エピソード27
夕日が赤い岩山をさらに赤く染めていく。周囲に既に他の人影は無く、2人分の足音が山道に響いていく。
夕日に照らされながら、カザハはちらちらと後ろを振り返りステータス画面の時計と見比べていた。その呼吸に乱れは全く見えない。一方、カザハに見守られながら少し遅れて走るユカナは息を荒げて苦しそうにしている。
「頑張らないと、門が閉まっちゃうよー。」
「・・・」
カザハの声に、死にそうな顔をしながら無言でユカナがスピードを上げる。上がったスピードの分だけカザハも走る速度を上げ、距離を一定に保ったまま街への道をひた走った。
走って近づいたことで門番を驚かせながらも、何とか2人は閉門時間前に街へ帰ることに成功した。そして門をくぐるとユカナはバタンと倒れ、ぜーはーと胸を上下させながら仰向けに大の字で寝転がる。空の赤色は黒に染まりつつあった。
そんなユカナの様子をカザハが呆れた顔で見下ろす。
「たったの5分程度だよ。」
「・・・」
両目を閉じて息を整えていたユカナが片目を開けてカザハを見上げる。息を整えていて返事はなかったがカザハにはユカナが不服に思っていることがわかった。
遠くから倒れているユカナを心配そうに見つめている門番にカザハが大丈夫だと手を振って伝える。
「ほらっ、門番さんも心配してるから早く立ちなよ。」
カザハが右手を差し出し、その手をユカナが掴む。よいしょっとカザハが引き上げると、くでーっとしながらもなんとか立ち上がった。
「レベルも上がってAGIもそこまで変わらないはずなのになんでだろうね?」
「うーん、隠しパラメーターでもあるのかも。」
「鍛冶の時はあれだけ頑張ってたのに。」
「まあ人って好きなことだと頑張れるよね。」
「はいはい。」
カザハがユカナの服についた土をパンパンと払ってあげ、王城へと向かう。夕食時の今、あまり多くはない居酒屋などはドワーフであふれていた。皆ジョッキを片手に美味しそうに飲み食べしている。漂ってくる匂いに誘惑されながら2人は王城への道を急いだ。
王城に着くと昨日と同じようなビュッフェスタイルの夕食が用意されていた。今日はシンテツの酒が出ているわけではないので住人が乱入してはいないが、王や王女に混ざって兵士などが同じフロアで食事している。
カザハたちも食事をとるように言われたので、昨日取らなかった料理を中心に取り、王やシンテツのもとへと向かった。
「ただいま。」
「ただいま~。リーン様、調子どう?」
「お帰りなさい。体調はもう大丈夫ですわ。」
2人が近くにいたリーンベルトに挨拶して、座って食事をとろうとして気づく。シンテツが今まで見たことがないくらい疲れた表情をしているのを。心なしか空気までどんよりしている気がした。
「し、師匠。何があったんですか!?」
「おう、気にするな。対価を払ってるだけだ。」
「師匠がそんなに疲れるなんてどんな要求されたの?」
シンテツの返事には覇気がない。精根尽き果てたという感じではないが、終わりの見えない作業をしているような、なんというか気力がわかないといった感じだった。そのシンテツの様子にレンガルドが笑う。
「ハッハッハ。心配するでないわ。希少鉱物が出る場所に入れる代わりにこの国の若者の指導をしてもらっとるだけじゃ。まあ100名ほどおるがの。」
「毎度、毎度多いんだよ、このジジイが。ジジイが教えればいいだろうが。」
「年寄りを働かせるでないわ。」
頭をはたこうとしたレンガルドの手をシンテツが止める。自分で年寄りといったレンガルドの手は筋肉の塊であり、誰が見ても年寄りには見えなかった。力こぶか盛り上がり、肉のきしむ音が聞こえそうな力比べが数秒続き、何事も無かったかのように2人は食事を再開する。この程度のやり取りは2人の間では挨拶のようなものだった。
「で、お前らはどんな感じだ?」
シンテツが肉の塊を口にほおばりながら2人を見る。早く座れと指さされたので2人はシンテツの前に座って食事を食べ始める。
「とりあえず私がレベル20、ユカナがレベル14まで上がったわ。」
「あとは、そうそう。銀鉱石も出たね。後はボス部屋を見つけたくらいかな。」
「ほう、そこまで行ったか。カザハ、小太刀を見せろ。」
シンテツが食事をやめて、真剣な表情になったのでカザハも食事をやめ、腰に装備していた小太刀をシンテツへと預ける。シンテツが鯉口を切り、小太刀をすらりと抜いた。相変わらず直刃の美しい小太刀だったが、今日一日酷使した結果か少しくすんでいるようにカザハには見えた。
「あそこにゃアイアンゴーレムがいたはずだな。何体倒した?」
「多分26体ね。」
