エピソード10
「よし、出来たぞ。カザハ、装備してみろ。」
「は、はい。」
シンテツが白色の鞘に納められた黒鉄合金の小太刀をカザハに差し出す。カザハはそれを受け取ると鞘から抜く。
鞘を腰につけ、正眼に構える。
鞘を放り投げるなんてことは絶対にしない。カザハは兄の5月人形の刀の鞘を放り投げた時のことを思い出していた。あの時は兄ともども祖父に数時間正座のまま怒られ続けたのだ。本物でないにしても鞘を捨てるとは何事だと。
「なんか持ちやすい?手に吸い付くみたい。」
ダンジョンで打ってもらった小太刀との違和感に、素直に感想を漏らす。もちろんそれは悪い違和感ではない。まるで自分の手が長くなったかのような握りやすさなのだ。
「ああ、ボス戦でお前の動きは見せてもらったからな。お前用に長さ、太さは調節してある。いいからしばらく振ってみろ。」
「はい!」
カザハが上段、正眼、下段、八相、脇構えと変えながら小太刀を振るっていく。最初は迷いがあったその動きはしばらくすると無駄がなくなっていき、カザハの顔に喜びが浮かんでいく。
まさしく自分の腕のように扱えるのだ。そしてまるで小太刀自身が生きているかのように、自分の思い通りに自ら動いてくれているかのように感じた。
「シンテツさん。この小太刀すごいです!!」
「ああ、良かったな。」
面と向かってお礼を言われたシンテツは少し気恥ずかしそうにしながら応える。しかし当のカザハは小太刀に夢中でそんなシンテツには気づかなかった。
一通り満足のいく動きが出来たカザハが何気なく小太刀を鑑定してみて、先ほどまでの滑らかだった動きが止まる。一度目をこすり、再度見てみて見間違いで無い事がわかった。
<黒鉄の小太刀(カザハ用)>
STR +370 AGI +90
耐久 250/250
品質 極上
装備ランク 8
作成者 シンテツ
神級鍛冶師シンテツによってカザハのために作られた黒鉄の小太刀。直刃で耐久性に富み持ち主の使いやすいようにオーダーメイドで作られた一品。
「性能が上がってる?それに品質極上って、いやそれより私用って何?」
剣を鑑定した姿勢でぶつくさと言いながら固まっているカザハを放置して、工房の奥の方へと行っていたシンテツが、木刀を持って戻ってくる。
「よし、カザハ。その剣が十分使えるように稽古をつけてやる。ついて来い。」
「えっ、えっ?」
「いってらっしゃい。」
シンテツに強制的に引きずられながら店の外へと連れて行かれるカザハを、スミスがにこやかに見送っていた。師匠、楽しそうだなと内心思いながら。
カザハがシンテツに連れてこられたのは防壁近くの何もない広場だ。近くには畑があるだけで人影は見えない。一番近くの住宅からも100メートルは離れているだろう。そこでカザハは小太刀を正眼に構え、隙をうかがっていた。
「ほらっ、好きに打ち込んできていいぞ。動かなくては何にもならん。」
シンテツはだらりと両手を下げ、木刀も持っているだけで構えてさえいない。
隙だらけだ。しかし隙だらけなのに隙が無く、カザハは動けないでいた。矛盾しているようだがその隙がすべて罠であるように感じ、どう動いても自分がやられる未来しか想像できないのだ。こんな状況は祖父と立ち会った時でも無かった。何とかできないかとカザハは打開策を考え続けていた。
しかし、訓練で動かなくては何にもならないのは事実。カザハは覚悟を決めるとじりじりとすり足で間合いを詰め、そして一気に動く。
踏み込みと同時に小太刀をすり上げ、そしてシンテツの頭に向かって振り下ろす。
カザハは真剣でシンテツは木刀だが実力差があるのはわかりきっていた。カザハは当てるつもりで小太刀を振り下ろしていた。
「面!!」
「ふむ。」
カザハが振り下ろした小太刀に合わせて、すくい上げるようにシンテツの木刀が振るわれ、小太刀の軌道が変わり、狙いが逸れる。
外れたと判断した瞬間すぐに小太刀を戻し、引きながら小手を放つ。
「小手!!」
「・・・」
木刀の柄の部分を刀身に当てられ狙いを外される。
そのまま下がると見せかけてつま先に力をこめて地面を蹴ると、シンテツの横をすり抜けながらに小太刀を振るう。
「胴!!」
「うむ。」
小太刀がシンテツにあたる直前、木刀が小太刀の刀身の横の部分に当たり、カザハの手をしびれさせ小太刀を取り落す。
現役時代はそれなりに有効だった攻撃があっさりと防がれたことに、カザハがため息を漏らす。そして手を振って痺れを取ると、小太刀を拾い正眼に構え直した。
「お前なあ、自分が攻撃する場所を正直に言ってどうするつもりだ?」
それを待っていたシンテツが呆れた目でカザハを見ていた。カザハが反論しようとするのをシンテツが手で待ったをかける。
「てっきり言葉と攻撃する場所を途中から変えてフェイントに使うのかと思えばそんなこともない。刃筋と力のかかる方向が完全に一致しているのはいい事だが、お前の剣は素直すぎるな。」
「・・・」
カザハには言葉もなかった。
剣が素直すぎる。
それは祖父にも言われていたことだった。お前の身長でその剣ではいずれ通用しなくなると言われ、そんなことは無いと努力したつもりだったけれど・・・カザハは頭を振り、それ以上の自分の思考を止めた。
「あと、お前には決定的な弱点がある。それを実感させてやるよ。」
そう言うとシンテツが初めてカザハへと向かって剣を振るってきた。しかしそのスピードはカザハと同じ程度に抑えられており、十分カザハでも対応できるものだった。
