001 高校デビュー
異世界転生といえば全員がファンタジーを想像するだろう。もちろん俺もその一人だ。
ただ俺の経験した異世界転生ってやつは本の中にあるようなものとは違った。魔法は使えないし、ドラゴンなんていないし、前世となんら変わり無い世界だった。一つ違うとすれば───
「───男性への性被害件数が過去最多となりました」
───男女比が逆転してしまっていることだ。
おおよそ40人1クラスに男子1〜2人が在籍する程度の割合だった。もちろん転生直後はその事実に驚き、そして歓喜した。前世ブラ◯クマジシャンの俺に神様は手を差し伸べてくれたのかと。
しかしそこまで甘くなかった。男女の繋がりがあったのは幼稚園まで、それ以降は一定の年齢に成長するまで国の管轄の施設に預けられたのだ...!!同性と触れ合う楽しい時間だったが異性と触れ合えない悲しい時間でもあった。
女性は幼少期に男と触れ合うことで年齢が上がると共に淑女へとレベルアップして、成人してから暴走するのを抑制するためらしい。短期間ながら異性と触れ合うことで異常な妄想をなくしてより現実的に男を見れるようにって話だ......なんて言いながらニュースのようなことになってる訳だが。
まぁそんなこんなで成長期の大半を施設で過ごして2週間ほど前に実家に帰ってきた。実家より施設で家族と定期的に会った時の方が思い出があるが、これから思い出を作っていけば良いだろう。
実家に戻ってからはお祝いをして念願の高校入学の準備を進めていた。
そして今日『高校デビュー』することができる。何年もこの日を待ち侘びすぎてもう支度も完璧に終えている次第である。
朝食も食べ終えて、玄関で靴を履いていると後ろから声がかかった。
「翔ちゃん本当に学校に行くの?昔のことがあるからお母さん心配で......」
不安そうにしながら母、東雲 陽真里は制服のネクタイを正してくれた。
「大丈夫だよ母さん、俺も良い歳だし昔みたいなことは起きないさ。力だってだいぶついたしね!」
「けど私も心配だから学校までついてってあげようか?」
「姉さんまで......。というか姉さんは方向逆じゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
俺の言葉に姉、東雲 明はふーんっと言いながら頬を膨らませていた。少し子供じみた態度に笑ってしまう。
「もう行くのかよ」
少し遅れて登場した妹の東雲 光はまだ眠たい目を擦りながらノソノソと歩いてきた。
「遅い登場だなヒーロー、光はもう準備しないと遅刻じゃないか?」
「んーまぁ大丈夫でしょー」
あくびをしながらお腹をかいている妹を見て淑女とはなんぞやと時々思ってしまう。チラチラと覗かせる腹筋は今日も元気にバキバキに割れている。
少し不安はあったが家族の顔も見れたことでデビューとしては素晴らしいスタートラインを切れたと思う。
まだ不安そうな母さんたちに手を振りながら俺は学校へ向かった。
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「確か案内だとここら辺なはず......」
学校からの案内では女生徒を案内役で待機させるので、その子たちと一緒に学校に登校するように連絡があった。男子生徒の身を守る安全対策らしい。なんか前世でも小学生何人か集まって登校するようなことがあったなぁと懐かしく思う。
辺りを見回すと少し離れたところに2人組を発見した。向こうも気がついたようでこちらに駆け寄ってきた。
「おはよう!君が東雲 翔陽くんかい?」
「おはよう、そうだよ。それじゃあ君たちが?」
「そうそう、僕が西園寺 勇菜。今日の案内役さ、そしてこっちが───」
「よっ、遊は喜多川 遊助、よろしゅー」
草むらからとんでもない高身長爽やかイケメンとゆるふわ系低身長女子が現れた!これは逃げる一択か......?
二人を見ながら呆けていると西園寺さんが向こうを指差しながら登校を促してくれた。イケメンありがてぇ、てぇてぇ。
歩きながら簡単に学校の説明をしてもらう。まぁ基本は前世と変わらないんだけど。
「西園寺さんは結構スポーツとかしてたの?」
学校に向かう途中で雑談程度に質問をしてみた。イケメン西園寺は身長180......190cmくらいあるかもしれないほど高身長だった。女子の高身長はバレーのイメージしかないがどうなんだろう。
「そうだね、僕はバスケットボールとかバレーボールをやってるよ。他にもいくつかあるけど人数合わせの助っ人で呼ばれる程度だね」
「へぇ〜、スポーツ万能っぽい感じがしてたけど幅広くやってるんだね、凄いや」
「それほどでもないよ!まぁ頼られるのは嬉しいし勉強はあまり得意じゃないからね、そっちの方で頑張りたいなって思ってさ」
少し照れてるのにイケメンだな。ドラマか?ずるいんだゼ。
「喜多川さんは何か部活とかしてたの?」
喜多川さんは会話に入りたそうな雰囲気を出しながらあまり入ってはこなかった。さては照れ屋だな?
「遊は運動とかできないタイプだからずっと帰宅部さ〜。まぁ完全体インドアだからeがついてないスポーツはちょっとねぇ」
「結構ゲームとかする感じ?」
「まぁね、これでもクランの団長さんよ」
えっへん!と胸を張りながら鼻高々に語る喜多川さんはさっきとは違って脂が乗った魚のように喋ってくれた。
西園寺さんは少し興味深そうに話を聞きながら時折相槌をうっていた。
「あ、もう目の前だね。楽しくて今の時間が短く感じたよ」
「遊たちの今の時間が倍速説」
「たしかに!今の時間が体感短かったからこれから3倍くらいに長くなるかもね!」
笑いながら話している喜多川さんは「あたしゃ死んじゃうよ」と体感時間の話を聞いただけで少し干からびている。西園寺さんは「じゃあこれから楽しい時間が始まったらいつもより短く感じるかもね!」と干からび始めた喜多川さんを元気づけていた。
「二人のクラスはどこなの?」
そういえば、と二人に聞いてみた。案内役の女子生徒としか知らず、二人のクラスを聞くのを忘れていた。
「僕はDクラスだよ」
「遊はEクラスだね」
「あ、じゃあ喜多川さんと一緒のクラスか」
「そっか、僕だけ別クラスになっちゃうね。けど隣だからね、いつでも遊びに行くし遊びに来てよ」
「もちろん!こうやって仲良くなれたわけだし遊びに行くよ!」
「右に同じく」
みんな一緒かと思ってたけど西園寺さんは別クラスで少し残念に思う。そんな俺の横で喜多川さんはベジ◯タみたいに指を立ててポーズを決めているが。
「じゃあ慰めに一つお願いなんだけど、僕のことは名前で呼んでくれないかい?」
「あ、遊も遊も」
「それはもちろん構わないけど、そしたら俺のことも名前で呼んでよ。あ、あだ名でもいいよ」
なんて些細な願い事なんだ!そんな願い事いくらでも叶えてやるぜ!と意気込んでる俺の体は今、青色になってるだろう。
「いいのかい?」
少し様子を見るような、さっきまでの反応と違って少し戸惑ってしまう。男に二言はないぜ。
「二人を名前で呼ぶのに俺だけ苗字なんてつれないじゃないか!」
「なら翔って呼ぶことにするよ」
「遊は翔ちーね」
「うんうん、勇菜も遊助もこれから頑張ろうね」
俺の言葉と共に学校に到着した。
前世では嫌いだった学校が今では楽しみで仕方ないなんて前世の俺に聞かせてやりたいよ。
「じゃあ行こうか」
「そうだね」
「おー」
ブラ◯クマジシャン+αの俺の高校デビュー初日が始まった。




