002 入学式
「じゃ、ホームルーム始めまーす」
気怠そうに頭をかきながら担任が黒板に日程を書き始めた。担任は結構タッパもあって勇菜より少し低い程度に見える。白衣を着てるところを見るに化学か物理が受け持ちだろうか。
「今日は初日なので教科書などがきちんと揃えられてるか確認して、自己紹介したら軽くグループで話し合ってもらいます。その後は始業式やっておかえりです。自己紹介は元気よく挨拶するよーに」
担任は日程の横に小さく名前を書いて軽く黒板を叩いた。
「えー、私が皆さんを受け持つことになった熊谷 杏です。モットーは人生8割の本気。まぁ今の本気度合いは2割程度なんでよろしく」
熊谷先生のとても怠そうな自己紹介が終わったあと、配布物チェックが始まった。因みに熊谷先生は物理の担当らしい。白衣を着ていたからやはりというかなんというか。
その後黙々と机のものをチェックし終えた。
「───配布は以上となります。全部揃ってましたか?」
簡単に机の上をまとめると、改めてクラス全体を確認した。俺は後ろの角地が指定席であったため全体を見渡せる良い席だ。大体俺含め30人ちょいで男子は2人しかいない。まだ他のクラスに比べれば良い方かもしれないが。
自己紹介の順番をどうするかで少し騒いでいたが普通に入り口側の女子から挨拶することに決まった。男子の挨拶は女子が終わってかららしい。
そして始まる自己紹介、軽く挨拶程度かと思ったがなんか実家が太いだの何かのアピールも付属してきた。簡単に女子の挨拶を聞きながら隣に座る男子を見る。唯一の同性、仲間。仲良くなれるか不安だ。
軽く声をかけるが特に反応がない。ずっと前を見てじっと動かないのだ。反応がない、まるで屍のようだ。机を指で軽く叩くと一瞬ビクッと動いた。
「yoyo調子どうyo」
「え?あ、うん。良い感じだよ」
全くそうは見えない顔色をしている。視線も泳いで心ここに在らずな状態だ。まるで前世で告白して振られた時の俺のように。こいつは危険だ!すぐに呼び戻さないと!
「こういう大勢の場所だと緊張するよね、わかる」
「......うん、すぐにでも帰りたいよ」
「大袈裟だぜboy」
「boyって、同い年でしょ」
そう言ってしばらく軽口を叩いていると少しずつ緊張が解けたみたいで、心がここに戻ってきた。生気も宿ってきたしとりあえずは大丈夫そうだ。
男同士情報交換してると女子の挨拶が終わったらしい。遊助は「うぃーっす」とかいうちょい前のギャル男みたいな挨拶をしていた。
少しザワザワしていたのが男子の番となり静まり返る。おかしいだろ、もう少しザワザワ続けててくれよ。これじゃあ顎と鼻が伸びちゃうよ。
みんな前を向いてるから視線は感じないのに、何故か圧を感じてくる。ここは覚悟を決めて俺から行くべきだなと立ち上がった。
「東雲翔陽です!初めまして!」
しまったぁああああ!倒置法になってしまったぁあああ!!もう勢いで行くしかないのか!
冷や汗がケツから溢れてくる。おかげで尻がひんやりしてきた。
「俺はみんなと仲良くなりにきたんだ!だからよろしく!みんなよろしく!」
全てを勢いでそこに置いてきた。椅子はもうびちゃびちゃだ。もしかしたら机も濡れてるかもしれない。
真っ白になった俺を横目に隣人は立ち上がる。
「加茂 宗介です。よろしくお願いします」
宗介はその一言で着席してしまった。なんとも味気ない挨拶だがそれが精一杯と顔に出ている。控えめな男子2人で申し訳ない。
「じゃ、挨拶が終わったところで前後6人の班に分かれて軽いトークタイムを過ごしてもらいます。大体15分くらいで予定時間になるので終わり次第体育館へ出発します。んじゃあ先生ちょっと抜けるから15分後にまた会おう」
そう言って先生は教室を抜けて俺たちだけ残された。6人班ということでとりあえず向かい合う。
投げ出し状態で始まったため、お互いを伺ってる状態だったが颯爽と挙手をする救世主が現れた。
「それじゃさっきも挨拶したけど改めて、あーし
星乃 輝羅莉!よろぴ〜⭐︎趣味でハンドメイドしたりしてるから興味あったら言ってね〜!いつでもあーしの本気みせたるよ⭐︎」
我らがメシアはそう名乗るとVサインでワキワキしている。なんていうギャル!金髪巻き髪の白ギャルだ!!鞄とかによくわからない物をジャラジャラつけてる典型的ギャル!画面の中でしか出会ったことがないぜ!たぶんスマホの画面もバキバキだろう!ギャルだ!!
