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「愛なんて感情は無駄なものだ、馬鹿馬鹿しい」と言っていたツンツン婚約者がデレ始めた件について  作者: あろえ


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第25話:贈り物

 模擬戦を終えた翌日。


 騎士団の訓練を終えたアルト様を迎えに、私は王城に足を運んでいた。


 今日で王都を離れるので、二人で食事をする約束をしているのだ。


 ちょうどアルト様も準備を終えたみたいで、待ち合わせ場所に姿を出してくれる。


「悪い。待たせたか?」

「いえ、今着たところです」

「よかった。じゃあ、馬車乗り場まで歩いて行くか」


 そう言ったアルト様は、腰に手を当てて、腕を出してくる。


 今日もエスコートの練習かな、と思いながら、私は彼と腕を組むことにした。


「そういえば、カーシュ様の方は大丈夫でしたか?」

「意気消沈していて、訓練どころじゃなかったみたいだな。明らかに顔色が悪かったが、良い薬にはなったと思うぞ」

「それであれば、ギリギリセーフですね。先ほどまでラズリーと会っていたんですが、けっこう強く言ったみたいなんですよ」


 ラズリー曰く、カーシュ様の第一声が『アルトが言えって言うから……』とブツブツ言っていたので、彼女は笑みを浮かべながら、こう言ったそうだ。


『私は冷めた関係を継続する形でも構いません。無理に謝らないでください』


 おそらくカーシュ様は、謝れば許してもらえるものだと思っていたんだろう。


 これまでラズリーは献身的な対応を取り続けていたこともあって、余計にそう思わせていたのかもしれないが……。


 カーシュ様は、ラズリーのことをわかっていないのだ。


 基本的にラズリーは優しい女性だが、怒ると誰よりも怖いタイプだということを。


「ラズリー嬢の方は大丈夫だったのか? カーシュからは、首の皮が一枚だけ残った、と聞いているぞ」

「そうですね。大丈夫だとは思いますが……。次はないかもしれませんね」


 主に、カーシュ様が耐えられない、という意味で。


 なぜなら、ラズリーは『カーシュ様の困った顔も可愛いから、しばらくは冷たい関係を継続するわ。うふふふっ』などと、楽しそうにしていたから。


 私が思っているよりも、ラズリーの愛情は重かったのかもしれない。

 

「カーシュ様は他に何か言っていましたか?」

「……これは内緒の話だが、戦場よりも怖かったと言っていたぞ」

「そうですか。それは本当に内緒にしておいた方がよさそうですね」


 さすがにラズリーの恐妻化は阻止した方が良さそうだ……と考えていると、前から三人の貴族令嬢が歩いてくる。


 模擬戦をしていた時も訓練場で見かけた子たちで、顔と名前を知っている程度の関係だった。


 それだけに、私たちの方に近づいてきたことが意外である。


「あの、少々お聞きしたいのですが、お二人は()()()()()されているのですか?」


 彼女たちの唐突な質問に、私は疑問を抱いてしまう。


 レクレーネ家もロスタリカ家も、私たちの婚約を一年以上も前に公表しているのだから、わざわざ確認する必要はない。


 建国祭で池に落ちるという残念なエピソードもあるので、知らない人の方が珍しかった。


 もしかしたら、今回初めて模擬戦にお呼ばれしたことと何か関係しているのかもしれないが……。


 なぜか彼女たちは、目をキラキラと輝かせている。


「俺たちは付き合っているぞ」

「私たちは付き合っていますよ」


 アルト様と共に肯定すると……?


「キャーッ! 付き合ってるって!」

「ねえ、聞いた? 付き合ってるがハモってたよ!」

「私、お二人のことを応援してます!」


 それだけ言うと、キャーキャーと騒ぐ彼女たちは、嵐のように去っていった。


「あれは何だったんでしょう」

「さあな。だが、今日は他の訓練生にも似たようなことを聞かれたぞ」

「どうしたんでしょうか。うーん……よくわかりませんね」


 昨日の模擬戦の試合を見て、アルト様のファンになったわけでもなさそうだったから、深く気にしないでおこう。


「ところで、アルト様は何か欲しいものはありませんか?」

「急にどうしたんだ?」

「実は、昨日の模擬戦のために護符を買いに行ったんですけど、いろいろと事情があって買えなかったんですよ。だから、代わりと言っては何ですが、模擬戦に勝ったお祝いとして、何か贈りたいなーと思いまして」

「そう言ってくれるのはありがたいが、気にしないでくれ。俺はニーナが来てくれただけで満足しているよ」

「遠慮しないでください。こういうことも婚約者には必要なことですから」


 もっともらしい理由をつけているが、これはカーシュ様と同じ時間を過ごしてしまったお詫びでもある。


 やましいことはなかったし、アルト様も理解してくださるとは思うものの、決して褒められた行為ではなかった。


 そのため、私のお小遣いで購入できるものであれば、プレゼントを贈ろうと思っているのだが……。


 アルト様は急にモジモジし始めて、恥ずかしそうにしていた。


「じゃあ、…………がいい」

「えっ? なんですか?」

「ニーナが刺繍してくれたハンカチがいい」


 まったく想定していなかったものをおねだりされて、私は頬が引きつってしまう。


 私の刺繍は、両親や使用人に苦笑いされ、自分でも黒歴史と認定しているレベルのものだ。


 あれは貴族が持ち合わせていいものではない。


 いや、人類であれば、誰でも持ち合わせていてはならないものなのである。


「他のものでお願いします」

「どうしてだよ。せっかく勇気を出して言ったんだから、作ってくれよ」

「いや、手紙でも書きましたよね? 私、刺繍はビックリするくらい下手なんですよ」

「俺はそれを聞いても欲しいと思ったんだ」

「普通はいらないでしょう。あんなものを持っていたら、笑われるだけですよ」

「どんなものであったとしても、ニーナが頑張って作ってくれたものなら、俺は笑わない。大事に使うよ」


 いえ、純粋に持っていてほしくないんですよ。


「頼む! 作ってくれたら、それをニーナだと思って大事にする! もっとニーナを身近に感じたいんだよ!」


 ええ……などと思いつつも、そこまで言われたら、婚約者として作らないわけにはいかない。


「はあ~……。わかりました。作ります」

「本当か!? ありがとう」

「その代わり、私の美的センスは絶望の領域にいますので、絶対に期待しないでくださいね」

「わかった! 楽しみにしてるよ!」

「ダメです。楽しみにしないでください」

「楽しみものは楽しみなんだから、仕方ないだろう」


 うぐぐっ、どうしてこんなことに……と思いつつも、ここまで楽しみにしてくれているのであれば、悪い気はしない。


 本当に下手だから、期待を裏切らないか心配なだけであって……。


「五歳児が作るものだと思ってくださいね」

「わかった。五歳のニーナが作ってくれたものだと思うことにするよ。それはそれで感慨深いものがあるな」

「変なことを言わないでください。まあ、それくらいハードルが低い方が助かりますが」


 結局、この後の食事で何度かハードルを下げようとしたものの、アルト様の期待は上がる一方なのであった。

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