エピソード1
ガン、ガン、ガン。
太陽のように燃え盛る炎の前でその炎と同じ燃え上がるような赤髪の20代半ばほどの男が、規則的に鎚を振るっていく。
鎚を持つその腕は力こぶしが盛り上がり、その額からは汗が滝のように流れ、その目には炉から噴き出した炎が映っていた。
男の表情に余裕はない。あるのは金属の声を聞こうとするその恐ろしいまでの意識だけだった。
工房に男の振るう鎚の音だけが響いていく。
「くそっ、やはりこの程度にしかならんか。」
砥ぎの作業まで進めた男がその剣を放り捨てる。まるで価値などないかのように。この剣を作り上げるために使った時間、気力など無かったかのように。
その様子を見ていたドワーフの男が慌ててその剣を拾い上げる。年のころは30代中盤くらいだろうか。栗色の髪に小さくがっしりとしたドワーフらしい体格の、しかし顔だけはシュッとした美男子と言ってもいいほどの男だ。
「うわっ、やめてくださいよ。師匠にとっては駄作でも十分価値はあるんですから。」
ドワーフが放り投げられた剣を確認するが、刃こぼれや傷などは一切ついていなかった。自分が打とうとしても打てないようなこのような剣を、駄作として捨てる師匠に初めは驚愕したものだが、もう慣れてしまっていた。そしてまだまだ追いつけそうにないと再認識する。
「そんなこと言ってるから、おめぇはまともな剣さえ打てねえんだよ。スミスなんていう大層な名前がついてるんだ。俺を驚かせる剣を早く打ってみやがれ。」
そう言うと師匠と呼ばれた男は、椅子にどかっと腰を下ろすと酒を瓶に入ったまま飲み始めた。酒好きのドワーフのスミスでさえ好まないアルコール度数80%以上の、酒なのかアルコールなのかわからないその液体を一気に飲み干す。そして空き瓶を机にダンッと置くとスミスに向かって宣言した。
「材料が不足してきたからちょっと龍狩ってくらぁ。」
龍と言えば災害クラス。下手をすれば国さえ滅んでしまうような相手を狩ることをただ薬草でも取りに行くかのように言い捨て、男は入り口に飾られている自らの2本の剣を乱暴に取り、両腰に装備するとそのまま工房から出て行った。
「いってらっしゃい・・・って聞いてないか。あっ、しまった。今日、神託にあった祝福の旅人たちが来る日だって知らせてなかった。・・・はぁ、まあいいか。うちには関係ないだろうし。」
スミスは師匠の出て行った工房の後片付けをしながらひとり呟いた。
ラーズ王国、王都モノミル。そこは北面を険しい山に囲まれ、東、南、西へとそれぞれ大街道が続き、国内の主な都市へと繋がっている。周辺諸国とは同盟が結ばれ、ここ数百年ほどは人間同士の戦争などは起こっていない比較的平和な国だ。
この国が周辺諸国から狙われない理由はいくつかあるが、大きな要因の1つに王都の北にある山に住む白龍シルヴェルナとラーズ王国の建国王が結んだ契約が関係してくる。
激しい戦いの末、シルヴェルナを追い詰めた建国王はシルヴェルナの命を救う代わりにこの国の守護をシルヴェルナに任せたのだ。その中でどのような話し合いがもたれ、そしてどのような契約がなされたのか今となってはわからないが、このラーズ王国が危機に陥った時はシルヴェルナが必ず助けに来る。それは歴史が証明していた。
その北面の白龍が住む山へと人影が一陣の風となって進んでいた。いや、風と言うのもおこがましい。風ならば認識できる。その人影は常人には見えない速度で山を登っていた。山は険しく、500メートル以上の垂直な壁を越えなければ先に進めないのだが、その壁を蹴りつけ壁に穴をあけながら何事も無かったかのように登って行き、そして頂上へと到達した。
そこには白き龍がいた。全長50メートルはあろうかと言う体を突然現れた赤髪の男の方へと向け、その巨大な翼を広げる。翼を広げたことにより巻き起こった暴風が男の髪とマントを激しく揺らしていく。その体は純白の鱗に覆われ、光を反射し美しい光沢を放っていた。そしてその口には鋭い牙が並んでいた。
「侵入者よ。ここがどこだかわかっているのか。用無き者はさっさと立ち去るがよい。追いはせぬ。」
白龍シルヴェルナの口から低く腹に響くような声が紡がれる。その声には【威圧】が込められており普通の者であれば恐慌に陥ってしまうものであった。しかし赤髪のその男は、スミスに師匠と呼ばれていたその男はつまらなさそうにシルヴェルナを見上げた。
