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竜の国の姫らしいですが、田舎で好きに暮らしたい

作者: コフク
掲載日:2025/11/21

序章

「うわっ、私、飛んでる!?」

 背中の大きな羽をぐわわっと左右に広げて、ばっさばっさと羽ばたきながら、眼下には、まばらに小麦やいろんな緑の畑の広がる平原、斜め前には黒い森と、青い長く続く山並みを見て。

 ひんやり心地よい風が吹き抜ける……。

 思わず目を細めた。


 ふと、今飛び出してきた倉庫の付近から、ざわざわと数人の声が聞こえた気がした。

「あ、いけない。フルールを助けに行かなきゃ!というか、今の私、どんな状態?」

 よく見ると、自分の足と思われるものはルビーみたいな赤いうろこが付いて大きく黒いとがった爪のついたトカゲのようなもの。手はもうちょっと小さいものが二つ、前についている。これで羽があって、飛んでいるってことは……。

「なんか竜みたい??そんなのほんとにいるの?え?え?夢?

 それより、夢でもなんでもほんとに早くフルールのところに行かなきゃ。間に合って!」

 私は少しぐらつきながら、ぐぐっと左に旋回すると、領主の別邸に向かった。


1.誕生日プレゼント

 「リリ、野菜と農具を倉庫に入れ終わったら、居間においで。ちょっと話があるさね。」

家の入口の木でできた扉から顔を出して、おばあちゃんが言った。ゆったり波をうつ白髪を、後ろできれいに小さなお団子にまとめている。小柄だけれど、魔法がすごくて尊敬しかない。特に土魔法は、自分の家の畑だけでなくて、村中から重宝されているほど、土を豊かにしてくれる。

「おかげで今日取れた野菜も、早く採ったのに大きさも量もたっぷりだし、すごい色つや。

あー、この半分でも、いや、四分の一でも私にこの魔力があったら良いのに。

火魔法できても、畑焼いてどうするのって思うよ。」

私、リリは一人でぶつぶつ言いながら、風魔法を一言唱えると、野菜を木箱に入れて、倉庫に運び入れ、積み上げた。後ろに垂らした、一本長く太い三つ編みの黒い髪を、唱える度左右にふわっと揺らしながら、倉庫の半分くらいが一気にいっぱいになった。風魔法も、村の普通の人はせいぜい一箱運べる程度だから、それに比べたら、きっと悪くない。でも、この国の人が通常得意なのは土魔法で、村の人たちもみんな自分の畑を耕したり、栄養豊富になるようにする程度はできるのに、私は土魔法は苦手。得意な魔法は遺伝で決まるから……

「今日で16歳になったのに、あんなに教えてもらって訓練してるのに、この程度って、

私、おばあちゃんの孫じゃないんだろうな……。両親、この国の人かもあやしい。」

はあっ、と、大きなため息を吐くと、おばあちゃんのいる居間へ向かった。


 木造2階建てのこじんまりとした家。居間もそれほど広くはないが、おばあちゃんも私も小柄だからちょうど良いし、きれい好きのおばあちゃんが毎日のように掃除をしていて気持ちが良い。大きめの窓のそばには、今日は私の好きなアマリアというピンク色に黄色と薄緑の筋の入った花が何本かいつの間にか飾られていて、窓の外の山や畑の景色をバックに、いつもより華やか。テーブルには、暖かそうな、マルウリやダダニンジンなどの野菜たっぷりのシチューと、小さいふわふわのパン、ジュースの入ったグラスが置かれていた。

「私の好きな物ばっかり。おばあちゃんのシチュー、おいしいから大好き。」

 席に着こうとすると、おばあちゃんが隣の部屋から居間に現れ、

「忘れないように、今のうちに渡そうかね。15歳のお誕生日、おめでとう。」

 おばあちゃんから白いハンカチで包んだものを手渡され、開くと、中にあったのは、細かい、何か文字のような模様がぐるっと刻まれている金細工の指輪に、細い銀色の鎖をとおした、ネックレス。

「うわ、すごい。ルビーかな?高そうな……どうしたの?」

「そうね。鎖はプラチナかね。」

「あと、これ。」と、どうしたのか答えないまま、おばあちゃんに封筒を渡された。

 手を空けようと、取り敢えずネックレスを首にかけた。

「あれ?」身体を一瞬ぐわわっ、と熱が駆け抜けた感覚があり、力が増した気がした。

「どうした?」「ううん、何でもない。」手紙を受け取る。

 封筒の中には、便箋が1枚入っていた。


2.指輪と手紙

―――

リリヴァ姫へ


16才になって、大人に育ったら、姫に指輪を渡していただくよう、お願いしました。

ですので、今これを読んでいるなら、16才になり、大きく立派に育たれて、

ジーナ師匠から指輪を受け取られたと思います。


これまでの事情などの細かい話は、まだ私が無事であれば、

その頃になりましたらお会いしに行き、その頃の状況を加えて直接お話したいと思っております。


指輪は、ネックレスとして身に着け、

何か困ったことがあれば指にはめてください。


姫の侍従兼護衛のビュートゥじいより

―――


「これだけ?」

「ああ、あんまり書いてなかったかね。

 実はね、16年前に、赤ん坊のリリを抱えて、このビュートさんて人がうちを訪ねてきたんさ。

 その前にあたしが魔法使いとして国外に戦いの手伝いをしに行ってたことがあって、そこでビュートさんと会ってね。時々手紙のやり取りしてたんだ。」

 ここ、アグラール国は、農業大国で、基本的にはそれほど戦いは好まないが、隣国の帝国が、その隣の海産で有名なフィシェーラ国との争いをするため、国境近くのこの村の周辺も被害を受ける可能性があったという。それで、まだ今より若かった、強い魔力を持ったジーナおばあちゃんが、昔の兄弟弟子に呼ばれて応援に行ったのだという。そこで、「ジーナ師匠!」と懐いてきた同じく別の国から援軍として来たという騎士がいて、どうしても連絡先を教えてくれと言われて教えたら、その後も時々手紙を送ってきたので、返していたという。

 最後に送った返信が、国が滅んだとかで届どころ不明で戻ってきてしまい、無事だろうかと気になっていたら、それから半年後位に、突然赤ん坊を抱いたビュートゥさんが、疲れた感じで訪ねてきて、赤ん坊と手紙、ネックレスをおばあちゃんに託して、そのうち16年後くらいにまた来れたら来る、その頃どうなっているか分からないけれど、と言って、どこかへ去っていったのだという。

(ああ、やっぱりおばあちゃんとは他人だったか。ちょっとは血が入っていないかなと期待してたんだけどな。それよりも。)

「姫って……その人、どこの国の人?」

「住んでいると聞いて、手紙を送っていたのは、イシュルンさね。」

「イシュルンって、あれ?竜人の国とか言われているところじゃなかったっけ?」

「そうさね。ビュートさんは人っぽかったけど。あたしはよう知らんね。

 リリが来る半年前だから、17年近く前に滅んだ国だし、あんまり知る人もおらんかも。」

「うーん、情報なしか。そのうち、この人がまた説明しに来てくれるのかな。」

「無事ならね……。」ぐううっ、ぐうっと、どちらからともなくおなかが鳴った。

「ああ、冷めないうちに食べんと。」

 他人どころか、人間でもないかも知れないとか、姫って何?私の名前、リリじゃなかったの?とかいう話は置いておいて、いつまでも、このおいしい食べ物と良い魔法使いで農民のおばあちゃんのような人になりたいという夢を持って生活していきたい、と思いながら、改めて、おばあちゃんのシチューもパンも、やっぱり美味しいなあ、うちの畑のマルウリ、おばあちゃんが調理するととろけるなあと味わいながら食べた。

 領主が今の代になってから、少し村の人たちの幸せな生活の、雲行きは怪しくはあるのだけれども。


今日は天気が良いし、収穫期の野菜が多くて稼ぎ時なので、お昼を食べ終わったら、おばあちゃんとまた畑に出た。

今は夏野菜の収穫時期が終わる頃。夏はマルウリやダダニンジンの他にも、大トマトやガリガリキュウリ、葉物野菜も採れる稼ぎ時。私は土を豊かにする魔法はいまいちだけれど、収穫は風魔法で戦力になる。

「この辺は、明日には採れるかね。こっちはまだだね。リリに採るのは任せて、秋野菜に魔法をかけておこう。」

 おばあちゃんが秋野菜や果物の畑へ行って、魔法をかけた。ぶわわーっと土が光る。

 私も少しでも学びたくて、おばあちゃんが魔法を使う時はじっと見てしまう。

「すごいなー。」

 葉物野菜の畑の端っこに、どこからか種が飛んできて生えていたヒョロヒョロヒマワリの花がある。普通は一本、人の背丈位になって、大きな花が1つ2つ咲くのだが、このヒマワリは数メートルの高さの木になっている。枝分かれして花もいくつも咲いている。土が豊かだとこれほど違うらしい。

