第14話:ニーナの手紙(side:ラズリー)
ニーナの友達である私――ラズリー・ラスインは、久しぶりに彼女から手紙をもらった。
昔から仲が良かったこともあり、数か月に一度、こうして互いに近況報告をしているのだが――。
「いったいどうなってるかしら。事故だったとはいえ、二人で池に落ちるなんてね。心配だわ……」
建国祭の件があってから、ニーナから無事を知らせる連絡は届いている。
私の婚約者よりもヤンチャな彼から謝罪されたそうだが、すぐに関係の改善が見られるとは思えなかった。
むしろ、これまでのことを考慮すると、悪化したと考える方が自然だろう。
婚約破棄の裁判を起こして、両家の激しい言い争いに発展しても不思議ではない状況だった。
「泥沼化していそうで、手紙を見るのが怖いわ。ニーナが無事でいてくれたらいいのだけれど」
不安な気持ちを抑えるため、私は深呼吸した後、おそるおそる手紙を開封する。
思った以上に量の多い紙に嫌な予感がしながらも、思い切って読み進めることにした。
「まずは普通に挨拶が書いてあるから、あまり悪い状況ではなさそうね。……ん?」
ふと違和感のある文章が目に留まったので、私はその部分を注視する。
『この間ね、アルト様と一緒にドレスを買いに行ったの。自分で選ぶのもなーって思って、彼にデザインを任せたわ。そうしたら、オーダーメイドで考えてくれてたの。今度、ラズリーと会う祈年祭のパーティーで着る予定よ。早く仕上がってこないかなあ』
ニーナの手紙を読んでいる途中だが、私はいったんそれを机に置き、封筒の表紙を確認する。
送り主は、ニーナ・ロスタリカ。私の友人で間違いない。
そんな当たり前のことが確認できただけで、私は大きく頭を抱えるほど混乱した。
この僅かな期間でニーナの身に何があったー!!
あなたの婚約者、無愛想を具現化したような剣術馬鹿で、ドレスを贈るようなタイプじゃなかったわよね!?
建国祭で池に落ちた時、頭の打ちどころが悪かったの?
いや、うちの実家からもニーナの安否報告をもらったから、そんなことはないはず。
ハッ! もしかしたら、今まで私が文章を読み間違えていただけで、ニーナの境遇を誤解していたのかもしれない。
よしっ、半年くらい前のニーナの手紙を読み返してみよう。
引き出しに入れたおいたニーナの手紙を手に取った私は、急いでそれを読み進めることにした。
『聞いてよ! うちの婚約者、エスコートしてくれなかったんだよ! それでパーティー会場を二時間も彷徨ってたんだけど、どこにいたと思う? すでに帰ってたの! すっごい腹が立ったから、彼の誕生日に黒い花を贈りつけてやったわ。家族には止められたけど、舐められてはいけないもの。抗議よ、抗議。絶対に許さないんだから』
めちゃくちゃキレてるわね。絶対に誤解できない文章よ。
ましてや、婚約者に黒い花を贈るなんて、関係性の修復は不可能なレベル、といっても過言ではないわ。
私の知る限り、一回も仲が良かった時期がなくて、ニーナも困り果てていたはず。
建国祭の時も悲壮感が半端なかったし、末期状態とも言えそうな雰囲気だったわ。
そのことを踏まえた上で、もう一度、最新のニーナの手紙を見てみよう。
『実はいろいろあって、最近ちょっといい感じなの。ラズリーには正直に言うけど、恋……したんだと思う』
何それ! どういうこと!?
この手紙、本当にニーナが書いたのかしら。
代行サービスを使っているわけではないわよね?
手紙の量が多い割には、大事な部分が省略されていて、その『いろいろあって』の部分がとても気になるわ。
ニーナの婚約者くん、どういう謝り方をしたのかしら。
恋心を抱くような発展の仕方、絶対にしないような関係性だったよ。
まさかとは思うけど、別の婚約者に乗り換えたのかしら。
それはさすがにない、わよね……?
いや、もうここまで関係性が変わっているのであれば、そのことすら否定できない。
だって、ニーナの惚気を聞くことになるとは思わなかったんだもの!
「でも、もし本当にニーナたちの関係性が改善したのであれば、嬉しい報告だわ。来月の騎士団の模擬戦にも、ニーナが応援に来るかもしれないわね」
今までニーナの婚約者くんは、訓練生の中でも突出しているにもかかわらず、誰も招待してこなかった。
来月、王城の訓練場にニーナの姿が見られたら、この手紙が真実なのだと思うようにしよう。
まあ、その時の私は、うまく祝福してあげられるかどうかわからないけれど。
「せめて、ニーナだけでも幸せになってほしいものね。うちみたいな亀裂の入り方をしたら、終わりを迎えかねないから」




