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「愛なんて感情は無駄なものだ、馬鹿馬鹿しい」と言っていたツンツン婚約者がデレ始めた件について  作者: あろえ


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第27話:アルトの実家で交流会Ⅰ

 刺繍入りのハンカチが完成する頃、アルト様との交流会に参加するべく、私は馬車に揺られている。


 今までロスタリカ家で開くことが多かったので、久しぶりにレクレーネ家の屋敷にお邪魔する形だ。


「黒い花を送り付けた事件があってからは、今回が初めての訪問かも。さすがにちょっと緊張するなあ」


 アルト様がやさぐれていた時、レクレーネ家で交流会を開くとなったら、うちの使用人たちから心配されることが多かった。


 レクレーネ侯爵はまだしも、その長男のアルト様がああいう態度を取っていたのだから、私が蔑ろにされても不思議ではない。


 実際に不当な扱いを受けることはなかったが、良い報告が何もできなかったことも事実だった。


 その影響もあって、自然と交流会はロスタリカ家で開くことが普通になっていたのだが。


「今思うと、レクレーネ侯爵が気遣ってくれていたんだろうなあ」


 慣れない場所でアルト様を対応するのは、私が精神的に持たないと判断してくれたんだ。


 一年もの間、粘り強く対応できたのは、そういった心遣いがあったおかげもあると思う。


 ただ、最近はアルト様の評価も高まってきたし、レクレーネ家にまったく顔を出さないのも失礼なことだった。


 今度はレクレーネ家の使用人たちに悶々とした気持ちを抱かせるわけにはいかない。


 そこで、今回の交流会を開く場所を変更している。


 そんなことを考えている間に、レクレーネ家の屋敷にたどり着いた。


 以前に来た時よりも、見事なまでに花が咲き誇っている。


 綺麗だなーと庭を眺めていると、執事さんとメイドさんが出迎えてくれた。


「お待ちしておりました、ニーナお嬢様」

「出迎えてくれて嬉しいわ。ところで、アルト様はどちらに?」

「申し訳ありません。アルト坊ちゃまは、日課にしている訓練が終わったばかりです。着替えを済ませるまでの間、少々お時間をいただきたいと存じます」

「わかったわ。その間、お花を見せてもらってもいいかしら」

「もちろんでございます。メイドに案内させましょう」

「ありがとう」


 屋敷の中に執事さんが戻り、メイドさんが庭へ案内してくれる。


 初めてレクレーネ家に訪れた時も綺麗な庭だったと記憶しているが、今はその比ではない。


 明らかに植えてある花の種類が増え、赤・白・黄……と、華やかな印象を受けた。


 どちらかといえば、うちの方がしっかりと手入れしていたはずなのに、いったいどうして……。


「以前も綺麗だったけど、今日は特に綺麗ね」

「お褒めいただき光栄です」

「侯爵夫人が熱を入れているのかしら」

「いえ、そちらはアルト坊ちゃまが……と言いますか、おそらくニーナお嬢様の影響が大きいと思われます」

「えっ? 私?」


 唐突に自分の名前が出てきて、呆気に取られることしかできない。


 しかし、メイドさんが真剣な表情を浮かべているので、嘘をついているようには見えなかった。


「アルト坊ちゃまが花を愛でるようになったのは、数か月前のこと。それ以前は、花に興味を抱くことはありませんでした」


 それは事実だと思う。


 手紙の内容を思い返す限り、チューリップとパンジーの区別がつかなかった方だから。


「ところが、ニーナお嬢様と手紙のやり取りを始めてから、花を眺めるだけでなく、庭師の仕事に興味を持ち始めたのです」

「意外ね。家ではもっと、剣術が……と、鍛錬ばかりしているイメージだったわ」

「おっしゃいますように、以前までは剣術ばかりでした。しかしながら、今では興味深そうに花の種類や花言葉などを聞かれていますし、新しく植えたい花をお伝えいただくこともあります」

「えっ! アルト様が植える花を指定するの……?」


 貴族の中でも、綺麗な花を眺めることが好きな人は、男女問わず多いだろう。


 正確にいえば、綺麗な景色を見たいだけであって、花が見たいと思う人は少数派だ。


 しかし、わざわざ植えたい花を指定するのであれば、話は変わる。


 花に興味を持ち、愛でたいと思う気持ちが強くない限り、庭師に任せることが一般的だった。


「旦那様も驚いていましたし、私たち使用人も驚きを隠せませんでした。今回は、そちらのダリアやマリーゴールドを指定なさっていますね」


 メイドさんが手を差し出した先には、綺麗に咲き誇る二種類の花があった。


 近くで花が見られるように、足場もしっかりと整備されている。


 もしかしたら、アルト様はここで花に顔を近づけて、一つ一つじっくりと眺めているのかもしれない。


 どうして急に花が好きになったんだろう……と疑問を抱いていると、周囲をキョロキョロと確認したメイドさんが、ゆっくりと顔を近づけてきた。


「ここだけの話ですが、ニーナお嬢様が好きそうな花だ、という理由でお選びになられたみたいです」

「その話、詳しく聞かせてもらっても?」


 特に深い意味はないけど、婚約者として、一応確認しておこうと思った次第である。


「花を眺めるアルト坊ちゃまは、時折小さな声でニーナお嬢様の名前を口に出されることがあります。その時の表情は、長年仕えている使用人すら見たことがないものでした」


 婚約者の知らない顔をさらけ出し、婚約者の名前を呼んでいるとは、まったくもってけしからん。


 見せろ、その表情を。


「こちらは私見ですが、花を眺めているとニーナお嬢様を思い出すため、よく愛でるようになったのかと」


 そんなことはない……と、言い切れないところが、なんとも複雑な気持ちを抱いてしまう。


 池に落ちて看病された時、これまでのことを改めると約束したアルト様は『あの花に誓うよ』と言っていたのだ。


 その時に用意していた花の一つが『マリーゴールド』であり、私が駄々をこねて要求した花が『ダリア』なのである。


 もしもこの花の選定が偶然ではなく、アルト様の強い気持ちが込められているのだとしたら……。


 交流会で一緒に花を眺めた時のことを思い出して、花を愛でるようになった……とか?


「近くで見ていましても、その時は恋する乙女のような雰囲気を放っておりまして――」


 メイドさんが核心に迫るような発言をした時だ。


 運が良いのか悪いのか、着替えを終えたアルトが来てしまった。


「悪い。遅くなった」

「いえ、大丈夫です。むしろ、もう少しだけ遅くてもよかったです……」

「ん? どうした?」

「何でもありません。メイドの方に素晴らしいもてなしをしていただいた、と言っただけです」

「そうか。それならよかった」


 ちょっぴりモヤモヤした気持ちを抱えながらも、私はアルト様と二人で庭の花を眺めるのであった。

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