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このセカイでの主人公  作者: 水原稀世
9/9

牙を剥く


 


 お馴染みの通学路を重い足行きで進む至って平凡な高校生。


 空は今日も私の心のなどお構いなしに群青色の如く不思議なほど青々と広がっている。



 至っていつもの光景に見えるが、昨日の出来事を思い出す度、頭を抱える羽目になるなんて思いもよらなかった。この世界は偽物なのだから。転校初日にして、校内のカースト上位に降臨した誰がどう見ても見惚れるほどの顔出しをした赤羽せいの出現。私とは住む世界が違うんだとひと目見ただけでも明確に分からされるその圧倒的存在感の持ち主があろうことか、クラスで居てもいなくてもそこまで重要視されない人間に、話しかけ終いには意味不明な話を押しかけ、素は目が痛むほどの俺様系、頭を抱えるのも無理はない。




 いつもの日常ではない私の生活は特別に見えた。全てが全て悪いわけではない。父の存在や、クラスメートなど存在など今まで手に入れることが出来なかった物のほうが遥かに大きく感じてとれる。世の中には、自分にとって利になることが起きると、必ず何かしらの代償が伴わなければならないと思っている。それが赤羽せいであり、水森さなであることに違いないのだと、このときの私の思惑は全くもって浅はかだった。



 学校に着くなり今まさしく一番会いたくない人物、赤羽せいが私の隣の席で待ち伏せていた。この時間帯は生徒たちは殆ど登校しており、教室内が騒がしい。教室に否が応でも入らせる気迫をドア越しから感じる。意を決してドアに手をかけ、待ち伏せていたのはこちらも私の頭を抱える人物。上半身におよそ50キロの負荷が掛かり、体勢を何とか維持するのに精一杯。


 

 「夕夏、なぜ私を昨日置き去りにした?まさか赤羽せいの仕業か、分かった私が排除…対処しよう」



 今さっき明らかに排除って言ったよね…それよりこの人物こそが転校初日にして、ストーカー気質を繰り返すこちらも学校随一の人気者、水森さな。なぜここまで彼女に好かれているかは不明だが、一言でいうと鬱陶しいに限る。


 私は赤羽せいに向かって喧嘩腰の体制で向かうさなを制止させ、この日一番であろう深い溜め息をつく。


 「水森…さん。あのいいですから」


「水森さん!?私達は親友だろう、きよ」


いつの間に…そう言えば前にも言ってたか。


 「ともかく赤羽せいとやらには一言言わないと気が済まない」


「だからいいから…」


もう私の声など彼女には聞こえていないのか、私の隣の席の前に立ち、脳内がイエローカードを通り越して早くもレッドカードをコート内に送る。逃げろというも教室中はもはや静まり返っており、さなは敵対の眼差しを向けるも、赤羽は尚涼しそうな余裕の笑みを向けている。



 「水森さん、僕になにか用かな?」


「赤羽さん、夕夏に近づかないで貰えますか?夕夏と話すならまず私を通せと言いましたが」


二人共声音は柔らかく笑顔を顔に貼り付けているが、何故だろう。今の時期は丁度、夏真っ只中であり気温は遠に36℃を超えている。そんな中この教室だけ氷河期が迎えたのか、呼吸をする事すら強いられる空間に周りのクラスメート達は随分と顔色が悪い。勿論私も例外ではない。このままだと教室の酸素濃度が低下し終いには倒れる生徒が出るかもしれない。私は皆を救う義務が強制的に課されたのか、周りは赤羽やさなではなく私の方に視線を移し、どうにかしてくれという気迫に動かざるをおえなかった。



 「あの…二人共」


「いいえ、私は夕夏の一番の親友よ。転校して間もないあなたに夕夏を取られるなど言語両断」


「別に僕は夕夏さんを取ろうなんて思ってないよ。ただクラスメートとして話したいなと思って」


「夕夏さん?夕夏の名前を言っていいのは親友の私だけよ」



「ねぇ、二人共。いい加減にしなよ」



冷たく突き放す口調に、さなは半ば驚きを隠せずにいたが、ふいっと背を向けて自分の席に戻っていった。



 「……へぇ、凄いな」


小声で何やら呟いた赤羽の声は、熱で溶かされた教室の話し声にかき消された。



 私は赤羽を睨みつつ、盛大に肩を落とした。

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