「ぼっとしてないで、私も採らないと。」作業を再開する。

今年の初め、のんびりした領主が高齢で亡くなって、その息子でずっと王都に住んでいた人が領主になり、最近税をだいぶ増やすことになった。なので、今までの生活を今まで以上に沢山採って売らないといけない。

「頑張って稼いで、この一年もおいしいもの沢山たべるぞー!」

 おばあちゃんがこっちを見て、はははっと笑った。

「税金になんて負けないぞー!」

「あまりそんなこと大きな声で言わんで。税もだけど、森の木をあんなに切って、村に魔物が出んと良いけどね。」

新しい領主は王都で良い生活をしていたのだろう。村人にかける税を増やしたばかりか、それでも足りないから人を増やすとかで、家を建てるための木材を得るのと土地を広げるためとかで、森の木を伐り始めた。村の人たちは黒い森と言っていて、魔物が沢山いるので、薬草などを時々採りに行く以外、なるべく入らないようにしていた。

「大黒熊とか?見たことないけど。」

「森に沢山食べ物があるから、今までは出てこなかったんさね。薬草採りに行った時、足跡は見たことあるけど。」

 二人で森の方を見ると、

「おまえたち、やめろー!でてけー!」

と、森の方から大きな声が聞こえた気がした。

「ああ、また木ぃ切ってるね。何かの魔物がワオワオ吠えとるわ。」おばあちゃんが言った。

 話し声に聞こえたのは、気のせいだったか、と思った。

3.ネックレスの力

トントン! 

「おはよー!」

次の日は平日。朝畑仕事を手伝って、朝食を終えた後、いつものように元気な女の子の声がした。

「おはよう。今行く!」

今日は早速ネックレスをしている。宝石が目立つと嫌なので、見えないように服の中に入れている。いつものように鞄を斜め掛けにして扉を開けると、村で昔から一番の仲良しの、フルールがにこにこしながら立っていた。薄茶色のきれいで長い髪。きりっとした美人。二人で既に3人、学校へ向かう子たちの乗った馬車に乗り込む。

「おはよう!」

「おはよう!」

 乗っている子達と挨拶をする。

ぶるるっ、引いている馬が気合を入れる。

「おーはーよー。乗ったらいくぞーゥ。ブフッ。」

「はーい、よろしく。」リリが言うと、

「え?何?リリってば、お馬さんに言ってるの?面白い。」フルールがくすっと笑った。

「よろしくー!」フルールが言うと、

「よろしくねー。」みんなも次々に言う。

(あれ?また気のせいだった?聞こえた気がしたけど。)私はあれ?あれ?となりながら、お馬さんもいつもより嬉しそうだし、良いことにした。


この村のほとんどの子供が16歳までの4年間を通う、馬車で30分位のところにある学校に、フルールと私も通っている。16才は、大人の仲間入り。とは言え、私は背も同級生でダントツに小さいし痩せているから、2、3才幼くみられることもある。フルールは平均位の身長で、私より少し年上に見られることもあるが、元気だし、お料理も上手で自慢の友人。フルールも私も、畑と食べ物の話をし始めると止まらないし、一緒においしい物を見つけては食べに行ったり、お互いの家で作ったものを食べたりする(うちで作るのはおばあちゃんだけれど)。

ただ、ここ半年くらい、フルールにとってはちょっと面倒なことがある。


「おはよう!フルールちゃん。今日も可愛らしいね。」

学校に着いて、他の子達と挨拶をしつつ。教室へ向かう廊下を歩いていると、領主の息子が声をかけてきた。薄茶色のカールした髪で、中肉中背。私たちの前に両脇の二人のお供と立ちはだかる。

「あ、おはようございます。」そのまま目を合わせず通り過ぎようとするが、前に回り込まれる。

「今王都から料理人を呼んでいてね。

今週末の帰り、別邸に君を招待したいから、放課後、君のクラスに迎えに行くよ。」

「今週末、フルールは私の家に来る約束があるので。」

私が言うと、

「君には関係ない。僕ら二人の話だから。」

 むっとした顔で言う。この人は話が通じない。お供の2人も一緒に私を遮ろうとして感じが悪い。半年前の領主の代替わりで、領主になった親と一緒にその家族が王都から来たのだが、領主の息子ということで、領民、特に村から来ている私たちよりだいぶ自分は上だぞ、という態度を取ってくる。成績は普通か少し下。見た目も良くも悪くもないが、フルールは働き者で力のある強そうな人が好きなのに対し、領主の息子は都市からきたお坊ちゃんな感じで、あまり筋肉はついていない。名前は忘れた。苗字が領の名前と同じだから、クラスも違うし、あと少しの卒業までそれで呼んでいれば良いだろう。

そのままクラスの教室に向かって、領主の息子は隣の自分のクラスへ向かった。

 ネックレスをしているためか、今日は少し心強い。困ったら、助けてくれる…かも知れない指輪のついたネックレス。

 

学校では、基本的な算術や、文章の読み書き、この国の歴史や王族や貴族といった仕組み、魔術といった共通の科目の他、選択科目を、農業や酪農、薬や治療、料理、道具作りや建築、美術や音楽、体術や馬術など、色々な科目から選べるようになっていた。フルールも私も、共通科目の他農業・酪農は一緒。あと、私はおばあちゃんに習っていることもあり薬や治療も選択しているが、フルールは料理などを選んだので別々になることもある。

今日は、魔術の実技から始まった。

クラス全員外の運動場に出ると、ふっくらして大柄な女性の、クルトン先生がやってきて、たっぷりした茶色い口ひげを右手でなでながら、

「さあ、今日は天気が良いので、軽めに運動してみましょうかー。ボールを持ってきたので、4グループに分かれて、対戦ね。」

 と、左手から頭より一回り小さいくらいの大きさの、黄色のボールを出し、右手にカードの束を出す。

「カードを引いてもらって、4つのマークで組み分けね。みんな、片手を上げて。」

 片手を上げると、それぞれの手にカードがくっついてきた。

 赤、緑、黄、青の4色の模様のマークを確認して、それぞれ分かれた。

「あ、やった!フルール一緒だ!黄色!」

「ほんとだ!良かったー。リリと同じだ」

 2チームずつの対戦で、決められた長方形のフィールド内の両端にあるゴールに先にボールを入れた方が勝ちの単純なゲーム。けれど、魔法を使うのと、けがをさせないというルール以外何でもあり。

 先に、赤対緑の対戦があり、クラスでも魔法の成績が一、二番を争うボムがいる赤チームが、最後ボムの土魔法で作った大きな腕で敵の持っているボールと手の間にしゅるっと入り込んで、取り上げて、勝った。

「赤対緑は赤の勝ちね。じゃあ次、黄と青チームの人たち、準備は良いですかー?」

「うわ、相手、足の速いメルとメリ姉妹がいるわ。」

「あー、ブブもいる。あの子の土魔法走りにくくなるから苦手―。」

私は小声でフルール話してゲームの前からがっくり。勝負が見えている。

クルトン先生がスタートの合図で、ボールを2チームの間に投げた。さあ、開始だ!

開始早々、きっと双子のメルメリのどちらかに取られて……と思ったら、今日は身体がすごく軽くて、すすっと手がボールに届いて、ボールを取ってしまった。

「あ!リリ、やった!」

 そして、ゴールに走る。

(あれ?走るのが、速くなってる?他の人がやたらと遅い?)

 相手チームのブブが土魔法で地面を凸凹させるが、余裕があるので風魔法で防御しながら走ると、そのままゴールにボールを入れた。

「はいそこまで!黄チームの勝ち!」

 他の子たちは息切れしているから、本気で走っていたようだ。なのに、何故。今までと違うのは……。

「リリ、どうしたの?」

「もしかして、今まで隠してて、これが本当の力なの?」

フルールや、他のクラスの子たちが駆け寄る。

「昨日、誕生日だったからかな?覚醒したのかも。」

私は冗談交じりで、引きつり笑いをしながらそう言って胡麻化したが、これはきっと、ネックレスのせいでは。

(困ったら指輪をはめてって、ネックレスとして首にかけてるだけでこれって、どれだけすごい物なの?)


 そして、次の時間は酪農。

「今日は、お待ちかね。マタタキ牛の乳しぼり体験です!しぼった後は、ミルクを飲みましょうね!」

 牛舎の入口の前で、しっかり筋肉のついた、ガタイの良い男性の、ラタッタ先生がにこやかに、みんなに話す。みんな手をたたいて喜ぶ。先生が、静かに!と注意する。先生に教わって生徒たちが代々育てているマタタキ牛の牛乳は外にも販売されていて、とても美味しいと評判だ。ここにいるのは、授業で少しでも覚えて自分でも育てられるようになろうと真剣な生徒ばかり。

「この前の授業でお話したとおり、牛さんはとても神経質です。

大きな声や音を出したりして牛さんが怖がらないように注意しながら、魔術で優しくしぼってくださいねっ!

