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「愛なんて感情は無駄なものだ、馬鹿馬鹿しい」と言っていたツンツン婚約者がデレ始めた件について  作者: あろえ


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第7話:早馬

 王城の不備で起こった事件だったこともあり、手厚い治療を受けた私は、スッカリ元気を取り戻していた。


 三食昼寝付きのダラダラした生活で、王城の専属薬師に診てもらうおまけ付き。


 ようやくアルト様との関係も前進することができたので、結果的にはよかった気がする。


 もちろん、お父様も心配してくれていたし、レクレーネ侯爵も謝罪に来てくれた。


 たまに国のお偉いさんが部屋を訪れてきて、事件の詳細を聞かれたのは困ったけど。


「建国祭という華やかなイベントで、大勢の貴族が参加していたことを考えると……。ううっ、また一段と悪い意味で目立ってしまった」


 婚約者にエスコートしてもらえない令嬢から、婚約者と池に落ちた令嬢という衝撃のイメージチェンジである。


 残念なことに目撃者がいなかったみたいで、王城のメイドさんたちの不穏な噂が聞こえてきていた。


『無理心中だったらしいよ』

『私は婚約者を突き落とそうとして失敗したって聞いたよ』

『殴り合いの喧嘩をしていたら、手すりを壊して落ちちゃったんじゃないの?』


 事件の詳細を入念に聞かれたのは、建国祭に似合わない不吉な出来事だと勘違いされたからだろう。


 私に対する面会も、関係者以外は拒絶する異例の処置が取られていたため、不穏な噂が流れるのも納得がいった。


 なお、心配してくれたラズリーの手紙が届いていたので、彼女には手紙でしっかりと説明しておこう。


 不穏な噂に関しては、国のお偉いさんたちが火消しをしてくれることを祈るしかなかった。


 そんなこんなで王都でゆったりと過ごした私は、予定よりも遅く領地に帰宅する。


 すると、不安そうな表情を浮かべた使用人たちが出迎えてくれた。


「お嬢様、大丈夫でしたか?」

「傷痕が残るようなことはありませんでしたか?」

「後遺症が残ったりは……」


 この短期間の間に、王都の誇張された噂が流れてきたのかもしれない。


 想像以上に心配してくれていて、半泣きになっている使用人までいた。


「特に大きな影響はないわ。とても元気よ」


 そこまで心配してくれるのは、素直に嬉しい。


 やっぱり実家は安心するなーと思った私なのであった。


 ***


 実家に帰ってきた翌朝、珍しく早馬で荷物が届けられた。


 緊急事態や急ぎの要件でもない限り、早馬が使われることはないだけに、我が家は緊張感に包まれる。


 しかし、荷物を受け取ったメイドは、少し厚めの小さな箱を持ったまま、首を傾げていた。


「旦那様宛ではなく、お嬢様宛のようです」

「私宛? 珍しいわね」

「送り主は……ご婚約者様、ですね」


 送り主がアルト様だと聞いて、余計にわからなくなってしまう。


 私が元気になった後、一足先に王都を出て、彼はレクレーネ家の領地に戻ったはずだ。


 わざわざ早馬を使うような用事があれば、王都で声をかけてくれたと思うんだけど。


「まさか不慮の事故に巻き込まれたとか……」


 王城でベランダの手すりが壊れるという珍しい事故を起こしただけに、不慮の事故が立て続けに襲い掛かってきたのかもしれない。


 急いで状況を確認するため、私はその場で荷物を開封する。


 すると、小さな箱の中には、いくつもの手紙が入っていた。


 手紙の表紙には、十一月分、十二月分、一月分……と記載されている。


「もしかして、今まで送った手紙に全部返事を書いて、早馬で送ってくれたのかしら」

「どうやらそのようですね」


 確かにアルト様は、手紙の返事を書くと約束してくれた。


 でもそれは、新しく手紙を送ったら返事を書いてほしい、という意味だったんだけど……まあ、いっか。


 有言実行しようとするアルト様の姿勢を悪く言う必要はないのだから。


 わざわざ早馬で手紙を届けなくてもいいのに……とは思うものの、彼が必死に失われた時間を取り戻そうとしてくれているんだと実感する。


「せっかく返事を書いてくれたんだから、自室で確認するわ」

「わかりました。では、部屋にお運びいたします」


 ちょっぴり上機嫌になった私は、早速、自室で彼の手紙を手に取った。


 まずは、約一年前に送った十一月分を読んでみる。


『ニーナの家の庭には、パンジーが咲いているのか。うちの庭にも咲いてる時期があるぞ。色とりどりの花がつくし、けっこう綺麗に咲くよな。でも、ニーナの家に行った時は見当たらなかったような気がするけど……気のせいか?』


 これは、うちの庭師が丁寧に手入れして、綺麗な花を咲かせてくれた時のこと。


 その年は例年よりも多くの花が咲き乱れて、とても鮮やかな光景だったので、手紙に書き記したのだ。


 ただ、アルト様と初顔合わせした時にも咲いていたので、彼も見ているはずなんだけど。


 花にあまり興味がなさそうだったから、忘れたのかな。


 次の手紙は、十二月分。


『刺繍をやり始めたのか? 下手だって笑われたって書いてあるけど、最初からうまくできるやつなんていない。俺も騎士団と比較したら、まだまだ下手くそな剣術しか使えないぞ。まあ……あれだ。元気出せよ』


 励ましの言葉を書いてくれるとは、意外だ……。


 そして、私がこんなことを書いたのも、自分のことながら意外だった。


「そういえば、初めて送った手紙に返事がなかったから、失敗した話を書いた方が返事を書きやすいかも……と思って、書いた気がする。まさかあんな恥ずかしい話を共有していたとは……」


 この時の私は、婚約者を振り向かせようと必死だった記憶がある。


 女性らしさをアピールするため、慣れない刺繍を始めたのだ。


「残念ながら、散々な結果だったけど」


 手に針を何度もブスブスと刺し、二週間もかけて作り上げた刺繍入りのハンカチは、とても他人に見せられる出来栄えではなかった。


 家族にも使用人たちにも苦笑いを浮かべられてしまったので、今でも棚の奥深くに黒歴史として封印している。


 今度アルト様に会った時、この話は忘れてもらうようにお願いしよう。


 次の手紙は、一月分。


『身長伸びたのか。悪い、俺も伸びまくってるから、全然気づかなかった。身長が変わると、服のサイズが変わるから大変だよな。そういえば、婚約者なんだから、ドレスを贈った方が……いいよな。俺、そういうのセンスないから、今度一緒に買いに行こうぜ。その……ついでにエスコートの練習もさせてくれ』


 ここで『ついでに』と書いてしまうところが、マイナス点である。


 ただ、アルト様が婚約者らしいことは考えてくれていることが嬉しかった。


 今まで本当に素直な気持ちを言葉にできなくて、空回りしていただけだったのかもしれない。


「こういった気持ちを教えてもらえると、可愛いで済む話なんだけどね」


 アルト様みたいな方は、手紙の方が性に合っているんじゃないかなーと読み進めていると、不意に走り書きしてある文字が目に留まった。


『ほんっとうにごめん! 前の手紙に書いたうちに咲いている花、パンジーじゃなくてチューリップだった!』


 もしかしたら、わざわざ使用人の方に花の種類を確認してくれたのかもしれない。


 私がお見舞いの花で我が儘を言ったことを気にしてくれているんだろう。


 そんなこと考えていると、アルト様の印象が少しずつ変わり始める。


 うちの婚約者は、まだまだ心が成長していない男の子なんだなーと。

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