エピソード17
鍛冶師ギルドの紋章が刻まれた立派な両開きのドアの片方の蝶つがいが壊れ、その役目を果たさなくなったドアが無残にギルドの床へと転がる。
周囲の音が消える。1番近くにいたカザハとユカナは口をあんぐりと開けたまま、風通しの良くなった鍛冶師ギルドの玄関を見つめていた。
「よしっ!!」
「よしっ!じゃないわよ。反対側に人がいたらどうするつもりなの!?」
「そうだよ、師匠!」
そのままドアを踏みつて鍛冶師ギルドへと入っていこうとしたシンテツの服をカザハとユカナが掴んで必死に引き留める。そんな2人をシンテツが何言ってんだこいつらは、という顔で見ていた。
「そんなもん、反対側に人が居ねえことを確かめたうえでやったに決まってんだろ。カザハ、俺の弟子ならそのくらい気づきやがれ。」
「何、その能力の無駄遣い!!」
シンテツにも他人を巻き込まない程度の配慮はあったらしい。2人が一瞬ほっとしかけて、いやドアを壊すこと自体まずいから、と表情を再び引きつらせる。
いきなりドアが破壊されたことで止まっていた周囲の人びとの時が、次第に動き出す。プレイヤーたちは3人を見ながらこそこそと話し、ギルドの中からは若い職員が数名こちらに向かって走ってきていた。
「誰だ、伝統ある鍛冶師ギルドの扉を壊しやがった馬鹿は!!」
体格の良い、剃髪の20代後半くらいの男が壊れたドアと3人の方を見ていた。その表情は怒りを隠していない。顔が真っ赤になりタコのように見える。
シンテツがその男に向かって歩いていき、それに2人も続いた。2人の入った鍛冶師ギルドのホールは円形で1階と2階が吹き抜けになっており、天窓から差し込む光と合わせて開放的な雰囲気だった。こんな事態でなければ。
「俺だ。ほらっ、お前が午前中に無理だと言った鉄のロングソードだ。鍛冶師ギルドの一員なら武器の鑑定くらい出来るんだろ。見てみろよ。」
「お前は朝に来やがったほら吹き野郎じゃねえか!!」
シンテツが背中に背負っていた鉄のロングソードをその男の眼前へとつきだす。しかし男はそれを受け取らず、あまつでさえ、そのシンテツの打った剣の鞘を拳で打ち払った。
剣がカランカランと音を立てて床を転がっていく。
「お前のようなほら吹き野郎が打った剣なんて見る価値なんてねえ。」
「てめえ、殺されてえらしいな。」
シンテツから殺気が膨れ上がる。その殺気にその男だけでなく周りにいた全員が動きを止める。いや、強制的に止められた。
動いた瞬間に自分が殺されるのではないか、そう勘違いしてしまうほどにその殺気は恐ろしい物だった。
そんな中で1番早く回復したのはカザハだった。転がった鉄のロングソードのところへつかつかと歩いていき、今まさに鞘から抜こうとしているシンテツの腕を必死に押しとどめる。
「はやまっちゃダメ、師匠。ストップ、ストーップ!!」
「うるせえ、切れ味を体で確かめさせてやるだけだ。半分しか殺さねえよ!」
「それって半殺しにするってことじゃない!ユカナ、ユカナ!手伝って!!」
「・・・はっ。うん、今いく!」
カザハの呼びかけで正気に戻ったユカナと2人がかりでシンテツを押さえる。シンテツが本気を出せば2人など関係なく切り捨てられるはずだが、弟子に怪我をさせるわけにもいかん、と纏わりつく2人のせいでなかなか身動きが取れなくなっていた。
「何をしておる!!」
その時、フロア中に響き渡るビリビリと震えるような大声を発し、1人の人物が階段から降りてくる。
その男は50代ほどで豊かな髭に所々白髪の混じらせ、その顔には深いしわが刻まれていた。浅黒く日焼けしたその肉体はボディービルダーのように筋肉が隆々であり、彼が只者ではないことをうかがわせた。
ギルド長だ、ギルド長が来たぞと周りから声が聞こえ、カザハとユカナが確かに貫禄があるなあ~と場違いな感想を抱いていると、再びギルド長の声が響く。
「グリガン、そこの3人を連れて儂の部屋へ来い。他の皆は業務に戻れ。これ以上恥をさらすなよ!」
そう言い残してギルド長が階段を上り、ある一室に入っていく。ギルド長の登場でなぜかシンテツの殺気が薄れたこともあり、鍛冶師ギルドが徐々に普段の姿を取り戻していく。
買い取りカウンターで素材を納入する商人や、依頼の品を納品する鍛冶師、依頼の掲示板を見る人など様々だ。もちろん3人には近寄って来ず、見ている者も遠巻きにしているが。