では、牛舎に入りましょう。」

 5、6人ずつのグループに分かれて、2グループずつ入って2頭の牛の乳を搾る。先生が少しやって見せてくれたら、あとは順番に一人ずつ、全員絞ってみる。マタタキ牛は、みんな目がくりっと大きくて、まつげが長くて、ばしばしっとまたたくと、星が飛び散る。あちこちにふわふわと、小さい星が浮かんでいる。

 じゃんけんで、私は6人中3番目になった。順番を待っていると、乳を絞られている牛が、ばしばしっとまたたいて、星が数個飛んだ。

「さ、待っている子たちも、星でも召し上がれ~。」

「え?これって、食べられるの?」

「そうよ。子牛ちゃん達が食べてるの、見たことなアい?」

 言われて、そう言えばそうなのかな?と、一つつまんで舐めてみた。ほんのり甘くて、ふわっとして、飴のような味。舌でプシュッとつぶれる。

「あ、甘い!」

「え?星、食べられるの?」後ろに並んで待っていたメルが驚いて聞いた。

「食べられるって言ってたよ。」私が言うと、

「「誰が??」」メルと絞り終わって近くにいたメリが声を揃えて言った。

(……あれ?誰だっけ?)

乳を絞られていた、牛がこっちを見て、にやっと笑って言った。

「私が言ったア~~。あなた、私の話が聞こえてるのねエ。めずらし~。」

 何と応えて良いか分からず、絶句する私。


やっぱり、動物の話が聞こえるようになっていた!!


「あ!本当だ。甘くて、軽くて、美味しい!」

「何だこれ、口に入れると溶ける!」

 周りの子たちは私がただ牛に話しかけているだけだと思ったようで、すぐにそれよりも、星を食べるのに夢中になった。

「先生も知らなかった!

すぐ消えちゃうし、みんな口に入れようと思わないから知らなかったんですね。」

ラタッタ先生も興奮気味。

牛さんも満足げで、みんなの楽しい乳しぼりの時間は今までに無く大盛り上がりで終わった。

4.学校帰りの事件

 そんな感じで、パワーアップした私は、同級生には動物と話せるのはなんとか誤魔化しながらも、おばあちゃんには学校から帰ってすぐに報告した。

 おばあちゃんは、変な子だと思われると面倒だから、しばらく他の子には隠しておきなさい、と言いながら、

「色々役に立ちそうで、良い力手に入れたんだね。」と、喜んでくれた。

 おばあちゃんの他に、フルールにだけはもうばれかけている気がしたので、ネックレスのことは言わず、誕生日頃から動物の話が分かるようになったみたいだと話したが、他の人には隠して、ちょっとずつ、どこかで鳥や動物を見かけたら、こそこそと話してみていた。

 魔法も、魔力が増しているようだったので、おばあちゃんの持っている本にある風魔法から、使う機会がありそうなものから選んで試し始めたところ、風で雲を操り天気を悪くして雨を降らせたり、雲を散らせたりという、強力な風魔法も使えるようになっていて、これは農業にも役に立ちそう。話し声などの空気の振動を塊にして物に記録する魔法も、何かに使えるかも。おばあちゃんは学校にもない魔法の本を何冊も持っているので、試すのはまだまだ時間がかかるが、これから少しずつ試してみることにした。


 そして、あっという間に週末の朝がきた。

「おはよう!フルールちゃん、今日、約束したとおり、帰りに迎えに行くね。」学校に着いて、また廊下で領主の息子がフルールの前に出てきた。

(約束してないけど。断ったけど。)

思うけど、どうせ話が通じない。今朝も時間が無いのでいつも通り、クラスの教室に向かって、領主の息子は隣の自分のクラスへ向かって、問題なく終わった。帰りも早めに学校を出てどうにか逃げよう、と思っていた。

 が、捕まった。

 そんな日に限って、この日の最後の授業が歴史の授業だったのだが、長引いたのだ。王族や貴族、農民などの立場に分かれて討論しながら学ぶというもので、生徒たちの議論が白熱して、なかなか終わらなかった。

 気が付くと、廊下の窓から、領主の息子がニコニコしながらのぞいていた。

(あ、撒けなかった~。)

 でも、まだ負けてはいけない。ちょっとパワーアップした私が役に立つ時だ。そう思って、先生のまとめの話の間にも荷物を片付け、授業が終わるとすぐに、

「走ろう!」私はフルールの手を引いた。

 二人で教室を飛び出して、教室のドアの前にいた領主の息子と子分たちは風魔法で無理やり突破したが、校舎から出たところで、さらに数名、従者が出てきた。

「え?子分以外にもいるの!?」

魔法でフルールと引き離されて、何故か私はハンカチで口を塞がれ、何かお酒みたいな匂いを嗅いで力が抜けていく。

「リリー!誰か……。」

フルールの声も遠くなりながら小さくなる……さらに大きな麻袋を被せられ、気を失った。


 目が覚めると、私は狭い部屋の一室に転がっていた。縄などで縛られているわけでもなく、ただ転がされているだけ。

「雑だな。」

 小さい窓が上の方に一つと、反対側にドアが一つある。

「あー、やっぱり、鍵は締まってるのね。」

 ガチャガチャドアノブを回そうとしても回らず、押したり引いたりしても開かない。窓も、普通に背伸びをしても届かないし、身体が通る大きさではない。

「どうしよう。」私の魔法では、このドアは壊せない。そんな間にも、フルールは嫌がっているのに、別邸に連れていかれているのだろう。

 私も、いつまで閉じ込められているのかも分からない……。その時、指輪のことを思い出した。ネックレスはそのまま、私の首にかかっている。指輪も傷はついていない。

「良かった。これは、ピンチだよね。」

 指輪は私の指には少しゆるかったので、指輪をネックレスに付けたまま、鎖は手に巻き付けて、左の人差し指にはめてみた。

 すると、

 視界がぐぐぐーっと高くなる。

 天井が近くなって、

「うわ!頭がぶつかる!え?え?」

ドガガガガ!ガシャーン!ドーーン!!

頭が天井を突き抜けて、部屋の窓側の壁が崩れた。

「うそ、痛くない。私の身体の方が固いってこと?それに、大きくなった?」

 くるっと後ろを向いて、肩越しに背中側を見ると、赤い背中に、コウモリみたいな2枚、羽が生えていた。

 今私が立っている建物は、1階建ての倉庫だったようだ。壁が壊れている方に2、3歩進んで、建物の外に出た。この辺は人気が無くて、少し向こうに、学校の校舎が見えた。

「学校の近くか。フルールは、別邸かな。確か、馬車で30分はかかるところだよね。

 こんなに大きいと、馬車には乗れそうもないね。」

 歩いてみたが、どしんどしんと、音がすごいし、あまり速くない。

「うーん、どうしたものか……。」

と、悩みながら、無意識で羽をぱたつかせていたら……。

足が地面から離れて、身体が浮き始めた。

「もしかして、この羽で飛べる?」

 遠くに飛んでいくイメージをしながら、背中の羽を、さらに羽ばたかせる。

 羽ばたくごとに、どんどん身体が高く浮いていく。

 今度は、前に進むイメージ。ちゃんと、前に進み始めた。

「うわっ、私、飛んでる!?」

 羽を広げて、ばっさばっさと羽ばたく。

間もなく、下から数名の人が騒ぐ声がして、自分でも鋭い爪と硬いうろこの着いた手足を見て、その頃には、どうやら自分は竜になったようだと気づいた。

「それより、夢でもなんでもほんとに早くフルールのところに行かなきゃ。間に合って!」

 私は左に旋回すると、領主の別邸に向かったのだった。

5.竜とお茶会

 しばらく羽ばたいて行くと、なだらかな山の裾野の湖の畔に、石造りの小さい古城が見えてきた。確か、領主の別邸だ。

「わー、馬車より全然早いんじゃない?」

 始めは方向を変えるのに慣れなかったり、ふらついていたが、飛ぶのもだいぶ慣れてきた。

 別邸に近づくと、入り口のあたりに馬車が止まっており、湖に面した庭にあった白いガゼボの下から、こっちを指さしながら、誰か出てきた。

 領主の息子と、護衛騎士や、給仕のメイドさんなど?あと、フルール!

 きゃーきゃー騒ぎながら、こっちを見ている。

「フルールー!来たよー!」

 そちらに向かって飛びながら言ったが、聞こえているのか分からない。みんな慌てている。フルールも、この機に逃げようとしたようだが、捕まった。残念そう。

 庭に着いて、芝生の上に降り立った。

 護衛騎士が2名、剣をこっちに振り下ろしてきたので、炎を口から出してみる。

「うわー!」

 ちょっと炎を出しただけなのに、始めから腰が引けていたので、一人は尻もちをつき、一人は逃げて木の陰に隠れた。

「おい、何やってる!護衛が逃げるな!」

領主の息子が言う。

(手で掴むのも、口で加えるのも、これだと危ないかな?)

風魔法で、フルールを捉えて、私の背中の肩のあたりに乗せた。

「わ!え?何?」

慌てるフルール。まあ、そうだろう。ちゃんと掴まってくれているか分からないので、できるだけ揺れないように低空飛行して、その場を離れた。

「あの場から逃げられたのは良いけど、私、何故か竜に捕まってる?

