表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「愛なんて感情は無駄なものだ、馬鹿馬鹿しい」と言っていたツンツン婚約者がデレ始めた件について  作者: あろえ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/35

第29話:アルトの実家で交流会Ⅲ

「俺は今まで、騎士になるために剣術ばかり学んできた。でも、それが最善の手段ではないような気がしてきたんだ」

「確か、先月の模擬戦の時でも、カーシュ様とも言い合ってましたよね。人として成長するべきだ、と」

「ああ。俺は剣術が強いだけの騎士じゃなくて、争わなくても済む方法を模索できる騎士を目指すことにしたんだ」


 意外だなーと思ったものの、訓練場で見てきたアルト様の姿を思い出すと、彼の行動は一貫しているように思えた。


 あの三人組に悪口を言われても争う姿勢は見せなかったし、カーシュ様の時には説得を試みている。


 結局、最後は模擬戦で決着をつけることになったけど、彼は争わないように努力していた。


「騎士団の訓練に参加していれば、いろいろな考えを持っている者と話す機会がある。戦いが好きな者、武勲を上げたい者、生き残りたい者……。俺も戦いが好きで剣を取っていたんだが、最近は生き残りたい気持ちの方が強くなり始めたんだ」

「命は大事ですからね。私も戦いを避けられるのであれば、避けた方がいいと思います」

「ああ。だから、他国の文化や言葉を勉強して、話し合いで解決できないかと考えている」


 アルト様の言い方だと、軍師や外交官の方が近い気がする。


 それでも騎士を目指すのは、剣術という抑止力を得て、自身の影響力を高めたいからだろう。


「急に考え方が変わるなんて、不思議ですね。何かきっかけでもあったんですか?」

「大きな出来事があったわけじゃない。純粋に、戦争が起こったとしてもニーナの元に帰りたい、そう思った時、見えている景色が変わった気がしたんだ」


 どうやら私は、自分の影響力の大きさを過小評価していたみたいだ。


 あくまでアルト様限定なので、胸を張れるほどのものではないけど。


「今まで当たり前のように咲いていると思っていた花でも、種類によって色味や大きさ、形が違う。元気に咲いているものもあれば、蕾のまま生涯を終えるものもある。たとえ、それが小さな花であったとしても、懸命に咲き誇っているんだよな」

「そうですね。大きな花にも小さい花も、力強く咲いていると思います。もちろん、花が萎れたり、枯れたりすることは避けられません。だからこそ、咲き誇る花が美しく、儚いものだと思います」

「今ならニーナの言っていたことがよくわかるよ。花が咲く時間は短いからこそ、とても愛おしく見える。不思議と花を眺めていると、ニーナのことを思い出して、胸が温かくなるんだ」


 花瓶の花を触るアルト様は、とても優しく、穏やかな表情をしている。


 これがメイドさんの言っていた、長年仕えている使用人すら見たことがない表情なのかもしれない。


「騎士という命を失いやすい職に就くのであれば、俺は花のように儚く散りたくはない。戦場でも生き抜いて、ニーナという綺麗な花を見に帰りたいと思ったんだ」


 今は花瓶の花を愛でるのではなく、本物のニーナという花を愛でるべきだと思いますけどね。


 まあまあ、細かいところは許しましょう。


「帰りたい場所があるのは、きっと俺だけじゃない。戦う相手も同じような気持ちで戦場にいるのであれば、虚しい結果にしかならないだろう? だから、まずは他国のことを知って、争わなくても済むようにしたいんだ」

「それを実現するのは、非常に困難なことだと思いますが……。戦いを治める術が増えることは、多くの人を救う可能性があります。私はとても素敵な考え方だと思いますよ」


 知らないうちに大人になったんだなーと思った私は、彼に向けてニコッと微笑んでみせた。


 すると、急激に照れ始めたアルト様は、すぐに顔を赤くしてしまう。


 自分で言うのもなんだが、私は本当にアルト様限定で、影響力が大きい存在なのかもしれない。


「このことは、父上には黙っていてくれ。もっと自分の中でいろいろ考えてみたいんだ」

「わかりました。私の口から()言いません」


 だって、扉の向こうで息を殺して聞いているはずですからね。


 アルト様がトイレに立った後、すぐに部屋に入ってきたことを考えると、そう考えるべきだと思います。


 まあ、気遣い上手なレクレーネ侯爵であれば、何も言わずに黙っていてくれることでしょう。


 私もアルト様のことを知れてスッキリしたなーと思っていると、なぜかアルト様がモジモジしていた。


「それはそうと、ニーナに聞きたいことがあるんだが」

「どうされましたか?」

「アレはまだできてないのか?」

「……」


 思わず、言葉を失ってしまうのも、無理はないだろう。


 アルト様は、黒歴史を差し出せ、と言ってきたのだから。


「忘れていることを願っていたんですが、ダメでしたか……」

「当然だろう。今か今かと楽しみにしていたんだぞ」


 観念した私は、しぶしぶ刺繍入れのハンカチを取り出して、彼に差し出す。


 無礼講で使用人たちの本音を聞き出したところ、刺繍の柄を見て『傘・橋・ミミズ……』など、散々なことを言われたので、間違いなく黒歴史だ。


 それなのにもかかわらず、婚約者の手に……渡って、しま……った……。


「俺はすごくいいと思う!」

「お世辞は大丈夫です。自分でもこういうものはダメだと、ハッキリ理解していますので」

「いや、そんなことはない。ちゃんと味が出てるし、頑張ってくれた気持ちが伝わってくるよ」

「……では、どうしてニコニコされているんですか?」

「嬉しかったら、自然と笑みがを浮かべるものだろ? 後……ニーナも不器用なところがあるんだなって思ったら、ちょっと嬉しくなった」


 弱みを握って嬉しい、の間違いんじゃないですかね。


 まあ、喜んでもらえるのであれば、グッと我慢しますけど。


「本当に良い刺繍だと思うよ。これ、()()竿()だろ? 俺にはわかる」

「……剣です」

「ん?」

「それは、剣の刺繍です」


 刺繍の正体が判明した瞬間、時間が止まった。


 口は禍の元である。


 不要なことを口走ったアルト様は、滝のような汗を流し始めていた。


「実は、剣の刺繍だと思ってた! もう剣にしか見えない!」

「思いっきり釣り竿だと言ったじゃないですか! もういいです、返してください!」

「それはダメだ! これはもう俺がもらったんだから、俺のものだ!」

「いいえ、著作権というものがあります。まだ見せただけなので、私のものです!」

「そんな言い訳は聞かない! ニーナが俺のために作ってくれたんだから、俺はこれを使い続ける!」

「やめてください! 実はそのハンカチ、呪われています。辱めを受ける呪いにかかっています!」

「その呪いごと大事にするから問題ない!」


 この日、結局アルト様がハンカチを返してくれなかったので、私はもう二度と刺繍はしないと心に決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