エピソード15
ユカナが剣を打ち始めてどれほどの時間が経っただろうか。シンテツやスミスならばとっくにすべての作業が終わっているような時間になっても未だにユカナは鎚を振るっていた。
これは初めての鍛冶と言う事もあるが、ユカナが【鍛冶】のスキルを持っていないことが大きな一因だった。
すべてのスキルに言えることであるが、スキルはそれに関連することを補助する働きがある。【剣術】であれば素人でも体の動かし方や剣の振り方が理解できるようになり、【採掘】であれば採掘可能なポイントがわかるようになる。
それと同様【鍛冶】スキルにも補助があった。それは金属の加熱、冷却などの時間の短縮、そして素材の変形補助だ。この補助により本来であれば数日かかる作業をほんの数十分程度にまで短縮出来ているのだ。
圧倒的な不利の中、それでもユカナの目は死んではいなかった。しかしその目とは裏腹に、次第に鎚を振り上げる手は重くなり、全身から噴き出していた汗はいつの間にか乾いてしまっていた。
死にそうな顔をしながらも、ユカナは鉄を打ち続ける。その姿はまるで幽鬼のようであった。
しかしそれも長くは続かなかった。ユカナが振るった鎚が空を切り、あるべき場所で止まらなかったその勢いのままに、ユカナの体がゆっくりとその熱せられた鉄の塊へと倒れていく。
「ユカナ!!」
カザハが叫び声をあげ、ユカナを目がけて駆け出す。しかしカザハが止めるまでもなく、そばにいたスミスがユカナの体を優しく受け止めていた。
その事にほっとしながら、カザハはスミスに受け止められた体勢のまま動かないユカナを心配そうに見つめながら近づいていく。その後ろをシンテツがついていった。
「大丈夫?」
カザハの声を受けたユカナがゆっくりと体を起こす。その顔は青を通り越して真っ白だった。頬はこけ、ぷっくらとしていた唇はカサカサになり、その姿は見ていて痛々しい。
親友のあまりに変わり果てた姿に思わずカザハの手が伸びる。
「触るな!」
そのシンテツの強い言葉にカザハの手が止まる。そしてシンテツを非難するような目でカザハが見つめるがシンテツは全く相手にせず、ただユカナとその剣を見ていた。
「やめるか?」
「今やめたら弟子にしてくれる?」
「さあな?」
「じゃあ続ける。こんな中途半端じゃこの剣も可哀そうだし。」
短いやり取りの後、ユカナが再び鎚を振り始めた。しかし明らかにふらふらで力も入っていないことは誰の目にも明らかだった。
しかしそれでもユカナはそれをやめなかった。その姿を見てシンテツがフッと笑みを浮かべる。
「覚悟はわかった。しばらく寝てろ。」
シンテツがユカナの首へと手を置いただけに見えた。しかしその瞬間ユカナの体がぐらりと倒れ、その体をスミスがやさしく受け止める。
シンテツがユカナの握っていた鎚を取り上げようとして、苦笑いすると1本、1本気を失ってもしっかりと握られていたその指をはがしていった。そしてその鎚をユカナを支えていない方のスミスの手へと渡す。
「カザハ、ユカナを背負って連れて行け。スミス、妹弟子が初めて打った剣だ。手を抜くなよ。」
「はい。」
「えっ、それって・・・」
「いいから行くぞ!」
スミスが少し混乱しているカザハの背中へユカナを預ける。そしてカザハに向けて微笑みながらウインクする。
「多分追いかけて行けばいいと思いますよ。」
「はい。」
カザハは気を失ってぐったりとしているユカナの重みを感じながら、工房を出て行くシンテツの後を追った。
シンテツは食堂にいた。食堂の奥には一段上がった床があり、そこには絨毯が敷かれ、ちょっとした休憩スペースになっている。シンテツがその場所を指差したので、カザハはゆっくりとユカナをそこへ寝転がしていった。
ユカナの呼吸はゆっくりしたもので、顔色も先ほどまでの鬼気迫る顔ではなく、やつれてはいるが落ち着いたいつもの表情に戻っていた。その様子にカザハがほっと胸をなでおろす。
その時、ひゅんと何かが飛んでくるのを察知したカザハがその物体を右手で掴む。
「ポーションだ。とりあえず振りかけておけ。」
「渡すにしてももう少し方法を考えてよ。」
文句を言いつつもカザハがポーションをユカナに振り掛ける。カサカサだった唇には潤いが戻り、血色も良くなり、顔に赤みが差してきた。
しばらくすれば目を覚ますだろう、そうカザハは思った。
「カザハ、聞きてぇことがある。ちょっと来い。」
シンテツに呼ばれ真向いの席に座るように指示されたカザハは、後ろ髪をひかれながらも席へと座った。シンテツの目と表情からこれから大事な話をしようとしていることがわかったからだ。
「率直に聞く。あいつは何者だ?」
「何者って言われても私の親友で、銀狼族で付与術師のユカナとしか言いようがないんだけど。」
シンテツの質問の意味がわからなかったカザハだったが、シンテツが欲しい答えが自分の答えた内容ではないことはなんとなく理解していた。
案の定シンテツの表情は不満そうなままだった。