どうなるんだ?私。」

背中でとまどうフルール。

「私の話、分かるかな?私。リリ。」

そう言って、左の人差し指の先にはまっている指輪と、そこから垂れているネックレスの鎖を彼女の視界に入るようにちょっと左後ろに向けた。届かないけれど。

「え?もしかして、リリがあなたを呼んで助けてくれたの?

彼女も無事だったなら良かった。どこにいるの?」

言葉は通じないようだが、味方だということは分かってくれた。良かった。どこにいるかは伝えられないけれど。

 そこから比較的近く、人が少なそうな、森の端の辺りに降りて、彼女に背中から降りてもらい、一人森に入った。

(どうすると人に戻れるのかな?指輪、外してみるか。)

 右手の爪を使って、指輪を外した。

 ぐわーっと、周りの木々が大きくなる。

「わわわっ。あ、戻った?」

 見ると、手足は人の手に戻っていて、服も元通り。

「良かった。裸じゃなくて。」

 ネックレスを首にかけて、フルールのいる森の端に戻った。

 周りをきょろきょろ見回していたフルールが、森から歩いてくる私に目を留めた。

「あ、リリ!良かった。怪我とかしてない?

今、竜が助けてくれたの。リリが呼んでくれたんでしょう?

これも、ネックレスの力ってこと?なんだかすごいね。

ありがとう。」

「うん。無傷。

閉じ込められたんだけど、指輪に助けてって頼んだら、竜がきて、助けてくれたの。」

 そして、フルールも助けてもらった、と言った。

 フルールは、学校から領主の別邸に連れていかれ、息子と二人でお茶会を始めていたらしい。

「私は全然手荒なことはされていなくて、

きれいなケーキなんかが沢山出されていて、

確かに、ちょっと食べたところでも、かなり美味しかったのよ。

でも、彼とは親しくないし、話すこともないし、食べる代わりに彼女になって、とか言われても無理だし。

あれをみんなで食べるなら、とっても楽しいと思うのだけど……。」

「ただのお茶会をするのに、閉じ込めないといけないほど、私が邪魔だったってこと?」

ひどすぎるねと、二人でお腹を抱えて笑った。

領主の息子は、今頃残念がっているかも知れない。ただ、好きなこと二人で、彼女の好きだと聞いた美味しいお菓子を一緒に食べて、喜んでもらおう、そして、僕の奥さんになったら、これがいつも食べられるんだよ、なんて言って口説こうとしたか。

「みんなでだったらぜひまたお茶会やって欲しいって言ってみようかな?

 お菓子は美味しかったし、みんな喜んで、彼の評判も良くなると思うのよー。」

「フルールは優しいね。

 彼がそう言われて考え直すなら、見直しても良いかもね。」

気づいたら、二人の学校用の鞄が無かったので、攫われた時、学校に置いたままになっているだろうと、二人で学校へ戻った。鞄は領主の息子の従者がその場で預けたらしく、学校の入口の守衛さんが持っていて、返してくれた。

(それにしても、竜になれる指輪だったなんて、びっくりだわ。

そして、初めて竜になったのにしては、何事も無く目的を果たせて良かった。)

 そんな風に思いながら、家に帰った。


 次の日になって、何事も無くは無かったと分かったのだけれども。


6.竜の噂と騒ぐ魔獣

 次の日は週末で学校が無かったので、朝からおばあちゃんと畑に出た。

すると、隣の畑の方で、既に来ていたシュタン家のおじさんとおばさんが、騎士と話して「えっ?」とか、「あら大変!」とか言っているのが少し聞こえてきた。隣の畑までは距離があるので、詳細は聞こえない。

何だろうと思っていると、シュタンおばさんが鍬を畑の隅に置いて、小走りでこっちへ走ってきた。

ちょっと息を切らしながら、シュタンおばさんが言った。

「おばあちゃん、リリちゃん、聞いたかね?

昨日、学校の近くの倉庫と、領主の別邸のとこに竜が出たってさ。」

「いや、知らないね。で、気を付けろって?」

「そうそう。倉庫は壊されて、

ちょうど別邸に遊びに来てたフルールちゃんは連れてかれたけど、

 フルールちゃん、逃げられたみたいで、

騎士さんがお家に聞きに言ったら、ちゃんと家帰ってたって。

 そん時、竜は森の方へ行ったってフルールちゃんから聞いたってことだけど、

 で、まだどこかいるかも知れないから、今日の農作業は気を付けてって。」

 フルールちゃん無事で、良かったねー、と二人は言い合って、

「分かった。ありがとう。それじゃ。」

シュタンおばさんが畑に戻っていき十分離れたところで、おばあちゃんがこっちを振り向いて、言った。

「リリ、昨日、何があったかちゃんと話してくれんか。」

 おばあちゃんは誤魔化せないだろうし、なんとなく気づいている気がしたので、私は、昨日会ったことを全部話した。

「そうか。その指輪、竜になる指輪だったか。

戦場にビュートといた時も、何度か竜は見たことあって、竜国の人は竜呼べるんかー、と思ってたから、

リリもそのうちそうなるんかな、と思ってたけど、リリが竜になるとは……。

それにしても、騎士は、倉庫にリリが閉じ込められていたってことは言わんのね。

学校で連れてかれの見た人も何人もいるだろうにさ。

リリを一人で閉じ込めてどういうつもりか?

嫌がってるフルールちゃんが領主の家に一人で遊びに行くとか、なかろうがっ。

二人とも怪我せんで、ほんと良かったわ。」

 おばあちゃんはものすごく怒っていて、私が無事帰って来れて、本当に良かった、良かった、と何度も言っていた。しばらく腹立たしくてならない、という様子だったが、おばあちゃんと私は竜が出てこないことが分かっているので、しばらくしたらいつも通りに畑仕事を開始した。

 周りの畑の人たちも、はじめそわそわしていたが、昔からのことをよく知っているおばあちゃんがいつも通りなので、きっと、大丈夫なのだろうと安心したらしく、いつものように畑仕事を始めた。

 噂は朝聞いたような形で広まっていて、私が閉じ込められていた倉庫に竜が出たという話はなく、閉じ込められたのは無かったことになったようだった。


翌日、野菜を朝市に出すため朝早く町へ出た。市場が始まり、人が集まりだすと、中央の大きなからくり時計の下に、白い大きな襟の赤や青の縞々の派手な服を着た、領主の部下が立って、立て看板に紙を貼り出して、言った。

「竜が出て、黒い森に戻って行った。

まだ森にいる可能性があり、みな心配だろうが、安心するように!

領主はみなの安全のため、竜を探しに森に兵を向かわせることを決めた!以上!」

お店に野菜を売って、空になった荷車を脇に置いて聞きに行ってみたが、それだけだった。

(竜は森にはもういないから、意味ないのに。)

 無駄なことをして、また税金をその分増やされるのかと思うと嫌だけど。荷車に乗って、魔法でビューっと帰路につく。


 だが、意味が無い以上に、それは愚策だった。

 翌日早速騎士たちが森に入って、闇雲にあちこち荒らし始めたらしく、森の魔獣たちがざわつき始め、小さいボールウサギが畑の上を転がって葉物野菜が傷んだとか、中くらいのピョンピョンジカがウリをつまんで行ったとか、森から魔獣が出てきて畑が被害に合っているという話が聞こえ始めた。

 おばあちゃんと、私は、村の畑の魔獣の見回りに出た。おばあちゃんの魔法は随一だし、魔獣についても昔からの知識でよく知っているので、屈強な男の人より魔獣に対して役に立つと、以前からこういう時は率先して出る。

村の畑の方へ行くと、早速、真ん丸になってもふもふと畑を転がる、全身白と、白にグレーのぶちの、2匹のボールウサギを見つけた。

 おばあちゃんが土魔法でさっと檻を作って生け捕りにする。

「タ、タスケテ―!」「イヤー!ダシテ―!」

土の囲いの中から、2匹のボールウサギが転がってぶつかりながら泣き叫ぶ。

「助けてって、もう畑の上で転がらないって約束しないと出せないよ。」私が言うと、

「ダッテ、ワタシラ悪クナイモン。」

「人ラガ森キテ、木切ッテ、大黒熊ボス怒ッテ、キャーッテ、逃ゲテキタダケダモン。」

「大黒熊がボスで、怒ってるのね。」私が言うと、

「ボス、カンカン。」「悪イノハ、森キタ人ラ。」

ボールウサギたちは、ボスの真似なのか、ちょっと目の端をキッと上げて、怒った感じの表情をして見せた。これから木の実がなる時期なのに切られて、食べ物が減るからものすごくお怒りらしい。

「リリ、この子ら、何言っとるの?あたしは聞き取れんで、訳してくれんか。」

「あ、おばあちゃん、森に竜を探しに入った騎士たちが、木の実のなる木を切りながら進んでるんだって。

それで、大黒熊さんが怒って暴れてて、巻き込まれたくない子たちが逃げてきたらしい。」

「早く止めさせんといかんね。逃げとるのだけじゃなくて、あんまり切ると、そのうち畑に食べ物探しに来るのも出てくるからね。」

 領主に言って、森へ入るのをやめてもらわないといけない。切ってしまった木は戻らないけれど、これ以上ひどくなる前に。おばあちゃんは、村の古くからいる人達や、力のありそうな見た目の人達を連れて、領主に訴えに向かった。

