第15話:騎士団の訓練場にてⅠ
騎士訓練生の模擬戦にアルト様が参加するため、王都まで応援に来た時のこと。
事前に訓練の様子を見学できるとのことだったので、私は訓練場に足を運んでいた。
以前、コッソリと訪ねた時とは違い、今日は何人もの令嬢たちが訓練生たちを見守っている。
その中で唯一と言っても過言ではないほど仲の良い人物と視線が重なると、珍しく早足でスススーッと近づいてきた。
「本当にニーナが来るとは思わなかったわ」
私の小さい頃からの友人、ラズリーだ。
ラズリーの婚約者であるカーシュ様も騎士を目指しているため、彼女も応援に駆けつけているんだろう。
なんといっても、彼女はカーシュ様のことを慕っているのだから。
「私は初めてアルト様に声をかけていただいたので、応援に来ました」
「じゃあ、手紙に書かれていたことは、事実だったのね」
「あっ、はい。そうですけど……何か問題がありましたか?」
「問題はないわ。でも、にわかには信じられない内容だったでしょう?」
「あははは……。まあ、確かに……」
苦笑い浮かべる私は、ラズリーの手紙に曖昧な表現を使っていたことを思い出す。
最近の出来事を文字で書き出してみると、なんだか惚気ているような気がして、うまく書けなかったのだ。
ラズリーとカーシュ様がうまくいっていないことを考えると、詳細を記載しない方がよかったとも思っている。
「まさかニーナに惚気られると思わなかったから、本当に驚いたわ」
「あれ? そういう文章は消したはずなんですけど……」
「周りが見えなくなると、自分が惚気ていることに気づかなくなるみたいよ。恋は盲目になる、ってね」
「それはどうなんですかね。少なくとも、私は浮かれていると思っていませんよ」
私は自分が恋心を抱いていると気づいてから、周囲の人たちに気づかれないように努力している。
これは恥ずかしいとか照れくさいとかではない。
我が家の使用人たちの間では、素直になれなかった頃のツンツンアルト様の印象が強く、あまり良く思われていないからだ。
婚約者を蔑ろにしてきた上に、建国祭で池に落ちたとなれば、ロスタリカ家の関係者が良い感情を抱くはずもない。
未だに、どうして私を守ることができなかったのか、という声が聞こえてくるほどだった。
だから、私は自分の気持ちを隠すようにしている。
もう少しアルト様が婚約者らしい姿を見せて、みんなが祝福してくれる日が訪れるまでは。
そんなアルト様は、私の存在に気づいたのか、訓練中にもかかわらずチラチラと顔を向けてくる。
仕方ないなー……などと思いつつも、満更でもなかったので、軽く手を振ってあげた。
すると、ラズリーがものすごい顔で見つめてくる。
「よく浮かれていないなんて言えたわね。そんなことをしているのは、あなたたちくらいよ」
「……。そう言われると、ちょっとだけ浮かれているような気もしてきました」
「かなりの間違いじゃないかしら。まあ、今までのことを考えたら、良い傾向だと思うわ。向こうも恋心を抱いているみたいだもの」
「自分で言うのもなんですが、私もそんなような気はしています。最近は、甘い言葉を言われるようになったんですよね」
「彼、そんなことを口にするタイプだったかしら」
「意外にそういう一面もあるみたいです」
それが素直な気持ちだと知っているので、余計に心に響くんだと思いますけどね。
「今度、言われて嬉しかった言葉ランキングを手紙に書いて――」
「お断りします」
「つれないわね。二人だけの秘密にしたい、だなんて」
「……。誘導しようとしても、無駄ですからね。絶対に書きませんよ」
「あらあら。まさかニーナが顔を赤くするほど照れちゃうなんてね。彼、意外にやるわね」
うぐぐっ。これは甘い言葉を思い出させて、どんな状況か把握しようとする罠でしたか。
まあ、彼女と私は、同じような境遇を共に歩んできたからこそ、いろいろと分かち合えることがあるんだと思う。
「何はともあれ、よかったわね」
「一時はどうなることかと思いましたけどね。ラズリーの方はどういう状況になりましたか?」
「うちは……ちょっと問題アリ、かもね。日に日に冷え込んでいるような気がするわ」
そう言ったラズリーは、以前のような恋心を抱いた色っぽい目をしていない。
将来に対する不安を表すような曇った表情をしていた。
「ラズリーが弱音を吐くなんて、珍しいですね」
「ええ。カーシュ様は一匹狼の気質が強いから、最近は彼の父である辺境伯も懸念を――」
不穏な言葉を口にするラズリーの声を遮るかのように、訓練場がザワザワとし始めた。
何事かと思って確認すると、暴れようとするカーシュ様をアルト様が押さえ込む姿が目に飛び込んでくる。
「はあ~……。またやってしまったのね。ひとまず、私はカーシュ様の元に行ってくるわ」
「あっ、待ってください。私も行きます」
思い当たる節があるラズリーの後を追い、私もアルト様の元に向かうのだった。