「わかった。ではカザハに課題を出すぞ。カッパーゴーレムは倒さずにアイアンゴーレムだけを小太刀で100体討伐して来い。そしてユカナ。」
「はい。」
「お前【鍛冶】スキル取ったろ?」
ユカナがわかりやすくギクッと動揺する。その様子だけでその言葉が図星であることは誰の目にも明らかだった。しかしシンテツは怒っている様子はない。
「俺の携帯用鍛冶セットを貸してやる。採れた鉄鉱石なんかをインゴットに変えろ。それがお前の課題だ。方法は後で見せてやる。」
「師匠、怒らないの?」
ユカナが恐る恐るといった様子でシンテツに尋ねる。シンテツは何を言ってるんだこいつは、という顔をして食事を再開しだした。
「レベルが上がって取れるようになったなら普通取るだろ。むしろ取ってない方がやる気ねえのかってなるわ!まあ鍛冶師になる前にスキルを磨いても問題はねえよ。」
「わかった。頑張るよ。」
ユカナがやる気に満ちた顔で食事を食べ始める。2人の様子をハラハラと見守っていたカザハも安心して食事を食べ始めた。
ドワーフの食事は基本的に味が濃い。鍛冶仕事で汗をたくさん流すからなのかもしれないが、ご飯がほしくなるような味付けなのだ。しかしもちろんご飯などいまだにあの焼き串の屋台でしか見たことがないくらいなので、当然パンを食べるしかない。長期間滞在することになったら意外と大変かもしれないなとひそかにカザハとユカナは思っていた。
「そういえば、カザハはサブジョブを何にするんだ?」
食事を食べ終えたシンテツが細い針のようなもので歯の間に挟まった肉を取りながら思いついたように聞く。そんなシンテツの姿を嫌そうカザハが睨み付けた。
「師匠、お行儀が悪いわよ。」
「いいんだよ、めんどくせえなお前は。」
「面倒臭いじゃなくてマナーの問題よ、マナーの。」
しばらくカザハが睨んでいたが、まったく気にしていない様子のシンテツにはぁ~と大きなため息を漏らす。
「まあいいわ。サブジョブ、何にしようか迷ってるんだよね。せっかく師匠についているんだから剣術一本で行くつもりなんで。ユカナが本格的に鍛冶をするから採取系の何かにしようかなとは思ってるけど?」
「師匠的におすすめってある?」
「俺がすすめても就けねえ職もあるし自分の道ぐらい自分で考えやがれ。」
全くもって参考にならない意見だったが、自分の進む道くらいは自分で決めなければとカザハ自身も考えている。
とりあえずはこの後、部屋に帰ってログアウトしてから現実で昼食休憩後、戻ってきてユカナと一緒に神殿へと行く予定だ。神殿と各ギルドだけは24時間いつでもやっているので問題は無い。どんな職業がいいのか悩み、そしてちょっとワクワクしながら食事を終えるのだった。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『一匹狼』、『レアボスハンター』、『神のきまぐれ』
Lv20
HP 640/640 MP 125/125
STR 297 VIT 233
INT 111 MID 121
DEX 222 AGI 308
LUK 34
(スキル)
【剣術 Lv22】、【採掘 Lv7】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>(スキル判明)
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
称号:『神級鍛冶師の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』、『神のきまぐれ』
Lv14
HP 327/327 MP 175/175
STR 110 VIT 88
INT 177 MID 123
DEX 273 AGI 192
LUK 59
(スキル)
【付与術 Lv10】、【杖術 Lv9】、【採掘 Lv2】、【鍛冶 Lv1】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 初心者の杖
頭 なし
腕 一角ウサギの小手(ユカナ用)
上半身 一角ウサギの胸当て(ユカナ用)
服 一角ウサギのローブ(ユカナ用)
下半身 一角ウサギの脛当て(ユカナ用)
足 一角ウサギの靴(ユカナ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
深夜の教会へと向かう2人。そこはアンデットに占拠された恐ろしい館と化していた。知らずに迷い込んだ2人の銃が今火を噴く。
次回:ヘッドショットを決めろ!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
4/12 登場人物ステータス追加。