「さてと、ボールウサギちゃん、ピョンピョンジカ、一緒に探せるなら、そこから出すけど。」

「ピョンピョンシテ、スグオ腹空イチャウ子ネ。」

「ワカル。アッチデ、ピョンピョン音シテル!」

 私はボールウサギ達の檻を壊して出して、一緒に近くのウリ畑にいる数匹の薄茶色に茶色のブチのピョンピョンジカのところへ行き、ウリを食べているのをウサギ達と一緒に止めた。

そして、私は、彼らに森に戻ってもらうためにも、大黒熊のところへ案内してもらうようお願いした。

「案内デキルケド、大黒熊ボス、自分ヨリ強イヤツノ話シカ聞カナイヨ。」

「ボス、強イヨ。」みんな反対して渋る。

「あー、人では言うこと聞かないってことね。しょうがないか……。」

 そこは考えがあるから、と言って、兎に角近くまで連れて行ってもらうことにした。


7.騎士たちと森のボス

 ボールウサギやピョンピョンジカ達に先導してもらい、黒い森へ行くと、確かに騎士たちが木を切って通った跡と思われる細い道ができており、しばらく進むと、

「チョット、隠レテ!」白いボールウサギが言い、みんなで近くの茂みに隠れた。

 少し先に、小さな木の小屋があり、その前にも人の気配がある。騎士たちだろう。

「本当に、竜は森にいるんですかねー。」

「別邸に出たのは俺も見たし、確かに森の方に飛んで行ったようには見えたね。」

「でも、帰ったならもう良いんじゃないかと思いますが。下手に怒らせたらかえって怖い気が……。」

「俺たちで勝てるんですかね?竜と戦ったことなんてないのに。」

「領主が行けって言うから、来るしかないだろう。」

「王都から来た、研究所のお偉いさんもついてきているしな。」

「彼ら、小屋で楽しそうにしてますけど。まあ、護衛騎士の方はちょっとは戦えるかな。」

 もういない竜を追えと言われて来たが会うこともできず、困っているようだ。

(竜に会えなくても、領主が命令を取り下げるまでずっと奥まで木を伐りながら進むのだろうし、

ただ竜になって追い返しても、また戻って討伐とかなるんだろうね……。あ!この前覚えた風魔法、使ってみるか。)

そして、

「ウサギちゃん達、実は私が竜なのよ。で、今から竜になるけど、怖くないから驚かないでね。」

「「エッ?!」」


 騎士たちが、そろそろまた進もうか、と話していると、

 急に空に雨雲が増え、辺りが暗くなってきた。

 ポツ、ポツ、ポツ……ザーッ

「あ、雨だ。」

「小屋でまた少し待つぞ。」


 その時、

ガオー!

 何か大きな魔獣が吠える声がして、白衣を着た、肩に白い小さな丸っこい鳥を乗せた研究所の研究員が小屋から出た。

「待ってください!」ちょっと立派な騎士、が後を追い、領主家の騎士たちもそれ追って小屋から出た。

 するとそこには、2階建ての家ほどの背丈の赤い竜がいた。

「うわ!竜だ!」「本当に出た!」

「すごい!本物の竜だ!初めて見た。うわー、きれいだ!」白衣の研究員は興奮して前に出てきたが、すぐ立派な騎士に、後ろに隠された。

『おまえたち、わたしはこの森を治める竜であるぞ。

 森を荒らす者は、許さぬ。

 畑を大事にする者を傷つける者も、許さぬ。

 おまえたちは、わたしには勝てぬ。

 あきらめて、森を去れ。

 さすれば、追わぬ。』

 竜の方から、声が聞こえてきた。

「分かりましたー!帰ります―!」

 騎士たちは、わーっと急いで、みんな走って逃げた。

「え?ちょっと、折角竜に会えたのに。」

「何してるんですか!あれは勝てません。逃げますよ!」

研究員も、立派な騎士に引っ張られ、しぶしぶ帰って行った。

ぱたぱたぱた……

研究員の肩に乗っていた、白い小鳥が、竜の方に飛んで行った。


最近身に着けた、天気を操る魔法と、録音魔法を早速使ってみたのだった。学んだ魔法が役に立つのはとても嬉しい。

 騎士がみんないなくなったので、

「もう出てきて大丈夫だよ。」

 竜の姿のまま、ボールウサギやピョンピョンジカ達を呼んだ。茂みから出てきた彼らは、転がったり跳ねたりしながら、すごい、すごいと喜んだ。

「竜強イ!人ラ追イ払ッテクレテ、アリガトウ!」

「大黒熊ボスモ、竜ノ話ナラキット聞ク。ボスノトコ、案内スル!」

 竜の姿で、ボールウサギやピョンピョンジカ達に先導してもらい、大黒熊のところへ行った。魔獣たちは隠れているのか、時々がさっと音がすることはあるが、全く合わなかった。

 森の最奥近くに案内してもらうと、黒くて人の倍くらいの背丈の大黒熊ボスと、人の子供位の子熊2頭とボスよりは一回り小さい奥さんの、4人家族で住んでいた。自分が竜になっているから、小さく感じる。

「うをっ!竜か!?初めて見た!

 どう見てもあんたのが強いな。

 けど、勝負だ!」

 大黒熊は突然私に飛びかかってきたが、ばーん!とぶつかってすぐに後ろに倒れ、尻もちをついた。

「負けた!でも、勝負できて良かった!ありがとう!

 今日から、あんたがこの森のボスだ!」

 大黒熊はすぐ立ち上がり、明るく大きな声で言った。

「みんな、出てこい!新しいボスの誕生だ!みんな、挨拶しろ!」

どこからか、わらわらと魔獣たちが集まり始め、周囲を取り囲んだ。空にも沢山飛んでいる。

ゴオオオオ、オオオオオ……、グオオオオ、オオオオオ……

沢山の声が合わさって響き渡って、しばらくして静まった。

「ボスになる気はないのだけれど……。えっと、リリ呼んでくれれば。」

「いや、一番強い物がボスだ!リリ様!

 わしは名前が無いから、わしにも名前を付けて、適当に呼んでくれ。」

「うーんと、じゃあ、雰囲気から、『ヌゴゴゴ』とか?」

「……いや、それは、……ちょっと。」

『センス、無いね。』私の頭の上から、可愛い声がした。

「あれ?いつの間に?」私が言うと、

「誰?森ノ子ジャナイネ。」ボールウサギ達も言った。

『わたし、コフク。王都からきたよ。

新ボスのアイディアを活かして、ヌーゴとかでどう?』

「あ、それなら良いかな。」

「え?私のと、何が違うの?」

若干納得いかないが、それはさておき、私は、いつも森にいられないので引き続き森はヌーゴに治めてほしいと話した上で、人が森に来ないように追い払ったということと、村でも領主に、森に入らないように頼みに行っているからもう来ないだろうということを伝えた。大黒熊ボスは、そう言えば、森を荒らされてとても怒っていたのだったと思い出した。

「代わりに、村の畑は荒らさないと、森の皆には約束して欲しい。」

「分かった。森に入らないでくれるなら、人の縄張りには入らないと約束する。」

「じゃあ、今日はもう帰って、村の人にそう伝える。」

「もう帰っちゃうのか!?食べ物用意しようと思ったのに!」

ヌーゴは残念がり、リリが帰るなら、ちゃんと巣までお送りしなさい、とボールウサギ達に言った。そして、せっかくだからと果物を渡そうとしてきたので、果物より薬草が良いと言って、美味しくないのにと変な顔をされながら、森の奥の方でないと取れない薬草を、少し採らせてもらった。


ヌーゴ達から少し離れたところで、指輪を外して人に戻り、ボールウサギ達に家の前まで送ってもらった。

「ヘー、竜ボスノ巣、ココナノカー。」「道覚エタ。人ニ隠レテマタ来ルネ。」

と、ボールウサギ達は家をじろじろ見て、帰って行った。

『じゃあ、わたしも帰るわ。またね。』コフクもまだ着いてきていて、やっと帰った。

(私、森のボスになってしまった……。)

「ただいまー!」

「おかえり!あんた、今ボールウサギ達と来たね。どうなった?」

森の魔獣たちとお互い縄張りを荒らさない約束をしたことを話した。心配されると嫌なので、ボスになったことは言わず。

「分かってくれた。それで、これ、お土産の薬草。」

「おや、マブリーや、ナデナデの葉かい。これは、珍しい薬草だねえ。普段作れない薬が作れて助かるよ。」

「領主は、森へ入らないことを守ってくれそう?」

「ああ、村のみんな入って欲しくないって言ったから、森には入らないとは言ってくれたね。

まあしぶしぶだけど。」

 

