2話【理由】
「クソッ!!一体何なんだ」
若い男性は壁を蹴る。
6人は部屋の中でずっと黙っていた。
今から何が起こるのかわからない恐怖に怯えながら…。
「ここにいても何も変わらない…手分けして出口がないか探そう…」
30歳くらいの男性がみんなに言う。
「僕は桜井歩だ。弁護士をやっている。よろしくな」
歩は呑気に自己紹介をする。
「情報は大切だ。僕達は同じ理由で連れてこられたようだからな」
「あ…私は三木綾架です。大学一年生です…」
歩の言葉に部屋の隅に座っていた黒髪の少女が言う。
「伊藤和俊…。フリーターです…」
和俊も流れで自己紹介をしてしまう。
歩の言うことも一理あると思ったからだ。
「私は橋野哲郎です…。会社員だったのですが、クビになってしまいました」
頭を掻きながら言う男性。
この中では最年長だろう。
「板田明美よ。25歳の主婦。よろしくね」
余裕そうに明美はウインクをしながら言う。
若い男性も渋々口を開いた。
「横田裕次郎だ…。一応読者モデルやってる」
これで全員の名前を知る事が出来た。
「どうするんですか?」
和俊は歩に聞く。
「まだ一つ聞かなければならない事がある……。君達は誰を殺したんだぃ?」
歩の言葉に皆は固まってしまう。
「僕は兄を殺したよ。優秀な兄でいつも優しかったんだけど、【優秀】だからプレッシャーだった……」
「俺も…そんな感じで両親を殺してしまいました」
和俊が言うと歩は優しく微笑んでくれた。
「俺はストーカー女を殺したよ。ファンだとか言ってアイツは異常だったからな…
あれを放っておいたら俺が精神的にやられてたよ」
「私は…彼氏を。私の事を大切に思っているんですけど
束縛が激しくて暴力もあって…耐えられなくなって……」
綾架の喋る声はだんだんと震えてきて今にも泣き出しそうだった。
「私は自分の子供を殺したわ。生活が苦しかったから…。5歳と7歳の子よ」
「私は会社がクビになり、生きていく気力がなくて一家心中しようとしたんです。
妻と娘を殺して自分も死ぬつもりだったんですがね…」
6人の殺した理由も人物も全員一致はしていない。
集められた共通点は【殺人】しかないのだ。
「じゃぁ次は二手にわかれて出口を探してみよう」
この事態に冷静に対応している歩に文句をいう者は誰もいない。
和俊・裕次郎・綾架は部屋を出て右へ。
歩・哲郎・明美は部屋を出て左へ行く事になった。
「何かあったら叫ぶんだよ」
歩の言葉に頷いて二手にわかれて歩きだした。
*****
「チッ…暗いな……」
廊下は薄暗く、近くにいる人の顔がやっと見えるくらいだ。
「どこかにブレーカーは無いんでしょうか…。キャッ!!」
綾架は軽く悲鳴をあげると転んでしまった。
和俊と裕次郎は綾架を起こしてあげる。
「ありがとうございます…。今何かにつまずいて…」
足元を見るが暗くてよくわからない。
しかし何かがある事だけはわかる。
その瞬間、廊下の明かりがパッとついた。
久しぶりの光に、三人は目を細める。
「あっちのグループが光を見つけてくれたのかも……」
和俊は安心する。
「キャアアアアアァ!!!!!!」
突然綾架が叫び和俊と裕次郎のほうへ飛びつく。
「ったく…何だよ。驚かせるなっつーの…」
しかし綾架の瞳からは涙がこぼれ落ちていた。
体も異常に震えている。
「あ……あれ…………」
綾架はさっき自分がつまずいた所を指差す。
和俊も裕次郎も言葉を失う。
そこには肘から下の腕が落ちていた。
5本の指は全てありえない方向に折れ曲がっていた。
爪も何枚か剥がれていた。
「な…何だよ…コレ。俺達が来る前にも誰がいたのか…?」
「何で腕が……」
呆然とする二人。
「これが【処刑】かよ…。一気に殺すんじゃなくて…もてあそんで殺すのかよ!!」
裕次郎は悔しそうに壁を殴る。
「何で俺達がこんな目に合わないといけないんだよ!!」
裕次郎は叫ぶ。
するとそこへ他の三人がやってきた。
「叫び声が聞こえたけど…何が………」
歩が三人に聞こうとしたが床に転がっている腕を見ると黙り込んでしまった。
「何よ…これ」
明美も哲郎も驚いている様子だった。
「一回部屋に戻って落ち着こう…」
歩の言葉に無言で頷き、6人はさっき集まっていた部屋へと戻っていった。
3話に続く……