エピソード32
ドワーフ自治国のカザハたちが踏破したダンジョンのある反対側に茂っている不自然な森の前でシンテツとカザハは立っていた。正確に言えばカザハはシンテツの肩に座らされているので立っているわけではないのだが。
「なぜか師匠の肩に乗って移動するのにあまり違和感が無くなってきた気がする。」
「そうか?で、どうする。これからこの森に入るがこのまま行くか?」
「師匠の肩に乗る弟子って言うのも何か変だし、自分で歩くわ。」
カザハが軽やかに肩から飛び降りる。着地音はほとんどしなかった。その様子を見たシンテツがニヤッと笑う。
「成長しているみてえだな。じゃあ遅れずについて来いよ。」
「わかったわ。」
走り出したシンテツの後に食らいつくようにカザハが駆けていく。森の木は不自然なほど地上に根が張り出しており走りにくいはずだが、2人ともそんなことは関係ないかのようなスピードで進んでいった。
2人の通った付近の木がザワザワと枝を揺らす。
「?」
その動きに違和感を持ったカザハだったが、気を抜くとそのままシンテツに置き去りにされてしまうため、シンテツの動きをトレースすることに集中する。体格の違いすぎるシンテツの動きを自分が出来うる方法へと変換しながら後を追うのは並大抵の集中力で出来ることではない。イメージと体の動きの齟齬を悔しく思いながらも何とかシンテツに遅れずについて行っているのだ。
だからこそだろう。カザハがその異変に気付くのが遅れてしまったのは。
突然カザハの進路を防ぐように木の枝が目の前に現れる。
「くっ!」
とっさに小太刀を抜き打ち、その枝を斬り落としてそのまま走り続けたカザハだったがようやく周囲の異変に気が付いた。風も無いのに枝が動き、そして木の洞の奥に瞳のような物がある。そしてカザハが走り抜けた背後からメキメキと地面から根を引きはがして動こうとしているような音が響いているのだ。
「師匠、何ですか?この森!」
シンテツはカザハの方を振り返り、前方を見ずにひょいひょいと木をかわしながら走り続けている。
「ああ、この森は全てトレントだぞ。こんなはげ山に木がこんなに密集して生えるはずねえだろ。」
シンテツの進路を防ぐように立ちはだかったトレントをシンテツが蹴り倒す。くの字に折れたトレントが周りのトレントを巻き込んで転がっていく。一方でカザハは小太刀で邪魔になる枝を最小限斬り、スピードを落とさないように走っていた。
「なんでこんなところに!?」
「鍛冶するなら燃料がいるだろうが。」
「ドワーフのせいなの!?」
その事実に一瞬カザハの動きが止まる。その瞬間を逃さずトレントの太い枝がカザハの頭部を狙って放たれる。
「くっ!!」
ぎりぎりで察知したカザハは振り返りつつ何とか枝を斬ることに成功したが、切れた枝が頬を引っ掻きカザハの顔から血が流れる。しかしそんなことにかまわずに身を低くし、2度目の攻撃をかわすと再び走り始める。
シンテツはそんなカザハの様子を数メートル先で近づいてくるトレントを蹴り倒しながら見ていた。
「もうしばらくすれば抜ける。ついて来い。」
「はい!」
カザハはシンテツの後を時折迫りくるトレントを斬り裂きながらついて行った。
カザハとシンテツがトレントの森を抜けると、円形に広がった原っぱに1本の大木が立っており、奥の岩壁に穴が開いていた。そこが目的のダンジョンだ。
カザハは防具のおかげもあり頬の傷以外はほとんどが軽いものですんだ。この原っぱにはトレントは入って来れないようでカザハたちがいる数メートル後ろでうごめいている。
カザハがふぅ~と深呼吸する。
「お前、想定外のことが起こった時に止まる癖、直さんと死ぬぞ。」
そんなカザハを見ながらシンテツが平然とした顔をして言う。
シンテツは汗一つかいていない。まるで街中を散策でもしているかのように服装に乱れさえなかった。そんなシンテツを見ながらカザハは何も言い返すことが出来なかった。指摘されたことは実際自分でも直さないといけないと思っていることだからだ。
「わかってるんだけどね。それよりさっきの話だとここってドワーフがわざと育てているってこと?」
「まあ半分はな。」
「半分って、残りの半分は?」
「張本人に聞いてみろ。」
そう言うとシンテツはカザハを残して穴の方へと向かって歩いて行ってしまう。ふぅっ、と軽く息を吐き気合を入れなおすとカザハもその後を追った。
そして穴まであと半分、大木の手前でシンテツが歩みを止める。その大木をカザハも見つめる。
大木の高さは100メートルはあるだろう。一番低い枝でも40メートルは上にあり、木に登らない限りは触ることさえできない。幹も太く、自分が20人ほど並んだのとおなじくらいかなっとカザハは目算していた。
その時、とても低い地響きのような声が辺りに響いた。