内心一人燃えていると救世主こと星乃さんが進行してくれた。
「あーし挨拶したしぃ時計回りで行こっか!レッツゴー!」
有難いギャルの一声で順番に挨拶が始まった。第二回自己紹介大会開催である。
「ちっすちっす〜喜多川遊助です〜モンクラやってます〜次へ〜」
なんともテキトーな挨拶が終わったあと遊助は星乃さんとキャッキャしている。それにしてもJKってやっぱり目の保養だったんだな。先人の言葉は嘘じゃなかった。
「飯嶋 香織です。これから楽しい学園生活を送れたらと思います。部活は軽音部に入るつもりです。よろしくお願いします」
これまた二人とは違うおさげにデカめの黒縁メガネという委員長タイプの女子が現れた。ただ両耳に光るピアスという存在が委員長キャラとのギャップを生んで可愛さを引き立たせている。切れ長の狐目なこともあってかっこかわいい。
「あの......大河原 有栖って言います......特技は料理を少しだけできます......よ、よろしく、お願いします......」
その巨体から発する圧とは正反対の大人しさでこれまたギャップを感じる。ボブヘアも少しウェーブがかかってて可愛らしさを感じる。重めの前髪で目元が隠れているが少し頬が赤くなってるのを俺は見逃さないぜ!低めの声もまたイイね!
「加茂宗介です」
宗介はロボットのようにそれだけ言うとどこか明後日の方を見て誰とも目を合わせなかった。さっきまで宿っていた生気もどことなく抜けてる気がする。また魂を吹き込まなきゃ!
最後に自分の番になったので一回全員の顔を見てから全力の笑顔をで挨拶をした。
「改めまして東の雲に翔ぶ太陽と書いて東雲翔陽です!これからみんなのことを知っていけたらと思います!趣味は幅広くなんでもやります!部活はまだ考えてません!呼び方は好きなように任せます!よろしくお願いします!」
さっきよりはマシな挨拶ができたと思う。ただなんかグループ外からの視線を感じる......。声がデカすぎたのかもしれん。
「よっちさっきの挨拶勢いすごかったよね〜⭐︎」
ケタケタと笑う星乃さんと目が合う。よっちとは俺のことか?とりあえずウィンクしとくか。
「アハハ!ウケる〜っ⭐︎よっちウィンクできてないし〜!ウィンクってのはこうやるんだよ⭐︎」
星乃さんのまつ毛が羽ばたいている。もう天使の羽だ。
「遊もウィンクできる〜」
遊助も星乃さんと一緒になってウィンクをし始めた。くぅ〜!だいぶダメージ入るなこれ。二人が輝いて見えるよ俺は。
段々とウィンク合戦が始まって感染していく。
「わぁ〜⭐︎かおりんのウィンククール〜⭐︎」
「へいへーいかおりんこっちにも〜」
「ありたんは〜片目だけ出してみよ〜⭐︎」
飯島さんは意外とノリが良くて遊助たちの無茶振りにもしっかり反応してくれていた。大河原さんは小さな抵抗をしたが敢えなく星乃さんの手によってクマちゃんヘアピンを施された。重たい前髪をかき分けて可愛い左目が現れた!下まつ毛長いなぁ。
「うわ!ありたん下まつ毛ながぁ!羨ましぃ〜⭐︎あーしもその下まつ毛ほしぃー⭐︎」
「あ、あの!......そんなに見られると......恥ずかしい......です......」
か、かわいい!ありたん!なんだこの破壊力は!