 領主は騎士を森へ送るのを止め、切り開くのも中断した。森の魔獣も、畑へ出てこなくなった。

そして、その日以降、時々、朝おばあちゃんと私の家の扉の前に、薬草や食べられる茸、珍しい虫の死骸(おばあちゃんによると薬にもなる)などが届くようになったのだった。


8.魔獣研究所の研究員

領主と森の話は解決したが、領主は顔を潰された形になったとも思ったらしく、領主の息子は勝手に別邸に女の子を呼んでお茶会をしようとしたこと、領主の所有していた倉庫に人を閉じ込めて、それを竜に壊されたことなどもばれて、評判が悪くなるようなことはするなとひどく怒られたらしい。

「フルールちゃん、喜んで欲しかっただけで悪気は無かったのだけど、謝る。」

また朝に学校の廊下で、領主の息子が話しかけてきた。

「私より、リリがひどい目にあったんだから、リリに謝って。」

「あ、リリちゃんだっけ?ごめんね。

二人でお茶会やりたいと言ったから、お供が気を利かせてくれたみたいで。

閉じ込められたって、無事で良かった。」

 名前も覚えてなかったのね。お互い様だけど。

「うん。村の神様にお願いしたら、偶然竜に助けてもらえたみたいね。」

「それは……二人は敵に回したくないね。

で、お父様に何かお詫びの品を聞いて来いと言われたのだけれど、

フルールちゃんと、リリちゃん?何が良い?」

「それなら、私が少しだけ食べさせてもらった、あのお茶会のお菓子、

まだ料理人の人がいるなら、リリも一緒に食べたいかな。ね、リリ。」

フルールが言って、私を見てにっこりする。

「そうだね。フルールと私だけでなくて、村の同じ位の歳の子達みんな呼んでくれたら、みんな喜ぶかも。」

「それは、きっとみんな、新しい領主と領主の息子さん、良い人~ってなるね!」

「そ、そうか。評判良くなるか。料理人はまだいるから、早速お父様に提案してみるよ!」

 

楽しみも増えたし、これで、平穏な日々が戻ってきた、良かった、と思った。

 が、次の日家に帰ると、思わぬ来客が来ていた。

「ただいまー。」

「お帰り。」

「あ、お嬢さんですね。お邪魔しています。」

 家に帰ると、私と同じ位か、少し年上と思われる男性と、騎士が、おばあちゃんの向かいに座って3人でお茶を飲んでいた。

 私がそのまま2階へ上がり、学校の鞄を部屋に置いて着替えると、ドアをトントンと軽くノックして、外からおばあちゃんが声をかけてきた。

「ちょっと良い?」「うん。」

 ドアを開けておばあちゃんを部屋へ入れた。

「この前、領主の家、あたしら行ったでしょう。森へ行かんでねって交渉しに。

そん時、今下に来てる、王都の魔獣研究所の研究員とかって人と、護衛騎士さんって人がちょうど領主の家に来ててね、竜が出たっていうんで、調査に駆け付けたって。

まず領主から話を聞いてたけど、村の人にも聞こうって、フルールちゃんとこにも行って、その後こっちへ来たんさね。」

「ああ、王都から。ちらっと見ただけだけど、なんか村にいなそうな、上品な感じの人達だもんね。」

「なんか、リリが閉じ込められてた倉庫に竜がきたって話、領主に聞いたみたいで、詳しく聞きたいって言ってるけど、まあ、ちょっと話聞いたら帰るだろ。」

「あ……。」

そう言えば、領主の息子に私何か余計な事言ったかも知れない。でも、大事なことは何も言っていないから、また誤魔化せるだろう。念のためネックレスは、首にかけたまま、指輪の部分を服の中に入れた。


 おばあちゃんと1階へ降りると、研究員らしき男性と護衛騎士らしき男性がまだ座って、おばあちゃんの作った料理をつまんでいたが、リリを見て立ち上がった。

「ああ、お嬢さん、初めまして。魔獣研究所で研究員をしています、マックスと言います。

 竜が出た噂を聞き、調査のため急いで駆け付け、領主やあなたの友人から、あなたを助けに竜が出たと聞きました。

なので、詳しくお話を伺うお時間をいただきたいと思いまして、本日参りました。」

そう言って、右手を出した。左肩に、なんとあの、コフクが、大人しく留まっている。

 驚いて、じっとコフクを見てしまう。

(……なぜおまえがいる?)

「あ、このこは、コフクです。」

「初めまして。リリです。ただの学生です。」

握手をした手は、研究者らしく指が細長いが硬いまめがあり、剣を使う人の気がした。

「マックス研究員?の護衛騎士です。」

マックスさんの隣の騎士は、握手は求めず、両手を体の脇にぴたっと付けてすっすっとお辞儀をした。そして、皆テーブルをはさんで椅子に腰かけた。

 マックスさんに当日の様子を聞かれて、学校を出たところで何か嗅がされて意識を失い、気が付いたら倉庫に閉じ込められてたこと、不安で村の神様にお願いしたら、しばらくしてなぜか突然竜が現れ、倉庫を壊して助けてくれたこと、フルールが心配だと言ったらそっちも助けてくれたようだ、フルールは、竜が助けてくれた後、森へ入って行った、と言っていた、と、話した。

 話をしている間、マックスさんを見ていた。ふわっとした、緑がかった薄めの金髪で、色白で緑色の目をしている。きれいな人だが、緑色はなかなか見ないな、と思った。

「なぜ竜が現れたかは、分からない、と。」

「はい。残念ながら。」

「村の神様も、竜ではないね。農業の神様、牛だっけ?

 あ、そう言えば、領主の騎士たちと、森で竜に会った時、

 森と、畑を大事にしている人を傷つけるなって言ってたね。

 実は、僕らも騎士たちと一緒に森へ行って、竜、見たんだよね。

 いやあ、かっこ良かった!赤色がルビーみたいにきれいだった!」

脱線し始めて、コフクに、軽くつつかれる。

「じゃ、なくて、畑、大事にしてるのかな?」

「畑は、確かに大事にしてますね。すみません。お役に立てず。」

苦笑いをして、言った。

あの時、騎士たちと一緒に森にいた人だったか、と思ったが、敢えてそれには触れず、

「話って、メモとかしないんですね。」

「ああ、記録は魔法でしているね。僕の場合はこの、ネックレスの石にいったん入れている。」

 そう言って、マックスさんが首元のネックレスを服から出して、ついている青い石を見せた。

「風魔法ですか。」

「そう。知ってましたか。そう言えば、リリさんも、何かネックレスをしているね。

 それは何か、魔法の?」

「ああ、これは、この前おばあちゃんにもらった物です。」

「リリの親から預かった、形見です。この子の両親が、戦争で育てられなくなったと、赤ん坊のこの子を預かりまして。」おばあちゃんが言った。

「リリさん、髪や目の色が、この国の人の色ではないなと思いましたが、そうでしたか。」

マックスさんが言うと、

『そうだよねー。竜の国の色だねー。』と、コフクがにやっとして言った。

「え?」つい、声が出た。背中がヒヤッとする。マックスさん、今の話聞いた??

「あ、コフクがなんかピイピイ鳴いてるね。すみません。」マックスさんが言う。

「いえ、気にしないでください。急に鳴いてびっくりしてしまって。」誤魔化す私。

「賢い子で、どうも僕が言ったことに同意する時なんかに、肯定するように鳴くんですよ。」

(肯定以上だけどな。それか、マックスさんも、竜の国の色だと思っているという意味?)

どうやら、マックスさんはコフクの話の内容が分かってはいないようだが、意思の疎通は出来ているみたい。

(そうだよね。話を聞けたら、私があの時竜になっていたことも、話しているだろうけど、それはばれていないみたいだしね。良かった。)

「それより、さっき話していたネックレス、折角来たから見せてもらおうかな。」

「え……。」

私以上に色々知っていそうだから、できるだけ危険は避けて、見せたくない。でも、何だか断り辛い。

 戸惑いながら、私はネックレスに手をかけた。緊張が走る。

トントン、トントン、

 その時、入り口の扉を叩く音がした。

「リリー!私。フルールだけど、準備できてる?