「用はある。素材を取りに来た。」
それだけを言い、腰から1本の剣を抜く。金と銀が合わさったような独特の光沢のあるその刀身が太陽の光を受けてきらりと光る。
師匠はその剣をだらりと下げると構えもせずにシルヴェルナへと近づいていく。
「ほう、それは何か聞いても良いか?」
そう言いながらもシルヴェルナの口には魔力が集中しており、その魔力により周囲の空気が凍りつく。それだけでなく頂上付近の温度がだんだんと低下していく。
「ああ、お前自身だ。俺の剣のために死んでくれ。」
「痴れ者が!!」
師匠がそう答えるのと、シルヴェルナのブレスが吐き出されるのは同時だった。シルヴェルナのブレスにより師匠がいた場所だけでなく、その周囲も含めて真っ白に染まる。ブレスが終わった後に残っていたものは何もなかった。
シルヴェルナのブレスは氷属性。そして最強の絶対零度。マイナス273.15℃のそのブレスは防具の強度など関係なく全てを凍らせ、そして破壊する。それをくらって無事でいられる生物など存在しなかった。
「ふんっ、生意気な下等生物が。」
そう呟き、戦闘態勢から元の眠る体勢へと戻ろうとしたシルヴェルナの真下から声が聞こえた。
「ああ、貴様はこれからその下等生物に殺されるがな。」
その声の方を向こうとしたが、シルヴェルナには出来なかった。シルヴェルナの首は既に胴体から切断された後だったからだ。
頭を落とされたシルヴェルナにはそれでもまだ意識が残っていた。切断された首から血を噴き出させ、自分の胴体が倒れていく光景を見ながら怨嗟の声を上げる。
「ふふふっ、我を殺すか。だが我は契約により死なん。いつかこの借りは返させてもらう。」
「そのセリフは聞き飽きた。さっさと死ね。」
男の振るった剣により頭を両断されたシルヴェルナが言葉を発することは2度と無かった。
「くだらん契約を守り続けやがって・・・」
首を切断され、目を開いたまま死んでいるシルヴェルナを見ながら男は何とも言えない顔をしていた。しばらくしてシルヴェルナの体が光に包まれ始める。
「ああ、いかんな。」
男がもう片方の剣を引き抜きシルヴェルナの体へと突き刺す。
「解体せよ、フナユキ。」
フナユキと呼ばれた剣の刀身が消える。違う。消えたわけではない。ごく細い糸のような刃となりその糸がシルヴェルナを解体していく。シルヴェルナの体を包もうとしていた光は男が剣を突き刺した段階で消え去っていた。
「ご苦労、フナユキ」
剣の刀身が元に戻る。男の目の前には種類ごとに分けられた素材が並べられていた。しばらくは取りに来なくても良い量だ。とはいっても一番多い素材はドラゴン肉なので、またどこかに売り払わなければならない。男にとってはそれが一番面倒だった。しかしこの肉と引き換えに珍しい素材があったら譲ってもらう約束をしている商店などもあり、捨てるわけにはいかなかった。
「帰るか。」
男はアイテムボックスに素材を収納すると崖から飛び降りた。
王都モノミルの北、シルヴェルナ山と名付けられたその山の頂上に主たる龍は、今いない。
◇----登場人物ステータス----◇
名前:unknown
種族:unknown
職業:unknown
称号:unknown
Lv***
HP *****/***** MP ****/****
STR ***** VIT *****
INT **** MID ****
DEX ***** AGI *****
LUK ***
(スキル)
unknown
(装備)
武器 unknown
頭 なし
腕 なし
上半身 unknown
服 unknown
下半身 unknown
足 unknown
アクセサリ unknown
アクセサリ unknown
復活した白龍が街を襲う。少女に危機が迫るとき一人の男が立ち上がる。
次回:素材が何遊んでやがる
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
本日二話目です。
読んでくださりありがとうございます。
3/6 矛盾点を修正しました。
3/9 誤字などを修正しました。
3/28 全般の文章を加除しました。
4/11 登場人物ステータス追加