「どうして?見られるくらいで大河原さんが恥ずかしがる必要なんてないのよ」
「そうだよ!あーしなんて積極的に見せてくタイプだし!」
「それはどうなのよ。けどなにを気にしてるの?」
「遊たちに言ってくれてもいいんだぜ」
ありたんはもじもじしながら小さい声で説明を始めた。遊助のそのポジションはなんなんだ。
「えっと......昔から目の下のホクロが......恥ずかしくって......だからあまり見られると......!」
わからない。俺にはわからないよありたん。それはチャームポイントじゃないか。
「まぁそこをあまり見られるのが恥ずかしくて嫌なら隠すのも否定しないけど、そこをチャームポイントとして出していった方が自信もつくし出していった方が私はいいと思うわ」
「わ、私は......似合わないから......」
ありたんはまだ恥ずかしそうにヘアピンを外して星乃さんに返した。星乃さんは一人「えぇー!」と騒いでいるが遊助に落ち着かされている。人それぞれと思いながらフォローを入れる。
「自分のペースでいいんだよ。俺も飯島さんの意見に賛成だしちょっと頭の片隅で考えてくれるだけでいいからさ」
「......う、ん.....」
「それにそのホクロも似合ってると俺も思うよ」
「......あ、ありが......とう......」
ありたんにグッドサインだけして未だ魂が抜けてる宗介に魂を吹き込みにかかる。
「んぇ?あ、あぁ、どうしたの?」
「宗介はウィンクできる?」
「え?ウィンク?そんなの簡単だよ」
「えっ」
意図も容易く行われるウィンク。爽やかだ。可愛い顔してるくせにウィンクは爽やかだな。許せないZE!!
「宗介もできる側の人間なのかよ......!どうやればいいんだ!」
「ふっ......練習あるのみだよ」
「加茂さんやい、遊にもしてみておくれよ」
「えぇ〜!あーしにもしてほしぃんだけど〜!」
「ぁ、う、うん」
少し引きながらウィンクをする宗介。おい大丈夫か、口元引き攣ってるぞ。
「ところで遊ちん達の家はどこら辺なの〜?あーしちょっと遠くて第13地区なんだよねぇ〜」
「ふっ、遊のクランに入ったら教えてあげるよ」
「私は第2地区よ」
「わ、私も......第2地区のほう......」
「へぇ〜!かおりんとありたんは近いんだね⭐︎」
遊助一人だけスルーされてる状態で少し笑ってしまう。あの誘いで入ってくれる人間はいるのだろうか。
「あ、俺は───」
俺が言いかけたところで先生が戻ってきた。
「よーしじゃあみんな移動だぞー」
ほぼウィンクしかしてなかったけどとりあえずグループトークはおしまいになり体育館へと移動となった。
始業式では上級生の男子生徒なども見えたが高学年ほど人数が少なかった。宗介からは不登校になる男子も少なくはないらしい。
そのあとは校長の話をテキトーに聞き流しながら過ごした。世界が変わっても校長の話が長いのは変わらないんだな。
「翔陽、さっきのあれだけどあまり女子の前で住所とか言わない方がいいと思うよ」
「え?そうなのか?」
「うん。僕は施設いけなかった組だけど施設だとそう習わなかった?」
「ふっ、宗介よ。俺はほぼ座学は寝て過ごしてたぞ」
「よくそれで入学できたね......」
「勉強だけは過去問と睨めっこでなんとかね」
宗介曰く過去に住所を聞いた女生徒が家に襲撃してきた事件があったらしく女子の前でそういったプライバシーの部分を話さないようにしたほうがいいとのことだった。女子側でも基本的には聞かないというルールがあるらしい。俺は常識的なところを忘れてしまっていたようだ。恥ずかしい。
校長の話も終わり、1年男子のみ残って他はクラスに戻って荷物回収したら各自帰宅するようアナウンスが流れた。
残った男子に向けて校長が向き直る。
「我が校を選んでいただき感謝します。皆さんが不自由のない生活を送れるよう学校側もサポートしますので何かあれば先生方に遠慮なくご相談ください。それでは良い青春を」
校長はそのまま裏へ下がって代わりに熊谷先生が現れた。
「それじゃあ皆さんも帰る時間ですが、案内通り今週は本日案内してくれた生徒達が送り迎えを担当してくれます。来週以降についてはクラスにプリントを配布してあるのでそれを確認してください」
ちょっと真面目な感じに感心していると「ほいじゃ」と手を振りながら先生は消えていった。
無事入学式も終わり帰路に着く時が来た。




