エピソード23
カザハとユカナが息を切らせながら王城前へと走っていく。そこにはすでにシンテツが待っていた。
「ぎりぎりだな。」
「ちょっと雑貨屋で面白いものが多くて。」
「まだ5分前だよ。」
「見てみろ。」
シンテツが親指で自分の背後を指刺す。2人がシンテツの後ろを覗くと大勢の兵士たちが王城へと続く道の両側に2列になって整列していた。槍を上に向けたまま直立不動の体勢で微動だにしていない。その様子にカザハとユカナの表情が固まる。
「ドワーフってのは質実剛健を地で行く奴らだからな。約束を破る奴にはとことん厳しい。それだけは覚えておけよ。行くぞ。」
シンテツがそれだけを言い残して王城に向かって歩いていく。それを見送ってしまいそうになりながら、ロボットのようなぎくしゃくとした動きでシンテツを追いかける。並んでいるドワーフの兵士たちの横を通ると兵士たちが一度槍を持ち上げ地面を叩くという動作で歓迎の意を示し、3人が歩みを進めるごとにドン、ドン、ドン、ドンと槍が地面を叩く音がリズミカルに続いていった。
神経をすり減らしながらやっとの思いでカザハとユカナが王城の扉の前へと立つ。すると扉がゆっくりと開いていき、王城内の様子が見えてきた。
王城とは言うが見た目は他の建物と一緒の卵型で、大きさだけが違うだけだ。外見は高さ10メートル縦横20メートルほどだろうか。
そしてカザハたちが中に入って見えたのは、5メートルほどの高い天井のだだっ広い円形の部屋だった。そう、1階にはその部屋があるだけで他には何もなかったのだ。
部屋の隅に兵士が数人立っており、部屋の奥には顔にしわが刻まれ、立派な白い髭をした老齢のドワーフの男とピンクのドレスを着た若いドワーフの女性が座っていた。
シンテツがずんずんと進んでいくのでカザハとユカナはついていくのだが明らかに挙動不審だった。日本で育った2人にとって王様といえば本や海外ニュースなどで見るくらいのものであり、自分たちとは縁遠い存在だからだ。ゲーム内だとわかっていても、その厳粛な雰囲気に気圧されてしまっていた。
2人の胸内は説明不足のシンテツに対する不満、どうしたらいいんだろうという不安がごちゃ混ぜになり、混乱していた。
王と思われるそのドワーフの男の手前2メートルほどの所でシンテツが止まる。そしてその男とシンテツが目を合わせる。
「ほらっ、酒持って来てやったぞ、頑固ジジイが。」
シンテツがアイテムボックスからシンテツの身長ほどある酒樽を取り出し、王の前にドスン、と置く。その言葉と行動にカザハとユカナが目を白黒させた。とても一国の王に対する対応ではない。しかしドワーフの王は破顔するとハッハッハ、と楽しげに笑い始めた。
「相変わらずじゃな。よし、今日の仕事は終わりにするぞ。宴会の用意をせい!」
その王の言葉と共に今までの厳粛な雰囲気が嘘だったかのように、執事やメイド服の女性たちがどこからともなく現れて、その部屋の中央にいくつものテーブルが並べられていく。そして大皿に盛られた料理がそこに並んでいった。
数人のドワーフがシンテツの持ってきた樽を持ち上げ台の上に載せると、のみでこんこん、と器用に穴を開け、次々とグラスに注いでいく。それは赤い色をしたワインのようなお酒だった。少しこぼれて手についたその酒を舐めたドワーフが幸せそうな顔をしている。
カザハとユカナがあっけにとられながらその変わっていく部屋の様子を見ていると、シンテツにぐいっと反対側を向けさせられた。そこには王と女性が立っていた。
「こいつがカザハ、でこっちがユカナ。俺の新しい弟子だ。」
「カ、カザハです。」
「ユカナです。」
シンテツの紹介に慌てて2人が自己紹介をする。どうやって礼をすればいいのか迷い、結局2人ともお辞儀することにした。その様子を王はわが子の事を見るかのように優しい笑みで見ていた。
「儂はドワーフ自治国、現国王レンガルド・フォン・スミスじゃ。そしてこっちが・・・」
「娘のリーンベルト・フォン・スミスですわ。」
レンガルド王とリーンベルト王女が軽い感じで自己紹介してくれたのだが、それでもカザハとユカナは2人に見とれてしまった。芸能人はオーラがあるとか言うが、それをもっと強くしたような感じだと言えばいいのか。行動、言葉に関係なくその場にいるだけでオーラがあるのだ。
慌ててもう一度そろって頭を下げた2人だったが、混乱した頭の中で1つの単語が引っ掛かった。頭を下げた状態でお互いに顔を見合わせる。2人の目は言っていた。スミスって言ったよねと。
「甥は息災かね?」
「ああ、まあなんとか見れる物を作れるようになって来たぜ。こいつの装備はあいつの作だ。」
ユカナの防具や短剣をレンガルドが興味深げに見ていく。ユカナはマネキンのように直立不動のまま動けなくなっていた。その周りを何度も回った後、ぽつりとつぶやく。
「ふむ、まさにまあまあという言葉が良く似合うのう。」
「相変わらず甥に厳しいな。」
「それはお主も同じじゃろう。」
「そりゃそうだ。」
2人がワッハッハ、と笑っているのをぽかんと見ていたカザハたちにリーンベルトが近寄ってくる。リーンベルトは栗色の髪をアップにしており、目がキリリとした気の強そうな美女だった。ドワーフの年齢についてはいまいちカザハたちにはわからないのだが自分達より下と言う事はないだろう、そう思わせる何かがあった。
