第4話:素直になれないアルトⅠ(side:アルト)
武家の名門レクレーネ家に生まれた俺は、三歳の頃から騎士になるための英才教育を受けていた。
事あるごとに『騎士を目指すなら剣で語れ』と言われてきたこともあり、訓練中に愚痴や泣き言を言った記憶はない。
文句がある時は常に剣を取り、父上であろうが大人であろうが、決闘を挑んで気持ちを伝えてきた。
そんなある日、俺は父上に理解できないことを言われてしまう。
「アルト、お前に縁談の話を決めてきた。近々、初顔合わせに向かうぞ」
「縁談……? そんなの必要ない。騎士を目指すうえで、女なんて必要ないから」
「馬鹿なことを言うな。三流に騎士にでもなるつもりか? 本当に強くなりたいなら、守るべきものを見つけることだ」
剣術訓練の時間を奪われてたまるか、そう思って父上に決闘を挑んだら、こっぴどくやられてしまった。
いつもは決闘と言いながらも、稽古をつけるように戦ってくれる。
しかし、縁談の話に立てついたこの日だけは、一切容赦がなかった。
婚約者というのは、それほど大事なものなんだろうか。
今の俺には理解できないが、一流の騎士になるために必要なことなら、前向きに考えてみよう。
***
婚約者と初顔合わせするため、ロスタリカ家にやってきた時のこと。
父上が『ロスタリカ伯爵と大人の話がある』と言い出したことで、俺は初めて会う女の子と、二人きりで過ごすことを余儀なくされてしまう。
「はじめまして。ニーナ・ロスタリカと申します」
「……ああ」
「婚約者のアルト様ですよね。今日はお越しいただきまして、ありがとうございます」
「……ああ」
初対面の女と話すなんて、俺にはハードルが高く、どう接していいのかわからない。
剣で語らせてもらえないなら、せめて、心の準備をする時間と挨拶の台本がほしいところだった。
さすがにこのままだとまずいよな……と思い、彼女の顔をチラッと確認すると、ニコッとした可愛らしい笑みが返ってくる。
その瞬間、自然と体が反応して、無意識に視線を逸らしてしまった。
今まで何十人、いや、何百人もの騎士や訓練生たちと剣を向け合ってきたが、こんなことは初めてだ。
なぜか目を合わせることができない。
クソッ、そんな馬鹿な話があってたまるかよ。
「……」
「……」
やっぱり無理だ。目が合ったら笑みを向けてくるのは、なんかズルい気がする。
そんなことを考え始めると、妙にこのニーナという女を意識してしまい、心の中がモヤモヤした気持ちで埋め尽くされていった。
一流の騎士になるためには、心の迷いなんて重しにしかならない。
本当に婚約者が必要なのか、こんな状態では正しく判断することができなかった。
ただ、向こうは口で語る方が得意なタイプみたいで、いろいろと声をかけてくれている。
「裏庭に綺麗な花が咲いたんです。ご一緒に見に行きませんか?」
「興味ない」
「実は刺繍を始めてみようと考えているんですが、何か好きな柄とかありますか?」
「別に」
「好きな食べ物はありますか?」
「なんでも食う」
そっけない態度を取っていた自覚はあるし、俺が気まずい雰囲気を作っていたこともわかっている。
でも、心を整理する時間が作れなかったこともあって、それが精一杯の対応だった。
カッコ悪い。けど、どうすることもできなかった。
***
婚約者との交流が増える度、俺は自分の中に芽生えた変な感情に振り回され続けていた。
剣で語るなら簡単なのに、口で語るのは難しい。
剣の間合いはわかっていても、婚約者との距離感はいつまで経ってもわからなかった。
メイドとは普通に話せるのに、どうしてニーナと会話する時は素っ気ない態度を取ってしまうんだろう。
自分のことなのに、自分でわからない。
それが原因で苛立ってしまい、俺は初めてのパーティーでやらかしてしまった。
馬車から降りようとニーナが手を出した時、その手を取ることができなかったんだ。
「アルト様……?」
「……ふんっ」
彼女をエスコートすることが、俺の……婚約者としての役目だと知っていた。
でも、なぜかそれができない。
どうしてもニーナの前だと素直になれず、自分の心とは裏腹に反発するようになっていた。