そろそろ領主さんの家へ一緒に行く時間だよー!」

「あ、そうだった。」

「あれ、予定あった?」おばあちゃんが聞いた。

「領主の息子…さんが、今度お詫びにみんなをお茶会に招待するって話があって、

 私たちも少しだけ相談に乗って欲しいって言われていて、忘れてた!」

皆の緊張が解けた。

「すみません。行って良いですか?」

「こちらこそ、予定あるのにすみません。じゃあ。」

 ばたばたと荷物を取りに部屋へ行って、すぐ外へ出て、フルールと家の前の領主家の馬車に乗った。

「じゃあ、また。」マックスさんが小さく手を振って見送った。

一息ついて、

「ジーナさん、ありがとうございました。今日はそろそろ帰りますね。」

「あら、帰るんか。すみませんね。予定があったとは、知らなくて。」

「良いですよ。まだしばらく、この近くの宿に泊まっているので、また来ます。

 ジーナさんって、すごい魔法使いですよね。次は魔法の話も聞かせてください。

 では。」

 マックスさんと護衛騎士は、おばあちゃんに見送られて帰った。

 

 家を少し離れたところで、護衛騎士がマックスさんに話しかけた。

「無駄足でなくて、また来るんですか?」

「うん。また来るよ、ウィル。

だって、あのリリちゃんて子、竜国のイシュルンの血が入ってるだろう。」

「え?そうなんですか?黒い髪と、赤い目?」

「黒い髪は竜国に多かったって、竜について書いてある本で読んだ。

 しかも、赤い目は……王族かも知れない。ふふっ。」

「ってことは、黒?」

「黒だね。彼女のいるこの村にいれば、そのうち竜が見られるかも。」

『ピピ、ピイ』

「コフクもそうだって言ってるね。

竜がどこに棲んでいて、竜国の人がどうやって竜を呼ぶのかは本にも無かったから、

楽しみだね。ふふっ。

今、僕は胸がものすごく、どきどきしてるよ。これが、恋?」

「違うと思いますけど。……当面戻れなそうだな。」

「え?ウィル、何またぼそぼそ言ってるの?」

「いや、楽しそうで良かったなと。早く竜を見られると良いですね!」

マックスはとてもルンルンで、ウィルは小声でぼそぼそ言いながら、二人は村の宿へ帰って行った。


 私はフルールと領主の息子のところへ、誰を呼べばよいかの話で呼ばれたのだが、頭がさっき来た二人と鳥のことでいっぱいだった。

「研究員のマックスさんと護衛騎士さんが、さっき家に来たんだけど、何か話した?」

「ああ、行ったのか。と言うか、あの人、研究員でなくて、研究所の責任者のはずだよ。」

「え、偉いの?」

「すごく偉いと思う。まあ、竜がこの国に出ることはほとんど無いから、それだけ重要ってことだろうね。『竜に会えるまで帰らないつもりです!』って、言ってたし。」

(それは、困った……。)

長く居座って、マックスさんが指輪を見るだけでなく指にはめたりでもしたら、竜になれることが分かってしまうかも知れない。それはまず過ぎる。


帰ってから、おばあちゃんとまた話した。

「マックスさんて、研究所の所長だって。偉いんだね。」

「ああ、緑色の目、隣国のファイマールの人が、髪も目も緑だったね。

 確か、今の王妃がファイマールから来た人で、見たことがあるけど。」

「ファイマールって、回復魔法が得意なんだっけ?

 あの人も、回復系使えるのかな?気になるね。って、そうでなくて。」

「うん。また来るって言ってたけど、気をつけんとね。」

 竜だと分かって、王都の研究所に連れて行かれたりしたら大変だ。研究対象になって、一生出られなくなるかも知れない。それは嫌。私は15歳でまだ若いし、魔法もやっと色々やってみ始めたところでこれからだし、この村で学校出てから農業もっと出来るようになりたいし、森のボスになったみたいだし……。美味しい物もまだまだいっぱい食べたい。この田舎で思う存分、好きに暮らしたい。

「あたしも、何があってもリリを守るよ。

こう見えても、昔は大魔法使いとか言われたもんさ。大丈夫。」

おばあちゃんが言って、リリをぎゅっと抱きしめた。


9.再度のお茶会と、火事

あれから、マックスさんたちは、しばらく村の近くに泊まり続けていて、畑仕事などを見ていたり、おばあちゃんに魔法を少し教わってみたりしていた。コフクも時々一人で、人気の無い空き地で魔法を試してみている私に会いに来ることもあった。

『安心して。マックスさんたちは、わたしの話は理解できないから、竜がリリってことは知らない。』

「そう、それは良かった。」

『でも、竜の国の出身だろうとは、思ってる。

竜を呼べるのかな~とかって話してたよ。』

「それで、まだ帰らないのか。竜を呼べるとかでも、分かったら、研究所に連れてこうとか、実験に使おうとか、思ってるのかな。」

『なんか研究所に変なイメージ持ってるみたいだね。

安心して。嫌がるのを連れて行く人ではないよ。

多分、仲良くしたいとは思ってるけど。竜大好きって言ってたし。』

コフクも可愛がられているようだし、自由に飛んできているし、悪い人ではないのだろう。ちょっと変なだけで。


「リリ―!」

遠くから、手を振りながら、フルールが駆けてきた。

「今日、例のみんなでのお茶会だよ!待ち合わせ場所いなかったから、ここかなと思って。」

「ごめん。コフクと話してたら、時間過ぎてたね。」

村のみんなを乗せる馬車の待ち合わせ場所に、フルールと急ぐ。

馬車に乗り、どんなお菓子が出るんだろう、楽しみ、と、皆で盛り上がりながら、あの、領主の別邸へ向かった。

別邸の前の、湖の畔の広々としたところに、いくつかの白いテーブルと椅子が置かれ、半分に、もう別の馬車できた子たちが座っていた。

テーブルには、カラフルな、フルーツや野菜、クリームいっぱいのケーキや焼き菓子などのお菓子が、人数分のティーカップと一緒に置かれていた。

皆が席に着くと、領主の息子の、ガレが(私もやっと名前を覚えた)話し始めた。

「皆さん、集まってくれて、ありがとう!

 今日は、若い皆が、これから僕と一緒に領地を盛り立ててくれることを願って、

 王都から、有名なパティシエを呼びました。

 領地の食材を存分に使った、美味しいお菓子を、お茶と一緒に楽しんでくれ!

では、あとは自由だ!」

一斉に拍手をして、そして、食べ始めた。

「うわ!本当に美味しい。」

「村の野菜や果物も使ってるね。こういうお菓子もできるのね。」

「こういうの、真似してお店で売れないかな……。料理教室やってもらえないか、聞いてみようか。」

「あ、それ、やるなら行きたい!」

みんな、好きに食べているだけでなく、ガレにも話に行ったりしている。今年きたばかりで馴染めていなかったガレも、人懐っこい領地の同級生たちと、もう仲良くなった。

 領主も建物の中から、窓越しにこちらを見て、頷いたり、満足げにしている。


 お茶会は、みんな、お腹も気持ちも満足して終わった。さて、また馬車に乗って、帰ろう、という時、空を、青色の大きな鳥の集団が、湖に向かって飛んできた。

「水飲鳥?」私のところにも、一羽飛んできて、

「火事ダ!ボス!早クキテ!」

 言いながら、私の頭上を旋回した。

 なんだ?とみんながざわつきはじめると、

見送りに出てきた領主にも、向こうから騎士が馬で走ってきて、何か伝えた。

「森が、火事!?大変だ!火消を早く向かわせろ!」

領主が言って、騎士がまた馬に乗り、走っていく。

「ちょっと、私はこちらのお友達と一緒に別で森へ向かうね!じゃあ!」

私はそう言って、何だかわからない同級生たちと別れ、

「あなた達みんな、湖の水、採りに来たんだよね?」と言いながら、一緒に湖の脇の、木立の中へ走った。湖の水を嘴の袋いっぱいに入れた、青い軍団が、頭上を通り過ぎて、森へ戻って行く。

 それからまず、風魔法で、火の出ている森の入口辺りに、雨雲を集める。少しずつ、雨が降り始めた。

「竜は、火を消せないかもだけど、火には強いはずだよね。行くよ!」

 私は指輪をはめて、竜になった。

そして、呼びに来た水飲鳥と一緒に飛んで、森へ向かう。

 

 森では、先に着いた水飲鳥達が、次々に嘴に貯めてきた水を、上からかける。でも、火と煙がすごくて、奥まで行けない。水をかけてすぐまた、湖へ戻って行く。

「ヌーゴは?」

「森ノ奥へ、ミンナヲ避難サセテル。デモ、ソッチ側ニ、風ガ向カッテル。」

「分かった。こっちにいて。大丈夫。私、火に強いから。」

私は、飛びながら火の中を通り、向こう側へ向かった。途中、木の下敷きになっている少し大きい魔獣、風狼が見えたので、木をどかせてから咥えて、火が弱まったところで離す。心配していた仲間たちが連れて、一緒に逃げて行った。私は両手に、木の上で逃げ遅れていた毒ダヌキ親子も摘まんでいて、同じ辺りでまだ燃えていない土の上に離した。

そして、今来たところを振り返る。


周囲の燃え始めた木を倒して空き地を作ってから、迎え火となるよう炎を吐き、火を食い止める。

雨や、水飲鳥達が何度も運んできた水も相まって、そこに、領主たちの連れてきた火消部隊の力もあり、徐々に火が消え始めた。

森の入口辺りから、それほど行かない辺りまでで、どうにか火事は食い止められた。

「怪我した子たちはいるけれど、まあ、死んではいないから、良かった。

リリボス、ありがとう。」

ヌーゴが言った。

「ボスはやめってってば。

ヌーゴさんが仕切って、みんなで協力して頑張ったおかげだね。

それにしても、原因は、何?」

「見タコトノナイ人間タチガ、何カ撒イテ、火ヲ付ケテ逃ゲタ。」酷い火傷をして地面でじっと横たわっていた、毒ダヌキ母が言った。

「見たことのない人?」

「紫ノ、髪ノ毛、見エタ。」

 話をよく聞こうと、リリが毒ダヌキ母に顔を低く、近づけた。

『紫の髪、それ、帝国の人間だね。』

その時、一羽と二人、リリに近づいてきた。

コフクと、マックスさん、あと、少し後ろから、おばあちゃんだ。

「赤い竜、また会えたね。君たちが、火を消したのか。お疲れ様。

 怪我をしている子は、僕が治すよ。」

 そう言って、マックスさんが、竜の頬に軽くキスをした。

 うわーーー!?