「そうじゃねえよ。なぜあいつはあそこまで鍛冶にこだわる。そしてなぜあそこまで出来る?」
「えっ、ユカナの鍛冶が完璧とかそういうこと?」
「違えよ。炉の温度管理や入れる時間、鎚の振るい方そのどれをとっても素人に毛が生えた程度だ。あのくらいのやつならそれこそごろごろいる。あいつが違うのは目だ。鍛冶に対して何らかの強い思いが無ければあんな目は出来ねえ。」
シンテツの言葉にあぁ、なるほどとカザハが納得する。
確かにユカナは鍛冶に対して人一倍強い思いを持っているだろう。それを自分が話してしまっていいのだろうか。その迷いがカザハの口を重くした。
しかしシンテツはゲームの中とはいえ、ユカナの師匠になるかもしれない存在だ。知っておくべきだろうとカザハは判断した。
「カナ、じゃないユカナの実家は代々鍛冶師の家系なの。ユカナもそんな家で育ち、父親や祖父が鍛冶仕事をしているのを見て成長して、そして自然と自分も鍛冶師になりたいと思ったようなんた。まあ、こんな手作業じゃなくて機械、うーんと自動で鎚を振るうような道具を使う鍛冶なんだけどね。」
こちらの世界で理解できるように苦心しながらカザハが続ける。シンテツは黙って聞いていた。
「師匠、この世界の鍛冶の神ってどんな人?」
「鍛冶特有の神がいるかは知らんが、生産全般ならば生産の神オシリスだろうな。」
シンテツが即答する姿を見て、さすが本当に神がいる世界だなと横道にそれた感想をカザハが抱く。
「私たちの元の世界では、鍛冶の神がいると考えられているらしいんだ。そしてその神は女性を嫌うらしく、ユカナは小さいころからの鍛冶師になると言う夢を女性だと言うだけで諦めなければいけなかったんだよ。」
「器の小せえ神だな。」
あっさりと言い放つシンテツに苦笑する。シンテツならばそんな神など斬って捨ててしまいそうだ。
「表面上はユカナは諦めたつもりだったと思う。でも心の奥底にはその思いが残っていた、それがユカナが鍛冶にこだわる理由かな。確信は無いけれど。」
そう、ユカナに直接はっきり聞いたわけではない。カザハの予想ではあったが間違ってはいないだろうと思っていた。それほどの年月を2人は一緒に過ごしていた。
「そんな理由か。もったいねえな、こんな才能のある奴が下らん理由で潰されるのは。」
「えっ、でもさっき師匠はユカナぐらいのやつはごろごろいるって?」
「ああ、技術的なものはな。こいつの才能はそんなことじゃねえよ。こいつは素材の声が聞こえてるんだよ。意識してか無意識にかは知らんがな。技術は後から追いつけるが、その才能は後から覚えることは出来ねえ。初鍛冶でどんなに不格好でも、打つべき場所を打つべきタイミングで打てるなんて奴はまずいねえよ。」
シンテツが立ち上がる。聞くべきことはすべて聞いたとでも言うようにそのまま食堂を出て行こうとし、その直前にカザハとまだ気が付いていないユカナの方を振り返る。
「目が覚めたらユカナも俺の弟子だ。そう伝えておけ。あと、もし神なんてよくわからんもんが弟子の道を阻むなら、斬ってやるから安心して自分の望む道を進め。お前もユカナもな。」
「はい。」
らしいなと思いながらカザハは出て行くシンテツを見送った。自分の頬が緩むのをカザハは感じていた。
そしてユカナの寝顔にも笑顔が浮かんでいるように見えた。
◇----登場人物ステータス----◇
前回と変化なし。
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:『剣聖の弟子』
Lv15
HP 482/482 MP 100/100
STR 223 VIT 191
INT 91 MID 100
DEX 162 AGI 232
LUK 28
(スキル)
【剣術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
称号:なし
Lv1
HP 140/140 MP 70/70
STR 35 VIT 36
INT 64 MID 54
DEX 73 AGI 69
LUK 25
(スキル)
【付与術 Lv1】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 なし
頭 なし
腕 なし
上半身 なし
服 なし
下半身 なし
足 なし
アクセサリ なし
アクセサリ なし
神殺しを決意したシンテツの元へ空飛ぶ円盤が現れる。そこから出てきたのは全身銀色の生命体だった。
次回:アイムユアファーザー
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
多分これでランキングから落ちます。
楽しかったような大変だったような複雑な気持ちです。
更新は続けますのでご安心を。
読んでいただきありがとうございます。
4/9 加除修正しました。
4/12 登場人物ステータス追加。