小太刀の刃にまともに当たれば切れてしまうだろう木刀は、巧みに刃からずらされ、小さな傷をつけるに留まっていた。そして同じ速さのはずなのに、カザハは反撃することが出来なかった。カザハが攻撃しようとすると、動こうとした瞬間にその場所へと攻撃が来るのだ。
ギリリと歯をかみしめながら耐えていると、突然視界が空へと切り替わり、カザハは仰向けに地面へと転がった。それと同時に足首に痛みと熱を感じ、足をすくわれて転ばされたのだと嫌でも思い知らされた。
カザハはすぐに立ち上がりシンテツに攻撃するが、次第に押され、最後は足をすくわれて転ばされる。それが何度も続いた。
カザハの動きがだんだんと鈍くなっていき、そして最後には地面に倒れたまま動けなくなってしまった。はぁはぁと荒い息を吐きながら倒れるカザハを、肩に木刀をちょいちょいっとかけたシンテツが見下ろしていた。
「まあ、もうわかっていると思うが、お前は足元への攻撃に対して注意が無さすぎる。動きの速さが特徴の金狼族のお前が足を潰されたら魔法のいい的だな。」
その言葉にカザハの耳がペタンと垂れる。
剣道には足に対する攻撃は無い。あくまで一定のルールに従って対戦を行っているからだ。しかしここはゲームとはいえ実戦だ。ルール違反なんて言い訳は通じないことはカザハも十分にわかっていた。
「まあここまでが悪い点だな。そして良い点だが俺としてはお前は才能があると思う。」
「・・・何のですか?」
倒れたままカザハがじっとシンテツを見つめる。
「剣を極める才能だ。お前の中の何かが変われば、お前はその次の段階に行けるだろうさ。そこで提案だ。カザハ、お前俺の弟子にならねえか?」
シンテツがまた茶化しているのかと体を起こしながら疑うような目でじっと見ていたが、シンテツの顔に冗談の色は全くなく、カザハの返事をじっと待っているようだった。
「鍛冶の・・ではないですよね。」
「ああ、もちろん剣術の方だ。毎日訓練するわけじゃねえ。お前が訓練したいと思った時に俺に言え。気分が乗れば訓練をつけてやる。そんぐらいの師弟関係だ。」
その言葉にカザハの瞳が揺れる。もしかしたらシンテツに教えを受ければ、自分はまだ成長できるのかもしれない、そう思わせる実力と存在感がシンテツにはあったからだ。
「わかりました。弟子になります。よろしくお願いします、師匠。」
「ああ、これから頼むぞ、カザハ。」
《剣聖に弟子入りしたため称号『剣聖の弟子』を手に入れました。》
「ってなんですか!?剣聖って!!」
弟子入りした途端いきなり流れたアナウンスにカザハが立ち上がり叫ぶ。その声に顔をしかめながらシンテツは空を見上げた。
「なんだぁ。弟子入りした程度で称号がつくのか。しかも神の声つきで。まあいい。カザハ、称号はつけておけよ。レベルアップ時に補正があるはずだ。」
「はい。・・・ってそうじゃないですよ。何ですか剣聖って、師匠って剣聖なんですか?」
「かなり昔そう呼ばれていたな。まあ気にするな。今の俺はただの鍛冶師だ。」
カザハが立ち上がったのを見て今日の訓練は終わり、とばかりにシンテツが帰ろうと歩き出す。これ以上質問に答える気は無さそうだとカザハは判断し、改めて自分のステータスの称号欄を確認する。
称号:剣聖の弟子
剣聖に認められ弟子入りした者に与えられる称号。レベルアップ時にHP、STR、AGI、DEXの成長補正(大)
あまりの効果にふっと意識が遠くなりかけるのを我慢する。カザハに構わず帰っていくシンテツを追いかけるためカザハは走り始めた。
◇----登場人物ステータス----◇
<登場人物1>
名前:シンテツ
種族:unknown
職業:神級鍛冶師
称号:『神級鍛冶師』、『剣聖』、etc.
Lv***
HP *****/***** MP ****/****
STR ***** VIT *****
INT **** MID ****
DEX ***** AGI *****
LUK ***
(スキル)
【採掘 Lv***】、【鍛冶 Lv***】、【剣術 Lv***】、【解体 Lv***】、etc.
(装備)
武器 ただの木刀
頭 なし
腕 なし
上半身 unknown
服 unknown
下半身 unknown
足 革の靴
アクセサリ unknown
アクセサリ unknown
<登場人物2> (称号獲得)
名前:カザハ
種族:金狼族
職業:剣士
称号:『剣聖の弟子』
Lv15
HP 482/482 MP 100/100
STR 223 VIT 191
INT 91 MID 100
DEX 162 AGI 232
LUK 28
(スキル)
【剣術 Lv13】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】、【***】
(装備)
武器 黒鉄の小太刀(カザハ用)
頭 なし
腕 一角ウサギの小手
上半身 一角ウサギの胸当て
服 街娘の服
下半身 一角ウサギのすね当て
足 皮の運動靴
アクセサリ なし
アクセサリ なし
シンテツの弟子となったカザハだったがその後に50人の妹弟子が増える。いろいろな手段で迫ってくる妹たちにカザハは陥落してしまうのか?
次回:覚悟してよね、お姉ちゃん
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
おかげさまで50ブクマ達成しました。
本当にありがとうございます。
記念投稿で本日二話目です。この話で第一章は終わりです。幕間を挟んで第二章に繋がります。
よろしくお願いします。
3/28 加除修正しました。




