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「愛なんて感情は無駄なものだ、馬鹿馬鹿しい」と言っていたツンツン婚約者がデレ始めた件について  作者: あろえ


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第3話:建国祭Ⅱ

「カーシュ様の恋人は、私じゃなくて剣術なの。そのうち振り向いてくれたら嬉しいけど、振り向いてくれなくても構わないわ。他人に取られるよりはいいもの」

「恋する乙女は強いと言いますが、そういうものですか……」

「私の場合はね。まあ、さすがに手紙くらいはちゃんと返してほしいと思うわ。でもね、たまに返ってきた時がとっても嬉しいのよ。ふふっ」


 普通の令嬢なら怒るような内容でさえ、ラズリーが話すと惚気に聞こえてくるのだから、愛は偉大である。


 さすがに羨ましいとは思わないけど、手紙が返ってくるなんてすごいな……と思ってしまうくらいには、うちのレベルは低かった。


 私も何度も手紙を書いているのに、アルト様から返事が返ってきたことはない。


 もはや、一方通行の手紙など単なる報告書と変わらないと思い、数ヵ月前から書くことをやめていた。


「ラズリーはすごいですね。今日もパーティーのために、随分と時間をかけてメイクしたんじゃないですか? 髪型もドレスに合わせていますよね」

「ええ。彼に、今日はいつもと雰囲気が違うって気づいてもらえると嬉しいけど……なかなかそううまくはいかないわ」


 残念そうに話すラズリーを見れば、これはうちと同じで『似合ってる』の一言もなかったと容易に察することができた。


 別に婚約者のためだけにドレスを着るわけではないが、少しくらいは褒められたいのも事実である。


 着替えるだけでも時間がかかるし、コルセットの締め付けに耐え続けなければならない。


 おまけに、婚約者の子守をしているような状態なんだから、労いの言葉があっても罰は当たらないと思うんだけど……。


 そんなことを考えていると、気持ちを切り替えるためか、ラズリーがポンッと手を叩く。


「さあ、このあたりで愚痴はおしまいにしましょう。未来の旦那様たちが不甲斐ない分、今は私たちがしっかりしないとね」


 そう言った彼女は、カーシュ様の元に近づき、彼の腕に手を組んだ。


「カーシュ様。いつまでも雑談していてはいけません。パーティーなのですから、ご挨拶に向かいますよ」

「ええ……。まだアルトと話していたんだけど」

「ダメです。今日はエスコートする約束をすっぽかしたんですから、言うことを聞いてください」


 あっ、そこも一緒なんだ……と思うものの、二人の関係性はそこまで悪くなさそうだった。


 なんだかんだでカーシュ様は強く反発しないし、ラズリーの言葉に従っている。


 何より、腕を引っ張って歩いていくラズリーの背中が幸せそうだった。


 同じような境遇のラズリーが頑張っているのであれば、私ももう少し頑張ってみよう。


「では、アルト様。私たちも――って、いないし……」


 あっさりとアルト様を見失った私は、またもやパーティーで独りぼっちが確定した。


 今度は黒い花束を送ってやろうか……と、早くも怒りが沸々と湧きあがってくるが、それと同時に冷たい感情も押し寄せてくる。


 何をしたわけでもないのに、ここまで嫌われているとなると、今後も進展することは難しいだろう。


 本気で婚約破棄を考えた方が、互いの家のためになるのかもしれない。


 私たちの間には、愛情なんてものが存在しないんだから。


「とりあえず、アルト様を探そう。婚約者であるうちは、その役目を全うしないと」


 まだ近くにいるであろうアルト様を見つけるべく、周囲を見渡しながら、私はパーティー会場を歩く始める。


 ただ、彼の交遊関係に詳しくなければ、好きな食べ物や飲み物を知っているわけでもない。


 どこで何をしているのか、まったく思い当たる節がなく、闇雲に探すことしかできなかった。


 さすがにパーティーの規模が大きいだけに、見つかりそうにないなーと思っていると――。


「きゃっ」


 あまりにも人が多くて、知らない男性とぶつかってしまう。


 建国祭のような大きなパーティーだから、他国から招かれたゲストの方かもしれない。


「す、すみません」

「いや、こちらこそぶつかってごめんね」


 優しそうな人でよかった、と思っていたのも束の間、すぐに全身を舐めまわすような嫌な視線を感じてしまう。


「せっかくこうして出会えたんだから、一緒にパーティーを楽しまないかい?」

「申し訳ありません。私は婚約者がおりますので……」

「婚約者……? いったいどこに?」


 それは私が聞きたいことだ。


「えーっと、今探している最中です」

「これは驚いた。こんな綺麗なお嬢さんを放ったらかしにする婚約者がいるとは、男の風上にも置けないね。ここは思い切って、僕に乗り換えてみるのは――」

「本当に申し訳ありませんでした。急いでおりますので、これで失礼します」


 一夜限りの遊び相手を求めているのは明白だったので、私は急いでその場を後にした。


 こういう時に婚約者が守ってくれるものではないだろうか……と思うが、現実は厳しい。


 周囲にアルト様の姿は見当たらず、私の味方は逃げやすいパンプスだけだった。


 ***


 パーティー会場を探し回り、三十分が経つ頃。


 ベランダの手すりにもたれ、詰まらなさそうに外を眺めるアルト様を見つけることができた。


 ここで彼に詰め寄って、『何をしているんですか』と口にすることは簡単だ。


 しかし、アルト様の背中が『婚約者と過ごすよりも一人がいい』と言っているように見えて、自然と足が止まってしまう。


 もしかしたら、私は心のどこかで、今回のパーティーが最後の希望だと考えていたのかもしれない。


 エスコートしてもらえば、婚約者らしく振る舞うことができると、勝手に期待していたんだろう。


 だから……、彼との関係性を紡ぐための言葉が見つからなかった。


 逆に、この関係性を終わらせるような『婚約破棄』という言葉が喉元まで出かかっている。


 しかし、そんな言葉は建国祭のパーティーで口にするようなものではない。


 少し頭を冷やそう……と思って、アルト様に背を向けた時だ。


 後ろから変な音が聞こえてきて、思わず立ち止まる。


 ギギギ……ギギ……メシメシッ


「……ん? なっ!」


 突然、アルト様の驚くような声が聞こえてきたので、私は振り返った。


 すると、彼がもたれかかっていた手すりが斜めに傾き、今まさに折れようとしている。


「アルト様!?」

()()()! 来るな!」


 あまりにも衝撃な光景が目に映った影響か、意外な言葉を耳にしたからかは、わからない。


 ただ、名前は憶えてくれていたんだ……と、どこか安堵した私は落ち着いていた。


 バキバキッと手すりが落ち、アルト様が宙に投げ出される姿が見て取れる。


 このまま下に落ちれば、地面に叩きつけられて、命を落とすかもしれない。


 でも、もう少し奥に落とすことができれば、池に落ちることができるだろう。


 そんなことを走りながら考えていた私は、自分でも気づかないうちに宙に身を投げ出していた。


 彼に愛情なんて抱いていない。


 婚約破棄を考えようとしていたくらいなのに、どうして私がこんな行動を取ったのか、自分でもわからない。


 ただ、もしかしたら――。


 彼が『来るな!』と、初めて私の身を案じてくれた気持ちに応えようとしてしまったのかもしれない。





 ザッバーンッ






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