第12話:ドレス選びⅠ
ドレス屋さんの中に入ると、店内には様々なドレスが飾られていた。
フリルの多く付いたもの、胸元が大胆に開いたもの、スカートにスリットが入ったものなど……。
王都に店を構えるだけであって、幅広い種類のドレスを取り扱っていた。
ここはアルト様の意見を聞きながら、一緒にドレスを選びたいところなのだが――。
「じゃあ、俺は向こうで待ってるぞ」
女性の服を取り扱う店に初めて入ったのか、恥ずかしさのあまり、早くもアルト様が逃亡する姿勢を見せている。
当然のことながら、私がそれを許すはずがない。
「何を言っているんですか。一緒にドレスを買いに来たんですから、選ぶのも手伝ってください」
「手紙にも書いただろう? 俺はこういうものにセンスがないんだ」
「偶然ですね。残念ながら、私も美的センスはありませんよ」
私は身内から笑われるような刺繍に、幼児並みの絵心しか持たないような女だ。
自分が着るドレスとはいえ、自分の意見だけでデザインを選ぶことが危険だということをよく理解している。
「貴族令嬢なら、普通は着たいドレスとかあるだろう?」
「実は私、既存のドレスに不満がなくて、満足しているんですよね」
「そんなことあるのか? 社交の場だと、女性陣は頻繁にドレスを変えるようなイメージなんだが」
「あまり大きな声では言えませんが、私は流行に置いていかれるタイプの人間です。トレンドの良さがわからないので、クローゼットには同じようなものばかりが並ぶんですよ」
私はそれでもいいと思っているのだが……。
ロスタリカ伯爵家の使用人たちは良くないと思っているみたいで、小言を言われることが増えていた。
『お嬢様は見栄を張るくらいがちょうどいいと思います』
『貴族が同じようなドレスばかり着ていては、領地経営がうまくいっていないと思われてしまいますよ』
『たまには気分を変えて、流行しているアイテムを取り入れましょう』
私の物欲が弱いのか、他の貴族たちの物欲が強いのかはわからない。
ただ、お金を使うことも貴族の仕事なので、こういう大きな買い物は私の課題だったのだ。
「じゃあ、今日、ドレスを買いに来た意味はあるのか……?」
「あります。なんといっても、アルト様が同行してくださっているんですからね」
複雑な表情を浮かべるアルト様に対して、私はここに二人で訪れた本当の目的を伝えることにする。
「ずばり、アルト様が私に似合うと思うドレスを選んでください。半年後に開かれる祈念祭のパーティーには、それを着ていこうと思っています」
得意げにそう言った私は、ふふんっと鼻を高くしていた。
婚約者たるもの、互いに支え合って生きていかなければならない。
よって、アルト様の力を借りて、私に与えられた課題を乗り越えようとしているのだ。
「そんなこと、急に言われても困るぞ」
「事前に言っておいたら、一緒に買いに来ませんでしたよね?」
「ま、まさか、俺は嵌められた、のか」
「違います。エスコートと同じで、それも婚約者の仕事なんですよ」
取り乱すアルト様を置いて、私は店員さんに声をかけ、奥で採寸してもらうことにする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「カタログから選ぶだけなので、気軽にどうぞ。あっ、色は黄色か薄い水色でお願いします。ピンクのような色は、私に似合いませんので」
これくらい強引にしないとやってくれそうにないなーと思い、私はスタスタと歩いていく。
今までアルト様に振り回されていた分、こうして彼を振り回すことがあってもいいよね、と思いながら。




