第9話:騎士団の訓練Ⅰ
お父様と同年代である国王様に『ロスタリカ家のことで聞きたいことがある』と呼び出されて、家族で王都に訪れた日のこと。
突然のことに驚いたものの、後ろめたいことは何もしていないので、私は家族と共に王城に足を運んでいた。
豪華な応接室で迎えてくださり、ケーキや紅茶まで用意していただいていたので、あらぬ疑いがかけられているわけではないだろう。
どちらかといえば、建国祭の日に起きた例の事件の謝罪を兼ねて招かれているんだと察した。
そんな事件を起こした身としては、王家の方々に追及されなくて安堵したけど。
国王様との会談を終えた後、私は個人的な時間を少しもらって、家族と別行動を取る。
先月、アルト様の手紙に騎士団の訓練に参加すると書かれていたので、コッソリと立ち寄ることにしたのだ。
「まあ、遠くで見守ることしかできないかもしれないけど」
騎士団の訓練を邪魔するわけにはいかないし、私も王城を一人でウロウロするわけにはいかない。
ましてや、国王様から連絡が届いたのは、アルト様の手紙を出した後のことで、彼に王城を訪れることは伝えていなかった。
だから、迷惑をかけないようにしないと……と、少しビクビクしながら訓練場に足を踏み入れる。
すると、すぐに強面の騎士に見つかり、ゆっくりと近づいてきた。
「こんなところにお嬢さんが何の用だい?」
「婚約者が訓練に参加すると聞いて、少し見学に来ました。事前に約束などしていないので、本当に様子を見に来ただけのような形です」
「そうか。運が良いか悪いかわからないが、今日の訓練はちょうど終わったばかりだ。どこかでバテていると思うから、自由に探してくれ」
「ありがとうございます」
強面の騎士に礼を告げて、アルト様を探してみるのだが……。
「ハア……、ハア……」
「明日もこれをやるとか、マジかよ……」
「み、水……」
とても厳しい訓練をしているみたいで、ほとんどの参加者が疲れ果てている様子だった。
タオルの一つでも持ってくるべきだったな、と反省しながら見回っていると、首にタオルを巻いて、地面に座り込むアルト様の姿を発見する。
武家の家系で有名なレクレーネ家出身なだけあって、彼はたくさん汗をかいているものの、まだまだ余裕がある様子だった。
婚約者フィルターがかかっているのかもしれないが、他の訓練生よりも体が引き締まっていて、ちょっとカッコよく見える。
そんなアルト様の元に向かっていると、私よりも先に三人の訓練生が近づいていった。
「聞いたぜ、アルト。お前、ベランダから落ちたところを、婚約者に助けられたんだってな」
「うわっ、マジダッセえ。女に助けられるなんて、俺だったら恥ずかしくて生きていけねえよ」
「その前にベランダから落ちるのが、ダセえ。普通は落ちる前に危ないってわかるだろ」
あからさまにアルト様を馬鹿にする三人は、煽るような言葉を並べている。
「……」
一方、アルト様は意外にも落ち着いていた。
私の中のアルト様は『うっせえ、女なんかに助けられたわけじゃねえよ』などといい、喧嘩しそうなイメージがある。
でも、現実は違う。
相手にするだけ無駄だと思ったみたいで、表情を変えることなく、口を固く閉ざしていた。
「こいつ、図星すぎて言い返してこねえぜ」
「そりゃそうだろう。爵位が高くても、ベランダから落ちるような奴だからな」
「もしかして、婚約者がいないと何もできないんじゃねえか?」
「……」
残念ながら、訊ねるタイミングが悪かったかもしれない。
せっかくアルト様が我慢しているのに、この場に私がいたら、彼の足を引っ張ってしまう。
建国祭の件で不穏な噂が流れているだけに、ここで大きな問題を起こすわけにはいかなかった。
今日は何も言わずに帰ろう……と思った次の瞬間、先程の強面の騎士がアルト様に近づいて、頭をワシャワシャッとする。
「お前は心も体も強くなったな。良い騎士になれると思うぞ」
「教官……。あ、ありがとうございます」
「頑張って訓練についてこいよ」
「はい」
アルト様に労いの言葉をかけた後、強面の騎士は三人の訓練生の元に近づいた。
「お前等は訓練をサボっていた分、元気そうだな」
「「「……」」」
あっ、どうりでその三人組は元気だったわけだ。
他の訓練生たちと比較しても体格が悪いから、日常的にサボっているんだろう。
「お前等の心は、ここにいる者の誰よりもダサい。そこで、俺が特別な訓練で鍛えてやろう。ありがたく思え」
「「「ヒィィィィィ!!」」」
情けない顔をした三人の訓練生は後退りするが、強面の騎士から逃げられるはずもない。
たくましい腕でガシッと肩を組まれて、奥の方へと引きずられていった。