ギルド長にグリガンと呼ばれた、剃髪の男が先ほどまでの真っ青な顔を変え、こちらを見てにやついている。
「へへっ、せいぜいギルド長にしぼられるんだな。下手をすればギルドの資格はく奪だ。ざまあ見やがれ。今後は口のきき方に気をつけるんだな。」
3人だけでなく周囲にも聞こえるような大声でグリガンが話す。その様子に流石にむかっときたカザハとユカナだったが、2人の肩に手がそっと置かれる。先ほどまで怒り狂っていたシンテツに逆に押しとどめられたのだ。
「さっさとギルド長室へ行くぞ。」
グリガンを無視し、シンテツが階段を上っていく。てめえ、無視すんじゃねえなどと叫びながらグリガンが後を追っていく。カザハとユカナも少し気後れしながらも後に続いた。
この場に取り残されればプレイヤーたちにどうされるのかわかったものではなかったことも彼女たちの背中を押した。
当事者たちのいなくなった鍛冶師ギルドのホールはしばらくして完全に平生を取り戻した。
重厚な濃茶色の木の扉の前に立つ。カザハとユカナは緊張していた。ギルド長の先ほどの貫禄のこともあるが、このようないかにも偉い人の部屋ですよ~という場所にまだ学生である2人は慣れていなかった。
それとなくお互いに身だしなみを確認し合っているとシンテツがノックもなくいきなりドアを開けた。
「「!!」」
「てめ・・・」
シンテツはそのままスタスタとギルド長室へと入っていき、そこに置かれていたソファーにどかっと腰を下ろした。しかしその行動がカザハたち2人とグリガンを驚かせて動きを固まらせた原因ではない。
その原因は扉の奥で頭を床にこすりつけ土下座しているギルド長の姿だった。
「何やってんだ、早く入ってこい。」
シンテツの言葉に、3人はギルド長が土下座したまま動かず、シンテツがソファーに偉そうに座っている異様なギルド長室へと恐々入ってくる。
そしてカザハとユカナが視線で促されシンテツの隣のソファーへと座る。ギルド長室のソファーは時に貴族との対応にも使われるため最高級品であり、その座り心地は最高であるのだが座らされている2人にとってはどうしようもなく居心地の悪いものだった。
「ギルド長、何やってるんですか。こんなほら吹き野郎相手に!」
自分のギルドのトップが土下座しているという異常事態に思考が止まっていたグリガンが顔を赤くしながらシンテツを指さしている。
その言葉を聞いた途端、土下座の姿勢のまま微動だにしなかったギルド長が立ち上がり、グリガンの顔を片手で握りつぶすように掴むとそのまま地面に叩きつけた。下がふかふかの絨毯でなければ大怪我していたであろう勢いだった。
「お前も謝るんだよ、馬鹿野郎が!」
そう言って土下座の姿勢に戻るギルド長と、頭を押さえつけられ身動きが取れずにじたばたしているグリガンをシンテツはただ黙って見ていた。
◇----登場人物ステータス----◇
前回と変化なし。
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:『剣聖の弟子』
Lv15
HP 482/482 MP 100/100
STR 223 VIT 191
INT 91 MID 100
DEX 162 AGI 232
LUK 28
(スキル)
【剣術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
称号:『神級鍛冶師の弟子』
Lv1
HP 140/140 MP 70/70
STR 35 VIT 36
INT 64 MID 54
DEX 73 AGI 69
LUK 25
(スキル)
【付与術 Lv1】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 初心者の杖
頭 なし
腕 なし
上半身 初心者の胸当て
服 初心者のローブ
下半身 なし
足 初心者の靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
カザハたちの前に突如として現れた巨漢。男は言う。シンテツさんは渡さないんだから。
次回:ギルド長はハーレム要員
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
4/9 加除修正しました。
4/12 登場人物ステータスを追加。