 リリはびっくりして、後ろに後ずさり、尻もちをついた。

 それから、逃げて空へ飛び立った。

「あ、残念。行っちゃった。」

 マックスさんはそう言って、竜が見えなくなるまで見ていたが、すぐに、傷ついた魔獣たちに、治療魔法をかけ始めた。

「治療魔法かね。そうだろうとは思っとったけどやっぱり、あんたすごいね。あたしも本気でやらんとね!」

おばあちゃんも、肩にかけた鞄から、持ってきた薬のビンを出し、他の魔獣にかけて治し始めたが、手持無沙汰の火消部隊の隊員たちを見つけると、持ってきた小ビンをそれぞれに渡して、他の怪我をしている魔獣にもかけるよう指示し、自分は木が焼けて無くなった場所の前に立って両手を上げ、土魔法を歌うように詠唱しながら練り歩いた。

「これで、少しは早くまた、木が生えるだろ。」

「大魔法使いの魔法が見られて、嬉しいですね。

竜もまた見られたし……仲良くなるのはまだ時間がかかりそうだけど。」

マックスさんが言いながら、治療を続ける。

 護衛騎士のウィルが、村の獣医を連れてきた。

「お!ありがとう。じゃあ、まず今の状況説明しますね。この辺の子達は一応僕が治療魔法をかけ終わって、向こうの子達は薬をかけてもらって休んでますが、先生もこれで良いか見てください。」

「ああ、分かりました。ちょっと見せてもらいますね。」獣医が見始めた。

「こういう大事な時に護衛と別行動って、僕は一体何なんだか。強いのは分かってますけど、あなたに何かあったら大変なのに……僕が。」マックスさんと少し魔獣や治療する他の人たちから離れ、ウィルがまたぼそぼそと言っている。

「でも、一人ではなかったよ。

竜にもまた会えたし、すごい魔法使いの魔法も見られて、今日は僕にとっては記念になる良い日だ!」

マックスさんは、魔力を相当使ったはずだが、生き生きとして言った。

 

10.火事の始末

「いや、人間の私じゃなくて、竜にキスしただけだから。あれは、ただのお疲れ様の挨拶だから。」

 男の人に初めてキスをされてしまったー!!と、私は、若干恥ずかしくてパニックになったが、森の奥へ飛んで行ってから指輪を外して人間に戻り、無理やり自分を落ち着かせて、

「それより、放火の犯人のこと、伝えないと!」戻る気持ちを固めた。

「あれ?どっちから来たっけ?」

『リリ、こっちだよ!しっかりして!』近くを飛んで、コフクが話しかけてきた。

「うわ!またコフク、全部見てたんだー。うう、恥ずかしすぎる。」

『いや、今恥ずかしいとかどうでも良いから。着いてきて!』 

 コフクについて、戻って行く。人間の姿で歩いてなので、時間がかかる。けれども、竜の姿で飛んできたルートを戻って、魔獣たちが竜を避けたためか、魔獣とは出くわさず、比較的スムーズに進めた。コフク、できる子。

 リリが戻る頃には、一通り、怪我した魔獣たちの治療は終わっていた。魔法を解除したため、雨はとうに止んで、空は夕焼けで赤くなっていた。もうすぐ日暮れで暗くなるだろう。

「リリ、戻ったか。どこか怪我しとらんか?」

「私は大丈夫。もう終わったのね。」

「あ、リリちゃんお帰り。コフクも。竜からは、何か聞いた?」マックスさんが、聞いてきた。

「ありゃーもう、竜と私が話せる前提なんですね……。まあ、その前提で、話したいことがあるんですけど。」

「うわ、やっぱりそうだったか!竜が去った方からコフクと帰ってきたし、そうかなって。

竜を呼んだのも、リリちゃんでしょ?」

「それは置いておいて、今回火を付けた犯人について、竜が魔獣から、紫の髪の人達だったって聞いたらしいんです。」

「帝国人かな。それか、帝国人の血が入っている人だね。」

「何が目的なんだか。もしかして、この森に竜が出たって聞いたからかいね?」おばあちゃんが言う。

「え、じゃあ、竜が出てくるのをどこかで見てた?

もしかして、竜が出てきちゃいけなかった?」

「うーん、何故か分からんけども、竜国を攻め滅ぼしたのも、帝国人だったね。

あれは、鉱山資源が目的だったかと思ったがね。」

「まだ、近くにいるかもしれないから、

ウィル!領主に伝えに行って!」

マックスさんが、近くで聞いていたウィルさんに言うと、領主の騎士の一人に話し、一緒に馬に乗って出発した。

「それと、外国から来ているなら国としても問題だから、コフクに急ぎ手紙で王都の兄に伝えてもらう。」

『ピピイ!(了解!)』マックスさんが持っている紙に録音魔法で記録し、コフクの足に結ぶと、すごい速さで飛んで行った。

「コフク、気を付けて!」私は手を振って見送った。

「もしかして、リリちゃん、竜以外とも話せる?

なんかこの前から、コフクとかとも色々意思の疎通できてるように見える。」

「え…?い、いや……そんなこと、無いですよ。

 取り敢えず、マックスさんがあちこちに伝えてくれて、あとはお任せで大丈夫ってことですかね?」

「ん-、一応伝える手配はしたけど……。」マックスさんが、言いにくそうにする。

「リリ、万が一、あんたが竜と関係あるかも知れんと思うもんが他にも出てきたら、あんたも危険になるさね。」おばあちゃんが言った。

「え……、しばらくまた何かあっても竜を呼んじゃ駄目ってことかな?」

「その前に、髪色で、勘づくのがいるかも知れん。」

真剣な表情のおばあちゃんを見て、私も固まった。

マックスさんが言った。

「一つ、方法があると言えばあるかも。魔獣研究所なら、多分リリちゃんを守れるよ。

実はね、研究所にも、竜国出身の、僕もすごくお世話になっている人が一人いる。

その人は、魔獣とも話せるようだよ。」

「え、竜国の人がいるんですか?」

「うん。魔獣と話せるって本人は言っているし、竜も呼べるけど、必要ないから呼ばないだけって言ってる。だから、リリちゃんも、そうなのかなって。

仲間がいれば、心強いでしょ。」

「会ってみたいかも知れない。でも……村は離れたくないな。畑も、学校もあるし。」

「畑はもうすぐ収穫期終わってあたし一人でもどうにかなるさね。

近所の人も助けてくれるだろ。

学校も、あと半年で少し休む分には、出席日数足りるじゃろ。」おばあちゃんが言う。

「うーん。森も、何かあるかも知れなくて心配だし。」(言えないけどボスだし。)

マックスさんも、考える様子でいたが、また何か閃いたようだった。

「急に知らないところへ行くのは不安だよね。ちょっと僕に考えがある。

リリちゃんは、村にいて良いから、僕も1、2日だけちょっと王都に戻ってくる。

不安かも知れないけど、その間大魔術師さんやウィルに守ってもらって、待ってて。」

「え?でも、護衛騎士なしで戻って、マックスさん大丈夫なんですか?」

「ああ、多分僕結構強いから、大丈夫。そうとなったら、急いで行かないと。じゃ!」

マックスさんが、どこからか、白い一角獣を呼んで、さっと乗って駆けて行った。

「ウィルさんになんて言ったら良いんかね?」後姿を二人でぽかんと見送りながら、おばあちゃんが言った。

暗くなり始めたので、その場は領主の部下たちに、マックスさんが王都へ向かったから村で待っているようウィルさんへの言伝を頼み、家に帰った。


特に何も無く過ごし、2日後、マックスさんがコフクと一緒に戻り、おばあちゃんと私の家に来て、言った。

「魔獣研究所の、出張所を、この村に作ることになった。

リリちゃんも、研究員として、登録したからね。

ちなみに出張所の所長は僕!他の所員も何人か、これから準備して来ることになってる。

はい、これ、研究員を証明する、バッジ。

服に僕みたいに着けて、手で触れると僕と連絡取りたい時取れるから。

じゃあ、改めて。

魔獣研究所へようこそ。これから一緒に頑張ろう!」

 まぶしい位の笑顔で言って、右手を差し出した。

 何だかとっても良い感じで話していますけど……初耳ですよ。

「よ、宜しくお願いします……。」私は動揺しつつも握手して返した。


 そうして私は、村に住む、魔獣研究所の研究員兼学生兼森のボスになったのだった。


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