チラシを配るバイトで出会った二人の物語。
長いような気がします。今後の為に評価・感想お願いします!
今考えると完璧に騙されたと、思う。
バイトのことだけじゃない。
何もかも。
暑い。とにかく暑い。そうだよ、なんてったって、真夏なんだから。
ああ、なんで俺はこんな炎天下の中で立ってんだ?
俺にこのバイトの話が舞い込んで来たのは、丁度一週間前だった。美容院を開くと言う叔母からの誘いで、宣伝用のチラシを配ってほしいというものだった。一人分、空きが出てしまった、という理由で。誰もチラシを貰ってくれないし、虚しいだけだと最初は渋っていたが、叔母の一言に因って気持ちは変わった。そして今に至る。
「オバちゃんの嘘つき!」
溜め息を盛大につく。
「暑いし、誰も受け取ってくれんし、暑いし、暑いし!!!」
頭の中で叔母のセリフを反芻させる。
『大丈夫!ハルちゃん、カッコいいから。女の子、皆貰ってくわよ』
叔母の必死の言い訳にハマった自分が口惜しい。季節だってもっと考えるべきだった。文句を口の中でブツブツ言いながら、隣の仲間を覗き見た。肩口まで伸びた真っ黒な髪、見るからに暑苦しい長い前髪、今流行りの黒ぶち眼鏡。真面目一色。服だって、特別お洒落なわけじゃない。可愛い女の子だったら良かったのに、と更にテンションが下がる。
「君、あとどれだけ?」
スッと差し出されたチラシの数に驚いた。俺の半分以下だ。
「え!??ど、どうやってやったの!?」
答えるまでもなかった。彼が差し出したチラシを女の子達は断ることなく、貰って行くのだ。俺は少し悔しくなった。めちゃくちゃ顔がいい訳ではないけれど、大学でもモテている方だからだ。
「君、名前、何ていうの?」
俺は挑発的に話し掛ける。敵対心がバレバレだ。
「・・・・・・遊佐」
「ほう、遊佐君。俺は吉行ハル。一週間よろしく」
遊佐は少し驚いた顔をした。と言っても、顔は前髪でよく見えないのだけれど。
「・・・・・・よろしく」
遊佐はボソボソとそう言って、仕事に戻った。
その日から俺は遊佐にライバル心を燃やしながらも、頻繁に話し掛けるようになった。相変わらず奴の声は小さかったけれど、話すことは悔しいことに興味深く、実は気が合うことに気が付いた。
「俺さ、元々癖っ毛なんだけどさ、いっそパーマをかけてやろうと思ってるんだけど、どう思う?ストパーと迷うんだけど、俺じゃなくなる気がすんだよな〜」
「うん」
遊佐は特に何か言うわけでもなく、ただ黙って俺の話を聞く。
「遊佐の髪はストレートだな」
スッと遊佐の髪に触れた。すると遊佐はビクッとして、顔を背けた。
「あ、ごめん。触られるの嫌いなタイプか」
「いや・・・・・・」
それにしても柔らかい髪だった。少し羨ましいと思う。
「それにしても、今日は人が少ないな〜」
話題を変えてみる。うん、と遊佐が頷く。今日は本当に人が少ない。こんなに無駄話ができる。
「そーいやさ、遊佐って彼女とかいないの?」
ちょっとした沈黙が流れる。
「いないよ」
「へえ、モテそうなのに」
あんなに女の子にチラシを持って行って貰えるんだ。そりゃモテるんだろう。背だってあるし。俺だってデカいほうなのに、その俺と同じくらいある。俺達はそれから取り留めのない話をしながらチラシを配って、その日は終わった。
バイト最終日。やっとこの炎天下から抜け出せる。気分は良かった。
「遊佐!やったな、これでや・・・・・・っと」
遊佐の方を見ると、奴は女の子に話し掛けられていた。よく見ると、何度も見かけたことのある子だった。白い清潔感のある、可愛いセーラー服。水色のリボンがキレイに映える。有名な女子校の制服だ。
