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0. 旅立ち

 新緑の季節がやってきて、梅雨も近いころになると、ふと、これまで幾度となく旅し、眺めてきた夏の北海道の風景が浮かんでくる。


 湿原のほとりの木立、風そよぐ草原の緑と草花、おおらかな大地と流れていく雲……。


 そんな1つ1つが、今年も巧みに北の旅へと誘ってくる。そうなるともう、旅人の頭の中では、ひとりでに旅のプランニングが動き出すのだ。

 今年の夏はどこを巡って、どの山に登ろうか……。


 おぼろげだった計画は、日を追うごとに具体性を増していく。

 東京から青森までは高速バスで移動して、フェリーで北海道に上陸したら、あとは鉄道で巡っていこう。コロナ禍いまだ冷めやらぬ2022年7月のこと、上野から青森まで直行してくれる昼行の高速バスはまだ走っていないので、体にこたえる夜行を避けるとすると、仙台で乗り継ぎかな。初日は仙台で泊まるとするか……。


 旅で最も楽しいと言われる、麗しい胎動の日々。

 な、はずなのだが……。


 旅というものを始めて20年。旅立ち前の「ワクワク感」を感じることが少なくなってきた。

 思い返せば、旅を始めた20代の頃は、旅立ちが近づくと、言いようのない高揚感を覚えたものだ。

 それが、いつから……。


 近頃、旅立ち前に心を占めるものは、楽しみより、旅路の先に立ちはだかる数々のハードルをどうかわしていくか? のほうがはるかに大きい。


 今回も今回でハードルはいくつもあるが、初日からして仙台行きの高速バスは満席表示だし、家の外は本降りの雨……。


 大きなバックパックに、その荷物の1つであるはずのザックカバーをかけ、折りたたみ傘を広げて家を出る。これほど憂鬱な旅立ちはない。それだけならまだしも、歩き始めるや否や、靴がスポンジでも踏んでいるかのような音をたて始め、靴底の穴の存在と、そこからの水の侵入を告げてくる。


 ああ。これから続く旅の中で、何回雨に降られるか分からないが、そのたびに靴下を濡らし続けなければならないのか……。


 空の色を映したような憂いに沈みながらも、それでも北へ向けて旅立とう。この雨の向こう側には、北の大地が待っている。高山の可憐な花や胸打つ車窓が待っている。


 そして何より旅人は、「行かずにはいられない」自らの心に応えなければならないのだ!


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