第18話:迷探偵ニーナ
アルト様と別れた私は、城下町に向かうべく、馬車に揺られていた。
「今の私にできることは、アルト様に必勝祈願の護符を贈ることくらいかな」
アルト様と良好な関係を築いたといっても、今の状況では、私にできることは少ない。
軽い気持ちで王都に訪れていたこともあり、彼の近くで応援することしかできなかった。
それでも、アルト様が勝ったら喜び、負けたら慰めると決めている。
今はそんな何気ないことができる間柄なのだから。
「アルト様も一歩間違っていたら、カーシュ様みたいになっていたのかな……」
そんなことを考えながら、馬車の外の景色を眺めていると――。
「ん? カーシュ様……?」
キョロキョロと周囲を確認しながら、荷物袋を抱えて歩くカーシュ様がいた。
騎士団の訓練が終わった後、明日の模擬戦に備えて休んでいるものだと思い込んでいたけど……。
武具や防具の点検に街まで訪れているのかもしれない。
でも、それにしては周囲を警戒していて、妙に怪しい行動を取っている。
ラズリーも口を濁していたし、実家とも対立していたと聞く。
もしかして、良からぬ道に進もうとしているから、ラズリーの顔も曇っていたのではないだろうか……。
「偶然にも、明日は模擬戦がある。今まで違法薬物の力を借りて、模擬戦に勝利していたのだとしたら――」
ラズリーが話してくれたカーシュ様の無敗神話にも説明がつく。
じゃあ、今から闇市に出かけて、違法薬物を仕入れようとしているのかもしれない。
これは護符を買っている場合ではない、と思った私は、すぐに馬車を下りた。
万が一のことを考えて、馬車の従者に『日が暮れても戻らなかったら、事件に巻き込まれたと思ってほしい』などという言伝を頼み、彼の後をコッソリつける。
恋心を抱くラズリーの想いと、友人として向き合っているアルト様の想いを、私は無駄にしたくない。
言い逃れができない現場を目撃して、彼に罪を認めさせよう。
貴族という身分を去るような事態にならなければ、ラズリーとの関係もやり直せるのだから。
緊迫した雰囲気に包まれながら、ゆっくりと歩を進めていると、カーシュ様はすぐに大きな建物の前で立ち止まる。
「……あれ? ここは、孤児院?」
外で遊ぶ小さな子供たちがカーシュ様に近づく。
すると、持っていた荷物袋からクッキーを取り出し、子供たちに分け与えていた。
思っていた展開と違うぞ……などと考えていると、孤児院の中から若いシスターが飛び出してくる。
もしかして、カーシュ様がラズリーに手を出さない理由は、あのシスターに恋心を抱いているからでは――。
「このようなことはおやめくださいと、何度も申し上げているではありませんか」
「僕も何度も言っているだろう。あなたのためにやっているわけではない。子供たちのためにやっているんだ」
私に探偵ごっこは務まらないことが発覚したので、思い切って二人の元に近づいてみることにした。
「あの~、こんなところで何をされているんですか?」
「ん? ……なっ!! どうしてアルトの婚約者がここに!?」
驚きのあまりカーシュ様が荷物袋をドサッと落とす。
すると、ガシャンッと、クッキーが割れたような音ではなく、硬貨がたくさん入っているような音が聞こえたのであった。




