エピソード12
中心街に向かうにしたがってプレイヤーの人数が多くなってくる。第一陣の時にカザハは経験していた。人が多すぎて背の低いカザハでは教会前でもみくちゃにされるのだ。そうならないようにわざわざ集合場所を教会の裏口から行くことのできる噴水広場にしたのだが・・・
「うわぁ、やっぱりこっちも多いよね。裏口から出ればすぐのところだし。」
そこにはカザハと同じ考えのプレイヤーで溢れていた。待っているのは第一陣のプレイヤーが多く、つけている装備の色はほとんど黒だ。黒鉄や始まりのダンジョンボスのアーミークイーンアントの装備である。
生産職らしき武器を持っていないプレイヤーは好き勝手な色というか、待ち合わせのために目立つ色の装備を着ているのだがその両者のギャップがひどいことになっていた。全体的に赤色の装備であるカザハも目立ってはいるが背中から羽根が生えた装備をしている男に比べれば大人しい方だ。
「うーん。」
つま先立ちをしながらきょろきょろと周りをカザハが見回すが、見つけられない。まあそもそも背が低いので得意ではないし、加奈のプレイヤー名も種族もわからないので探しようが無いというのが正直なところではあるのだが。
何もこれは意地悪をされているわけでなくカザハと同じく種族をランダムで選んでから加奈が決めるつもりだからだ。というよりもカザハが種族をランダムにしたのも、加奈の助言によるものである。
AWOにおける種族選択方法は、人間、犬人、猫人、エルフ、ドワーフ等の一定の種族から選択する方法とランダム選択がある。ランダム選択は選べない代わりに、低確率で通常では選択できないカザハの金狼族のようなレア種族と呼ばれる種族に当たる可能性があるのだ。
一度選択した後は選び直しが出来ないため、安定した道を取るか、ギャンブルしてみるかの二択になる。まあカザハ自身が今まで自分と同じ種族のプレイヤーを見たことどころか話さえ聞いたことがないので分の悪い賭けではあるのだが。
約束の時間がもうすぐなので神殿の裏口を見ながらカザハが待っていると、肩をぽんぽんと叩かれた。カザハが振り向こうとすると、肩を叩いた手の主の指がカザハのほっぺたをぷにっと押した。
「ハーイ、カザハ。」
いたずらが成功したことに笑みを浮かべながら、カザハと同じような耳としっぽをした銀髪の少女がそこに立っていた。
「あれっ、どこから来たの?」
カザハがこの公園を見回った時は少なくともいなかったはずであるし、その後はずっと教会の裏口を見ていて見逃したはずは無い。それをちょっと不思議に思ったのだが、そのカザハの反応が気に入らなかったのだろう。銀髪の狼耳の少女が頬を膨らませる。
「カザハ~。反応が薄いよ~。もうちょっとリアクションしてよ。芸人ばりに。」
「嫌よ。ただでさえ人目が多いんだから。それにしてもテンションが高いね。」
その言葉に少女がフッフッフと不敵に笑いながら、バサッと手を広げる。初期装備の初心者用防具セットであるためマントなどなく普通の軽装の鎧なのだが、カザハの目には少女がマントを広げたつもりであることが理解できていた。親友であるがゆえに。
「なんと、ランダムでレア種族が当たったんだよ。しかもカザハと対になりそうな銀狼族!!」
「おお~!!」
なんとなくのりでばちばちと拍手をする。周囲にいた数人のプレイヤーが良くわかっていない表情をしながらつられて拍手をしている。とても日本人らしい。
親友がそのプレイヤーたちに、どうも、どうもと手を振って応えているのをカザハは少し赤くなりながら我慢していたが、親友の腕をがしっと掴むと公園の出口に向かって歩きはじめる。
「とりあえず落ち着ける場所に行こうか。」
「え~!ここで少し話して、準備したら狩りに行こうかと・・・」
「いいから!」
「はい。」
カザハの剣幕に押され、少女が引きずられるのをやめて、その隣を楽しそうな顔で周りの景色を眺めながら歩く。そんな親友の姿を見ながらカザハはこっそりとため息をついた。
教会から歩いて10分ほど、住宅街の裏手にある一軒のこじんまりとした家の扉をカザハが開ける。チリンチリンと優しいドアベルの音が店内に響いた。
「いらっしゃい、カザハちゃんと・・・お友達かな?」
「おはようございます、マスター。奥のテーブルでもいいですか?」
「どうぞ、さっき常連さんも出て、落ち着いているからゆっくり使っていいよ。」
「ありがとうございます。とりあえずセット2つで。」
親友がぺこっとマスターに頭を下げながらも、店内やマスターを物珍しそうに眺めていることをちょっと申し訳なく思いながらカザハは奥の席へと向かった。
このマスターの喫茶店は通りから見ても周りにある普通の家と変わらず、看板も出ていない。カザハ自身もコルルと一緒にパンを配達して初めて存在を知ったくらいだった。
それ以来ちょくちょく寄っているのだが、他のプレイヤーがこの店に入っているところをカザハは見たことが無かった。いわゆる穴場スポットと言うやつだ。
2人が席に着くと円形のトレイを持ったマスターがやって来て、カザハたちのテーブルにコルクのコースターが置かれ、その上にレモンで香りづけされた水が出される。
「どうぞ。セットはすぐに持ってくるから。」
