大鋏蠍狩り 前
辺りは昼間とは思えない静けさに包まれている。周りに人の姿は無い。この延々と続く様にさえ見える街道の先には白い館の様な建造物がぽつんと建っている。
その街道をべクスとバスタは無言でずんずんと歩いていくと、これまでの街道の道のりに終止符が打たれた。
二人の目の前には先ほどとは違って堂々と白の館が建っている。
二人は躊躇う事なくその建物へと入っていった。
館へ入ると外の静けさと真逆で、がやがやとしていた。
それを気にせず二人は奥の巨大な掲示板へと足を運んだ。無言のまま。
その緑色の掲示板は縦の長さは自分達の背程だが、横の長さは先が見えない程だった。
その掲示板からべクスは一枚の漆黒の紙に白の文字で何かが書かれた紙を強引に剥がし、そのまま掲示板と対の方向にあるカウンターへと足を運んだ。
「この依頼をお願いするよ。」口を開いたのはべクスだった。
「免許証の提示をお願いします」
べクスとバスタは黒いカードを差し出した。
「畏まりました、すぐ手配をしますので少々お待ちください」と黒い目、黒い髪、黒い服と帽子と言う全てが黒い女性が言い、その女性はカウンターの奥へと歩いていった。
(腹まで黒いんじゃあねえのか?)べクスは根拠の無い事を心の中で思った。
「大鋏蠍は狩るのが始めてだな、べクス」
「ああ、だがどんな相手もとりあえずぶった切ればいいだろ」
「お前そんなんじゃ命がいくつあっても足りないぞ」
「そうかも知れないな」
そんな会話をしていると先ほどの女性が歩いてきた。
「手配を完了しました、移動の竜はどうしますか?」
「いらないです」二人は同時に言った。
「そうですか、それではお気をつけて」女性は小さくお辞儀をした。
二人もお辞儀をして館を出発した。
辺りは新緑のジャングル。小さく聞こえる滝の音が辺りの静けさを引き立てている。
二人は大牙猪の肉をほおばっている。
「この肉は上等な肉だな」バスタが肉を口に入れたまま喋っている。
「食事中に口の中を見せるな!」べクスが一喝した。
「わかった、今度から気をつけるとするよ」口に肉を入れたまま喋った。
「全然わかってないよ」
バスタは何も返さなかった。
「どうした?」肉をほおばりながら言っている。
「よけろ!」バスタが大声で言った。
その刹那地面が盛り上がった。
刹那の出来事を後ろに跳んで回避しその盛り上がった地面を見た。
「何だ‥あれ」べクスが言った。
「へっ、これで探す手間が省けたぜ。あいつが俺達の目的の大鋏蠍だぜ」バスタは興奮して言った。
「だったら話は早いな」そう言うと同時に後ろに迫った木を蹴って大鋏蠍へ向かって跳んだ。