第2話~破滅の欲望都市~
グロ注意です。これからも基本的に戦闘はグロいと思います。
飲食しながらお読みの方は食べ終わってから読んだ方が良いかと。
今から10年程前の事だ。当時、大陸統一を目論む神聖ハッサラム神国が他国に侵略の手を伸ばしていた。他国に様々な因縁をつけては、神の意志だとして制裁という名の虐殺を繰り返していたのだ。
だが神聖ハッサラム神国の行政府は、偽りの神託を武器にやりたい放題していた。まぁ結局は神聖ハッサラム神国以外の国からなる大陸大同盟連合にこてんぱんにされて、その領地には塵も残らなかったという話だ。ここまでは愚かな国だと馬鹿に出来るが、その更地は馬鹿に出来なかった。
その地には幾度となく繰り返された非道な行いの犠牲者達の魔力が、その怨みと絶望に染まって大地に染み込み、草一本生えぬ荒野と化したばかりか負の感情を好む魔物達が大量に集まって危険地帯になってしまったのだ。この事実を知った大陸大同盟連合は旧ハッサラム神国領への立ち入りを規制。腕の立つ冒険者ギルド員しか入る事は出来ない。
そして、集まった魔物が周辺諸国に流れない様に定期的に殲滅任務が実施されるのだが、今回はどうやら事情が違うらしい。
例年の平均を下回る数の魔物しか集まっていないにもかかわらず、魔物達が規制区域から進軍を開始したという情報が入ったのだ。
「その為に私が呼ばれたんだけど……規制区域内が気になるわね」
私、ミリアは冒険者ギルドのトップランクであるSランクの称号を持つ魔法使いだ。通常なら私への指名依頼は報酬が三倍が基本だが、この依頼はそうも言っていられないらしい。という事なので報酬は事後相談になった。
私は、探知結界を堂々と魔法で破って規制区域内に進入。そこには、いつもより遥かに騒がしいオークの群れが居た。魔物の表情なんか分からないし知りたいとも思わないけど、なにやら焦っている様子だ。オーク達の振る斧が妙に正直だ。普通ならフェイントを交えて挑発してくる癖に。
私は、他にも魔物が居る可能性を考えて魔力は出来る限り温存しておきたい。だから氷属性の初級魔法で対処する事にした。
「凍てつく魔力を我が剣に《アイスソード》」
魔法使い用の初級近接魔法、アイスソード。その名の通り氷で出来た片手剣だ。
五体のオークの内、一番先頭に居たオークの頭を狙った振り下ろしを半身になって一歩踏み出す事で回避。すれ違いざまに首に一閃。氷の刃は容易くオークの首を叩き斬り、その異常な冷気が切り口に蓋をした。
先頭からその後ろのオークまでの距離を走る途中で反対の手にもアイスソードを造り出す。そして、耳をピンッと立てて固まったオーク2体の間をすり抜けながら両手のアイスソードで両方のオークの首を跳ねる。その間も足は止めない。
私の活躍ぶりを見たからか震えだした最後の2体のオークを切りつけようとして、その直前にオークが弾けた。血飛沫と肉片が私に振りかかる。
いきなりの事に訳が分からない私の目の前に、突風と共に1人の男が姿を現した。青い知らない生地のズボンを履いて、上には礼服のジャケットのみを羽織っている。その下には胸をはだけさせた上質の白シャツ。腰からは銀のチェーンが吊り橋の様に覗き、鍛えられた胸には銀の小さな頭蓋骨が細いチェーンでぶら下がっていた。
服装も知らないが、なによりこんな濃い魔力を纏う人間を私を知らない。それに髪が不自然に盛り上がっている。
「貴方は……?」
勇気を振り絞って出した声は、意外にも敵意に満ちていた。その私の声に猟奇的な笑みを浮かべた男は、異様な雰囲気を辺りに撒き散らしながら私の問いに答える。
「ちょっと相談に乗ってもらおうと思ってな」
不穏な場の空気に私は思わず身構える。その次の瞬間、私は既に宙を舞っていた。何処を殴られたのかすら分からない程の痛みが全身を駆け巡る。息が出来ない事から、辛うじて腹か胸を殴られたであろうと推測出来るが、それだけだった。
痛みを堪えながら感覚強化魔法を無言で発動し、衝撃を緩和する防御魔法を自分にかける。衝撃を無効化出来る防御魔法もあるが、無効化しきれなかった場合に防御魔法が解けてしまう為に敢えて緩和の魔法にした。
一気に魔力を消費した事と、全身の痛みに気を失いそうになるのを堪えて無事に地面に着地。直ぐ様魔力消費量の少ない回復魔法を発動させる。だが低位の魔法なだけあって幾らか痛みが和らいだくらいの効果しか発揮しなかった。
一連の私の動作を、男は嬉しそうに見守っている。殺るなら今がチャンスだと感じた私は、雷属性の中位魔法である《雷撃針》を高速発動。男に向けた右手から一本の細い黄色の軌跡が発射される。その光は高速発動も合わさって私の魔力をごっそり持っていき、残りの魔力が保有魔力の4分の1を切った。
「嘘……」
でも私の不意討ちが男に届く事は無かった。矢の数倍は速いと言われた私の速攻コンボを男は軽々避けて、カウンターに足払いをかけて来たのだ。魔法を撃った直後の私が上手く動ける筈も無く、私は無様に地に転がった。
「ウッ……」
受け身すら取れなかった私に鈍い衝撃が走る。直ぐに立ち上がろうとするも最初の一撃が予想外に効いていた事もあって、身体が動くのを拒否した。
男が、仰向けで動けない私に近寄ってくる。規制区域内に入るんじゃなかったという後悔が押し寄せ、今回の緊急事態の理由が明白になった。
魔物達は分かっていたのだ。誰も抗えない災厄が現れたことを。だから、生きる可能性に賭けて規制区域内を飛び出した。周辺諸国に向かっていたのは魔物の軍隊などでは無かったのだ。災厄から逃げる魔物の避難民がたまたま諸国諸国の方に移動していただけで。というか、規制区域の周り全てが他国だ。仕方ない事と言えるだろう。
やがて死神の足音が止まり、私の顔に影が刺す。せめて嘲笑って死んでやろうと思い、開いたままの私の目に飛び込んできたのは刃でも魔法でも無く、細いながらも逞しい一本の手だった。
次話は主人公視点の予定です。
そろそろスタート地点から移動出来るかと。次回はそこまでグロくない戦闘が繰り広げられる予定です。