「よく来たな、シンテツよ。」
「ああ、久しぶりだな。エル爺。若いもんのしつけをしておけよ。」
「ほーほっほ。あやつらは儂の子であって儂の子ではない。知性さえ持たぬ悲しき者よ。儂の出る幕はあるまいて。」
「うぜえんだよ。毎度毎度。」
シンテツが何者かと話すのをカザハは見ていた。いやカザハにもわかっている。わかっているのだが、人間以外の者が言葉を話すと言うことに衝撃を受けているのだ。
「して、そこの女児は誰じゃ?」
「ああ、俺の弟子のカザハだ。」
カザハが大木の上の方を見ると、そこにあった大きな目と、目が合った。先ほどまでのトレントとは違う穏やかな、理性のある目だった。
慌ててカザハがお辞儀をする。
「そうかしこまらんでもよい。我はエルダートレント、この森の長である。とは言え知性あるものは我しか居らぬがな。」
「カザハです。師匠の弟子です。」
言ってしまってからその自己紹介はどうなんだとカザハ自身思ったが、そんなことをエルダートレントは気にしないようだった。
「ほーほっほ。このくらいの人の子がここに来るのも久しぶりじゃのう。それにシンテツの弟子ときたか。将来が楽しみじゃ。」
「まだまだだがな。ほらっ、聞きてえことがあるんだろ。聞いてみろよ。」
シンテツに促され、カザハが口にたまった唾をこくっと飲みこみ意を決して話しはじめる。
「あの、このトレントの森を作ったのはエルダートレントさんなんですか?」
「いかにも儂じゃな。」
カザハの質問に鷹揚にエルダートレントが答える。原因はわかったカザハだったが更なる疑問が増え、その疑問もぶつけることにした。
「なぜですか?」
「そうじゃな。まずこの場所なのじゃが、そこにあるダンジョンのおかげで魔力が満ちておってな、儂にとってとても居心地がいい場所なのじゃ。人間風に言えば柔らかいベッドのようなものかのう。」
その言葉にカザハはうなずく。
魔力の多いところにモンスターは発生しやすいと言うのは冒険者ギルドで教えられて知っていた。
「儂が休んでおったらのいつの間にやらドワーフが街を作り始めたんじゃ。逃げようかとも思ったんじゃが、その時のドワーフの王や取り巻きは話の分かる奴での儂と契約を結んだのじゃ。」
「契約って?」
カザハのあいの手にエルダートレントの目がちょっと細くなり笑っているような感じになる。
「ドワーフは鍛冶をするための燃料が欲しい。儂はここに居たいが襲いかかってくる人間どもと戦うために動くのはまっぴらごめんじゃった。まあ儂の枝も貴重品じゃからのう。狙ってくる者も多いんじゃ。そこでドワーフたちが儂を守る代わりに儂はトレントを生み出してドワーフたちに提供すると言うわけじゃよ。」
その言葉にカザハが内心ほっとする。ここに来るまでにかなりのトレントの枝を斬ってしまっていたので大丈夫かなと不安だったのだ。
「面白い話聞かせてくれてありがとう。えっと、エルお爺さんでいいの?」
「好きに呼ぶとよい。またいつでも来るとよい。シンテツの弟子ならば歓迎する。」
話しが終わったのを察したシンテツが穴に向かって行ったので、カザハもエル爺に向かって一度礼をしてからシンテツの後を追いかけようとした。
「そうじゃ、これを持って行くとよい。」
「えっ?」
カザハの目の前に2メートルほどの長さの枝が落ちてきた。葉はほとんどついておらず表面のつるっとした枝だった。
「儂の枝じゃ。好きに使うと良い。」
「ありがとう。行ってくるね、エルお爺さん。」
エルダートレントの枝をアイテムボックスに回収するとカザハは改めて先を行くシンテツを追いかけて駆けだした。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
副職業:素材ハンター
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』、『坑道名人』、『ドワーフの友』
Lv24
HP 743/763 MP 145/145
STR 359 VIT 265
INT 124 MID 136
DEX 269 AGI 370
LUK 38
(スキル)
【剣術 Lv27】、【採掘 Lv15】、【斬鉄】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
エルダートレントからもらった枝にまたがり遊んでいると、いきなり空中へとふわりと浮きあがってしまったカザハ。悪戦苦闘しながらも空を飛ぶことを覚えたカザハはこれを商売にしようと画策する。
次回:オオカ巫女の〇急便
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
4/12 登場人物ステータス追加。