「いいなあ」
なんて呟いてみる。同時に少し虚しくなった。二人を仕事そっちのけで見ていると、女の子の顔がみるみる赤くなっていく。
「え、何?告白・・・・・・?」
不覚にも少し焦ってしまった。俺は関係ないのに。女の子の必死な顔。なんだか切なくなる。
「お願いしまーす」
俺は二人から目を反らして、ちゃんと最後のバイトを全うすることに決めた。チラシは相変わらず無くならない。皆、申し訳なさそうに頭を下げるのを見るとこっちも申し訳なくなる。
チラシを配ってて思うのは、一目ぼれには最適だということ。例えば、さっきの女の子のように。通りすがりに見つけて、一目ぼれしたら、毎日そこを通ればいい。配る方も自然に探してる。文句は散々言ったけれど、思ったより悪くないな、と思う自分に苦笑する。
最後のバイトが終わった。一週間は長いようで短かった。しっかりと半袖の日焼けの跡は残ったけれど。後は叔母の頑張り次第だな、と一息ついた。
「お。モテモテ遊佐君」
ヒヒヒとやらしく笑ってやった。やっぱり遊佐は無表情だった。
「で?返事は?」
自分のことのようにドキドキしてしまう。
「断わったよ」
「もったいない!あの制服、有名お嬢様学校のだぜ!?」
俺は遊佐の肩を掴んで、ガタガタと揺らす。遊佐はびっくりして、目を見開いている。
「うん、知ってる」
「なんだよ、他に好きな子がいるとか?お前なら大丈夫だよ、カッコいいから。さっさと告白しちまえ!」
俺は半分自棄だった。なんで俺じゃないのか、と女の子を恨んでみたり。
「・・・・・・告白?」
「おう」
「駄目だよ、フラれるから」
「何で?」
「とにかく駄目」
「ま、俺には関係ないんだがな」
あーあ、とワザとらしい声を出して、叔母の店へ向かって歩き出した。そこでハッと気づく。
「え?!遊佐、好きな子いんの!?」
「・・・・・・うん」
「うわ、意外。冗談で言っただけなのにな」
わははと笑って、頭の後ろで手を組んだ。汗がジットリとしていた。
「そーいや、今日でお別れじゃねえの?俺達」
「そうだね」
「なに?メアド交換とかしとくべきなの?」
「さあ?」
遊佐が少し首を傾げた。それを横目で見て、俺も肩を竦める。
「まあ、お互いキャラじゃねえよな」
俺は開きかけた携帯電話と閉じた。
「ハルちゃん、千幸ちゃん、お疲れ様。助かったわ」
叔母は俺達に白い封筒を渡した。これまでの給料だ。それにしてもチユキって。多分遊佐の下の名前だろう。随分可愛らしい名前だな、と微笑んでしまう。
「これ、何に使おうかな〜。あ、バイクとか欲しい。これだけじゃ絶対買えないけど」
遊佐が何も言わないから、ただの俺の一人言のようになっている。
「そだ!お前、千幸っていうんだな。やたら可愛らしいな」
からかうように遊佐に話し掛けた。遊佐はジッと俺を見た。
「なっ・・・・・・なんだよ」
「やっぱり、メアド、交換しよう」
「はあ?」
「赤外線。こっちに送って」
遊佐がグイッと携帯電話を突き出した。俺も仕方なくそれに従った。
「よし。送ったぞ」
「じゃあ」
それだけ言って、遊佐は走り去ってしまった。
「何なんだよ」
俺だけがそこに残された。
ピピピ
「お、メール」
次の瞬間、俺は携帯電話を落としていた。
『言ってなかったけど、実は女なんだ 遊佐千幸』
え〜どうでしたでしょうか?ありきたりなオチになってしまったような気がします(汗)途中で気づいた方もおられるでしょう。未熟だ。全然恋愛じゃなくて、すいません!この二人の今後が書きたいです!そっちは恋愛になるといいな。