そう言って優雅にターンを決めてマスターが去っていく。その後ろ姿を見ながら銀髪の少女が感嘆のため息を漏らす。
「やっぱりすごいね~。動画では見ていたけど実感するとさらにすごいよ。」
「そうだよね。それはそうとして加奈のプレイヤー名はユカナでいいの?」
「うん。なんかレア種族が当たった嬉しさで考えていた候補がすっ飛んじゃって。デフォルトも嫌だし、早く始めたかったしこれでいいかなって。」
その言葉にカザハが苦笑いする。カザハ自身も全く同じ感じだったからだ。2人は親友というだけでなく似た者同士でもあった。
「それで職業はどうしたの?」
「付与術士にしたよ?」
「なんでまた?」
カザハが驚きの声を上げる。付与術士は言葉の通り、物や人に属性や強化魔法を付与することに特化した職業だ。しかし1人で戦えるほど強くなるような成長は望めず、どちらかといえばサポート向きの職業に当たる。ユカナ自身が以前に中途半端で人気のない職だと言っていたことをカザハは覚えていた。
そんなカザハの反応に同意するかのように、ユカナ自身もうんうんと領いている。
「まず、私の銀狼族の特性としてAGIとDEXとLUKが高いんだよ。あとは若干INTが高いかな。完全に生産向きの種族なんだけど、せっかくカザハが一緒にゲームやってくれるんだから、やっぱりカザハと冒険したいし。だから直接戦力にならなくてもカザハをサポートできそうな付与術士にしてみました。」
無駄に敬礼をとりながらユカナが報告する。カザハが呆れた顔をしながら何か言おうとしたが、机にことり、とケーキと紅茶のセットが置かれたため黙った。
今日のセットのケーキはミルクレープのようだ。断面から見えるクレープと生クリームの層がとてもきれいで美味しそうだ。
「はい、セット2つ。お友達は初めての来店記念にラスクをおまけしておくね。」
「ありがとうございます。」
「どうも、ありがと~。」
さっそくユカナがミルクレープにフォークを突き刺し、口に入れると目を白黒させる。
「何これ、ありえないくらい美味しい。」
親友のそんな様子を見ながら、ここに案内してよかったとカザハは思った。カザハ自身も初めて食べたときは言葉を失ったものだ。
そんなユカナをさらに驚かせるためカザハが口を開く。
「マスターのケーキは絶品だからね。しかも食べてから2時間LUKが上がります。」
「うそっ!?」
「本当。」
思わずマスターの方を振り返ったユカナにマスターが微笑で応える。ユカナの反応に満足したカザハは自身のミルクレープの攻略にかかった。
口の中でクレープと生クリームが絶妙に合わさり、クレープのモチモチとした食感がそれを増幅させる。そのコンボにカザハが至福の表情になる。そして飲むと若干の苦みを感じるが、喉を通り息を吸うとさわやかな香りと共に苦みのすっと消えるマスター特製の紅茶との組み合わせでいくらでも食べられそうだった。
いつの間にか空になってしまったケーキの皿を残念そうに眺めながら、2人は止まっていた会話を再開させる。
「で、この後どうする?LUKも上がっているし外に戦闘しに行く?一角ウサギのレアドロップだと魔石くらいしか出ないけど?」
「うーん、美味しいケーキを食べたからゆっくりしたい気もするし・・・」
パリッとラスクを半分に折って片方を自分の口に、そしてもう片方をカザハの口へと持っていきながらユカナが考える。
差し出されたラスクをカザハがあんっ、と咥え、もぐもぐと食べ始める。やっていることはアーンなのだがここにその行為について突っ込む者はいなかった。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:『剣聖の弟子』
Lv15
HP 482/482 MP 100/100
STR 223 VIT 191
INT 91 MID 100
DEX 162 AGI 232
LUK 28
(スキル)
【剣術 Lv19】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 軍隊赤蟻の小手(カザハ用)
上半身 軍隊赤蟻の胸当て(カザハ用)
服 軍隊赤蟻の道着袴
下半身 軍隊赤蟻のすね当て(カザハ用)
足 軍隊赤蟻の靴(カザハ用)
アクセサリ なし
アクセサリ なし
<登場人物2>
名前:ユカナ
種族:銀狼族
職業:付与術師
称号:なし
Lv1
HP 140/140 MP 70/70
STR 35 VIT 36
INT 64 MID 54
DEX 73 AGI 69
LUK 25
(スキル)
【付与術 Lv1】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 初心者の杖
頭 なし
腕 なし
上半身 初心者の胸当て
服 初心者のローブ
下半身 なし
足 初心者の靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
遂に再会したカザハとユカナはその会えなかった期間を埋めるかのようにウサギ狩りに精を出す。
次回:逃げて!ウサギさん
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
読んでいただきありがとうございます。
4/9 加除修正しました。




