第33話:お茶会Ⅰ
祈年祭のパーティーが開かれた翌日。
私とアルト様は、なぜか国王様から『お茶会』の案内が届いて、王城の応接室に訪れていた。
本来であれば、親であるロスタリカ伯爵宛やレクレーネ侯爵宛に届くのだが……。
今回は、私たちだけが招かれるという異例の事態が起きていた。
肝心の国王様は、ご多忙を極めておられるのか、まだこの場に姿を現していない。
アルト様と二人で椅子に座り、ヒソヒソと話し合っていた。
「どうして私たちが呼ばれたんでしょうか。何か悪いことでもしましたか?」
「いや、何もした覚えはない。ニーナの方は?」
「私も思い当たる節はありません。いったいなんなんでしょうか」
「さあ?」
不安な気持ちを抱いていると、国王様と王妃様がやってくる。
失礼のないように立ち上がった私とアルト様は、ゆっくりと頭を下げた。
「今回は、俺たちをこのような貴重な場にお招きいただき、誠にありがとうございます」
「ありがとうございます」
身に覚えのない呼び出しということもあり、緊張のあまり鼓動が加速する。
しかし、国王様と王妃様は、思った以上に和やかな雰囲気だった。
「こうして直接話すのは、初めてのことだな。今はそのような堅苦しい挨拶など気にせずともよいぞ」
「そうね。肩の力を抜いて、普通に接してくれた方が助かるわ」
キョトンッとした表情を浮かべた私たちは、互いに顔を合わせる。
「……せっかく御厚意だから、国王様たちの言葉に甘えるとするか」
「そうですね。甘えさせていただきましょう」
「それでいい。我々も君たちみたいな若者と対談する機会がなくて、接し方に戸惑っていたところだ」
一般的に、私たちみたいな貴族の子供は、爵位を受け継いだり、大きな功績を上げたりしない限り、国王様と対面する機会はない。
パーティーなどで親と一緒に挨拶をしても、顔を合わせる程度だった。
「早速だが、本題に入らせてもらおう。君たちは疑問を抱いていると思うが、今回は建国祭で起きた事件のことで呼び出させてもらった」
一難去ってまた一難。
池に落ちた事件で転機を迎え、ようやく婚約者と良好な関係を結べて喜んでいたのに、まさかの国王様による直々の招集である。
急激に胃が痛くなってくるが、そんなことを言っている場合ではない。
おそらく、建国祭という華やかな場で起きた事件の責任を取らなければならないんだろう……。
「我々も例の事件が起きた時は頭を抱えたが、結果的には幸運に恵まれたと思っておる。無論、あのような事故が起きていいものではない、ということは前提の話だ」
「はい、申し訳ありませんでした」
「君たちが謝る必要はない。ベランダの手すりが腐食していることに気づかなかったのは、城を管理しているこちらの落ち度だ。迷惑をかけたな」
「いえ、とんでもございません」
どうやら時間が経って落ち着いた頃に責任を取らせる、という話ではないみたいだ。
「だが、建国祭のような大きなパーティーで事件が起こったとなれば、各方面に不穏な空気が漂ってしまう。君たちに聞いた話を元にして、火消しを行なったとしても、それは同じこと。すでに外交に支障をきたすほどの影響を与えておるのだ」
国王様の言葉を聞いて、私は想像以上に大きな問題に発展していることを察した。
普通に考えて、建国祭のようなイベントであれば、他国からゲストをお招きする。
それは、煌びやかなパーティー会場を演出して、豪華な料理を提供することで、自国の繁栄をアピールする目的があった。
しかし、今回はとても悲観的な印象を与えてしまったのだ。
「貴族が身投げしたと思われたら、国内情勢が緊迫していると判断されかねませんね」
「うむ。少なくとも、そういうふうに見えてしまったことは事実だ。ゲストとして参加した国々が、少しばかり距離を置いて付き合おうとするのは、当然の対応であろう」
国益に大きな被害を与えたというのは、貴族の評価を著しく落としかねない。
今まさに、私たちは窮地に立たされて――。
「そこで、だ。君たち二人の半生をロマンチックに描いた舞台を作らせてはもらえないだろうか」
「……えっ?」
「……えっ?」
突然、国王様から予想外の提案をされて、私たちは開いた口が塞がらなかった。
「本来なら、我々もこのような間の抜けた提案などするつもりはなかった。だが、今や貴族が身投げした噂を上書きする……いや、それらを遥かに凌ぐ勢いで、君たちの甘い噂が友好国にまで届いているのだ」
噂の存在に気づいていないであろうアルト様が首を傾げる中、私はかつてないほどの羞恥心を感じていた。
なんといっても、昨日は意図的にパーティーで甘えて、その噂を耳にしていたのだから。
「もしかして、祈年祭のゲストが多かった理由は……」
「うむ。国内情勢を把握する目的もあったであろうが、噂の真実を確かめに来た影響が大きいであろうな。王城のメイドたちの言葉を借りるのであれば、リアルラブロマンスが生んだ貴族の溺愛カップルを見てみたい、というものだ」
うわあああっ! 昨日のパーティーで呑気にベタベタと甘えている場合じゃなかったー!
ラズリーの忠告をちゃんと聞いておくべきだったよ……。
どうして昨日、私はあんなにも浅はかな行動を取ってしまったんだろうか。
うぐぐっ。今さら後悔しても仕方ないとはいえ、恥ずかしい気持ちで胸が埋め尽くされてしまう。
しかし、このまま放っておくわけにはいかない。
早急に事態を鎮静化させる必要があるだろう。
なぜなら、とんでもないバカップル貴族だと思われるだけでも恥ずかしいのに、そんなことを題材にした舞台を披露したら、生涯にわたって羞恥心に耐え続けなければならないのだから。
「噂が広がったとはいえ、私たちに大きな影響力があるとは思いません。多くの優秀な騎士を輩出するレクレーネ家に生まれたアルト様はともかく、私はごく一般的な貴族令嬢だと自負しております。舞台にするには、印象が薄いかと」
「君を悪く言うつもりはないが、その通りであろう。だが、それゆえに、多くの貴族令嬢が支持していると思われる。力を強く持っていない者だからこそ、自分も同じ運命を辿ることができるかもしれない……と思わせられるのだ」
「ですが、建国祭で池に落ちるなんて、とてもロマンチックな出来事ではありません」
「そうした不幸な出来事があった影響で、幸福を得ても支持されている、そう考えることはできないかね。いわゆる、同情というものだ。君は知らないうちにシンデレラストーリーを歩んでいるんだよ」
「……」
国王様の言葉を聞いて、私は戸惑い隠せなかった。
シンデレラストーリーなんて、所詮は空想の中の産物であり、現実に存在するはずがない。
ましてや、私がそのヒロインになっているなど、断じてあり得ない……はず!




