードに驚くカザハだったが声は出さなかった。ただボワッと広がったカザハの尻尾がその驚きを隠しきれていなかった。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1> (レベルアップ)
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
副職業:素材ハンター
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフの友』
Lv25
HP 18/796 MP 9/150
STR 375 VIT 274
INT 127 MID 140
DEX 280 AGI 387
LUK 39
(スキル)
【剣術 Lv28】、【採掘 Lv15】、【斬鉄】、【剣聖術 Lv4】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
シンテツの前に次々と現れるミスリルゴーレム。即座に斬り飛ばすシンテツをよそに折り重なっていくミスリルゴーレム。なんとミスリルゴーレムたちが・・・!?
次回:合体してキングミスリルゴーレムになった!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
4/12 登場人物ステータス追加。