「父様とシンテツ様に付き合っていては面倒ですわ。お2人とも一緒に食事でもいかがです?」
「「はい。」」
2人が即座に返事をする。その申し出はどうしていいのかわからなかった2人にとってありがたいものだったし、なんとなくではあるがリーンベルトが2人と話したがっているような雰囲気を感じたのだ。
ちょっと気後れしながらもリーンベルトと一緒に料理をよそっていく。食事はビュッフェ形式で皿に自分で盛って行くのだが見慣れない料理も多く、リーンベルトに説明してもらいながら2人はよそっていった。最後にリーンベルトは躊跨なくシンテツが持ってきた酒を手に取ったが、さすがにカザハたちは飲めないので酒を割るために用意されていた水をもらう。水をもらっていく時に給仕してくれたメイドが驚いた顔をしていたのはこの国だからだろう。
料理をとり終え、どこに座るんだろうと椅子を探していたカザハとユカナだったが、リーンベルトが適当な床に腰を下ろしたのを見て理解する。椅子に座らないんだと。いつまでも立ったままなのもおかしいと思い床に座り、すでに食事を食べ始めていたリーンベルトを見てどうしたものかと考える。
「あの、王様の挨拶とかはないんですか、リーンベルト様?」
「そんなものはないですわ。ドワーフにとってこの街にいる皆が家族。対外的な意味で王を名乗っていますが、どちらかといえば大きな家族のお父さんといった方が適当ですわね。そのうち街の皆も酒の匂いを嗅ぎつけてここにやってくるでしょうから早めに食事をした方がいいですわよ。」
「「はあ。」」
王や王女というイメージとかけ離れたその言葉に2人は生返事しか出来ない。しかしリーンベルトの言葉が正しいことを証明するかのように、王城には続々と街着のドワーフたちが酒や食べ物を片手に入ってきては酒を飲んで笑い合っていた。まさに家族という言葉が似合う光景だった。
そんな様子を見ながら食事をしていたカザハとユカナだったが、リーンベルトが何かを話そうとしては口ごもるのを繰り返していることに気づく。
「何かありましたか、リーンベルト様?」
カザハが尋ねると、あっ、うっとすこし言葉を詰まらせながら話し始めた。
「フォルは、フォルテスラは元気かしら?」
「フォルテスラ?」
「シンテツ様の所で修行している従兄のフォルテスラのことですわ!」
その言葉に2人がああ~スミスさんの事かと納得する。そして見る見るうちに真っ赤になっていくリーンベルトの顔を見てピーンと女の勘が働く。
「スミスさんなら元気ですよ。いろいろなことを優しく教えてくれるいい人ですよね。」
「そうだよね。イケメンだし、そういえばスミスさんの近くに最近女の人の影が・・・」
「ええっ!!」
リーンベルトがフォークを取り落す。その顔は真っ赤になったり、真っ青になったりを交互に繰り返している。その様子を見て2人は確信する。これはいいことに気づいたと。
「全くないよね。」
その言葉にあからさまにほっとした表情で胸をなでおろすリーンベルトの様子に、カザハとユカナの王族を敬うという気持ちを人の恋路に関する興味が塗りつぶしていく。
「ひょっとしてリーンベルト様はスミスさんじゃなくってフォルテスラさんが好きなんですか?」
「そ、そんなことは・・・」
「正直に言っちゃいなよ~。言えばいろいろ教えちゃうよ~。」
「う、うう・・・」
キャッキァ、とガールズトークを展開させる3人をよそに、街中を巻き込んだその宴会は深夜になるまで続いていった。
◇----登場人物ステータス----◇
前回と変更なし。
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:『剣聖の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』
Lv15
HP 482/482 MP 100/100
STR 223 VIT 191
INT 91 MID 100
DEX 162 AGI 232
LUK 28
(スキル)
【剣術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
称号:『神級鍛冶師の弟子』、『鍛冶師ギルドのお墨付き』、『世界を股にかける者』
Lv4
HP 172/172 MP 91/91
STR 53 VIT 48
INT 89 MID 72
DEX 110 AGI 96
LUK 32
(スキル)
【付与術 Lv3】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 初心者の杖
頭 なし
腕 一角ウサギの小手(ユカナ用)
上半身 一角ウサギの胸当て(ユカナ用)
服 一角ウサギのローブ(ユカナ用)
下半身 一角ウサギの脛当て(ユカナ用)
足 一角ウサギの靴(ユカナ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
リーンベルトの想いに気付いていながら、気づかないふりをするスミス。僕たちが付き合ってはいけないんだ、スミスが言ったその言葉の真実とは!?
次回:友情と愛情の狭間
お楽しみに。
予告ですので実際の内容と異なる場合があります。
4/12 登場人物ステータス追加。




