その日、わたしは死んだ
その日、わたしは死んだ。
目覚めると窓先に広がる空は限りなく青く。
窓を開けてみれば、隙間から流れ込んだ風は心地よく澄んでいた。
いつ死んでもよかった。
理由はもはや分からない。
窒素しそうに窮屈でだるい学校だったのか。
なんだか面倒くさい思春期を活きてる友だちだったのか。
いちいち、わたしの行動に物言いたい母や父なのか。
全く明るくない未来なのか。
これから何十年もだらだら続く人生にうんざりしたからなのか。
よく分からないけれど、
もっともらしい理由なんて、誰かが責任逃れのために後から考えたらいい。
だって、わたしにはどうでもいい。
わたしはいつも、この世に生きていたくなかった。
だから、いつ死んを選んでも不思議なことではなかった。
紺碧な空のせいだろうか。
いつもなら目を開けることさえ面倒な身体がすんなりと起き上がる。
なぜか全てが軽くすこやかだ。
わたしは一晩過ごしてヨレヨレになっている綿のパジャマを着たまま、裸足でベランダに出た。
そのまま、ベランダの手すりを鉄棒のように掴むと、まるで体育の時間の前周りの練習みたいに、ヒョイと飛び上がると、躊躇うことなく、勢いよく柵を飛び越えた。
そのままくるりと回ったまま、わたしは地に落ちた。
遺書もない。
いつもの寝起きの姿でベランダから落ちた娘に、両親はどんな思いだったろう。
不幸にもマンションにある小さな公園に作られたレンガの花壇に頭から落ち、顔は破壊されてみるに耐えられなかったそうだ。
わたしが次に目覚めると、どこか冷たい、暗い部屋にいた。
天井から部屋を見下ろしている。
やはり、わたしは死んだようだ。
ミイラのように白くグルグル巻きにされたモノが横たわっている。
わたしだろう。
その脇に、ただぐったりと寄り添う女がいた。
母だった。
遠くを眺めれば、父は弟の脇に座っていた。
場所はどこか畳の部屋で、母がいる場所とは別。
泣く弟に、父は黙って寄り添っていた。
父の目も赤黒く、ただれていた。
母は何度も促されても、私と思わしき白いモノから離れようとしなかった。
泣きすぎて、声も出なくなっている。
掠れた声の嗚咽がもれる。
勉強しろ、帰りが遅い、毎日飽きずに怒れるもんだと思っていた母が泣いていた。
うるさかった。
嫌いだった。
でも、わたしは泣いていた。
もう、どうすることも出来ないのに、わたしは泣いていた。
父と母と弟を泣かして、わたしは何をやっているのだろう。
遺書もない娘の死に、家族はその理由も知らずに一生苦しみ続けることになるのだろう。
わたしはこの場に及んでも、あの青い空のせいにして、呪った。
目の前に霧がかかり、わたしは消えた。
お別れも言わずに。




